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四章『頑張り屋の休息日』
その二
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思えば、私は世助のために何かをできていただろうか。何かを与えられていたのだろうか。少なくとも私自身は、その問いに対して首を横に振らずにはいられない。
客観的に見れば、私は記憶をなくした上に精神的にも不安定だったから、仕方がなかったというのはあるだろう。けれど、そんな私に気を遣って振り回された彼は、こうして体調を崩してしまった。私が無理をさせてしまったという気持ちがどうしても拭えないのだ。
だから、せめて今日くらいは恩返しをしなければと思った。
「世助、ご飯もらってきたわ、よ……??」
襖を開けた途端、視界へ飛び込んできたものに驚いて、私は持っていたお盆を思わず投げそうになる。布団の中にいるであろうと思っていた私の予想に反し、世助は自力で起き上がって着替えをしていた。かなり汗をかいていたし、蒸籠の中にいるような蒸し暑さには耐えられなかったのだろうけれど、折り悪く褌一丁とご対面になってしまった。
「あっ……ごめんなさい!」
私は急いで襖を閉める。しかし、ほんの数瞬とはいえ世助の上裸はしっかり目に焼き付いてしまったので、白い襖にはその像がくっきりと浮かんで見えた。
思えば、世助の体を見たのは初めてだ。あの身体能力からして鍛えているであろうことは明白だったし、洋シャツ越しでも体格の良さはなんとなく分かっていたけれど、実際に目にしてみると立派なものだった。発達した胸筋も、綺麗に割れた腹筋も、肩から腕にかけての筋肉も、すべてが圧巻だった。あどけない顔立ちには些か不似合いだが、彼の実力の高さには相応しい、完成された肉体美と言える。……って何を考えているの、私。人の着替えを見るなんて失礼なことをしてしまったというのに。
なんとなく罪悪感があったので、その場から動かずに床の上に正座をしていると、しばらくして襖がすうーっと開けられた。
「あ……いきなり入ろうとしてごめんなさい」
世助はそれに首をゆるゆると横に振って返し、正座をし続けていた私を手招く。
倒れてしまうほどだからどんなに重い症状なのだろうと思ったけれど、一応身の回りのことはひと通りできるらしい。が、壁に手をついて歩いているのを見ると、やはり少し危なげだ。
「できればお布団に入ってて。私が身の回りのことをしてあげるから」
そう言っても、世助はすぐには布団に入ろうとしなかった。
「……また、嫌な夢を見そうで怖い?」
すると、世助は先程とうって変わったように、徐ろに布団の中へ入る。怖いのかと聞かれたのが嫌だったようだ。別にからかう意図はなかったのだけど。
「薬と食事だけはきちんととって、ちゃんと体を休めるのよ」
「…………」
ぼふ、と世助が枕に顔を埋める。その姿はまるでいじけているようにも見えた。
「どうしたの?」
「…………」
聞いてみても、声を発することができない世助はじぃ~っと私を見るだけで、何も答えない。一体なにが気に食わないのだろう。
「なにか主張があるなら、伝えてくれないと分からないわよ」
そう言って手帳と鉛筆を渡しても、世助は受け取ろうとしない。ただ、不満を抱えた様子でもそりと枕に顔を埋めて拒否した。
「ほら、枕とキスなんかしてないで、ご飯にしましょう? 赤塚さんがせっかく作ってくれたお粥が冷めちゃうわよ」
とりあえず、なにか食べて少しでも回復してもらわなければと枕元にお膳を置けば、世助は再びちらりと見てきた。そのまましばらく固まっていた彼だったが、空腹にはかえられないのか、やがてもそもそと起き上がって器を手に取る。
「しばらくしたらまた来るわ。ちゃんと安静にしていてね」
世助はただ、こくりとひとつ頷いて返事をした。
……そんな彼を、私は一応信用して出てきたはずだったのだが。
「……世助。安静にしていてって、私言ったわよね?」
「…………」
少しして様子を見に部屋へ行くと、私が心のどこかで心配していた通りのことが起きていた。別に起きているだけなら問題はないのだけれど、彼はわざわざ布団の近くに文机を置いてノートに鉛筆を走らせていたのだ。
襖を開けた瞬間に目が合った世助をじっとりと見ると、世助は気まずそうな顔をした。それでも、作業をやめる気はないようだ。
「あのね。そういうのは回復してからやることであって、ふらふらするほど具合が悪い時にすることじゃないでしょ。治りが遅くなるわよ」
無理もここまでされると呆れてしまう。医者にもよく寝るようにと言われているはずなのに、医者の卵がそれを聞かないでどうするのだ。
ふう、とわざと聞こえるように溜息をつき、彼の近くまで寄る。何をしているのかと手元を覗き込むと、ノートと一緒に広げてあった参考書に目が留まった。
「ちょっと見ていい?」
ひと声掛けてからその本の表紙を見ると、そこには『大陽本帝国図書資産管理規定』と書かれていた。びっしりと文字が刻まれた頁をぱらぱらめくって流し読みをする。内容は本に関連する法律から歴史、業務などを幅広く網羅しており、ところどころに関連する事例を記したメモのようなものも挟んである。旦那様の筆跡だったから、恐らくは借り物なのだろう。
世助が禁書士の資格を取ろうとしていることを私は知っていたけれど、実際にこうして知識に触れるのは初めてだった。こんなに膨大な知識を頭に詰め込まなければならないのだから、途方もない勉強量が必要なのだろう。
「……ねえ、世助。話すのも嫌なら無理に聞こうとは思わないけど、今の貴方、すごくつらいんじゃないの?」
「…………!」
世助の目が揺れたのを、私は見逃さなかった。それを隠すように、世助は私から目をそらす。
「夢のこととか、眠れないこととか、他にも色々悩みが吹き出して不安定な状態になってない? 旦那様や皆がすごく心配なさってたわ」
「…………」
彼がぎゅっと唇を噛む。視線は俯いたままだ。
元々、勉強をしながら旦那様の介助をするだけでも骨が折れる思いだったのだろう。そこへ重傷を負った私がやってきて、彼はいっぱいいっぱいのまま頑張っていたのだ。それなのに悪夢を見たくないからと休眠さえ取らないなんて、いくら彼が屈強だとしても倒れてしまうのは当然だった。
「相談するかしないかは勿論貴方次第だけど、困っていることを一人で抱え過ぎるとつらくなるわよ」
「……っ」
「旦那様や秋声先生に言いにくいなら、他の人でもいいんだわ。このお屋敷の中なら、イシさんあたりはどうかしら。聞き上手だし、人生経験も豊富でしょうし。時間はかかるけど、唯助くんに手紙を送るのだってありだと思う。なんなら、新参者の私でもいいのよ」
皆、世助が無理をしていたことに気づけなかった。それでも私を含む皆が、彼の身に起こっていることに心を痛め、気にかけている。それだけは伝わって欲しかった。
下を向くばかりだった焦げ茶色の瞳が、ほんの一瞬だけ私の方を向く。世助は文机に置いていた手帳と鉛筆を手に取ると、数秒ほど鉛筆の先を宙でさまよわせた末、
『わかった』
と綴って返した。
私はその四文字に少し安堵する。
「よしよし、いい子ね」
今は返答が貰えただけでも良しとするべきだろう。私は会話にひと区切りつけ、膝をぽんと叩きながら話題を切り替える。
「それはそれとして。休養はきちんととらないと駄目よね。ということで、一緒に寝ましょ」
「!? なんッ、ッ……ッげほ! げほ、げほ!」
多分、なんでそうなる!? とでも言いたかったのだろう。けれど声が出にくい中、無理やり出そうとしたせいで喉を痛めたようだ。とりあえず、私はこれを飲めと水を入れた湯呑みを手渡す。世助は水をぐびぐび飲み干すと、訝しげな目つきで私を見た。
「かっ、風邪がぅっるだろぅが」
かすかすに枯れた声で抗議する世助。
「なにも一緒の布団に入るわけじゃないわよ」
「ぁたりまぇぁ!」
顔面を真っ赤に染めあげ、裏返った声で抗議する彼をあえて無視し、私は隣に布団をもう一組敷き始めた。音音さんから教えてもらった早敷きで布団を素早く広げ、抵抗の隙も与えない。もはや有無を言わせぬ行動をとる私に、
「しょ、っ正気かっ!?」
とうろたえる世助。
「正気よ。一緒に寝れば、悪い夢も見ないで済むかもしれないでしょ。貴方が安心して眠れるように寝かしつけるだけよ」
私は至って大真面目に言ったけれど、世助はありえないと言いたげな目をしていた。
「それ寝るどころじゃ、っごほ、げほ」
彼はまだなにか抗議したいようだったけど、聞くのも面倒だったので、再び咳き込んだところで水を飲ませて黙らせた。
「仕事の方は大丈夫。旦那様からも看病に専念してくれって言われてるから」
私は彼に一言も反論させないよう、矢継ぎ早に言い放ちながらさっさと寝転がる。
「ほら、寝るわよ」
枕をぽんぽん叩き、彼に横になるように促す。世助はしばらく私を疑わしげな目で見ていたけれど、そのうち、私が冗談でもなんでもなく本気で言っているのだと理解したらしい。何を言っても無駄だと結論づけたのか、そっと枕に頭を預けた。
「素直でよろしい」
「うう……」
真っ赤な顔で悔しそうに唸る彼に布団をかけてあげる。さすがにその上からとんとんすると子供扱いするなと怒られるだろうか、と考えていると、ほどなくして彼の重たげな瞼が瞳の色を覆い隠した。無理やり起きていたから、やはり彼も眠かったのだ。
手を伸ばし、少し汗ばんだ茶色の毛並みを乱さないようにそっと撫でる。すると、強ばっていた表情がふっと緩んで、次第に彼は眠りに落ちていった。
――それから、どれくらい時間が経っただろうか。はっきり起きていたのか、寝ていたのかもよく分からない。夢と現の狭間をふわふわ揺蕩っていると、雲の中のような視界の向こうから、
「おぉ、りっちゃん。お目覚めだか?」
という優しげな声が聞こえた。
私は魚が釣り糸に引き上げられるような勢いで起き上がった。明瞭になった目で声のもとを見やれば、腰の曲がった割烹着姿のおばあさんが笑顔で私を見下ろしている。
「っイシさん! ご、ごめんなさい、私――」
屋敷で皆があくせく働いている中、私はとんでもないことをしてしまったという罪悪感で、そのまま布団の上で土下座しようとした。が、イシさんは「しぃ」と人差し指を口に当てながら囁く。
「よっちゃんがよぉく寝てるっけ、起きるまで寝かしとけぃや。旦那様から話は聞いてるすけ、りっちゃんは仕事のこと気にしんでいいて」
イシさんが視線を移すのと同時に、私も彼女と同じ方向へ目を向ける。優しい眼差しのその先には、寝息を立ててすやすや眠る世助がいた。
「ばーかいい寝顔らこと。まだ二十歳にもなってねっけ、可愛いもんらこって」
ゆるりと弧を描いた眉や薄く開けられた唇が、緊張感の抜けた柔らかな表情を作り上げていた。先ほどの寝顔とは明らかに違う。大人と子供の境にいた世助の顔は、今や完全に子供のものと化していた。
「りっちゃんもようく寝てたがぁて。婆はにっこにこだて、おめったが仲良くおねんねしてて」
「あぁ、それは……私は寝かしつけたらすぐに仕事に戻る予定だったんですけど……」
「ん~ん~、そいがぁ。気にしんたって良いのに、りっちゃんはマメらこって。よっちゃんにつられちゃって、こんげ赤ん坊みたいな気持ちいい寝顔見たら仕方ね」
イシさんの指先に頬をつつかれると、世助は僅かに身動ぎして、まるで赤ちゃんのようにきゅっと体を丸めた。
「きっとりっちゃんが一緒にいたっけ、安心したんろ。よっちゃん、本当は甘えん坊さんだすけ」
「え?」
「この年頃の男の子らっけ、素直になるのはしょーしかったんて。女の子のりっちゃんにかっこいいとこ見しときたかったが。男の考えることなんかそんげなもんだて」
可愛いねぇ、とイシさんはしわしわの手で世助の髪を撫でていた。その慈愛に満ちた目は、孫を見守る祖母と何ら変わりはない。
「……別に、無理していい所だけ見せなくてもいいのに」
「本当だぁて。無理してごーぎなふりして、男は幾つんなっても馬鹿なもんだこて」
世助を起こさない程度の声量で、イシさんはケタケタと笑う。
「でも、男はちょっと馬鹿なくらいがいっちゃん良い。この子は良い馬鹿になるし、この子の嫁御もきっと幸せになれるがぁよ」
そう言って、イシさんはなぜか私の顔を見てにっこりと笑う。私がその意味を図りかねていると、イシさんは再び視線を世助の方へ戻し、彼の布団を掛け直してやっていた。
「ま、お婆も余計なことは言い過ぎんようにしねばねーて。お昼の時間だっけへぇ来ぃや~。よっちゃんの分も取っとってるっけ」
手を付きながら立ち上がると、イシさんは曲がった腰でひょこひょこと歩いていった。
*****
「りっちゃん、これよっちゃんに持ってっておくんなせ」
お昼ご飯の後に、イシさんから瓶詰めを手渡された。中身を覗くと、黄金色の溶液の中に角切りにされた白い何かが浮いている。
「イシさん、これは?」
「大根の蜂蜜漬け。喉によぉく効くお薬だて。甘くってうんめえすけ、子供でも嫌がらね。お湯かもして飲ませればいいて」
「分かりました。じゃあ、お昼ご飯と一緒に持っていきますね」
私がお昼ご飯のお盆を手に世助の部屋へ向かおうとした時だった。私の背後から、き、き、と床板の軋む音が聞こえた。そう、ちょうど人の重みで木材が軋んだ時の音だ。
「世助! ちょっと、なにしてるの!?」
振り返れば、壁に手をつきながらよたよたと歩いてくる世助がそこにいた。急いでお盆を置いて駆け寄ると同時に、自重を支えきれなくなった世助が私に倒れかかってくる。
「う、ぐ、重いぃ……もう、なんで無理してまで動こうとするのよぉ!」
しっとりと熱を帯びた肌から、汗の匂いが漂ってくる。成人男性の体重分がぐったりと私へもたれ掛かってくるので、踏ん張っていないと私が押し潰されてしまいそうだ。
さっきまであんなにも穏やかな表情で眠っていたというのに、一体どうしたのだろう。動くのもしんどいだろうに、どうして無理をしてまでやって来るのか、分からなかった。
「よっちゃん、りっちゃんも婆もちゃあんといるすけ、安心しなせや。体冷やしたらまーた風邪が酷くなるて」
私のすぐそばまで来ていたイシさんが、世助に向かって声をかけた。年の功と言うべきか、イシさんの声は少しも慌てておらず、のんびりとしている。
「……ぅ」
「ほれ、立ってくらっしぇーや。しゃんとしねえとりっちゃんが潰れるてばに」
イシさんが世助の腕をとんとん叩くと、世助は私から体を離して、ふらふらと立ち上がった。
「うん、よした、よした。さ、お布団に戻らっしぇ。ちっとしたらすーぐご飯持って行くっけさ」
「ん……」
すると、世助はイシさんの言葉に素直に頷いて、自分の部屋へと戻っていく。
私があれだけ言っても無理して動いていたのに、どうしてイシさんの言葉にはすぐに従ったのか。さすがイシさんはすごい、と思ったけれど、彼の行動原理についてはちっとも分からない。
「な、なんだったの、今の……」
「さぁ、不安だったんでねえが?」
「不安?」
困惑する私に、イシさんは相変わらずのんびりとした口調で答える。
「寝てる間にりっちゃんがいのなった~って、吃驚したんでねーろっか。風邪引くといつもより心細くなるっけ、おれんとこの曾孫もそうらったが」
「そ、それは……まだ小さい子供ならそうでしょうけど、世助をその例に当てはめるのはさすがに無理があるんじゃ……」
「そうらろっか」
イシさんの垂れた瞼がほんの僅かに持ち上がり、白っぽくくすんだ瞳が姿を現す。
「あれは難儀な子だこって」
「難儀、ですか」
「ん、そう」
イシさんはこっくんと大きく首を振った。
「むかぁしは病気の弟がいたらしいし、ここに来る前にもご実家と何やかやあったがか。旦那様はあえて何も言わんねろも、あの子は随分苦労してきてるて」
「見て分かるんですか?」
「勘だこって。らろも、年寄りの勘ってのは良くも悪くも当たるすけ」
「…………」
実際、本当にイシさんの勘はよく当たる。直感はその人の経験がもとになっているというし、自身の子から曾孫まで三世代の成長を見守ってきた彼女だからこそ、世助の抱えている何かを見抜いているのかもしれない。
「……なんだか、正直」
「うん?」
「正直、私、どう対処していいのやら……イシさんみたいに、彼の行動の意味が読めません」
「ん~読もうとしたって駄目だが、あの子はそれ以前の問題だっけさ」
「そう、ですよね」
とはいえ、現象が起きている理由や意味が解明できないことほど歯がゆいものはない。手の打ち方を考えることもままならないからだ。
世助は注意しても無理して起きていようとするし、言いたいことがあるはずなのに言わないし、かといって煙たがられているのかと思えば私を追いかけてくるし、さっきから不思議な行動ばかりとっている。
この行動の理由が少しでも分かれば、多少はやりやすくなりそうなものなのだが。
「加減が分からんくなってるかもしれねぇて。よっちゃんは人より甘えるのが下手だっけ、こんげ心細い時の甘え方が分からんのかもしれね。多分、困ってるのはよっちゃん自身も同じなんろ」
「……」
「りっちゃん、お世話が難儀かったらお婆が代わったほうが良いがか?」
その方がいいのかもしれない。合理的に考えれば、こういったことに慣れているイシさんが看病役に回る方が、私や世助にとってもいいのだろう。しかし――
「……いえ、大丈夫です。私にやらせてください」
私の感情が、頑なにそれをしたくないと言っていた。
「彼に、少しでも恩返しがしたいんです」
すみません、と彼女の厚意を断ってしまったことを謝罪すると、イシさんは私を咎めず、ただにっこり笑って
「そいがぁ。そいなら頑張ればいいっけ、困ったらいつでもお婆のとこにおいでぇ」
と返してくれた。
客観的に見れば、私は記憶をなくした上に精神的にも不安定だったから、仕方がなかったというのはあるだろう。けれど、そんな私に気を遣って振り回された彼は、こうして体調を崩してしまった。私が無理をさせてしまったという気持ちがどうしても拭えないのだ。
だから、せめて今日くらいは恩返しをしなければと思った。
「世助、ご飯もらってきたわ、よ……??」
襖を開けた途端、視界へ飛び込んできたものに驚いて、私は持っていたお盆を思わず投げそうになる。布団の中にいるであろうと思っていた私の予想に反し、世助は自力で起き上がって着替えをしていた。かなり汗をかいていたし、蒸籠の中にいるような蒸し暑さには耐えられなかったのだろうけれど、折り悪く褌一丁とご対面になってしまった。
「あっ……ごめんなさい!」
私は急いで襖を閉める。しかし、ほんの数瞬とはいえ世助の上裸はしっかり目に焼き付いてしまったので、白い襖にはその像がくっきりと浮かんで見えた。
思えば、世助の体を見たのは初めてだ。あの身体能力からして鍛えているであろうことは明白だったし、洋シャツ越しでも体格の良さはなんとなく分かっていたけれど、実際に目にしてみると立派なものだった。発達した胸筋も、綺麗に割れた腹筋も、肩から腕にかけての筋肉も、すべてが圧巻だった。あどけない顔立ちには些か不似合いだが、彼の実力の高さには相応しい、完成された肉体美と言える。……って何を考えているの、私。人の着替えを見るなんて失礼なことをしてしまったというのに。
なんとなく罪悪感があったので、その場から動かずに床の上に正座をしていると、しばらくして襖がすうーっと開けられた。
「あ……いきなり入ろうとしてごめんなさい」
世助はそれに首をゆるゆると横に振って返し、正座をし続けていた私を手招く。
倒れてしまうほどだからどんなに重い症状なのだろうと思ったけれど、一応身の回りのことはひと通りできるらしい。が、壁に手をついて歩いているのを見ると、やはり少し危なげだ。
「できればお布団に入ってて。私が身の回りのことをしてあげるから」
そう言っても、世助はすぐには布団に入ろうとしなかった。
「……また、嫌な夢を見そうで怖い?」
すると、世助は先程とうって変わったように、徐ろに布団の中へ入る。怖いのかと聞かれたのが嫌だったようだ。別にからかう意図はなかったのだけど。
「薬と食事だけはきちんととって、ちゃんと体を休めるのよ」
「…………」
ぼふ、と世助が枕に顔を埋める。その姿はまるでいじけているようにも見えた。
「どうしたの?」
「…………」
聞いてみても、声を発することができない世助はじぃ~っと私を見るだけで、何も答えない。一体なにが気に食わないのだろう。
「なにか主張があるなら、伝えてくれないと分からないわよ」
そう言って手帳と鉛筆を渡しても、世助は受け取ろうとしない。ただ、不満を抱えた様子でもそりと枕に顔を埋めて拒否した。
「ほら、枕とキスなんかしてないで、ご飯にしましょう? 赤塚さんがせっかく作ってくれたお粥が冷めちゃうわよ」
とりあえず、なにか食べて少しでも回復してもらわなければと枕元にお膳を置けば、世助は再びちらりと見てきた。そのまましばらく固まっていた彼だったが、空腹にはかえられないのか、やがてもそもそと起き上がって器を手に取る。
「しばらくしたらまた来るわ。ちゃんと安静にしていてね」
世助はただ、こくりとひとつ頷いて返事をした。
……そんな彼を、私は一応信用して出てきたはずだったのだが。
「……世助。安静にしていてって、私言ったわよね?」
「…………」
少しして様子を見に部屋へ行くと、私が心のどこかで心配していた通りのことが起きていた。別に起きているだけなら問題はないのだけれど、彼はわざわざ布団の近くに文机を置いてノートに鉛筆を走らせていたのだ。
襖を開けた瞬間に目が合った世助をじっとりと見ると、世助は気まずそうな顔をした。それでも、作業をやめる気はないようだ。
「あのね。そういうのは回復してからやることであって、ふらふらするほど具合が悪い時にすることじゃないでしょ。治りが遅くなるわよ」
無理もここまでされると呆れてしまう。医者にもよく寝るようにと言われているはずなのに、医者の卵がそれを聞かないでどうするのだ。
ふう、とわざと聞こえるように溜息をつき、彼の近くまで寄る。何をしているのかと手元を覗き込むと、ノートと一緒に広げてあった参考書に目が留まった。
「ちょっと見ていい?」
ひと声掛けてからその本の表紙を見ると、そこには『大陽本帝国図書資産管理規定』と書かれていた。びっしりと文字が刻まれた頁をぱらぱらめくって流し読みをする。内容は本に関連する法律から歴史、業務などを幅広く網羅しており、ところどころに関連する事例を記したメモのようなものも挟んである。旦那様の筆跡だったから、恐らくは借り物なのだろう。
世助が禁書士の資格を取ろうとしていることを私は知っていたけれど、実際にこうして知識に触れるのは初めてだった。こんなに膨大な知識を頭に詰め込まなければならないのだから、途方もない勉強量が必要なのだろう。
「……ねえ、世助。話すのも嫌なら無理に聞こうとは思わないけど、今の貴方、すごくつらいんじゃないの?」
「…………!」
世助の目が揺れたのを、私は見逃さなかった。それを隠すように、世助は私から目をそらす。
「夢のこととか、眠れないこととか、他にも色々悩みが吹き出して不安定な状態になってない? 旦那様や皆がすごく心配なさってたわ」
「…………」
彼がぎゅっと唇を噛む。視線は俯いたままだ。
元々、勉強をしながら旦那様の介助をするだけでも骨が折れる思いだったのだろう。そこへ重傷を負った私がやってきて、彼はいっぱいいっぱいのまま頑張っていたのだ。それなのに悪夢を見たくないからと休眠さえ取らないなんて、いくら彼が屈強だとしても倒れてしまうのは当然だった。
「相談するかしないかは勿論貴方次第だけど、困っていることを一人で抱え過ぎるとつらくなるわよ」
「……っ」
「旦那様や秋声先生に言いにくいなら、他の人でもいいんだわ。このお屋敷の中なら、イシさんあたりはどうかしら。聞き上手だし、人生経験も豊富でしょうし。時間はかかるけど、唯助くんに手紙を送るのだってありだと思う。なんなら、新参者の私でもいいのよ」
皆、世助が無理をしていたことに気づけなかった。それでも私を含む皆が、彼の身に起こっていることに心を痛め、気にかけている。それだけは伝わって欲しかった。
下を向くばかりだった焦げ茶色の瞳が、ほんの一瞬だけ私の方を向く。世助は文机に置いていた手帳と鉛筆を手に取ると、数秒ほど鉛筆の先を宙でさまよわせた末、
『わかった』
と綴って返した。
私はその四文字に少し安堵する。
「よしよし、いい子ね」
今は返答が貰えただけでも良しとするべきだろう。私は会話にひと区切りつけ、膝をぽんと叩きながら話題を切り替える。
「それはそれとして。休養はきちんととらないと駄目よね。ということで、一緒に寝ましょ」
「!? なんッ、ッ……ッげほ! げほ、げほ!」
多分、なんでそうなる!? とでも言いたかったのだろう。けれど声が出にくい中、無理やり出そうとしたせいで喉を痛めたようだ。とりあえず、私はこれを飲めと水を入れた湯呑みを手渡す。世助は水をぐびぐび飲み干すと、訝しげな目つきで私を見た。
「かっ、風邪がぅっるだろぅが」
かすかすに枯れた声で抗議する世助。
「なにも一緒の布団に入るわけじゃないわよ」
「ぁたりまぇぁ!」
顔面を真っ赤に染めあげ、裏返った声で抗議する彼をあえて無視し、私は隣に布団をもう一組敷き始めた。音音さんから教えてもらった早敷きで布団を素早く広げ、抵抗の隙も与えない。もはや有無を言わせぬ行動をとる私に、
「しょ、っ正気かっ!?」
とうろたえる世助。
「正気よ。一緒に寝れば、悪い夢も見ないで済むかもしれないでしょ。貴方が安心して眠れるように寝かしつけるだけよ」
私は至って大真面目に言ったけれど、世助はありえないと言いたげな目をしていた。
「それ寝るどころじゃ、っごほ、げほ」
彼はまだなにか抗議したいようだったけど、聞くのも面倒だったので、再び咳き込んだところで水を飲ませて黙らせた。
「仕事の方は大丈夫。旦那様からも看病に専念してくれって言われてるから」
私は彼に一言も反論させないよう、矢継ぎ早に言い放ちながらさっさと寝転がる。
「ほら、寝るわよ」
枕をぽんぽん叩き、彼に横になるように促す。世助はしばらく私を疑わしげな目で見ていたけれど、そのうち、私が冗談でもなんでもなく本気で言っているのだと理解したらしい。何を言っても無駄だと結論づけたのか、そっと枕に頭を預けた。
「素直でよろしい」
「うう……」
真っ赤な顔で悔しそうに唸る彼に布団をかけてあげる。さすがにその上からとんとんすると子供扱いするなと怒られるだろうか、と考えていると、ほどなくして彼の重たげな瞼が瞳の色を覆い隠した。無理やり起きていたから、やはり彼も眠かったのだ。
手を伸ばし、少し汗ばんだ茶色の毛並みを乱さないようにそっと撫でる。すると、強ばっていた表情がふっと緩んで、次第に彼は眠りに落ちていった。
――それから、どれくらい時間が経っただろうか。はっきり起きていたのか、寝ていたのかもよく分からない。夢と現の狭間をふわふわ揺蕩っていると、雲の中のような視界の向こうから、
「おぉ、りっちゃん。お目覚めだか?」
という優しげな声が聞こえた。
私は魚が釣り糸に引き上げられるような勢いで起き上がった。明瞭になった目で声のもとを見やれば、腰の曲がった割烹着姿のおばあさんが笑顔で私を見下ろしている。
「っイシさん! ご、ごめんなさい、私――」
屋敷で皆があくせく働いている中、私はとんでもないことをしてしまったという罪悪感で、そのまま布団の上で土下座しようとした。が、イシさんは「しぃ」と人差し指を口に当てながら囁く。
「よっちゃんがよぉく寝てるっけ、起きるまで寝かしとけぃや。旦那様から話は聞いてるすけ、りっちゃんは仕事のこと気にしんでいいて」
イシさんが視線を移すのと同時に、私も彼女と同じ方向へ目を向ける。優しい眼差しのその先には、寝息を立ててすやすや眠る世助がいた。
「ばーかいい寝顔らこと。まだ二十歳にもなってねっけ、可愛いもんらこって」
ゆるりと弧を描いた眉や薄く開けられた唇が、緊張感の抜けた柔らかな表情を作り上げていた。先ほどの寝顔とは明らかに違う。大人と子供の境にいた世助の顔は、今や完全に子供のものと化していた。
「りっちゃんもようく寝てたがぁて。婆はにっこにこだて、おめったが仲良くおねんねしてて」
「あぁ、それは……私は寝かしつけたらすぐに仕事に戻る予定だったんですけど……」
「ん~ん~、そいがぁ。気にしんたって良いのに、りっちゃんはマメらこって。よっちゃんにつられちゃって、こんげ赤ん坊みたいな気持ちいい寝顔見たら仕方ね」
イシさんの指先に頬をつつかれると、世助は僅かに身動ぎして、まるで赤ちゃんのようにきゅっと体を丸めた。
「きっとりっちゃんが一緒にいたっけ、安心したんろ。よっちゃん、本当は甘えん坊さんだすけ」
「え?」
「この年頃の男の子らっけ、素直になるのはしょーしかったんて。女の子のりっちゃんにかっこいいとこ見しときたかったが。男の考えることなんかそんげなもんだて」
可愛いねぇ、とイシさんはしわしわの手で世助の髪を撫でていた。その慈愛に満ちた目は、孫を見守る祖母と何ら変わりはない。
「……別に、無理していい所だけ見せなくてもいいのに」
「本当だぁて。無理してごーぎなふりして、男は幾つんなっても馬鹿なもんだこて」
世助を起こさない程度の声量で、イシさんはケタケタと笑う。
「でも、男はちょっと馬鹿なくらいがいっちゃん良い。この子は良い馬鹿になるし、この子の嫁御もきっと幸せになれるがぁよ」
そう言って、イシさんはなぜか私の顔を見てにっこりと笑う。私がその意味を図りかねていると、イシさんは再び視線を世助の方へ戻し、彼の布団を掛け直してやっていた。
「ま、お婆も余計なことは言い過ぎんようにしねばねーて。お昼の時間だっけへぇ来ぃや~。よっちゃんの分も取っとってるっけ」
手を付きながら立ち上がると、イシさんは曲がった腰でひょこひょこと歩いていった。
*****
「りっちゃん、これよっちゃんに持ってっておくんなせ」
お昼ご飯の後に、イシさんから瓶詰めを手渡された。中身を覗くと、黄金色の溶液の中に角切りにされた白い何かが浮いている。
「イシさん、これは?」
「大根の蜂蜜漬け。喉によぉく効くお薬だて。甘くってうんめえすけ、子供でも嫌がらね。お湯かもして飲ませればいいて」
「分かりました。じゃあ、お昼ご飯と一緒に持っていきますね」
私がお昼ご飯のお盆を手に世助の部屋へ向かおうとした時だった。私の背後から、き、き、と床板の軋む音が聞こえた。そう、ちょうど人の重みで木材が軋んだ時の音だ。
「世助! ちょっと、なにしてるの!?」
振り返れば、壁に手をつきながらよたよたと歩いてくる世助がそこにいた。急いでお盆を置いて駆け寄ると同時に、自重を支えきれなくなった世助が私に倒れかかってくる。
「う、ぐ、重いぃ……もう、なんで無理してまで動こうとするのよぉ!」
しっとりと熱を帯びた肌から、汗の匂いが漂ってくる。成人男性の体重分がぐったりと私へもたれ掛かってくるので、踏ん張っていないと私が押し潰されてしまいそうだ。
さっきまであんなにも穏やかな表情で眠っていたというのに、一体どうしたのだろう。動くのもしんどいだろうに、どうして無理をしてまでやって来るのか、分からなかった。
「よっちゃん、りっちゃんも婆もちゃあんといるすけ、安心しなせや。体冷やしたらまーた風邪が酷くなるて」
私のすぐそばまで来ていたイシさんが、世助に向かって声をかけた。年の功と言うべきか、イシさんの声は少しも慌てておらず、のんびりとしている。
「……ぅ」
「ほれ、立ってくらっしぇーや。しゃんとしねえとりっちゃんが潰れるてばに」
イシさんが世助の腕をとんとん叩くと、世助は私から体を離して、ふらふらと立ち上がった。
「うん、よした、よした。さ、お布団に戻らっしぇ。ちっとしたらすーぐご飯持って行くっけさ」
「ん……」
すると、世助はイシさんの言葉に素直に頷いて、自分の部屋へと戻っていく。
私があれだけ言っても無理して動いていたのに、どうしてイシさんの言葉にはすぐに従ったのか。さすがイシさんはすごい、と思ったけれど、彼の行動原理についてはちっとも分からない。
「な、なんだったの、今の……」
「さぁ、不安だったんでねえが?」
「不安?」
困惑する私に、イシさんは相変わらずのんびりとした口調で答える。
「寝てる間にりっちゃんがいのなった~って、吃驚したんでねーろっか。風邪引くといつもより心細くなるっけ、おれんとこの曾孫もそうらったが」
「そ、それは……まだ小さい子供ならそうでしょうけど、世助をその例に当てはめるのはさすがに無理があるんじゃ……」
「そうらろっか」
イシさんの垂れた瞼がほんの僅かに持ち上がり、白っぽくくすんだ瞳が姿を現す。
「あれは難儀な子だこって」
「難儀、ですか」
「ん、そう」
イシさんはこっくんと大きく首を振った。
「むかぁしは病気の弟がいたらしいし、ここに来る前にもご実家と何やかやあったがか。旦那様はあえて何も言わんねろも、あの子は随分苦労してきてるて」
「見て分かるんですか?」
「勘だこって。らろも、年寄りの勘ってのは良くも悪くも当たるすけ」
「…………」
実際、本当にイシさんの勘はよく当たる。直感はその人の経験がもとになっているというし、自身の子から曾孫まで三世代の成長を見守ってきた彼女だからこそ、世助の抱えている何かを見抜いているのかもしれない。
「……なんだか、正直」
「うん?」
「正直、私、どう対処していいのやら……イシさんみたいに、彼の行動の意味が読めません」
「ん~読もうとしたって駄目だが、あの子はそれ以前の問題だっけさ」
「そう、ですよね」
とはいえ、現象が起きている理由や意味が解明できないことほど歯がゆいものはない。手の打ち方を考えることもままならないからだ。
世助は注意しても無理して起きていようとするし、言いたいことがあるはずなのに言わないし、かといって煙たがられているのかと思えば私を追いかけてくるし、さっきから不思議な行動ばかりとっている。
この行動の理由が少しでも分かれば、多少はやりやすくなりそうなものなのだが。
「加減が分からんくなってるかもしれねぇて。よっちゃんは人より甘えるのが下手だっけ、こんげ心細い時の甘え方が分からんのかもしれね。多分、困ってるのはよっちゃん自身も同じなんろ」
「……」
「りっちゃん、お世話が難儀かったらお婆が代わったほうが良いがか?」
その方がいいのかもしれない。合理的に考えれば、こういったことに慣れているイシさんが看病役に回る方が、私や世助にとってもいいのだろう。しかし――
「……いえ、大丈夫です。私にやらせてください」
私の感情が、頑なにそれをしたくないと言っていた。
「彼に、少しでも恩返しがしたいんです」
すみません、と彼女の厚意を断ってしまったことを謝罪すると、イシさんは私を咎めず、ただにっこり笑って
「そいがぁ。そいなら頑張ればいいっけ、困ったらいつでもお婆のとこにおいでぇ」
と返してくれた。
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