影魔術師と勇者の彼女 ~勇者に故郷を襲われたので勇者の彼女を人質に旅に出ました~

サクヤ

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新生活編

第113話 フェイリア・ダンジョン

 ロイは足首に薬を塗って布を巻き付けた。サリナを抱えて横穴に入った際に、右足首を痛めたからだ。

 穴から顔を出して上を見上げるが、エデンを構成する聖石樹の足場はかなり上にある。跳躍どころか、シャドーウィップでも届かないし、怪我した足で岩壁を登れるわけもない。

「ロイ……その……ごめんなさい……」

 サリナが申し訳なさそうにしている。うつむいてて表情はわからないが、地面に出来た小さな染みはサリナの目から落ちた涙で出来ている。

 普段からそっけないし、ハルトと交戦したあとも平常心を保っていたから、ソフィアのように芯の強い女だと思っていた。

 ここ最近の不安定に見える言動から考えると、ずっと我慢してきたのかもしれない。

 ロイはサリナの頭を撫でて言った。

「泣くなって……ほら、穴の奥を見てみろよ」

 ロイに言われてサリナは奥を見た。そこにあったのは、拳ほどの大きさの宝箱だった。最早宝箱と言うには小さすぎて、一見すると小箱にしか見えなかった。

「宝箱?」

「そうだ。あれがあるってことは、ここはダンジョンの可能性が高い。規模は……そうだな、宝箱の大きさから言って【フェイリア級】くらいだな」

「フェイリア級?」

「知らないのか、えーっとフェイリア級ってのはな──」

 ダンジョンにはダンジョンコアというものがあって、そのコアの大きさによってそのダンジョンの難易度が決まる。

 上から【上級】【中級】【初級】【フェイリア級】と大別されて、例外として【災害級】というものがある。そして【初級】以下のダンジョンは【フェイリア級】として未発達、または成長途中のダンジョンと認識されている。

 ロイはダンジョンについて説明し終えると、サリナが質問した。

「未発達と成長途中の違いは?」

「これから【初級】に上がる可能性があるのが成長途中、未発達は伸び代が無いダンジョンのことだ。何故ダンジョンなんてものがあるのか、長命を誇るエルフでさえわからない。最古の文献には、悪神と女神の大戦で悪神が妨害目的で大地に撒き散らした種子コアである、なんて書かれてたらしいがな、ホントのところはわからん」

 時が経ち過ぎて国ごとに説はバラバラ、"黄金時代に神と戦った"という記述だけはどの国も共通していた。

「じゃあ、アルスの塔とかアグニの塔はどのくらい?」

「あれはダンジョンって位置付けだけど、封印としての意味合いの方が強いんだよ。難易度的にはアグニが【初級】、アルスが【中級】って感じだな」

 その中級も、ダークマターで超強化されたダートの力業で難なく突破されたみたいだがな。

「サリナ、さっきまで泣いてたのにダンジョンと聞いてワクワクしてないか?」

「なっ! べ、別に泣いてないし! 現状を打破しないとって、思っただけ……」

 ロイは立ち上がり、歩き始めた。

「サリナ、行くぞ」

「え、ちょっと! 宝箱はどうするの!?」

「大した物は入ってない、それよりも夕方までに戻らないと、マズイことになる」

「……何か起きるの?」

 振り返ったロイは、サリナの肩をガシッと掴んで答えた。

「またソフィアに怒られるだろ!」

「"あなたは何度わたくしを置いていけば気が済むのかしら?"って?」

「上手いじゃないか、とにかくそう言うことだから急ぐぞ」

 サリナはロイの腕を自身の肩に回して歩くのを手伝った。いざとなればロイの代わりに自分が前に出て戦おう、そう誓って進み始めた。

 ──約2時間歩き続けた。

「はあッ! 【エーテルストライク】!」

 魔力をまとった槍で【スケルトンナイト】を撃破していく。

「サリナ、倒しきれないのは俺がやる。【神剣射出】」

 白銀の長剣が次元の裏側から飛び出して骸骨を破砕する。

「……ありがと」

 嬉しいような、悲しいような、そんな複雑な表情でサリナは感謝を述べた。その中には色んな思いがあり、ここに来る前に言っていた『優しくしないで』というのもあるはずだ。


 それから少しして、ロイとサリナは開けた場所に辿り着いた。魔物が通った形跡はなく、この場所はいわゆるセーフポイントと呼ばれる場所だった。

「疲れたな、ここらで休憩するか」

「わかった。あたしが見張りするから座ってて」

 そう言ってサリナは入口に移動し始める。

 必要が無ければすぐに距離を取る、そんなサリナを影で拘束した。

「ちょっと、また!?」

 影を縮めてサリナを引き寄せて抱き止める。サリナの体は、座るロイの体にスッポリと収まった。

「は、離して」

「火の無いダンジョンを進みっぱなしだったろ? 寒いんだ、暖めてくれ」

 らしくないキザなことを言ってる、そう思いながらサリナに役割を与える。

 必要が無ければ離れるというのなら、必要を与えればいいだけの話だった。

 ロイの思惑通り、サリナは抵抗を止めてロイの背中に手を回した。それどころか、ロイの鎖骨から首筋にかけて、キスを始めた。

「……んふ……ちゅ、ちゅぷ……ん……」

 さすがに焦ったロイは肩を掴んで引き離した。

「待ってくれ」

「……え、違うの?」

「違う、そんな自罰的な感情でされたいなんて思わない。俺はただ……お前の真意を聞きたい、それだけなんだよ」

「まだ、言えない。勇気がないから……」 

 上では取り付く島も無かっただけに"まだ"という言葉を聞いて安心した。前進は前進だ、急ぐ必要は無い。

 ロイはサリナを抱き締めて言った。

「言えるようになったらで良いから、今はこうしていよう。ほら、安心するだろ?」

 サリナはコクリと頷いて、体をロイへと預けたのだった。

 ☆☆☆

 ~下水道~

 あれから更に1週間が過ぎた。色々とわかったことがある。このギャングは年齢制限があり、15歳の誕生日を迎えた子供は、貴族の屋敷に引き取られて真っ当な生活と職を与えられるという。

 最初に会った時、チョップが『仲間にはしてやれないけど』と言っていた意味がわかった。僕らは見た目からしても15を越えていたからだ。

「だけど何で貴族が? 僕の知る貴族はボランティアでそんな事はしないはずだけど……」

「ハルトさん、どうかしたの?」

 ハルトの独り言が耳に届いたのか、リディアはハルトに尋ねた。

「うん、貴族の動きが怪しいんだ。僕の知る貴族は僕のいた世界であれ、この世界であってもメリット無しには動かないはずなんだよ」

 それを聞いたリディアは申し訳なさそうに答えた。

「ごめんなさい、私は記憶が無いから判断できないわ」

 そう、リディアは大地の怒りグランドバニッシュの爆発で記憶を失っている。だから貴族という言葉の意味は覚えてても、父親がどんな貴族だったかは覚えていないのだ。

 リディアは「でも」と続けて言った。

「何らかのメリットがあるから子供達を引き取ってる、私はそう思うわ」

「それって……メリットを隠してるってこと?」

「そうね。私の予想に過ぎないけれど、メリットを隠すってことは子供達にデメリットがあるって考えてもおかしくないわ。隠すって、そういうことでしょ?」

「そうか、じゃあすぐにここを出たほうがいいね」

 それを聞いたリディアは驚いた表情を浮かべていた。

「ハルトさん【一宿一飯の恩義】って聞いたこと無いの?」

「いや、僕にはリディアがいるし、面倒事は避けて通らないと──」

「前の私がどんなだったか知らないけど、今の私はそれを善しとしません!」

「いや、チョップも好きな時に出ていって良いって──」

「ハルトさん!」

 あの男ならどうするだろうか? 隣にいたサリナやユキノは、嫌々一緒にいるようには見えなかった。
 敵を仲間に加えて、尚且つあの連携……きっと強い信頼を築いたに違いない。

 リディアの気持ちを無視したら、いよいよ終わりなんじゃないか? 何故ユキノ達が戻ってこなかったか、それを理解するには信頼こそ大事にすべきじゃないか?

 色々と自問自答した結果、ハルトはリディアの言うとおり、貴族の裏を探ることにした。

「チョップ、貴族様の視察の時期を教えてくれないか?」

「まさか、お前も貴族に取り入りたいのか? 俺達ギャングの邪魔をしたら許さねえぞ!」

「いや、違うんだ。僕は──ほら、お金が無いだろ? 王国に帰りたいから馬車に乗せてもらえないかなー、なんて」

 少し苦しい理由だったかな。でもお金が無いのは事実だし、王国に帰らないといけないのも事実だ。嘘は言ってない──よね?

「……俺も同席するけど、良いか?」

「ああ、取り入ったりしないから安心してくれ」

「わかった。次の来訪は3日後だ、寝坊するなよ?」

「うん、わかったよ。あ、家名を教えてくれないかな? 乗車の交渉に相手の名前も知らないのは失礼になるだろうし」

「まぁ、言われてみると、確かに。相手はビショップ貴族で、確か──ヘルナデスとか名乗っていたな」

 ヘルナデスか、王国貴族ならある程度わかるんだけど、帝国となるとわからないな。

 表向き馬車に同乗する交渉、という名目で貴族の裏を探ることになった。
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