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混沌による侵食編

第191話  ゼピュロス解放

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 あれから2ヶ月ほど経った。

 世界は未だ緊張状態が続き、大国も小国もレグゼリア王国の出方を窺っていた。

 本来なら連合を組んで早急にレグゼリア王国を落とすべき案件なのだが、大きな戦争を経験した世代はすでに生きておらず、各国の穏健派が足を引っ張る形で中々足並みが揃わなかった。

 そうしているうちに世界に更なる激震が走った。

 世界の西側、自由都市ハルモニアのある方角で巨大な光の柱が出現した。その光の柱はものの数分で消えたが、問題はそこではなかった。

 光の柱が意味するもの、それすなわち────属性塔の解放を意味していた。

 それをエデンの窓から見ていたロイは、首から下がる銀色の球体を握り締めながらポツリと呟いた。

「……なんでだよ。オーパーツはここにあるのに、なんで塔が解放されるんだよ」

 驚愕するロイの隣で金髪の乙女が頭を垂れた。

「ロイ君……ごめん。お父様がまたバカやらかして……」

「アンジュ、お前が謝ることじゃない。オーパーツがあるから安心、そう思い込んでいた俺の慢心が招いた結果なんだ」

 アンジュの肩を抱いて、落ち着かせる。ロイ自身もアンジュの体温を感じて落ち着きを取り戻していく。

 それと同時に、光の柱は徐々に細くなっていき、やがて完全に消滅した。

 風属性の魔素が解放されたため、エデン全体を突風が襲う。窓はガタガタと振動し、その騒音で眠っていた女性陣が起きた。

「ロイ、何が起きたの!?」

 ソフィアが聞いてくる。

「風の属性塔ゼピュロスが……解放された」

 ロイの言葉に一同は絶句する。

「そんな……だって、オーパーツはあなたの首に────」

「ああ、常に持ち歩いている。俺自身、なんで解放されたかもわからないんだ」

 窓のガタガタと揺れる音だけが共用スペースに響き渡っていた。

 コルディニス王の政策なのか、それともカイロの献策なのかはわからない。どちらにしろ、事態は悪い方向に転ぶと予想された。

 ☆☆☆

 ~レグゼリア王国・ゼピュロス解放2ヶ月前~

「大将軍カイロ。此度の陽動、見事だった」

「王様、そういう礼儀云々は面倒なんだ。言いたいことだけ言ってくれ」

 カイロは王の前でも横柄な態度を取ることで有名だった。その度に大臣から注意を受けるが、直す気配すらない。

「大将軍、言葉に気を付けなさい!」

「うっせえなぁ。使えねえ爺は引っ込んでろ」

「────なっ! 貴様っ!」

 大臣が掴みかかろうとするのをコルディニス王が手で制した。

「良い、こやつの態度など今に始まったことではないだろう。それに我々にはアグネイトがある、カイロよ……努々ゆめゆめ忘れるでないぞ?」

「へいへい、逆らえば俺様の心臓はドカンと爆発するんだろ? わかってるよ。それよりも、何の用かさっさと話してくれよ」

 コルディニスが錫杖を地面に打ち付けると、半透明の世界地図が浮かび上がった。

「お前にはハルモニアでゼピュロス攻略の任についてもらう事になった」

「待てよ、王様。俺は夕暮れまでには帰らないと心臓が爆発するだろ。ハルモニアまで片道だけで夕方になっちまうぞ」

「わかっている、バカにするな。ゼピュロス攻略までの間はアグネイトの爆発期間を2日に延長する。これなら出来るだろ?」

 カイロは舌打ちをする。風の属性塔といえば上級ダンジョンと同じ難易度。数週間かけて攻略するのが定石なのに、1日過ぎたら1度帰らないといけない。

 いかに鎧の力でダメージを受けないとはいっても、食糧が尽きれば普通に死ぬし、中には鎧を貫通する派生属性も存在する。

 連合を組まれたらレグゼリア王国だってただでは済まないのに、こんな時でさえアグネイトの呪縛を外さないとは。コルディニスの疑り深さはカイロの想像を越えていた。

「だけどよぉ、頂上についたら解放できねえだろ。オーパーツはハルトが持っていったままだし」

「心配には及ばん、こやつを連れていけばなんとかなるはずだ」

 王の横に立っていた侍従が前に出る。目深に被っていたフードを自ら剥いで姿を謁見の間に晒す。
 それを見たカイロはコルディニスの業の深さに笑いが込み上げてきた。

「あんたやるなぁ、俺様よりもブッ飛んでるぜ!」

「笑ってくれるな……。これしか方法が無かったのだ」

 対する王は頭を抱えていた。諸外国から持ち帰ったデータを使い、王はそれを完成させた。その犠牲は王の心に深く傷を入れるものであった。

「オーパーツとは、神々の封印を解く為の鍵……ではない。神の施した封印は本来なら神にしか解けぬ。オーパーツは超解析能力を有した太古の遺物。それを再現したまでだ。連れていけば五分五分の確率で塔は解放されるであろう」

「禁忌にドップリ浸かってもまだ五分五分か。神は遠いなぁ……」

 そう言ってカイロは侍従の手を引いて謁見の間を立ち去った。
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