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旅立ち~オードゥス出立まで
一匹狼
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極限まで腹を空かせた『狼』、『一匹狼』は『ある目的』の為、敢えて絶食を行っていた。
『一匹狼』…この街のダンジョンで1、2を争う強さを誇るモンスター。
速さ、敏捷性、攻撃力、知能が非常に高く、パーティの連携が悪いと速攻で瓦解するので挑むには覚悟が必要。
『一匹狼』は最深部の最奥にいる『奴』がいるであろう方向を睨み付ける。
今なら『奴』に勝てる。
今ならこの牙で『奴』の首を噛み千切れる。
その為に今日まで自らを追い込んで来た。
状態は今が最高潮だ。
『一匹狼』は徐に立ち上がる。
ただそれだけの動作で、周囲で死骸の奪い合いを行おうとしていたモンスターらが動きを止める。
静かに放たれた殺気に応じて『奴』も最奥からこちらに向かってやって来る。
歩を進める度『奴』からの殺気が増して来る。
これだ…これだよ『奴』のこの殺気。
自分は【餓狼】を発動してやっと手に入れる事が出来た殺気を『奴』は平常運転で放出してくる。
これだけで『奴』にはまだ遠く及ばないと言う事が実感出来る。
【餓狼】…狼系上位モンスターが持つ固有スキル。飢えれば餓える程、体力以外のステータスが恐ろしい程に上がる。
『一匹狼』は孤高の存在でありたいと常々思っている。
自分の上に別の存在が君臨しているという状況に納得がいかない。
以前汚いやり口ではあったが、寝首を掻きに行くも軽くあしらわれた。
何よりも『一匹狼』を腹立たせたのはトドメを刺す事無く『奴』は再び眠りに着いた事だ。
「お前など寝ててもどうにでもなる」
そう言われている様で途轍もない程の屈辱感を味わった。
その日から『一匹狼』は絶食をし、好んでいた狩りも止め、【餓狼】による効果を最大限引き出す為に努めた。
やがて飢えを迎え、餓えを超える頃には漲る闘気で体毛は揺めき、身体は淡く煌めいていた。
少し開けた場所に出ると既に『奴』、『バーサークベア』は仁王立ちして待ち構えていた。
『バーサークベア』…この街のダンジョンの頂点に位置するモンスター。
体の大きさはバトルベアに比べ一回り程小さいが、その分強靭な筋肉を内包している。
攻撃力、体力、知能共に非常に高く、鉄の様に硬い表皮には生半可な攻撃では傷すら付けられない。
元々好戦的ではあるが一度戦闘が開始されると自分か相手が死ぬまで戦いが続く為、最低でも2パーティでの戦闘を推奨している。
『一匹狼』は一足飛びで『バーサークベア』との間合いを詰め、そのままの勢いを殺さず首を狙うが異様な速さで振るわれた腕で『一匹狼』を吹き飛ばす。
『一匹狼』は空中で体勢を変え、大木に対して平行に着地、凄まじい速さで木から木へと縦横無尽に駆ける。
木から木へ移動するだけで踏み込んだ部分が抉れ、辺りを木片が舞う。
『バーサークベア』はピクリとも動かず『一匹狼』の出方を窺っている様だ。
駆けていた時間は僅か数秒ではあったが、『バーサークベア』の背後に回った時に一転して攻撃に移るが、踏み込みが一際強かった為か瞬時に相対する。
『一匹狼』に向かって恐るべき速度で左腕を振るが、<虚空跳躍>を発動してギリギリ回避、『バーサークベア』の首に噛み付く。
『一匹狼』は体に爪を立て、『ハルバードディア』の角すら瞬時に砕く程の口咬力で噛み付くが、鉄の様な表皮、分厚い脂肪、強靭な筋肉に阻まれ、牙を『バーサークベア』の命に届かすには足りない。
鋼の様な爪を『一匹狼』の脇腹に突き刺し、力だけで引き剥がし、爪を突き刺したまま腕を振るい近くの大木にぶん投げる。
『一匹狼』の体は大木に叩き付けられ、勢いそのままに2本根刮ぎ倒した所で止まる。
地響きを立て強く踏み込んで飛び上がった『バーサークベア』は未だに倒れる『一匹狼』に自重を乗せた右の振り下ろしを繰り出す。
爆裂魔法の着弾と思わせる程の轟音が周囲に響き、常人ならば立っていられない程の揺れが襲う。
着弾の瞬間に体を捩った『一匹狼』だが余波だけで脇腹の一部が抉れ、口と腹から夥しい量の血を流す。
またも敵わないのか、と『一匹狼』が諦めかけた時だった。
カサッ…
2頭が戦う遥か後方で何かが動く音が聞こえた。
『バーサークベア』はそれに気を取られそちらを注視する。
不意を突くのは甚だ不本意ではあるが好機はここしか無いと、音も無く、だが直ぐ様起き上がり、自分の体のバネを速度に変換し『一匹狼』の固有技【酷狼爪】に全て乗せ、『バーサークベア』の首目掛け、放つ。
【酷狼爪】が『バーサークベア』の首に到達し、肉を割る感覚が伝わると同時に理不尽な威力の腕の振り払いが『一匹狼』の体を襲う。
『一匹狼』の背骨は粉砕し、【酷狼爪】を放った脚はぐしゃぐしゃにひしゃげ、原形を留めていない。
完全に体を動かせなくなった『一匹狼』は音がした方を見る。
黒い塊?
小さな『奴』がいる。
何だあれは…
普通に考えれば子熊なのだが『一匹狼』が理解出来なくて当然だ。
ダンジョンの性質上、昆虫等を除いて幼体から成体へと成長する事がまず無いからだ。
通常ダンジョン内でモンスターが死ぬと、時間経過と規定の魔素量に達していれば成体の状態で湧いて出てくるのだ。
では何故幼体の子熊がいるのかと言うと至って簡単な話だ。
この過酷な下層最深部最奥の地で番を作り、子を成したのである。
残念ながら片割れは既にこの世にはいないが、彼は男手1つで我が子を育てている。
終止苦もなく『一匹狼』を圧倒していたかに見えたが、子を前にして戦っていた為、多少見栄を張っていた部分もある。
その証拠に、先程大地を揺るがす程の一撃を打った手は僅かながら血が滴っていた。
子熊を守る親熊と自尊心を満たしたいだけの狼、その差は歴然だった。
『一匹狼』からすればこの地の王座を決める戦いだったのだが、『バーサークベア』からすれば我が子へ与える良質な餌が転がり込んできただけに過ぎなかった。
ただ、『バーサークベア』にそのつもりは無かったが結果として親の威厳を見せる事に成功した様だ。
動く事が出来ない『一匹狼』に『バーサークベア』が近付く。
大きく腕を振り上げ、再び大地を揺るがす程の威力で振り下ろす。
グシャッ! ドスッ「ギッ」
『一匹狼』の頭部を完全に潰し、辺りは静寂に包まれる。
頭部が弾けた元『一匹狼』の亡骸を掴み我が子の方を向くと
我が子に剣が突き立っていた。
『一匹狼』…この街のダンジョンで1、2を争う強さを誇るモンスター。
速さ、敏捷性、攻撃力、知能が非常に高く、パーティの連携が悪いと速攻で瓦解するので挑むには覚悟が必要。
『一匹狼』は最深部の最奥にいる『奴』がいるであろう方向を睨み付ける。
今なら『奴』に勝てる。
今ならこの牙で『奴』の首を噛み千切れる。
その為に今日まで自らを追い込んで来た。
状態は今が最高潮だ。
『一匹狼』は徐に立ち上がる。
ただそれだけの動作で、周囲で死骸の奪い合いを行おうとしていたモンスターらが動きを止める。
静かに放たれた殺気に応じて『奴』も最奥からこちらに向かってやって来る。
歩を進める度『奴』からの殺気が増して来る。
これだ…これだよ『奴』のこの殺気。
自分は【餓狼】を発動してやっと手に入れる事が出来た殺気を『奴』は平常運転で放出してくる。
これだけで『奴』にはまだ遠く及ばないと言う事が実感出来る。
【餓狼】…狼系上位モンスターが持つ固有スキル。飢えれば餓える程、体力以外のステータスが恐ろしい程に上がる。
『一匹狼』は孤高の存在でありたいと常々思っている。
自分の上に別の存在が君臨しているという状況に納得がいかない。
以前汚いやり口ではあったが、寝首を掻きに行くも軽くあしらわれた。
何よりも『一匹狼』を腹立たせたのはトドメを刺す事無く『奴』は再び眠りに着いた事だ。
「お前など寝ててもどうにでもなる」
そう言われている様で途轍もない程の屈辱感を味わった。
その日から『一匹狼』は絶食をし、好んでいた狩りも止め、【餓狼】による効果を最大限引き出す為に努めた。
やがて飢えを迎え、餓えを超える頃には漲る闘気で体毛は揺めき、身体は淡く煌めいていた。
少し開けた場所に出ると既に『奴』、『バーサークベア』は仁王立ちして待ち構えていた。
『バーサークベア』…この街のダンジョンの頂点に位置するモンスター。
体の大きさはバトルベアに比べ一回り程小さいが、その分強靭な筋肉を内包している。
攻撃力、体力、知能共に非常に高く、鉄の様に硬い表皮には生半可な攻撃では傷すら付けられない。
元々好戦的ではあるが一度戦闘が開始されると自分か相手が死ぬまで戦いが続く為、最低でも2パーティでの戦闘を推奨している。
『一匹狼』は一足飛びで『バーサークベア』との間合いを詰め、そのままの勢いを殺さず首を狙うが異様な速さで振るわれた腕で『一匹狼』を吹き飛ばす。
『一匹狼』は空中で体勢を変え、大木に対して平行に着地、凄まじい速さで木から木へと縦横無尽に駆ける。
木から木へ移動するだけで踏み込んだ部分が抉れ、辺りを木片が舞う。
『バーサークベア』はピクリとも動かず『一匹狼』の出方を窺っている様だ。
駆けていた時間は僅か数秒ではあったが、『バーサークベア』の背後に回った時に一転して攻撃に移るが、踏み込みが一際強かった為か瞬時に相対する。
『一匹狼』に向かって恐るべき速度で左腕を振るが、<虚空跳躍>を発動してギリギリ回避、『バーサークベア』の首に噛み付く。
『一匹狼』は体に爪を立て、『ハルバードディア』の角すら瞬時に砕く程の口咬力で噛み付くが、鉄の様な表皮、分厚い脂肪、強靭な筋肉に阻まれ、牙を『バーサークベア』の命に届かすには足りない。
鋼の様な爪を『一匹狼』の脇腹に突き刺し、力だけで引き剥がし、爪を突き刺したまま腕を振るい近くの大木にぶん投げる。
『一匹狼』の体は大木に叩き付けられ、勢いそのままに2本根刮ぎ倒した所で止まる。
地響きを立て強く踏み込んで飛び上がった『バーサークベア』は未だに倒れる『一匹狼』に自重を乗せた右の振り下ろしを繰り出す。
爆裂魔法の着弾と思わせる程の轟音が周囲に響き、常人ならば立っていられない程の揺れが襲う。
着弾の瞬間に体を捩った『一匹狼』だが余波だけで脇腹の一部が抉れ、口と腹から夥しい量の血を流す。
またも敵わないのか、と『一匹狼』が諦めかけた時だった。
カサッ…
2頭が戦う遥か後方で何かが動く音が聞こえた。
『バーサークベア』はそれに気を取られそちらを注視する。
不意を突くのは甚だ不本意ではあるが好機はここしか無いと、音も無く、だが直ぐ様起き上がり、自分の体のバネを速度に変換し『一匹狼』の固有技【酷狼爪】に全て乗せ、『バーサークベア』の首目掛け、放つ。
【酷狼爪】が『バーサークベア』の首に到達し、肉を割る感覚が伝わると同時に理不尽な威力の腕の振り払いが『一匹狼』の体を襲う。
『一匹狼』の背骨は粉砕し、【酷狼爪】を放った脚はぐしゃぐしゃにひしゃげ、原形を留めていない。
完全に体を動かせなくなった『一匹狼』は音がした方を見る。
黒い塊?
小さな『奴』がいる。
何だあれは…
普通に考えれば子熊なのだが『一匹狼』が理解出来なくて当然だ。
ダンジョンの性質上、昆虫等を除いて幼体から成体へと成長する事がまず無いからだ。
通常ダンジョン内でモンスターが死ぬと、時間経過と規定の魔素量に達していれば成体の状態で湧いて出てくるのだ。
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終止苦もなく『一匹狼』を圧倒していたかに見えたが、子を前にして戦っていた為、多少見栄を張っていた部分もある。
その証拠に、先程大地を揺るがす程の一撃を打った手は僅かながら血が滴っていた。
子熊を守る親熊と自尊心を満たしたいだけの狼、その差は歴然だった。
『一匹狼』からすればこの地の王座を決める戦いだったのだが、『バーサークベア』からすれば我が子へ与える良質な餌が転がり込んできただけに過ぎなかった。
ただ、『バーサークベア』にそのつもりは無かったが結果として親の威厳を見せる事に成功した様だ。
動く事が出来ない『一匹狼』に『バーサークベア』が近付く。
大きく腕を振り上げ、再び大地を揺るがす程の威力で振り下ろす。
グシャッ! ドスッ「ギッ」
『一匹狼』の頭部を完全に潰し、辺りは静寂に包まれる。
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