ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
87 / 1,117
旅立ち~オードゥス出立まで

一匹狼

しおりを挟む
極限まで腹を空かせた『狼』、『一匹狼』は『ある目的』の為、敢えて絶食を行っていた。


『一匹狼』…この街のダンジョンで1、2を争う強さを誇るモンスター。
速さ、敏捷性、攻撃力、知能が非常に高く、パーティの連携が悪いと速攻で瓦解するので挑むには覚悟が必要。


『一匹狼』は最深部の最奥にいる『奴』がいるであろう方向を睨み付ける。

今なら『奴』に勝てる。
今ならこの牙で『奴』の首を噛み千切れる。
その為に今日まで自らを追い込んで来た。
状態は今が最高潮だ。

『一匹狼』は徐に立ち上がる。
ただそれだけの動作で、周囲で死骸の奪い合いを行おうとしていたモンスターらが動きを止める。
静かに放たれた殺気に応じて『奴』も最奥からこちらに向かってやって来る。

歩を進める度『奴』からの殺気が増して来る。


これだ…これだよ『奴』のこの殺気。
自分は【餓狼】を発動してやっと手に入れる事が出来た殺気を『奴』は平常運転で放出してくる。
これだけで『奴』にはまだ遠く及ばないと言う事が実感出来る。


【餓狼】…狼系上位モンスターが持つ固有スキル。飢えれば餓える程、体力以外のステータスが恐ろしい程に上がる。


『一匹狼』は孤高の存在でありたいと常々思っている。
自分の上に別の存在が君臨しているという状況に納得がいかない。
以前汚いやり口ではあったが、寝首を掻きに行くも軽くあしらわれた。

何よりも『一匹狼』を腹立たせたのはトドメを刺す事無く『奴』は再び眠りに着いた事だ。


「お前など寝ててもどうにでもなる」


そう言われている様で途轍もない程の屈辱感を味わった。
その日から『一匹狼』は絶食をし、好んでいた狩りも止め、【餓狼】による効果を最大限引き出す為に努めた。
やがて飢えを迎え、餓えを超える頃には漲る闘気で体毛は揺めき、身体は淡く煌めいていた。


少し開けた場所に出ると既に『奴』、『バーサークベア』は仁王立ちして待ち構えていた。


『バーサークベア』…この街のダンジョンの頂点に位置するモンスター。
体の大きさはバトルベアに比べ一回り程小さいが、その分強靭な筋肉を内包している。
攻撃力、体力、知能共に非常に高く、鉄の様に硬い表皮には生半可な攻撃では傷すら付けられない。
元々好戦的ではあるが一度戦闘が開始されると自分か相手が死ぬまで戦いが続く為、最低でも2パーティでの戦闘を推奨している。


『一匹狼』は一足飛びで『バーサークベア』との間合いを詰め、そのままの勢いを殺さず首を狙うが異様な速さで振るわれた腕で『一匹狼』を吹き飛ばす。

『一匹狼』は空中で体勢を変え、大木に対して平行に着地、凄まじい速さで木から木へと縦横無尽に駆ける。
木から木へ移動するだけで踏み込んだ部分が抉れ、辺りを木片が舞う。
『バーサークベア』はピクリとも動かず『一匹狼』の出方を窺っている様だ。

駆けていた時間は僅か数秒ではあったが、『バーサークベア』の背後に回った時に一転して攻撃に移るが、踏み込みが一際強かった為か瞬時に相対する。

『一匹狼』に向かって恐るべき速度で左腕を振るが、<虚空跳躍>を発動してギリギリ回避、『バーサークベア』の首に噛み付く。
『一匹狼』は体に爪を立て、『ハルバードディア』の角すら瞬時に砕く程の口咬力で噛み付くが、鉄の様な表皮、分厚い脂肪、強靭な筋肉に阻まれ、牙を『バーサークベア』の命に届かすには足りない。

鋼の様な爪を『一匹狼』の脇腹に突き刺し、力だけで引き剥がし、爪を突き刺したまま腕を振るい近くの大木にぶん投げる。
『一匹狼』の体は大木に叩き付けられ、勢いそのままに2本根刮ぎ倒した所で止まる。

地響きを立て強く踏み込んで飛び上がった『バーサークベア』は未だに倒れる『一匹狼』に自重を乗せた右の振り下ろしを繰り出す。
爆裂魔法の着弾と思わせる程の轟音が周囲に響き、常人ならば立っていられない程の揺れが襲う。

着弾の瞬間に体を捩った『一匹狼』だが余波だけで脇腹の一部が抉れ、口と腹から夥しい量の血を流す。


またも敵わないのか、と『一匹狼』が諦めかけた時だった。


カサッ…


2頭が戦う遥か後方で何かが動く音が聞こえた。
『バーサークベア』はそれに気を取られそちらを注視する。

不意を突くのは甚だ不本意ではあるが好機はここしか無いと、音も無く、だが直ぐ様起き上がり、自分の体のバネを速度に変換し『一匹狼』の固有技【酷狼爪】に全て乗せ、『バーサークベア』の首目掛け、放つ。

【酷狼爪】が『バーサークベア』の首に到達し、肉を割る感覚が伝わると同時に理不尽な威力の腕の振り払いが『一匹狼』の体を襲う。

『一匹狼』の背骨は粉砕し、【酷狼爪】を放った脚はぐしゃぐしゃにひしゃげ、原形を留めていない。

完全に体を動かせなくなった『一匹狼』は音がした方を見る。


黒い塊?
小さな『奴』がいる。
何だあれは…


普通に考えれば子熊なのだが『一匹狼』が理解出来なくて当然だ。

ダンジョンの性質上、昆虫等を除いて幼体から成体へと成長する事がまず無いからだ。

通常ダンジョン内でモンスターが死ぬと、時間経過と規定の魔素量に達していれば成体の状態で湧いて出てくるのだ。

では何故幼体の子熊がいるのかと言うと至って簡単な話だ。
この過酷な下層最深部最奥の地で番を作り、子を成したのである。

残念ながら片割れは既にこの世にはいないが、彼は男手1つで我が子を育てている。

終止苦もなく『一匹狼』を圧倒していたかに見えたが、子を前にして戦っていた為、多少見栄を張っていた部分もある。
その証拠に、先程大地を揺るがす程の一撃を打った手は僅かながら血が滴っていた。

子熊を守る親熊と自尊心を満たしたいだけの狼、その差は歴然だった。

『一匹狼』からすればこの地の王座を決める戦いだったのだが、『バーサークベア』からすれば我が子へ与える良質な餌が転がり込んできただけに過ぎなかった。
ただ、『バーサークベア』にそのつもりは無かったが結果として親の威厳を見せる事に成功した様だ。

動く事が出来ない『一匹狼』に『バーサークベア』が近付く。
大きく腕を振り上げ、再び大地を揺るがす程の威力で振り下ろす。


グシャッ!                 ドスッ「ギッ」


『一匹狼』の頭部を完全に潰し、辺りは静寂に包まれる。
頭部が弾けた元『一匹狼』の亡骸を掴み我が子の方を向くと


我が子に剣が突き立っていた。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...