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旅立ち~オードゥス出立まで

10分程前

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話は10分程前に遡る。


下層最深部に2人の冒険者が下りてきた。
2人は前日の朝から何も食べておらず、歩き通しの上に【隠密】の状態でひたすら隠れながら下層最深部を目指していた。


「バッツ、ここが最深部だぞ。」

「ああ、ここにいる奴らを街へ連れてきゃ、流石のクソガキでも止められまい。」

「不当な扱いを受けた街への仕返しを、中層のモンスターをわざわざ集めてけしかけたってのに…あのガキが止めやがって…」


2人が言う『不当な扱い』の一部を紹介する。


・ズタボロの状態で仕留めた獲物の買取り拒否
・他人の獲物の横取りに対しての警告
・宿泊施設、食堂等のツケ、滞納に対しての警告(約10万ガル)
・万引きに対しての罰金刑(未決着)
・ギルド内で暴れた事への罰金刑(未決着)


これに対して2人は『不当な扱い』と述べている。
寧ろこれだけやって捕らえられていないのが不思議な位だ。



「あのガキで止められるレベルだ、大した強さじゃなかったんだろう。
ギルドの説明だと下層のモンスターは強いらしいから少しは役立つだろうぜ。」 

2人は【隠密】状態のまま下層を進む。
運が良い事に2人が通る時には『猛毒大蛇』は『鬼苦万蜂』により肉団子にされ巣へと運ばれ、『暴走猪』と『ハルバードディア』の死骸を巡って他のモンスターが争い、2人は見向きもされていない。


これを2人は『気付かれていない』と勘違いしていた。


その考えは誤りである。
この階層に到着した時には既にモンスター達に気付かれているが2人を襲ってもモンスター達にとっては旨味が無いのである。

この階層にやって来る者は一定以上の『オーラ』若しくは『魔力』を有しており、モンスターにとっては脅威を感じる指標でもある。

肩に蝶が止まっていたとしても然したる脅威にはならないが、蜂がいたら危険とみなして払い除けるだろう。
【隠密】のごり押しで実戦経験もほぼ無い2人は然したる脅威とみなされず無視されていた。

例え襲ったとしても肉付きも悪く、食い出がない為何も食べ物が無かったら襲うか、程度の認識でしか無い。


2人は激しい戦闘音が響く開けた場所まで進む。
巻き込まれたくない2人は迂回して最奥付近まで進む。
この時も『一匹狼』と『バーサークベア』2頭には認識されていたが『羽虫』程度にしか思われていなかった。

「なぁ、あの熊なんか良いんじゃねぇか?狼圧倒してるし。」

「ああ、後はどうやって気を引くか…」

その時だった。


カサッ


2人は近くにモンスターが出た、と身構えたが視界の端に子熊を見付ける。
すると『バーサークベア』が動きを止めたので直ぐにあいつの子供だと勘付く。

2頭の戦いも終盤に差し掛かった様なので急いで子熊の方に向かう。
子熊は始めて見る人間に興味津々の様でバッツの足に纏わり付いてくる。

「うわーやっぱこれ位の大きさの動物は可愛いなぁ。」

「あぁ、純粋だから勝手に寄って来るし、力は弱いから仕返しされても大した事無いしな。」

「もしかしてガッツあれやるつもり?」

「あぁ、モンスター怒らすならこれが手っ取り早いしな。」

ガッツは【隠密】を【剣士】に変え徐に腰の剣を取り、子熊の顔を地面に押し付け、首に剣を突き立てる。


グシャッ!                 ドスッ「ギッ」


子熊に剣を突き立てたと同時に奥でも勝敗が着いた様だ。

「うはー、すげぇ揺れと音、あれなら街でも面白い事になりそうだな。」

今もガッツの手元では何とか逃げ出そうともがく子熊に対して柄に体重を乗せ、剣を更に押し込む。
少ししてピクリとも動かなくなり、ガッツが上体を上げるとこちらを見つめる『バーサークベア』の姿があった。

「やべっ、見られたぞ?」

「大丈夫だろ。後はいつも通り適正変えつつ街まで引っ張ろうぜ。」

「りょーかい。」

その発言の後2人は【隠密】になり樹上に上がり、枝伝いに下層5階の入口の方に向かう。


『バーサークベア』は目の前の光景が信じられないのかゆっくりと子熊に近付いて鼻を擦り付けたり、顔を押し付けたりしてみるが反応が一切返ってこない。


「あれ?逆効果だったんじゃね?」

「大丈夫大丈夫、少ししたら理解が追い付いてキレまくるハズだ。
最悪潰れたら別の奴引っ張って行こうぜ。」

「りょーかい。」

等と話していると


グゴォオオオオオオオオオオオアアアアッ!


「お、キレたキレた。」

「んじゃ、ちょいちょい姿見せて上ぎっ!


ゴシャアッ!ベキベキボキバキ!  ズズン!


我が子の死を理解した『バーサークベア』が隠れたつもりの2人に向かって大木をぶん投げた。
入口付近にいたバッツは巻き込まれなかったが木の裏に隠れていたガッツは諸に巻き込まれ、倒木に体が挟まれていた。

「な!?何で!?【隠密】で完璧に隠れられているハズ…」

自分の置かれた状況に頭が混乱したガッツだがそこに『バーサークベア』が近付く。

「ひ…!お、おい!バッツ助けろ!」

「む、無理だ!た、助けを呼んでくるよ!」

そう言い入口まで全力で駆け出すバッツ。

「ふざけんな!逃げんじゃねぇ!助けろっつってんだろ!?」

そんな2人の言い争いに構わず、ガッツの上に乗った倒木に徐々に体重を乗せていく。

「うぐごごがごが…」

全身の骨が砕ける音と体の中で何かが次々と破裂していく感覚を味わうガッツ。

ゴギボキぶぢっゴギばぢゅゴギぐぢゅメキ!

最後は口から中で潰れ、砕けた諸々を吐き出し死に至った。


「うわぁあああああ!ガッツ!?ガッツ!?」


ガッツの凄惨な死に様にバッツは咄嗟に【魔法使い】になり、高位魔法を発動する。


「そ、そせ、『蘇生』!『蘇生』!」


すると原形を留めていない元ガッツの体が光り出し、先程までのガッツの姿に戻る。

だがこの『蘇生』魔法、途轍もない程の魔力を消費する為、魔力が足りないと不完全な状態で復活してしまう。
それ以前にガッツは木の下敷きの状態で死んだ為、復活したとしても木の下敷きである事は変わらない。

片やバッツの方はというと『蘇生』を充分に発動出来る程の魔力量を元から有しておらず、即魔力が枯渇してしまい、体が動かせなくなる程消耗、その場に倒れ込んでしまった。


木の下敷きになっているガッツは絶望していた、一生分の痛みと苦しみ、辛さを味わって死んだ直後に、全く身動きが取れない状態で再び復活したのだ。


「ふざけんじゃねぇぞバッツ!?こんな状態で復活させやがってぇ!
ぃや!?ヤメロ!止めてくれ!や…ぐ、ぎ!ごごががごぶ…!」

再び木に体重を乗せ、押し潰しつつドスドスと背中に爪を突き刺し念入りに殺しに掛かる。


ガッツが死ぬまで恨み節を言われたバッツは一切身動きが出来ない状態で仰向けに倒れていると、ガッツを殺し終えた『バーサークベア』がバッツの元へやって来る。

「や…め…ぅが!…ごっ!がぁああああああ!」

バッツが懇願するも容赦なく爪で切り裂き、へし折り、潰し、引き千切る。
腕が飛び、足が飛び、中身が飛び最後に頭を潰され完全に仕留める。


2人を殺し終えた『バーサークベア』は一言も発さずふらふらと我が子の亡骸へ向かう。


我が子の元に辿り着いた『バーサークベア』は腰を落として亡骸を見つめ続けた。
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