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旅立ち~オードゥス出立まで

バーサークベア

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暫く火が消えた様に我が子の亡骸を見続けていたバーサークベア。

周囲にいたモンスターも、いつもバーサークベアが発している殺気が無い為か『死んだ』と勘違いし、1匹の猛毒大蛇が樹上から子熊の亡骸を狙う。


バチュン!            ドシャッ!


凄まじい速さで食らい付こうとしたが、更に速い凪払いで猛毒大蛇の頭を弾き飛ばし、巨体が地面に落ちる。


そうだ…このままここに置いてても何者かがこの子を食い散らかすだけだ。

ならばいっそ…


バーサークベアは我が子の亡骸を持ち上げ、丸飲みにした。


さっきのあいつら…あの形の生き物は何回か見た事がある。
彼女も…あいつらの同族に殺られた。
彼女から託された子だったのに…

いつもあいつらは上からやって来る。
あいつらさえ、あいつらさえいなければこんな事には…

体の奥底から怒りが込み上がって来る。
目に見える程の闘気が湧き上がり、体毛が逆立つ。

ここに来る奴らは形は同じだが顔はそれぞれ違う。
攻撃方法もそれぞれ違う。
恐らく数は相当数いる、自分だけでは全て倒しきれないだろう。
であれば1体でも多く殺すまで。


バーサークベアは猛然と上への坂に向け駆け出す。
進行方向に大木やモンスターがいようがお構い無しに突っ切る。大木は根刮ぎ倒れ、巻き込まれたモンスターは轢死した。

グォオオオアアアア!

咆哮を上げ、自らに発破を掛ける。
一先ずはあいつらがいるであろう上へと猛進するのみ。





~中層5階~

中層と下層とを隔てる様に下層への坂の入口には隊員らによって土壁が形成されていた。

土壁の前には隊員が3名待機していた。

「聞いたか?あの街に押し付けた主犯格の2人、【万能】らしいぜ?」

「はぁ…またか、なーんでこうも【万能】は犯罪に手を染めんのかな…」

「おいよせよ、【万能】でもまともに職に付いてる奴だっているんだ。」

「それは分かるが流石に多過ぎだろ、この間も近郊の村が襲われたろ?あれも【万能】の仕業らしい。」

「はぁ…戦える者は大体旧フリアダビアに向かってるし、知り合いの隊員は野党狩りの任務も請負い始めたっていうし…どーなっちまうんだろ、この国。」

「アホみたいにモンスター増えたよなー…最近。


「あぁ、狩る奴も少ないから今度俺が臨時で狩りに行く事になった。」

「どこもそんな感じか…今年の新人冒険者達は豊作だから頑張って欲しい所だな…」

「あぁ…お、噂をすれば、あれは確か…ジェイルって奴のパーティだな。
あれは、バトルベアか…いざって時は助太刀に行くぞ?それまでは静観でいこう。」

「「了解。」」


隊員らの視線の先にはバトルベアと会敵したジェイルパーティの面々がいた。

「ここに来てバトルベアか…焦らず今まで通り確実に行こう!」

「「「ええ!」」」


ジェイルパーティはここまでの道中ウルフ8頭、熊2頭、盾鹿2頭、暴れ猪3頭を討伐している。
荷物持ちで着いて来ているライルからしても落ち着いて対処すればバトルベアであれば倒せると睨んでいる。

「気を付けるんにゃよ!」

「「「「はい!」」」」


「防御、強化魔法掛けるわよ!
<守り手><身体強化(フォースメント)><盾強化付与(グラン・シールフォースメント)><剣強化付与(グラン・ソーフォースメント)>」

ポーラが幾つかの<支援魔法>を唱えると、パーティメンバーの体や武器、盾が光り出す。

ジェイルが直後にカイトシールドを構え、駆け出す。

「<挑発>!掛かって来やがれ熊野郎!」


<挑発>…通常は【盾】のスキルだが盾を装備すれば一応取得可能、発動直後から全ての行動、言動が相手にとって癪に障りやすくなる。


ゴァアアアア!


バトルベアは向かって来たジェイルに向かって腕を振り下ろす。

「<受け流し>!」

振り下ろされた腕を受け止めるのでは無くカイトシールドの曲線を利用し、受け流す。

ガガガガガガ!

「くっ…!よし!今だ、行けロゼ!」

「おーけー!まっかせなさーい!」

ジェイルのカイトシールドの陰から
ロゼが飛び出し、バトルベアの両足の間を潜り抜け様に足首を斬り裂く、<剣強化付与>が施されている為、通常よりも切れ味や威力が上がっている。

グガッ!?          グォオオアッ!

足首を切ったロゼに対して敵意を向けようとするバトルベアだが

スバァッ!        ギッ!ガァアアアアア!

「どこを向いている?お前の相手は俺だぞ?」

ジェイルがバトルベアの腹を斬り裂く、だが皮の下を斬っただけで内臓には及んでいない。
バトルベアが顔を少し下げたので持っているカイトシールドで顔を殴る。
ダメージを入れるつもりは無く、あくまでも挑発だ。

バトルベアはジェイルを睨み付け、吠え掛かる。
顔の位置が固定された時を狙い、バトルベアの目に矢が突き立つ、しかも麻痺毒の様だ。

ゴォオアアアアアア!

「やった!良いよ!ロゼちゃん!」

クロラの合図と共に既に樹上に上がっていたロゼがバトルベアの首元に降り立ち、がら空きになった喉元に剣を突き立てる。
深く刺さったら剣をしっかり握った状態で剣に体重を乗せ、一気に斬り裂いていく。

グ!?ゴォオアアア!?

体が麻痺し、上手く手足を動かせないバトルベアに向かって攻撃は続く。

「アイシクルレイン!」

バトルベアの上から氷柱が降り注ぎ、体の各所が凍り付く。

「今よ!」

先程ロゼが斬り裂いた傷にクロラが矢を2、3矢突き立てる。
あまりの激痛で両腕を振り回し誰も近付けさせない様にするバトルベア。
無理矢理氷の拘束を解き、ジェイルに突進を仕掛ける。

「<杭打(パイルドライバー)>!」

ジェイルは盾を全面に構え、足を踏ん張り受け止める体勢に入る。

ドガァッ!  ガガガガガガガッ!

受けはしたが、減速するだけで完全には止まらない。
地面を捲り上げながらジェイルを押し込む。

「ぐぐぐ…!流石に止まらないか…」

「ちょっと待ってて!<矢水垂(やみだれ)>!」

クロラがそう唱え、矢を空中に向け射ると光の矢が降り注ぎ円形の陣が出来上がる。
その陣に入ったバトルベアの動きが更に鈍る。

「これ位なら狙えるわ!ジェイル、クロラ、ありがとう。アイシクルジャベリン!」

ポーラがそう唱えると胸の辺りに魔方陣が現れ、人間大の氷の槍が出現、バトルベアの首の傷に浅くではあるが突き立つ。


ドズッ!           グォアッ!?


「くっ、浅いか!?」

「大丈夫、少しでも体内に入ればこっちのものよ!
からの~…アイシクルパイル!」

そう唱えるとバトルベアの体内にあるアイシクルジャベリンの先端から更に氷の杭が4本出現。体内から氷の杭が突き破り、バトルベアの首から大量の血が噴き出す。

ジェイルパーティの面々がバトルベアから離れる。
ジェイル達は油断せず剣や弓を構え待機し、少しして動かなくなったのを確認し、剣を下ろす。
念の為クロラが矢を射るが反応は無い。

「ぶはっ!…はーっ…やった、倒した…」
「やったー!やったぜー!」
「皆お疲れ様。」
「はーっ…緊張したー。」

「クロラ、援護と拘束ありがとう。ロゼ、ポーラ、大ダメージを与えてくれて助かった。」

「ジェイルだって【剣士】兼盾役が板に付いてきたじゃない。」
「かっこよかったよー!ジェイルー!」

ロゼがジェイルに抱き付き頬を押し当てる。

「ばっ!こんな所で止めぃ!」
「あらあら。」
「うふふ。」

「みんにゃ、お疲れ様にゃ。」

「お見事!しっかり連携が出来てたな!」

背後からやって来たライルと少し離れた所にいた隊員らが労いの言葉を掛けてきた。
それに礼を返した一同はバトルベアの血抜きを兼ねて一旦休憩する事にした。
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