ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

.

文字の大きさ
429 / 1,117
獣人国編~救出作戦~

ダックス憤怒

しおりを挟む
『ダックス憤怒』…胴長短足で、遠目から見れば愛嬌のある体躯をしているが、脚の筋肉が妙に発達し爪はかなり鋭く、大木ですら軽く両断出来る程である。
常日頃怒り状態で、獲物となる対象を見付ければ全力で殺しに掛かる。
一応魔法が使えるが、攻撃魔法以外に支援魔法を多用する。



『ヴワォオオオオンッ!』

ドゴォッ!バギバギバギッ!

と、咆哮を上げた直後、全身が赤く染まった『ダックス憤怒』が突進を仕掛けてきた。
巨体と胴長短足な見た目に反して俊敏で、木々を薙ぎ倒しながらあっという間に距離を詰められたのであった。

バチンッ!

(くっ、この森の中じゃ回避は難しいか!
迎撃するぞ!)

(『了解!』)

腰から荒鬼神を抜いたノアは盾の様に構え、迎撃体勢を取る。

ガヂンッ!ガギッ!

ヴボォオオオオオッ!ゴガガガガガガガッ!

「うおっ!?何つー力だっ!踏ん張りが利かない!」


盾にした荒鬼神に牙を立て、ガッチリと固定した状態で『ダックス憤怒』はノアを押し込んで行った。

何とか体勢を保ちつつ『ダックス憤怒』の突進を耐えるノアであったが

ヒュオッ、『ヴワ"ォンッ!』

「ちょ『ゴバアッ!』

バギバギバギッ!ドガガッ!

突如短く呼吸した『ダックス憤怒』が咆哮と共に口から不可視の衝撃波を放つと、堪らずノアは巻き込まれて木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされた。

防具のお陰でダメージはあまり無いが、軽く頭を打った為、少し視界がぐらつく。

「あ"あ"っ!!」ブォンッ!

木々が薙ぎ倒された為、ノアと『ダックス憤怒』の間には遮蔽物が一切無くなり、周囲の見晴らしが多少良くなった。

ノアは、発奮させる意味合いを込めて気合いと共に怒声を上げて『ダックス憤怒』へ向けて荒鬼神をぶん投げる。

ブォンブォンブォンッ!『ガチンッ!』シュバッ!

「おらぁっ!」ゴガンッ!

ギャゥンッ!?

飛来した荒鬼神を『ダックス憤怒』は易々と口でキャッチすると、それを見越していたノアが転移し、首元に<渾身>を乗せた拳を打ち込む。

犬らしい悲鳴を上げたものの、さしてダメージは無い様だ。

ヒュオッ…

ドシュッ!

『ダックス憤怒』が再び短く息を吸い込んだのを確認したノアは、<縮地>を発動して顎下に急速接近を果たすと


「『リベラ』っ!」

『ヴワ"『ドゥンッ!』ォンッ!?』


『ダックス憤怒』が咆哮と共に不可視の衝撃波を放つのとほぼ同時に、ノアの防具に吸収された衝撃を放出する技『リベラ』を『ダックス憤怒』の顎に当てて克ち上げる事に成功。

真上に放たれた衝撃波は、樹上の枝葉を吹き飛ばし、頭上に直径5メル程の大穴が空く。

そこから陽光が差し、辺りが明るく照らされる。

だがそれがマズかった。

今まで真っ暗だった『滅びの森』内でずっと<夜目>を発動していた為、突然の陽光に視界が真っ白に染まり、一瞬『ダックス憤怒』の姿を見失ってしまった。

ゾワッ…

「っ!?」ババッ!


ノアは、左から嫌な予感を感じ、荒鬼神を左側面に配置して盾とした。

直後

ドゴォッ!!「うおぉっ!?」

ドガガガガガガガガガガッ!

荒鬼神越しに強い衝撃を受けたノアは、再び吹き飛ばされる。

地面に激しく叩き付けられながらも<夜目>を解除したノアは、周囲の状況を確認してみると『滅びの森』から弾き出され、草原に1本の土色の線を引いていた。

少し離れた地点では、先程の冒険者パーティが『エレファント・バッファロー』や『ランス・ラビット』等と戦闘を繰り広げていた。

ドササッ…

ドドドドドドドドドッ!

ノアは体中に乗った土を落としつつ立ち上がると、視線の先では『ダックス憤怒』がノア目掛け駆け込んで来ている所であった。

ヒュォオオオッ…

『ダックス憤怒』は、今度は長く息を吸い込みながら駆けて来ている。
どうやら最大出力の咆哮を放つ様だ。


そしてお互いの距離が残り3メル程まで縮まった瞬間


『ヴワ"ォオ"オ"オ"オ"ンッ!』ドゴァッ!

『オ"ォオ"ア"ア"ア"ッ!!!』ドグァッ!

ズンッ!ボゴゴゴゴゴッ!


『ダックス憤怒』は咆哮と共に衝撃波を、ノアは大声量の<猿叫>を発動させると、ぶつかり合ったお互いの衝撃波が拮抗し、周囲の地面が激しく破砕。

周囲に礫の雨が降り注ぐ中、僅かに『ダックス憤怒』の巨体が宙に浮く。


「ふっ!」ダンッ!

ズザザザザザザッ!

その隙を見逃さず、即座に<縮地>を発動して『ダックス憤怒』の巨体の真下まで移動すると、<渾身>と短距離での<縮地>を発動して加速分の衝撃を乗せた鉄山靠を腹部に撃ち込んだ。

ズムンッ!ギャゥッ!?

短い悲鳴を上げ、再び宙に浮き上がった『ダックス憤怒』を見つつ、ノアは追撃の準備に入った。


「うぉぉおおおおおおおおっ!』ズォオッ!

ズァアッ!

【鎧袖一贖】を発動し、赤黒いオーラを立ち昇らせたノアは追加の腕を生成。

ヴォッ!?

『『『『『『ギュゥウウウッ!』』』』』』


生成した分の腕含め6つの拳を固く握りしめ、地面に落下してくる『ダックス憤怒』を待ち受ける。

ヴォッ…『クォオオオオーン!』

今までと違う鳴き声を上げ、今度は全身が黄色に染まった。
また何か違う支援魔法を掛けたのだろうが、そんな事知った事ではない。


『これ食らって少しは大人しくなりやがれぇっ!』

ドゴゴゴゴゴンッ!ギャボォ…ン…

【鎧袖一贖】の強化状態+<渾身>で攻撃力を上乗せした拳を、胴体6ヵ所に叩き込む。
どうやら先程の『ダックス憤怒』が行った支援魔法は防御力を上げる物だった様で、まるで岩を殴った様な感覚であった。

ズシャァアッ!

ゲッ…グ、ルルル…キャゥン、キャィンッ!

ダダダダダダダッ…

地面に落下した『ダックス憤怒』は、口から少量の血を吐いた後、軽くノアに唸った直後、鳴き声を上げて『滅びの森』へと逃げ込んで行った。


『あ、ちょ…『フシュ…』まぁ良いか…元々討伐対象じゃなかったし…」

ストン。


【鎧袖一贖】を解除したノアは、名残惜しそうにしつつも、その場に座り込んで少し休む事にした。

(…ってか今のが『ダックス憤怒』だよね…
中々の強さだったけど、あれでも"危険度(中)"なのか…
『滅びの森』探索!は一旦ここまでにして、素直に討伐対象のモンスターを狩る事だけに専念しよう…)

(『その方が良いな。
割とマトモな攻撃食らわせたにも関わらず、あの犬っコロ、まだ大丈夫そうだったからな。』)

ザッ!

「さって、善は急げだ。
チャッチャと対象モンスターを見付けて夜になる前には獣人国に戻るとしよう。」

(『だな。』)


下ろしていた腰を上げ、土を払ったノアは『滅びの森』周辺を散策する事にした。

そして結局『エレファント・バッファロー』は6頭、『ランス・ラビット』は7羽、『発火ネズミ』は4匹。

そして、自重が1トンを優に越える丸々と太った『トン豚』は 2頭仕留める事が出来たノアは、空が薄らと暗くなってきた頃合いでその日の狩りを終え、獣人国への帰路に着く事にしたのであった。
しおりを挟む
感想 1,253

あなたにおすすめの小説

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...