ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

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取り敢えず南へ編

あぃぁおーぉあぃぁす

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さて、ここで何故ノア達が試験街テスタに寄っているのか説明しよう。

と言っても答えは単純に『暑さ』であった。

吸血鬼であるヴァンディットは、眷属である血で構成させたブラッツを帽子や手袋等に形状変化させて日光から体を守っているが、温度を防ぐ事は難しい。

なので定期的に休息を取ったり、ノアの影の中に戻ったり、比較的木陰のある場所を通らなければならなかった。

が、これは後に解決する事になる。


ラインハードは、機械のボディ故に熱が籠り易く、冷却の為にこちらも定期的な休息が必要なのだという。

試しに頬を触ってみると、高熱を出した子供の額位の熱さがあり、気が気で無かったのは言うまでもない。

が、こちらも後に解決する事になる。


サキュバスのミダレは、普段着が薄手でヒラヒラし、体のラインが出る何とも目を引く物しか無かったので、ローブを身に付けて貰っていたのだが、流石に炎天下では厳しいので、人通りが少ない時はローブの前をはだけさせて丁度良いとの事。
一応体調が変になったらヴァンディットに相談する様にとは言ってある。


『商人見習い(メルカドール)』のミリアはその辺しっかりとしていて、夏用の軽装で過ごし、水分補給等も行えている。

クランの一員となったから張り切り過ぎないか心配していたが、その辺は分別付く良い子であった。


クランメンバーの中で全くノーダメージだったのはつかえるキノコのクリストフで、何ならクリストフの周りに居ると少し涼しい。

これは傘の裏から蒸散が行われ、気化熱によって周りの空気が冷やされるからだと思われる。


ちなみにノアは<暑さ耐性>というスキルを持ってはいるが、今は1人旅ではないので敢えて解除しているという。





カラン。

「うーん、メロン味の夏季氷美味しかった…」

(さて、今後はどういった道順で南を目指そう…
街道沿いに行けば、何れスイカが名産の村『ウォルタメ』に着くだろうが、炎天下の中を歩かせるのも何だかなぁ…
さっきギルドの地図をチラッと見た時に、少し南に行けば山があったから幾分暑さや日射しを避けれる…)


夏季氷を平らげたノアは少し目を瞑り今後の道程を考える。

自分1人であれば、休まず走って今日中に目的の村まで到着する事だって可能だが、皆にそれを強いる事は出来ない。

【ソロ】として1人旅を目論んでいた少年は、パーティとしての大変さを知る事になっていた。




「あの…こちらをお下げしても宜しいでしょうか…?」

「ん?あ、はい、お願いします。」


給仕の者だろうか、お盆を持ったエプロン姿の女性がやって来てノアの器を下げに来た。

今更だがここは試験街テスタ。
接客の実践も行われたりもするのでそういった訓練の一環でやって来たのだろう。


トテテテ…


などと考えている内に器を下げていった女性が今度は小さな子供を連れてやって来た。


「…あの、付かぬ事をお聞きしますが、フリアダビア奪還に尽力して下さった【鬼神】さんでは無いですか?」

「あ、はい、そうです。」

「わ~!漸く会えました!
ほらユーちゃん、このお兄ちゃんにお礼言いましょうね。」

「あぃぁおーぉあぃぁす(ありがとーございます)。」

「ふふ、良くできました。」


この試験街テスタは、そもそも数多のモンスターに攻め入られ避難してきたフリアダビアの住人の避難先兼試験官として用意されたモノで、ここで暮らす住人達にとってノアは正に英雄と同義である。

この親子もその内の一組だった様で、お礼を言いに来たらしい。

ちなみにこのやり取りの間、他の者達はノアと親子との会話に介入しない様に努めていた。
何も言わずとも一歩引いてくれる辺り、出来た者達である。


「明日か明後日にはここに酒の匂いをプンプンさせたドワーフ族が来ると思うから、その人達にもお礼を言ってあげてね?」

「あーい。」

「あ、あの、それって″バド、ルド、ロイ″と言う3人組のドワーフの事ですか?」

「あ、ご存知なんですね。」

「えぇ、最終戦で活躍為されたメンバーについては公開されています。
私達がここに来た時、丁度【鬼神】さんは獣人国に帰られたと聞いて肩を落としたものです。
【暗殺】の2人とエルグランドさんにはもうお会いしたのですが…そうですか、3人組のドワーフの方々も来られるのですね。」


どうやらこちらの親子、最近テスタに来たらしく、少し前に獣人国に行った時に当時フリアダビア前哨基地最高責任者であったエルグランドに会い、テスタに到着した直後に【暗殺】のバラス、アルキラーに会えたらしい。

なので、本日ノアに出会い、1~2日遅れでやって来るドワーフ3人組に出会えれば、殆どコンプリートとなるのだが


「エルフ族の族長さんと、ご一緒の妖精さん2人は流石に難しいですよね…
この街の皆さん、お礼を言いたいらしいのですが、外界と隔絶された『エルフの森』にいるらしいですし、感謝の手紙等を認めてもどう届けたら良いものか…」

「あー…」


フリアダビアで大功を挙げたメンバーの中で、エルフ族の族長ユグと妖精のクリストロとサンドラの3人が最も会い辛い事だろう。

何せその3人は特殊なゲートを通らないと行く事が出来ない『エルフの森』に居るのである。

そこへと誘われたクロラ達の様な者でも居ない限り流通経路の行き届いていない『エルフの森』へ手紙を届けるのは至難であった。


「【鬼神】さんは交友関係が広いと聞いてますのでもしかしたらと…」

「うーん…そこまで広くは…」

(『最近国と国の仲介やってた奴が何を言うか。』)


その後、確約は出来ないが『エルフの森』に打診する手立てを考えてみるとしたノア。
事の難しさから、親子は″可能であれば″程度に留めてくれれば良いです、と言ってくれた。





「あ、そう言えば名も名乗らずにすいません。
私はエミ、この子はユーと言います。
ほらユー、挨拶なさい。」

「ゆー。」

「ふふ、ご丁寧にありがとう。」


自分の名を言いながら小さな手を差し出して来た子供に、ノアは指を絡めて握手とした。


「…今はこの子だけが心の支えです。
この子がすくすく育ってくれたらそれだけで…
…欲を言えば、旦那に育ったこの子を見せてあげ…ごめんなさい…」

「いえ…」


顔を伏せたエミという女性は、ユーという子供を抱え、その場を去っていった。

″可能であれば″なんて言っていたが、出来る限り彼女の要望に応えてあげたい。

そう思うノアであった。  
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