秘密メイクシンドローム

岩久 津樹

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第一の秘密

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 目が覚めると、時計は七時二十五分を指していた。設定したアラームの五分前に目が覚めてしまい、少し損をしたような気分に陥りながらベッドから立ち上がる。半目で部屋着を脱ぐと、ベッドの横の壁にハンガーで掛けてあるワイシャツに手を伸ばし袖を通す。真っ黒な学生ズボンを履き始めたその時、大きくバランスを崩して床に尻餅を着いてしまった。
「何やってるの!」
 一階にいる母親の声を無視しながら、ようやく学生ズボンも履き終えて、学ランと携帯電話を手に部屋を出る。ゆっくりと階段を降りてリビングの扉を開くと、母親は忙しない様子で僕を見た。
「おはよう。さっきの音はなに?」
「ちょっと転んだだけ」
 ナチュラルブラウンのオーク材が使われた四人掛けのダイニングテーブルに向かうと、定位置である椅子に座り、ニュースの流れるテレビを眺める。暫くすると、母親は僕の目の前に目玉焼きを乗せたトーストを置き、また忙しなくキッチンへ戻った。
「今日はアルバイト?」
「うん」
 キッチンで洗い物をしながら声をかける母親に、無機質な返事を返しながらトーストを一口齧る。ニュースは相変わらず暗い内容ばかりで、やれ殺人だのやれ虐待だの、朝から心が暗くなる。心なしか今日のトーストも不味く感じる。
 僕は朝ごはんは毎日トーストなんだ。
 こんな秘密はどうだろうか。頭の中でまた、昨夜見た「アッパレ!」の秘密について考える。すぐにこんな秘密を共有されても仲良くなれるはずもないと頭を振ると、いつの間にか置かれた牛乳を一口飲み込む。
 僕は毎朝牛乳を飲んでいるんだ。
 これもダメだ。秘密とは意外にも難しい。それに、僕という存在が如何につまらないものかを実感させられる。秘密の一つも見つけられない男を、あの子が好きになってくれるはずもない。僕は空っぽだ。優れた容姿も運動能力も頭脳もない。人に誇れる武器を持っていないのだ。そうだ、あの子にこの卑屈な自己評価を共有するのはどうだろうか。テレビでも悩みを打ち明けることを例に挙げていたのだから、効果的ではないだろうか。いや、こんな悩みを打ち明けられたところで、あの子も困るだけだろう。
 結局昨夜と同様に答えは出ないまま、家を出る時間を迎えてしまった。
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