秘密メイクシンドローム

岩久 津樹

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第二の秘密

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 一学期の中間テスト一日目。監督教師が答案用紙を配り終え、暫し沈黙が流れている。S高等学校では、テストの時間になると席順が出席番号順に変わる。僕は黒板を正面に見たときの一番右の一番後ろの席に座り、白石さんは右から二列目の一番後ろの席に座る。つまり、僕の左の席が白石さんの席となるわけだ。
 席の上にはシャープペンシルと替えの芯、それに消しゴム以外を置くことが禁じられている。筆箱を置くと、その陰でカンニングをする者が現れるからである。
 女子生徒は膝掛けの持参を許されているが、その膝掛けの下にカンニングペーパーを隠す生徒も居るらしく、校内でも問題となっていた。テスト前に膝掛けの下を確認しようにも、男性教師が確認をするとセクハラとなってしまうため、わざわざ女性教師が各教室に確認に回るのだ。
「大丈夫です鈴木先生」
「ありがとうございます高橋先生。それでは始めてください」
 見回りの女性教師が確認を終えたことを監督教師に告げた。と、同時にチャイムが鳴り、一斉に生徒たちはシャープペンシルを手に持った。沈黙の中、シャープペンシルと紙の音だけが教室に響く。みんな必死になって問題文を睨んでは答えを書き込んでいるが、その中で僕は名前だけを書いて手が止まっている。顔を上げて教卓の横で座る先生を一瞥すると、丁度立ち上がり、問題を解く生徒の見回りをしだした。僕は急いで目を伏せて問題を解こうと頭を働かせるが、全くもって集中できない。一問目など、本来勉強をしていなくても解けるような難易度のはずなのだが、今日の僕にとっては相対性理論を理解しろと言われているようなものだ。
 先生が僕の席の横を通り過ぎ、教卓の横に置かれた椅子に座ると、僕は安堵の息を静かに吐く。これで暫くは座って時間が流れるのを待ってくれるだろう。そう考えて僕は、ついに白石さんとの秘密を作るための作戦に乗り出した。
 まず用意したのがケースに入った新品の消しゴムである。昨夜のうちに新品の消しゴムのケースを外し、ボディーに適当なテスト範囲の答えとなりそうな文章を書いて、またケースに戻した。そう、古典的で単純だが露見する可能性は低いカンニング方法の一つだ。
 しかし、今回の目的はバレずにカンニングをすることではない。むしろバレるためにカンニングをするのだ。もちろん先生に対してではなく、白石さんにバレるためだ。
 方法は単純で、先生の目を盗み、左の席に座る白石さんの目に入る位置にケースを外した消しゴムを転がすだけである。その消しゴムを拾った白石さんは僕がカンニングをしていることを知り、その後僕から白石さんに「カンニングのことは内緒にしてほしい」と頼めば、二人だけの秘密の出来上がりだ。白石さんの性格からして、その場で先生に告げ口することもないだろう。転がり過ぎないようにわざわざ四角い新品の消しゴムを買って、狙いを定めやすくしたのだ、絶対に失敗は許されない。
 再び顔を上げて先生を一瞥する。先生は席に座ったまま、なにやらプリントを眺めている。今が絶好のチャンスだ。周りの目を気にしながら、ゆっくりと消しゴムのケースを外し左手で持つ。そして、手が滑ったような小芝居を交えながら消しゴムを白石さんの席の方へ投げた。幸い狙い通りの位置に転がすことのできた消しゴムに、白石さんはすぐに気が付き、体を右に折って消しゴムを拾ってくれた。そして、消しゴムに書かれたカンニング文が目に入ると、驚いたような顔で僕を見て、その後小さく笑った。
「これ黒田くんの?」
「う、うん、ごめんありがとう」
 苦笑いを浮かべながら消しゴムを受け取る。その時に軽く白石さんの手に触れた。一瞬ではあるが、それだけで一週間は生きていけるような嬉しい出来事だった。そんな浮かれ気分から一瞬で現実に引き戻す先生の声が前方から飛んできた。
「そこ、なにしてるんですか?」
「すみません、消しゴム落としちゃって拾ってました」
 手の中で消しゴムを隠し、なにも書かれていない白い部分だけを少し見せながら謝る。これでもし、消しゴムを見せろと言われたら一巻の終わりだ。
「……今度から落としたら手を挙げてください」
「はい、分かりました」
 幸い深く言及されることはなく、ホッと胸を撫で下ろした。ふと横を見ると、白石さんが手のひらで口を押さえて笑っている。その様子を見て、僕も釣られて笑った。
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