秘密メイクシンドローム

岩久 津樹

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第三の秘密

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「ねえ父さん。煙草一本もらえない?」
 夕食を終えソファーで寝転がりながらテレビを見ている父親の目を盗み、煙草を盗ろうと考えたが、発覚を恐れて結局正直にお願いすることにした。僕の突然のお願いに父親は目を丸くしながら上体を起こした。
「急にどうしたんだよ」
「別に、なんとなく興味を持っただけ」
「ふーん、まあ俺も高校生の頃から吸ってたからな。……ほら一本だけだぞ」
 上下灰色のスウェット姿の父親は、ポケットから煙草とライターを取り出して渡してくれた。やはり白石さんが持っていた煙草は父親と同じアメリカンスピリットだった。
「ちょっと、なに普通に渡してるの」
 慣れない手つきで煙草を一本箱から出すと、キッチンで洗い物をしていた母親が会話を聞いていたのか、エプロンで濡れた手を拭きながら父親を注意した。
「一本くらいなら大丈夫だよ。それにどうせ一回吸って噎せて終わりだから」
「まったく、とんでもない父親だね」
 母親は諦めた様子で、またキッチンへと戻って行った。僕は見様見真似で煙草を人差し指と中指の間に挟み、ライターを点火して先端に炎を近づける。が、一向に着火する様子がない。
「おいおい吸いながら点けるんだよ。そんなことも知らないのか?」
 そんな様子を笑いながら見ている父親は、見かねて僕から煙草を奪い、口に咥えると、慣れた手つきで火を点けた。
「ほら、吸ってみ」
 火の付いた煙草を渡され、恐る恐る口に咥えて深く吸う。煙は一気に肺へ流れ込み、味わったことのない苦味が身体中を駆け巡る。と、同時に激しく咳き込み嘔吐いてしまった。
「ははは、やっぱり駄目だったか」
「……こんなものなにが美味しいんだよ」
「俺も別に美味しいとは思わないけど、なんだか口寂しくなって吸っちまうんだよな……」
 僕の手から再度煙草を取り上げて深く吸いながら、「あー」と低く唸るような声を上げるニコチン中毒の父親に、哀れみの目を向ける。
 まさか白石さんもニコチン中毒になるまで吸ってはいないだろうか。そもそもどんなきっかけで煙草に興味を持ったのだろうか。気になってメールで聞いてみたところ、『映画のヒロインが吸っているのを見てかっこいいと思ったからだよ』と、返事が返ってきた。僕も煙草が吸えるようになったら、白石さんにかっこいいと思ってもらえるのだろうか。
 丁度日付が変わる時間に自室に戻り、ベッドの上に仰向けで倒れこむ。ベッドと机と本棚しか無いこの部屋では寝ることしかする事がない。常夜灯に照らされてオレンジ色に見える天井を眺めながら、今日の学校での出来事を思い出してみる。緑川を見つめていたあの瞳には、一体どんな思いが隠れているのだろうか。もし本当に白石さんが緑川に好意を寄せているのだとしたら、僕は白石さんを許さない。僕と白石さんの間には、秘密という糸で結ばれているのだ。一心同体だと言っても過言ではない。それなのに、その糸を切ってまで緑川を選ぶのだとしたら、それは僕に対する裏切りではなかろうか。もし本当にそんなことが起きてしまったら、僕は白石さんの秘密を全て暴露して破滅に追い込むに違いない。しかし……。
「ジャーキング……煙草……」
 小さな声で二つの秘密を呟く。この程度の秘密を暴露されたからと言って、白石さんが破滅に追い込まれるはずはないだろう。ジャーキングについては少し恥ずかしい思いをするだけだし、煙草についても先生に注意を受けるくらいだ。
 露見したら破滅するような大きな秘密を作らなくては、白石さんを繋ぎ止めることはできない。そうだ、僕にはもう秘密に頼るしか、白石さんと交流を持つ術がないのだ。
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