秘密メイクシンドローム

岩久 津樹

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第四の秘密

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 交差点に雨が打ち付けられている。ビニール傘を差しながら、交差点の信号が青に変わるのを待っていると、不意に黒田の事が頭を過ぎった。喫茶アカサカで共にアルバイトをする黒田は、同じクラスの白井さんという女性に恋をしており、会話のきっかけを「秘密の共有」で持つ事が出来て以来、わざとカンニングを白石さんにバラしてまで秘密を作ろうとしている。もう秘密は作らないと言っていたが、あの様子では信憑性はない。恐らく恋愛経験どころか、ろくに友人関係も構築できていないのだろう。だから唯一の成功例である「秘密の共有」に縋っているのだ。
「ちょっと青山ぁ、聞いてる?」
「あーごめん黄木、ちょっと考え事してた」
「なになに、珍しいね。あんたいつでも能天気なのに」
「うるさいなー、私だってたまには頭を使うよ。……で、なんだっけ?」
 黄木は同じ大学に通う友人で、ゼミが一緒ということもあり、時間も合いやすいためよく遊んでいる。今日も午後に同じ講義を一コマ受けてから、都会に繰り出してショッピングをした帰りだ。
 信号が青に変わり、雑踏の中を二人で傘を差して歩き始める。黄木は呆れた様子で、恐らく先ほども話したのであろう内容をもう一度話してくれた。
「だから私の妹がさ、最近彼氏を家に連れてきてさ、その子がもう超イケメンだったわけ。なんでもS高の王子様とか言われるらしいのよね」
 なんて身のない話だろうか。と、内心思ってしまったが、今の話で一箇所だけ気になるワードがあった。S高……確か黒田と同じ学校だ。
「黄木の妹……ミキちゃんだっけ? ミキちゃんもS高なの?」
「そうだよ……って、そこはどうでもいいのよ! 問題は私を差し置いてイケメン彼氏を作っていることでしょ!」
「知らねえよ」
 声を荒げる黄木に呆れた表情を返しながら、今度黄木という生徒を知っているか黒田に聞いてみようと考えていると、突然携帯電話が鳴り始めた。見ると、赤坂さんからの着信だった。
「もしもーし、珍しいね赤坂さんが電話なんて」
『珍しいね。じゃないよ! 今日シフトでしょ?』
「うわ! 忘れてた!」
『まったく……偶然黒田くんが来ていたから、代わりに入ってもらったけど、今すぐ来れる?』
「えーと……」
 携帯電話を耳に当てながら、隣を見ると黄木がクスクスと笑っている。どうやら私の状況を飲み込めたらしい。
「……二十時くらいになりそう……」
『二十時か……それじゃあ今日は黒田くんに最後まで入ってもらうね。今後気を付けてよ。あと、黒田くんにお礼も言っておいてね』
「はーい、すみませんでした」
 電話を切り、深くため息を吐く。赤坂さんと黒田には悪いことをしたと反省し、すぐに踵を返して駆け出した。
「ちょっと青山、どこ行くの?」
「ごめん黄木、バイト先に持っていく菓子折り買ってくるわ」
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