前世女子高生の私は今、悪役令嬢を経て月の女神と呼ばれてますけどムカついたヤツはぶん殴る肉体派ですわ!

DAKUNちょめ

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第一章•帝国編

10話◆この感情の名は…。

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「どうして、ロージア様に会いに行ったら駄目なんですか!リリーさん!」

「きっと、寂しがってるわ!ロージア様!」



オフィーリアをリリーだと思い、詰め寄るミーナとビスケにオフィーリア…いや、レオンハルトは苛立ちを隠せない。



━━こいつら、俺をパシり扱いしたクソガキどもの姉貴だよな?
弟達のツラより、得体の知れないガキのツラ見る方が優先か?
恋は盲目っつーが、リリーが俺と入れ替わっている事すら気付いてねぇ。
……リリーとディアーナが居なきゃ生きていられたかすら、怪しいのにな━━



「あなた達の命を守る為です!
あんな得体の知れない小僧より、あなた達の身を案じてくれている弟の心配でもしたらどうなのよ!
どっちにしろクソガキだけど!」



半ばキレ気味に言ってしまったオフィーリアは、二人を睨みつける。

いつも優しかったリリーの豹変ぶりに、二人は固まってしまった。



「ディアーナに何かあったら、あんな男にうつつを抜かしている、お前達を犠牲にしてでも助けに行くからな!俺は!
分かったら大人しくしとけ!」



「……はい、リリーお姉さま……」

「勇ましい…リリーお姉さま…」



オフィーリアは唇の端を引き攣らせた。

何か…あれ?別の扉…開かせた…?











ロージアは教会の地下に来ていた。


目の前には、憔悴しきって動けなくなった皇帝レオンハルトが居る。


「兄上…僕の為に役に立って下さい。
僕が皇帝になり、ディアーナを妻にする為には、兄上が必要なんです…。」


やつれて、まともに声を出せなくなったレオンハルト皇帝が呟く。


「今…気付いた……お前……と、リリー……母上に…似ている……」


「どうでもいいよ!そんな事は!
僕にはディアーナが必要なんだ!兄上なんか…!
兄上なんかに渡さない!兄上なんか死んじゃえよ!」



ロージアが大きな声を上げる。

その表情は、レオンハルト皇帝がこの教会の地下に捕らえられた時の、ディアーナすらも嘲り笑っていたロージアとは違い過ぎていた。


ディアーナが必要だと言ったロージアは、彼女をディアナンネの材料として必要だと言ったのではないと、その必死さから分かる。


「……まさか…お前……ディアーナ様を……愛した…?」


レオンハルト皇帝の言葉に、過剰な位に反応したロージアは、真っ赤になった顔で涙を流していた。


「愛?愛したって何だよ!…キライだ…!
キライだよ、兄上も、この世界も!すべて壊してやりたい…!
でも、ディアーナだけは…壊れないまま、僕のじゃなきゃ嫌なんだ…!」



ロージアは、なりそこないのディアナンネ達に縋り付かれたままのレオンハルト皇帝に背を向ける。


「兄上には、最後の役割を与えてあげる…。」







地下を出て行くロージアに付き従う教皇と、その教皇の付き人をしている司祭。


地下を出た所で、司祭が口を開いた。


「私も一度だけ見たのですが、あのディアーナとかいう娘…まさしくディアナンネ様になるために生まれたような肉体をしておりますな!
これでディアナンネ様が完成すれば、この国は我々の物、それを足掛かりにロージア様が世界の王となる日も…いや、神になる日も近い!」



「……は?…お前…何て言ったの…?」


「え…?っっ!!」


先頭を歩いていたロージアが立ち止まり振り返る。

全身から殺気を放出し、黒い霧で出来た触手のような物を歩いていた廊下いっぱいに張り巡らせる。


それは、イバラで出来た檻のように硬質化して多くの鋭い棘を生やし、司祭の全身を纏うと、刺さる寸前で止まった。


「お、お許し下さい…!め、目に刺さ…っ」



棘は司祭の眼球の間際までも伸びており、まばたきも出来なくなった司祭が、何がロージアの逆鱗に触れたかさえ分からぬまま許しを請う。



「ロージア様!こやつは、知らなかったのです、あなた様がディアーナ嬢に特別な感情を抱いていることを!」



教皇が司祭を庇うような口添えをするが、ロージアの耳には届いていない。


「ディアナンネになる為の肉体ってナニ?
ディアーナは要らなくて、ディアーナの外側だけあればいいって言うの?
僕のディアーナが消えてしまえばいいって言うんだね、お前。」



笑顔のロージアが目を大きく開いた。いつもは澄んだ青の瞳が血のように紅く染まり、ギラリと光る。



「僕が生まれてから今日までで、一番許せないと思ったよ!何でかなぁ!」



司祭の全身を覆ったイバラの棘は、司祭の全身を激しく刺し貫き、そのまま質量を増やした多くの棘は全て太い杭に変わり、司祭の全身は弾け飛ぶように無くなった。



教皇は、初めて見るロージアの魔王としての強い魔力と負の感情に畏れ、感動し、震えた。



「おおお…何と…強く美しい…
ロージア様、私は…ディアーナ様がロージア様の奥方になる事に賛成致します…。
ディアーナ様は、ディアーナ様のままでディアナンネ様の生まれ変わりだという事にすれば良いのです!」



「ディアナンネの生まれ変わり…ディアナンネの生まれ変わりとして、ディアーナが僕の妻に…?」



「ええ!反対する者はおりますまい!
ディアナンネ様の御子の美しいロージア様の奥方に、ディアナンネ様の生まれ変わりの美しい奥方!多くの国民が祝福するでしょう!」



「いいね、それ…教皇、お前最高だよ…でも、その前に…始末しなきゃならない事案があるんだよね。」



廊下中に張り巡らせた黒い楔を霧に変え、すべて無くしてしまうとロージアと教皇は何事も無かったかのように地下を後にした。



赤黒い血と肉の欠片だけが、廊下に置き去りにされたままで。









「ディアーナ様は、いらっしゃいますか!」



リリー、ミーナ、ビスケに宛がわれた部屋の扉が勢い良く開けられ、ヒューバートが部屋に飛び込んで来た。



「……いきなり、ノックも無しに淑女の部屋に飛び込んで来るなんて……
ディアーナ的に言うならば、ラリアットもんだぞ!ジジイ!」



ベッドの縁に座ったオフィーリアはミーナとビスケに挟まれてベッタリ懐かれており、苛ついた顔で言う。



「り、リリーさん…すまん…何か雰囲気変わりましたな、あなた…。

ディアーナ様に似て口が悪…いや、今はそれどころではなくて…」



ヒューバートが首筋に流れる汗を手で拭いながら荒くなった呼吸を整える。



「それで、ディアーナ様は…どこに…」

「部屋に居なかったのか?…なら…親父…お父様の所かしら?」



ヒューバートは、お父様と言い直す前にひそかに聞こえた「親父」の台詞に、淑女が聞いて呆れるわ!と思いつつ、崩れるように床に膝をつく。



「レオンハルト皇帝が…見つかりました…最悪の…場所で…。」


オフィーリアは「あぁ、なるほど」と納得した顔をする。


「スケープゴート…罪を着せる生け贄か…まんまと、やられた訳だ…」






行方不明になっていたレオンハルト皇帝は、あるハズの無い王城の地下の大きなホールで見付かった。



起き上がれない程憔悴しきったレオンハルト皇帝の回りには、継ぎ接ぎされた少女達の遺体が何体も折り重なるように転がっていた。



「ディアナンネ様の、お導きでこの場を訪れてみれば、何と恐ろしい事を!聖女ディアナンネ様を冒涜する行為ですぞ!」



行方不明になったレオンハルト皇帝を、聖女ディアナンネの導きによって探し出したらしい、教皇が声を上げた。



「兄上…!なんて…なんてむごい事をしたのですか!こんな事…ディアナンネ様はお喜びにならない!」



泣き崩れる美貌の皇太子と、それを支える教皇。

その出来上がった絵面が容易に想像出来る。



「茶番劇だな…くだらねぇ真似しやがって。」



「この王城に…あんな地下等無かった…先代皇帝の頃から長く、この城に仕えている自分でさえ、そんな場所があるなんて聞いた事はない…なぜ…。」



ヒューバートは床に膝をついたまま項垂れ、頭を左右に振る。

オフィーリアは腰掛けていたベッドから立ち上がるとヒューバートの前に身を屈めた。



「あの要塞みたいなバカでかい教会って、建てたんじゃなく、いきなり現れたんだろう?
つまりだ、空間や建物をいきなり造ったり出来る奴がいるんだろ…そいつが、この王城の下に、いきなりバカでかい地下室を造ったんだろうよ。あるいは、どこかから転移させたかだよな…。」



「皇帝は!このままでは、レオンハルト皇帝は…!処刑されてしまいます!
どうか、どうかリリーさん!ディアーナ様に伝えて下さい!月の女神だという、あの方に!」



涙を流しながらオフィーリアに縋るヒューバートに、ミーナとビスケは苦笑している。



「あの側近の人、ディアーナ様の事をほんとに月の女神だと思ってるんだ?」

「旅をして身体を鍛えてる、ただの強い女の子だってば~ロージア様が言ってたもん」



ミーナとビスケの嘲笑を聞きながら、オフィーリアはヒューバートに尋ねる。



「ジジイ、お前はディアーナが月の女神だと信じてるんだな?」



オフィーリアはヒューバートの涙でびちゃびちゃになった汚い顔を覗き込む。

翡翠の瞳は嘘を許さない。真っ直ぐ射抜くようにヒューバートの目を見る。



「レオンハルト皇帝がそう信じておりました!
私は、陛下のお考えを疑いません!
ディアーナ様は月の女神です!」



視線を逸らす事無く真っ直ぐ見つめ返し、ハッキリと言い切ったヒューバートにオフィーリアは微笑む。



「ジジイ、ディアーナを姫って呼んだんだってな?
アイツ、喜んでいたぞ。ディアーナのお気に入りが、アイツを呼ぶ時の呼び方だからな。姫は。」



オフィーリアは窓の外、高い位置にある月に目をやる。



ディアーナが今、そのお気に入りの所に行ってるのだと分かり、小さな溜息をつく。

「お祭り大好きなディアーナと、新しいオモチャに夢中な親父か…まぁ、人の事は言えないんだが………ジジイ、とりあえず月の女神に任せとけ!つか、もう覇王?…何だか面白くなりそうだな!」



「陛下が処刑されるかも知れんのに、面白くなどあるものか!!!」



怒鳴り散らすヒューバートを無視して、オフィーリアは楽しげに笑う。



━━━いやぁ…なんてゆーか、神だから血の繋がりとか関係無いけど家族だよなぁ…似てるわ、俺達三人は━━━









深夜、ジャンセンの居る村の教会に転移して来たディアーナは、ジャンセンに向かってバチーンとウインクした。



「………何ですか、気持ち悪い。目に羽虫でも入りましたか?」



「可愛い娘のオネダリなんだけど!」「可愛い?どこが」



冷たい視線のジャンセンに被り気味に即答され、ショックを受けるディアーナ。



「おとんは冷たい!もう、話し方が冷たい!姿が師匠でも中身は冷凍マグロ並だよ!師匠!私の心の師匠~!カムバック!」



「うっさい!黙れ!誰が冷凍マグロか!
姫さんは俺に何をおねだりしに来たんだよ!」



リクエストに応え、口調を「影」をしていた時のものに変えて答えるジャンセンは、自身は認めたくないが子煩悩な父親である。



「うふふ…やっぱり師匠は…いい…ちょ…ヨダレ出そう…私、師匠にね……あの時のように、抱いて欲しいの……。ステキだったもの…。」



側で話を聞いていたリリーの顔が、真っ赤になる。



「お、親子よね?ディアーナさんには私そっくりな夫がいて…
ああ、でも創造神様は、こんな若くてステキな方だし…高位に在られる神の世界は、私ごときに測られるような人の世の常識など越えた愛の形が……」



ぶつぶつ独り言を言い出したリリーをよそに、ディアーナの意図を察したジャンセンは「あぁ、アレ」と呟く。



「いいのかねぇ…派手にやっても…ああ、姫さん派手好きだもんな。」



「師匠…わかってるぅ…」



クスクスと楽しげに笑うディアーナにジャンセンが手をのばす。



「姫さん、これ…渡しとく。今回、特別な?」



ジャンセンはディアーナの手に、ガラスで出来た小さいビーズのような粒をザラっと渡す。



「なぁに?これ」



「死んだ娘達の魂を、瘴気から解放して次の生に向かえるようにする種みたいなもん。
魔物に弄ばれた魂は瘴気が濃すぎると、その場から動けなくなって転生出来なくなるからな。」



地縛霊みたいなもんだろうか?



「俺は、死んだ後も含めて個々の魂が持つ運命には極力関わらないようにしている。だから、今回だけホント特別。」



「師匠って…ううん、…お父様って………娘に甘いわよね」



ディアーナは弾けるような喜びの笑顔を向け、ウインクをすると王城の自室に転移して戻った。



ディアーナの部屋で待ち構えるように待っていたオフィーリアに転移してくるなり、いきなり抱き締められキスを迫られ、その顔をグイグイと押し返す。



「だからオフィーリアの顔とキスなんか出来ないって何度言わせんだ!」



「何で俺に黙って一人で親父んトコ行くんだよ!」



「いちいち報告なんかするか!うざいな!レオン!小一時間位、静かに待ってろ!」



抱き合ったままギャーギャー言い争う二人だったが、ディアーナの腰を強く抱き寄せディアーナの耳元に吐息を吹き掛けたオフィーリアが小さく呟く。



「……つい、さっき、レオンハルト皇帝の処刑が決まったぞ……」



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