転移した世界がクソだったんで魔王を作る事にした。

DAKUNちょめ

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第一章

8―北欧の凶狼フェンリル。

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「ニイチャンにも弱かった時代があったんだ。
魔物に襲われてワァワァ言っていた時代が。」

「当たり前だろ。」

「生まれた時から今のニイチャンのままじゃなかったんだ。」

「当たり前だろ…つか、それ人ですらないじゃないか。」


生まれた時から今の姿で今と同じく強いって、俺を何だと思ってるんだ。


「俺が元々居た世界には魔物なんて居ないからな。
人は武器や魔法を使う必要もないし、そもそもが使えない。
住む場所があり、毎日決まった時間に飯を食って、ちゃんと両親がいて…衣食住を心配した事すらない。
毎日学んで遊んで食って寝て。
死なない為に戦うなんて、したこともない。
俺が居た場所では、それが普通だった。」

「……命の心配もしなくていいの?
そんな場所あるんだぁ…。」

「だからこそ、今の俺になるまでが大変だったがな。
何度死に掛けたか分からないし。」



俺を含むクラスメートが異世界に飛ばされた時、それぞれが何らかのスキルやパラメーターの上昇といった小さなギフトを受け取っていた様だ。

俺の親友だった厨二病闇の皇子の大輔は、他人や敵モンスターのステータスを一瞬だけ覗けるスキルを受け取っていた。
スキルのレベルが上がれば弱点を知る事も出来たかも知れない有用性の高いものだが、当時は気付かなかった。

「こんなショボいのじゃなくて!バーんって魔法が使えるとかさ!
そんな力が欲しかったんだって!」

大輔がそう言っていた。





「何度も死にかけたの?ニイチャンが?何だか信じられない。
何度も死にかけて生きてるのも…信じらんないよ。」

「俺は、運がいいんだよ。」


俺に与えられたギフトは運と、上昇率の高さだった。
当時はレベルと攻撃力、防御力の数字にばかり注目しており、運の数値なんてロクに見てなかったから気付かなかったが。


「それで…下に行く階段を見付けたニイチャン達は、下に行ったの?」

「そりゃ、行くしかないからな。」

「行って…どうなったの?」

「3階と変わらなかった。
現れるモンスターが少し強いヤツになっていて、景色も同じまんま。
先に進んでるのか、戻ってるのかさえ分からない。」

「それだけ?」

「それだけだ。」

「ニイチャンが強くなった話が聞きたいのに、なんにも変わらないじゃん!つまんない!」

「そのつまんない2階のフロアに、俺とダイは恐らく一年以上居た。」





景色は変わらず学校の廊下が延々と続く。
窓の外の空模様も一切変化しない。
扉の開く教室の中に時計はあるが止まっている。
時間の経過が分からず、皆と別れて何日経過したかも分からない。

ただ俺達のレベルが30を越えており、2階の敵には怯む事が無くなった。

「帝斗のレベル32?俺、33~!」

「納得いかねぇ!!俺のが敵を倒してんのに!!
同じパーティーだからって何でダイのがレベル上がるの早いんだよ!
しかも、ダイ弱いまんまじゃねーか!」

「ハハハ!弱いだなんて失敬だな。
俺は後衛型の魔法使いタイプだから武器を手に戦えるタイプじゃないんだよ。」

「だったら、さっさと魔法を覚えてくれよ!!
闇の皇子!!!」

そんな漫才みたいなやり取りを何度もした。






「ウザいね!!そのニイチャンの友達って!!」

「お前も似た様なモンだがな。名前も同じだし。」

「俺はもっと、マトモだよ!
ってゆーか、いつニイチャン強くなったの?
もう、その変な友達と一緒に歩き回った話しは聞き飽きたよ。」

「だったら、話はもう終わりだ。
俺の中にある深い場所を、そう簡単には晒せないからな。」


俺はベッドに寝転び、シーツに潜ってダイに背を向けた。


「えっええっ!もっと話し聞かせてよ!!」


俺はダイの言葉を無視して寝息を立てるフリをした。
実際、この先は俺にとって楽しい話しではない。
話すならば、忘れたい事も思い出す事になる。

寝息を立てるフリをし続けた俺は、そのまま本当に眠りについてしまった。








夜が明け、俺とダイは二人だけで宿屋の一階にある食堂に行き朝食を食べた。
モサモサした硬めのパンと豆のスープ。

たいして美味いモンではないが、調理されており温かいだけで、何だか有り難みを感じる。


「謎の女が住み着いた洞窟とやら、今日行ってみるが…追い出すだけでもいいと言ったよな。
捕らえるのは期待はしないでくれよ。」


食事を運んで来た宿屋の主に念を押し、後から文句を言わせないようにする。
宿屋の主も首を振った。


「あんたらが手が出ないようなら、誰が来たって変わりゃしない。
捕らえなくても居なくなるだけで助かるんだ。文句なんてつけようが無い。
昨日居た、お嬢ちゃん達も行ってくれるんだろ?」


背後で数人の宿泊客や朝食を食べに来た町の滞在者らしき奴らが聞き耳を立てている。

俺の後をつけて洞窟に入り、お零れに預かろうという魂胆だろう。
あるいは、手柄を横取りする気なのか。

それに…あれらの中には恐らく俺を見張っているバーロン大陸王の配下の者も居る。


「……町の中では静かにしていたが。
町から出れば、降りかかる火の粉は遠慮なく払うぞ。
命の保証はしない。それでもいいんだな?」

「??ああ、好きにすればいい。」


宿屋の主人に向けて言ったが、実際には聞き耳を立てている奴らに対しての牽制だ。


「に、ニイチャン……。周りに…。」

「ん?ああ、美味しいトコ獲りしようって奴等が居るな。
そのエルフの女とやらと俺が戦って互いに弱れば、しめしめなんて…アホな事を考えてるんだろうな。」

「ニイチャンが倒れたら、スコルとハティも連れてかれちゃうよ!どうすんの!」


ん?アイツらが連れ去られる?
…別に、連れて行かれても一向に構わないが。

二人の主人になろうとするなら、二人の餌になる事も覚悟しなくてはならない。


「……連れて行かれたら多分…二人が満腹になって帰って来るな。
さて、どうしようか。」

「…ははっ…そ、そうだったね…。」


ダイは二人の本性が巨大な狼である事を思い出した。

俺は席を立ちドアに向かう。
背後で、同じ様に椅子を引いて立ち上がる音が聞こえた。

少し位は、バレない様に行動しようとか思わないのだろうか。
いや、これは俺がナメられているんだろう。
スコルとハティは強いが、その主人の俺が強いとは限らないと。


「ニイチャンは武器を持ってないし、魔法を使えそうにも見えないし…。強いのか弱いのか分かんないんだろうね。
自分は弱くて、強い奴隷や用心棒に身を守らせる商人や旅人も居るからね。」

「常に侍らせとかない時点でそれなりだって気付くだろ。
今ここには二人とも居ないんだぞ。
俺が弱かったら詰んでるじゃないか。」

「だからぁ、その強さの程度が分かりにくいんだよね。
少し強いのか、まぁまぁ強いのか、かなり強いのか。」


俺とダイは小声で話しながら宿屋を出た。
天気も良く、町というだけあって、それなりに人が多い。
だが昨日の騒ぎが知れ渡っているのか、俺達が歩くと人が避けて道が開ける。


「騒ぎを起こした二人は居ないのに…。警戒されまくってんな。」

「そりゃ、するでしょ。あんな強い二人の主人なんだもん。
南大陸出身って事にしてあるから、格好もおかしいし、変わり者だと思われてるよ。
南の大陸の人には出来れば関わりたくないだろうし。」


南の大陸の人間って、そんな認識なのか。
話を聞きたいのに一般人は近寄って来ないわ、ハイエナみたいな奴らはストーカーみたいに後を追けてくるわ。

うっぜぇ。



俺とダイは町を出て一時間ほど歩き、謎の女が居着いたという洞窟に着いた。
洞窟というよりは坑道の様になっている。
採掘した鉱石を運ぶ為にかレールがあり、トロッコがある。
思った以上に横幅も天井も高く、これならば巨大な獣も中に入っていけるだろう。

「もっと狭いかと思っていたがな。意外に広い。」

「は、入るの!?スコルとハティか来るの待たないの!?」

俺は到着するなり、洞窟の中に入って行った。
ダイは洞窟に入るのをためらったが洞窟の周りには後をつけて来た奴らの気配がそこかしこにあり、俺と行動を共にする事を選んだ。


「く、暗い!こんな所歩けないって!
たいまつ持って来なきゃ何も見えないよ!」

「騒がしいヤツだな。そんな事いちいち言わなくても分かる。
じゃ、これ持ってろ。で、頭の部分を回せ。」

「え?ナニこれ…硬くて長くて…頭を回……す?
ギャー!!!」


ダイに渡したのは、映画の中とかでアメリカの警察官が職務質問なんかで使っている懐中電灯。マグライトだ。
輝度が高く、この世界では魔法以外でこのような光を生み出す事は出来ないだろう。
ダイはまともに光を目に当てたらしく、あまりの眩しさに地面に倒れてもんどりうっていた。


「アホか。柄の部分を持って前を照らすんだよ。
かなり遠くまで光が届くからな。こちらの居場所も知らせてしまうが。」

広い坑道には、居着いた女以外にも普通に獣や魔物が住み着いている。
強い光に晒されてパニックになったコウモリの大群が、コチラに向かっていっせいに飛んで来た。


「ギャー!ワー!ヒェー!!」

「うるさいぞ。光から逃げて飛んでるだけだろ。
黙ってやり過ごせ。」


俺達の背後でも、バタバタと慌てふためく人の気配がする。
5人ほど…
その更に後ろにも1人…コイツはコウモリに慌てず静観している。


「ダイ、走るぞ。」

「走る!?こんな暗い所を!?無理だっっああああ!」


俺はダイの後ろ襟を掴んで、洞窟の奥に向かって走り出した。
前方に、巨大なオケラの様なモンスターが何体か現れた。
その間を突っ切って、奥へと走り抜ける。

いきなり走り出した俺の後を追おうと動いた気配が背後からするが、巨大なオケラに阻まれて戦闘になっている様だ。

「だぁぁ!あが!あが!アバババ!」

「舌を噛むぞ。黙ってろ。」

ダイの身体を宙に浮かせた状態で暗い洞窟内を走り、魔物が現れれば攻撃行動に移る前に通り過ぎた。

ハイエナストーカー共を完全にまいて気配を感じなくなった所でダイを地面に落とした。


「グエッ!!首が締まって死ぬかと思っ……
ギャー!!死ぬー!!」

「いちいち騒がないと気が済まないのか。お前は。
…まぁ、コイツは黙って通り抜けさせてくれなさそうだな。」


ダイの持つマグライトに照らされたソレは、洞窟の通路を完全に塞ぐ様に立ちはだかる、背に虎の様な模様を持つ巨大な狼だった。
ダイは腰が抜けたのか、地面に尻をついたまま巨獣を見上げて恐れおののいている。


「こっ殺されるっ…!くわ、くわ、食われるぅ!」

「やかましい。黙ってろ。」


俺は右手の人差し指を立て、目の前の魔物に指先を向ける。
その手に俺のお気に入りの銃のひとつ、S&W   M29が現れる。

この世界には無いこの物体を、魔物ごときが初見で強力な武器だと認識する事はほぼ無い。
が目の前の魔物は銃を見た瞬間、ビクッと一瞬怯えを見せた。


「…知ってるのか?銃を。
そのシマ模様…そうか、お前はダイの村に居た獣人の少年か…。」


野獣と化して村を蹂躙し尽くした後に俺の銃で命を絶たれた奴隷の少年。
あの時、間違い無く死んだ筈の彼が違う姿を持ち目の前に現れた。
洞窟を調べに行かせ、そのまま姿を消したスコルとハティ。

なるほどな………。


「おい、イタズラが過ぎないか?フェンリル。
面白半分に騒ぎを起こして、俺を呼んだのはお前なんだろ?」


俺は銃を消し、怯える魔物の前に行くと巨大な狼の顎の下、胸元にボフッと抱きつき、なだめる様に身体を撫で始めた。


「に、ニイチャン…?こ、これ…本当にアイツなの?」

「ああ、間違い無いな。
あの野獣自体は俺が撃って死んでしまったから…身体は違う。
生まれ変わりみたいなモンか?」


俺は犬が好きだ…もふもふ…だから狼も好きだ。

思わず、狼の巨体をまさぐりながら、抱きついたり顔を毛に埋もれさせたりしてしまう。
魔物も緊張がほぐれ、まんざらでも無いのか巨大な尻尾をブンブン振り始めた。


スコルとハティにも以前はよく抱きついてじゃれ合ったりしたが、男の娘になったのを見てしまったら、何だかやりにくくなった。


「ふふふ…久しぶりだな。テイト。
新しい弟を可愛がり過ぎるのはスコルとハティが妬くから、およし。」


巨大な狼の後ろから現れた青銀色の長い髪の美しい女は、エナメル質の黒い前開きファスナーのキャットスーツを着て現れた。


「……フジコちゃんかよ。なんつー格好してんだ。
いい歳こいたオヤジのクセに。」


メイド姿のスコルとハティもフェンリルの背後からひょっこりと顔を出す。


「性別も年齢も、姿形すら我らを縛る物では無い。
この姿は、我が王の為のものだが…ふふふ、照れておるのか?
うぶなものよ…。」

「照れるか。」


地面に尻をついたままダイが茫然と俺とフェンリルのやり取りを見ている。
頭がついていってない様だ。


「格好はともかく、俺が斃した獣人の少年を眷属に入れてくれたのか。…助かる。」

「ふふ…手を掛けた者に憐憫の情を持つなど、我が王らしからぬ事よ。
まぁ…幼子であるがゆえ…ではあるだろうがな。」


フェンリルは綿毛を手の平で掬う様に手を出した。
俺がモフっていた巨大な狼が、吸い込まれる様にフェンリルの手に消える。


「あの少年を眷属にした報告の為に、わざわざここを根城にして俺を待っていたのか?」

「まさか。
あの少年を眷属にしたのは『ついで』に過ぎぬ。
我は、テイト…お前を気に入っている。
お前を我が王と呼び付き従うは、お前が望みを叶える道程を見届けたいが為だ。」

「そんな事は分かっている…。
人間の短い一生に付き合ったってお前らには痛くも痒くも無いもんな。
俺がもがき苦しむのを面白半分に見るために付き合ってるんだってな。」


「苦しむ姿を見るのは本意ではないが…。苦しまねば手に入らぬ物もある。
我は、お前が望みを叶える上での苦しみも含め、喜びや悲しみ、それら全てを見たいのだ。
…テイトよ。この世界では、お前の望みが叶うかも知れんぞ。」


「……!!!」


俺は言葉を詰まらせた。
この世界で、とうとう俺の望みが叶う…。

俺の望みって……


どれだろう?
前の世界に戻りたい…ワケでもない。
勇者になりたいワケでもない。
バーロンはムカつくから、いずれぶっ殺すが…殺せたとして、望みが叶うってほどの御大層な事じゃない。
ウザい蚊を潰した位だ。

俺の望み………

最近は目先の欲ばかりで、本当に俺が望むモノが何なのか分からなくなっている。

1番最近、強く思った望みは『米食いたい』だ。

それが叶う…?嬉しくないワケじゃないが……
フェンリルの言ってるの、絶対に違うよな。


「我が王は、魂に刻み込まれた強い望みを忘れているようだの。
いや、もう、必然になり過ぎて望みの枠を外れているのか?
ふふふ…面白い事だ。」


「それが何かは教えてくれないのか?」


フェンリルはフッと鼻で笑い、当たり前だと言わんばかりにそっぽを向いた。


「さて、我が王よ。
我は、初めて訪れたこの世界を堪能しようと思っておる。
我と同じく出歩き始めた者も居る。
戯れが過ぎるならば、王が叱りつけに行かねばならぬかもな。」

「マジか……。」

「我が娘達は、我が王と共に居たいらしい。
連れてってやってくれ。」


フェンリルが俺に、隣に控えるスコルとハティを目で指し示した。
フェンリルに言われるまでもなく、そして俺が承諾するもしないも関係なく、既に2人は俺と行動を共にしている…と言うか好きにさせている。


「……息子達な。娘じゃない。」


「ちょっ!!ちょっと!!何か、分かんない内に話が進んでるんだけど!どーゆー事!?
エルフ!?エルフじゃないよね!?このお姉さんは!!」


口をあんぐり開けたまま呆けていたダイが、巨大な魔物が居なくなって、やっと立ち上がり声を出せる様になった。


「ダイ、このエロい格好のオジサンは、そこの可愛い格好をした二人のニイチャン達の親父だ。
当然、本性は獣人ではなく魔性と神性を備えた巨大な狼だからな。」


説明が難しいわ。

ダイも意味が分からないらしくて頭を抱えている。
ただ、あの哀れな獣人の少年の魂を、このエロい格好のオッサンが愛でているのだけは理解した様だ。


「……ありがとう……胸の大きい美女に見えるキレイなオジサン。
俺も…アイツには悪いと思ってたんだ…。」


「……ほう、人間以外の命を塵芥の様に扱うこの世界には珍しい思考の持ち主だな。お主は。
価値観の違う世では、生きにくかったであろう。」


俺達の背後からバタバタと人の足音が聞こえて来た。
オケラの所でまいてきたハイエナストーカー共が追いついたらしい。
最奥部の此処に来るまでに、それなりに魔物に襲われただろうが辿り着いたという事は、一応は腕に覚えがある者なのだろう。


「面倒な奴らが来たな。
どうする?アイツらフェンリルを奴隷にしたいらしいぞ。
俺としては、この洞窟からお前らが居なくなれば良いと言われているだけだから、お前がこのまま消えても問題はない。」


俺はクイと親指を立て、奴らに見つかる前に何処かへ消えろと背後を指した。


「我を奴隷にか!それは面白いの!」


駄目だ、「奴らに見つかる前に居なくなる」はフェンリルの選択肢にはないらしい。
逆に、遊び心に火を点けてしまった。


「キレイなオジちゃん!面白くないよ!ひどい目に遭うんだよ!」

「そうか、ひどい目に遭うのか。
ならば、ひどい目に遭わせて貰わねばな……。」


フェンリルの金色の目が細くなり、細く赤い唇が月の様に細い弧を描いた。
ウットリした表情で楽しげに嗤うフェンリルに、ダイが「えぇぇ?」とドン引きしている。


「奴らと遊んでから去るとしよう。
ああそうだ、我がこの世界に来て手にした金子はハティに渡してある。好きに使うが良い。
我は、今から奴等の奴隷となるゆえ…。」

「……楽しそうな所悪いが、俺はどうしたらいいんだよ。
手ブラで町に帰れってか?」

「いっそ、死んだ事にしたら良かろう?
我の後ろに外に通ずる道がある。
町に戻らず旅を続けるが良かろう。
我が王は、この世界の成り立ちを知る必要がある。」


はぁあぁ!?メンドクセェ事言ってんなぁ!!
どうやって、この世界が出来たとか知らん!
どんな世界かだって別にどーでもいー!
知った所で、何も出来んし!!


「まずは我が王よ、勇者達とまみえるが良い。」


「勇者ッッ!?!!!」


暴風が吹き、俺とダイの身体が強い竜巻に飲み込まれた。
そのまま洞窟の最奥部の更に奥にある、外からの空気を入れる為の横穴から外にポーンと外に放り出された。

高い崖の様な場所に突然ポンと投げ出された俺達は、遥か高い位置から岩肌に向けて落下してゆく。


「わぁー!!わぁー!!ぎゃわー!!死ぬ!死ぬる!」


ダイが泣き喚きながら、羽ばたこうとして手をバタバタさせている。
俺も内心焦っているが、自分よりパニック状態の人間を見ると冷静になれてしまうようだ。


地面に叩きつけられる前に、俺は狼のハティの背に乗せられた。
ダイはメイド姿のスコルが受け止めて抱き上げた。

地面に足を着いてしばらく、スコルの腕に抱かれたまま失神状態になったダイが目を覚ますのを待った。


「テイト、お母様が奴隷になった。見に行く?」


ダイを抱き上げたままスコルが尋ねて来た。
それ、あれだよな……
何かされちゃうから見ててね!って言ってんだよな。
エンターテイメント扱いかよ。


「ま、俺は死んだ事になってるみたいだし…
コッソリと見に行ってみるか。」




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