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第一章

9―艶やかに咲く魔狼の美女。オッサン。

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俺達はフェンリルの魔法によって、洞窟最奥部の穴からポイと捨てる様に外に放り出された。

町から洞窟に入ってからは、平坦な道を歩いて来ていたので気付かなかったが、洞窟の最奥部の向こう側は切り立った崖の様になっていた。

暗い洞窟から、いきなり明るい陽の下に放り出された俺達は、崖上から遥か下の岩場に向け、物凄い速さで落下してゆく。



俺を追って来た奴等とのいざこざや、町に戻ってから事の次第について報告したり何だりが煩わしく、鬱陶しく、面倒であるのであれば、死んだ事にすればいいだろうとのフェンリル的な配慮とゆーか優しさと言うか……。

だから死んだ事にすればいいと。
いや、本当に死ぬだろコレ。

スコルとハティが気まぐれでも起こして俺達を放置していたら、俺とダイは遥か高い崖上から落下して、岩場に叩き付けられグシャッと肉片になって死んでいたから。


ナニしてくれとるんだ、オッサン。


俺は銀の狼姿のハティの背で受け止められ、空を羽ばたこうとバタバタしていたダイはメイド姿のスコルが抱くようにして受け止めた。


「テイト、お母様の様子を見に行くか?」


目を回して放心状態になっているダイを抱いたままのスコルが俺に尋ねた。

俺はハティの大きな背の上に座って足を組み、少し首を傾ける。


「フェンリルが見ておけって言ってるんだろ?見て欲しいのか…
…じゃ、まぁ、死んだ事になってるらしいし、コッソリと見に行くか。」


俺達は宙に浮いたまま、崖の反対側の洞窟入口付近に向かう。

洞窟の入口からは、俺を追って来ていた5人の男達が出て来た。

それから首に鉄の輪を掛けられて両腕を前で拘束されたフェンリルが。


「なぁ、あの魔力封じの首輪って…お前らにも効くのか?」


俺もダイの養母によって嵌められた事があったが、俺には元々魔力みたいなモンは無いから無意味ではあったのだが。


「効かない。この世界の魔力を持つ生き物とボク達は全く違う。
そもそもボク達は、生き物ではない。」


そう言えば、そうだった。
フェンリル達はその存在自体が膨大な魔力であり、その魔力を使い肉体らしきものをかたどって現れるが、実体らしきものはほぼ無く個人の肉体を持たない。


「そうか、この世界のコトワリとは別の魔力で存在してるんだもんな。お前ら。
自分で作った人形に首輪をされてるようなモンか。」


「に、ニイチャン!やらしい格好のオジちゃんが、男達にやらしい事をされる!!」


スコルに抱っこされてる状態のダイが焦った様に言った。

………言葉だけ聞いていたら、何と可笑しな事を言ってんだろうって感じだな。
エロい女のコスプレをした中年男が、男達にエロい事されるとか。
何の変態プレイだ。


「…まぁ、ほっとけ。
そういうのも含めて、あのオジサンは女でいる事を楽しんでるんだよ。
そんなモン見てても仕方無いし…もう行くか。」


男達に囲まれ、衣服をむしり取られていくフェンリルは屈辱的な行為に耐えながら抗う様な芝居をし、だが楽しそうな本心が隠し切れないのか、度々嬉々とした表情を覗かせている。

そんな楽しそうなオッサンが男達に蹂躙される姿を見ても仕方が無いと、俺達はその場を離れようとした。

ほぼ全裸になったフェンリルに男達の手が掛かる寸前で、遅れて洞窟から出て来た一人の男が男達の輪に入り、地面に尻をついて怯える芝居をするフェンリルの髪を乱暴に掴んだ。
その男は羽織ったローブのフードを目深にかぶり、その表情は見えない。


「おい女、一番最初にお前の元に辿り着いたガキを連れた黒髪、黒服の男はどうした。」


「テメェ邪魔すんじゃねー!いきなり現れて何だ!お前は!」


戦利品である美しい女奴隷を凌辱する愉しみを遮られた男達が、いきなり現れた男に敵意を剥き出しにした。


「……黒髪、黒服の男は……私の獣魔と死闘を繰り広げた末に、共に崖の外に投げ出されましたわ。
もう生きてはいないでしょう。」


「死んだ痕跡が全く無い。血の痕も、破れた衣服の切れ端も。
黒髪黒服の従者の2人の少女も行方が知れない。

簡単に死ぬような奴等ではない筈だ。
お前、何かを知って隠しているな。」


俺達は気配を消したままフェンリル達のもとを離れようとしていたのだが、洞窟から現れた6人目の男に注視した。

こいつは恐らく東の大陸王バーロンが俺に放った奴だ。

俺を殺すつもりの刺客なのか、俺を監視するのが目的なのか、その辺は今の所良く分からないが。
召喚儀式をした神殿から俺を殺しに来た4人のバーロンの兵士達よりは、よほど強そうだ。


「おい、テメェ!俺達のモンを奪うつもりか?
痛い目に遭いたくなければサッサと立ち去りやがれ!」

お楽しみをお預けされて苛立ちを顕にした男が、監視人らしき男に剣を向けた。
脅しのつもりだったようだが、剣を向けた男の両腕が一瞬で肘から切り落とされた。


「邪魔だ。お前らは黙っていろ。」


ローブの男は地面に落とした腕を踏みつけながら、血塗れの剣を男達に向けて言った。
両腕を斬り落とされた男は半狂乱状態になり、雛鳥の様に短い腕をバタバタさせながら騒ぎ始めた。


「ぎゃあああ!うっ、うで!腕っ…!俺の腕がぁ!おまっお前!
殺してやる!ころっ……グホッ!」



「………小バエが、うるさい。
両腕を斬り落とされた位で喚きおって。
その程度で自我を保てぬとは。
その様子では我を蹂躙し尽くして弄ぶなど出来ぬであろうが。

久しぶりに人間の雄の精が食えると思ったのに。
興が醒めたわ。」


衣服をむしり取られて全裸に近かったフェンリルは、再び黒のキャットスーツをまとった姿となり、腕を無くして大騒ぎの男の心臓を背後から腕を使い刺し貫いた。


残り4人の男達がたじろぎ、豹変したフェンリルから逃げ出そうと後退りし始め、やがて四方八方にワァっと走り出した。


「女、お前も黒髪の仲間か。」


フードの男は豹変したフェンリルに驚きもしなかった。
最初から、その力量を知って居たかのように。


「ふふふ…仲間だなんて、とんでもない。

マカミテイト…。あれは我らが王だ。」


フェンリルから逃れようとした4人の男の前に立ち塞がる様に、背にシマ模様のある象の様に巨大な灰色の狼が現れる。

「う、うわぁあ…!うっっ!!」

1人の男がバクッと大きく裂けた口で腹を横から咥えられ、そのまま骨ごと噛み砕かれ肉を食い千切られ絶命した。

狼の顎の下に、胸の下から腹の上が半月状に欠けた死体がドサッと横たわる。

「ひ、はひぁあ!た、助けてくれぇ!」

血に塗れた狼の口が嗤う様にカパァと開くのを見た、残りの3人の男達が恐怖に泣き喚きながら、散り散りに逃げ惑い始めた。


「逃がすんじゃないぞ、幼子。すべて食ってしまえ。」


「女…お前も、マカミテイトという異世界人も…何者なんだ…。

お前達は、今まで異世界から喚び出した勇者達の枠から外れ過ぎている。」


男達を殺せと言ったフェンリルを警戒する監視人らしき男は武器を構え、自身の前に立つフェンリルに向けた。


「そう身構えるな…お前は殺さぬ。
愚王に仕えているお前は、伝えなくてはならぬのだろう?
我が王の事を。」


フェンリルは向けられた剣の先を指先でツイと横にどかし、監視人との間を詰めた。
フェンリルの金色の瞳に魅入られる様に、監視人の身体が硬直する。

顔を隠す様に深く被った監視人のローブのフード部分を捲ったフェンリルは、監視人の顔を出させる。

「女っ……!何をする……う、動けん…!」

「おや…中々な美丈夫ではないか…ふふふ…美味そうだ…。」


フードを捲られ、金髪に青い目の青年の姿があらわになる。
陶磁器の様な青年の頬に、フェンリルの指先が触れた。



━━フェンリルの様子がおかしい。━━


フェンリルとローブのイケメンとの会話の様子を、身を隠したまま聞いていた俺は眉間にシワを刻んでう~んと唸り始めた。


「……久しぶりに男達の精を味わえると思っていたからな……身体が疼くのだ。
ふふふっ、幼子の餌になったあやつらの代わりにお前を頂くとしよう。
お前の知りたい話しは、話せる範囲で睦言にて話してやろう。
さぁ、来るが良い。」


「は、離せ…!」


フェンリルは、身体を硬直させた青年を引っ張る様にして洞窟の中に入って行った。

……睦言ってピロートークだよな?エッチな事をした際の…。

オッサン……イケメンを食うつもりか。

俺はチラッとシマの狼に食い殺されていく男達の姿を見た。

血や臓物、肉片が辺りに散らばり、洞窟前は凄惨な状態だ。
ダイは見てられないのか、スコルの腕の中で寝たフリを越え半分死んだ様になっている。


「……フェンリルはフェンリルで、別の意味で食い殺すつもりか…
金髪イケメンを。

…まぁ、いーか。勝手にさせとけばいいだろ。」


フェンリルの口ぶりだと、俺が生きてる事をアホのバーロン王に伝えさせたいようだし…。

死んだ事にしといたらいいとか自分から言い出しといてな。
気まぐれというか自由過ぎると言うか…


「………仕方無い、もう町には行かないつもりだったが町に寄って洞窟の女が居なくなった事と、俺の後をつけて来た5人組が魔獣に食われて死んだ報告だけはしとくか。」


俺達は、生きてる人間が誰も居なくなった洞窟の前に降りて姿を現し、肉片とじゃれて遊ぶシマ模様の狼に手を振った。


「野獣の少年、またな。フェンリルによろしく。」

「ガウッ!」



「に、ニイチャン…俺もあんな風にアイツのご飯になるのかな…。
俺も母ちゃんと同じ様に、きっとアイツに恨まれてる…。」

スコルに抱きかかえられた状態でダイが死んだふりをしたまま、薄目を開けて俺に訊ねて来た。

「いや、もうお前なんて気にもしてないだろうよ。
末席とは言えあの少年は神の眷属に加わったんだ。
今の野獣の少年にとって、お前の存在感なんざ蟻んコ以下だろうしな。」


「蟻んコって……蟻のンコ?それ以下!?」


……この世界では通じなかったか。蟻んコ。
まさか蟻のクソだと思われるとは。
野獣の少年から見たダイの存在なんて……まぁ似たようなモンか。


俺達は町に向かって歩き出した。
フェンリルが金髪イケメンを食うのだと連れ込んだ洞窟の入口をチラッと見てから。








「女…!な、何をする……!何をして…!」


「おや…意外だ。女と情を交わすのは初めてか?
遊ぶ暇も与えられぬとは、大陸王バーロンの直属の配下とは言え他の兵士達ほど優遇された立場にはならないのだな。

異世界人の血を引く者は。」

フェンリルはバーロンの送り込んだテイトの監視人の青年と身体を重ねながら、爪の先で青年の首周りにチョーカーの様に刻まれた紋様を撫でて微笑んだ。


「フフン、絶対服従の呪紋ではないか。
万が一にも、反抗する意志を持たぬ為か。
こんな穢れた紋を刻まれ、テイトの見張り役などという危険な任務を与えられる。
この世界に喚ばれ勇者に選ばれた異世界人の血を引く者にもこのような扱いを強いるとは。
狭量よな。この世界の人間の王は。」


「王を侮辱するな!王は、異世界から来た勇者の子孫の俺が、強い魔法も使えないのに見捨てず、こうやって仕事を与えてくれている!
異世界人の血を引く者は魔力が無ければ処刑されるのが常なのに……。」

フェンリルの金色の目が爛々と光り、口が大きく裂けた様に弧を描く。

「処刑されるが常。ふふっ。
お前らの持つ血が不当に虐げられている事を知らず、理不尽な扱いをさも当たり前の様に思うよう教えられているとはな。

魔力が無ければ処刑?王の為に尽力した勇者の血族でありながら。
それを当然だと思うなど…お前を作りあげたこの世界は、中々に壊れておるわ。ふふっ…面白いものだ。」


「は…!!くっ…!!き、貴様…」


身体の自由を奪った青年にまたがり、快楽を貪ったフェンリルはホウッと上気した顔で満足げに溜め息を吐いた。
青年の上から身体を離す際フェンリルは青年の唇に触れる程度に唇を重ね、そのまま呼気を流し込む様に囁く。


「ふふふ…

帰ったら、お前の敬愛する愚王に伝えるが良い。

この世には、再び新しい魔王が生まれる。
それは我が王テイトが、新しい魔王━━━━」


フェンリルはわざと言葉を途切れさせる。

洞窟の地面に仰向けに寝かせられたまま、まだ身動きの取れない青年の顔を、真上から覗き込んだフェンリルはニタァと意味ありげにほくそ笑んだ。


「あ、アイツが何だ…!…あ、新しい…魔王になる気か!」


「さぁな……だとしたらどうなんだ?
魔王が生まれる事を許さないお前の愚王は、我が王を消しに来るのか?

ふふふ、それはそれは楽しみだな。」


フェンリルは、青年の首に刻まれた呪紋の一部を本人にも気付かれぬよう密かに消し去った。


服従する事を当然の様に心身共に刻み込まれている今の青年はバーロンに反抗する意志など持ちはしないだろうが、いつか何かがきっかけで綻びが出るかも知れない。
そんな不確かな未来が面白いと感じるフェンリルは、青年の頬に手を当てて笑んだ。


「ふふっ…お前となら、また情を交わしても良いぞ。

我が名はフェンリル……我が肌を恋しく思うならば名を呼ぶが良い。
我が身でお前を慰めてやろう……
そうだ、恋をするならば互いの名を知らねばな。

……お前の名は何という?」



「……………アオイ」



「……葵と同じ名か……何と、罪作りな名を持っているのだろうな…。」












お愉しみ中のフェンリルを残した洞窟を離れた俺達は、スコルとハティも連れて町に戻った。


町を経つ時は居なかった二人の少女が俺の側に居る。

俺自身の強さは誰も知らないが、スコルとハティの強さを知っている町の者達は、二人を連れた俺が無事に町に戻った事に驚きはしなかった。

強い少女二人に守って貰ったとか思われてるんだろーな。

とりあえず、と町長を務める宿屋の主人の所へ行き、エルフらしき女は居たが今はもう居なくなったと報告。


「なぜ、その女は居なくなった?

お前さん達が倒したのではないのか?」


そりゃ、疑問に思うだろうけどな…

『女が洞窟に居据わった理由が俺に会うタメだったんで、目的は果たしたし移動するそうだ。
ウザい奴は殺しまくったらしいけど、まぁ気にしないでやってくれ。
あとは、サクッとイケメンと愉しんだらすぐ去るらしいから安心してくれ。
あ、あの女俺の知り合いだったから。』


なんて言えるワケねぇだろ!!



「あ、あのさぁ!
俺達の後をつけて来た変な男の人達が、その女を怒らせたんだよね!
で、激しい戦闘になってさ!
その男の人達死んじゃったんだ…そのあと、ニイチャン達も戦おうとしたんだけど、女の方が大きな傷を負ったらしくて逃げてったんだ…。」


ダイが町長に納得して貰おうと、何とかそれらしい話をし出した。
スコルとハティは互いの顔を見合わせ、ダイの芝居に乗る事にした様だ。


「あの女はワタシ達の力を侮らなかった。」

「ボク達が構える前に、痛む身体を庇う様にして去ってしまった。」


「…本人が生きたまま去ったのだから、証拠になる物はなんにも無いが、信じてくれとしか言えない。

謝礼は必要無いから、これ以上の面倒な説明は勘弁して貰いたい。」


何しろ全員、死んじまったし証人も居ないんだし………

いや、いる。

あのオッサンフェンリルの肉欲の餌食になった、アホ大陸王んトコの密偵みたいなイケメンが居た。
愉しんだ後にサクッと殺っていてくれたら良いが…アイツも気紛れなヤツだから、愉しんだ玩具に愛着がわき、可愛くしおらしい女のフリをして、生かしたまま解放していそうだ。


アイツが町に戻ったら余計な事をベラベラ喋るかも知れない。
うっわ、めんどくさ。
サッサと町を離れた方が良さげだな。


「明日にでも確認しに行くとしよう。
その死んだ男達とやらの死体も魔物を集める前に焼き払って処分しなきゃならんしな。」


回収ではなく、処分か。
弔うつもりは一切無く、魔物を集めない為に処分する。
他人の命が軽い世界なんだと、改めて思う。


いや…命は尊いだとか大事にしようだとか、俺が元居た世界の倫理観なんて、その世界でだからこそ言える甘い誓約だ。
そんな物は場所が変われば、ただのお題目に過ぎないのだから。

素性も知れない他人の命なんて、軽く見て当たり前かも知れない。

例え知人でも……他人は所詮、他人だ。










延々と続く学校の廊下。
片側はドアの開かない真っ暗な教室が並び、ほぼ壁だ。
もう片側は窓が並び、校舎の外が見える。

以前は階下にグラウンドが見え、その向こう側には町が見えていたが、今は地面の無い宙に浮いた校舎と、毒沼の様に緑の淀んだ雲が渦巻く空が見えるだけだ。

階段を使って何階登ろうが降りようが、窓の外の景色は変わらない。
もう何百階も上だ、下だと移動したのだが……
俺達の居る場所は常に校舎の三階に見えるという状態が続く。
同じ場所に長く留まっているように見えて、精神的にかなりキツイ。


「ねっ、ねっ、帝斗、今頃クラスのみんな、どうしてるかなぁ。」


病みの…いや闇の皇子の大輔が、手にした焼きそばパンを頬張りながら楽しそうに話し掛けて来た。

空腹状態が過ぎて苛立っていた俺は、舌打ちをしてダイから視線を外す。


「チッ…知るかよ。毎回同じ事を聞きやがって。
教室を出てから多分2年近くは経ってんだ。
それぞれ教室を出て好き勝手に動き回っているだろーよ。」


死んだ奴も居るかもなとは、互いに口に出せなかった。

この優しく無い世界では、常に命が危険に晒されている。

武器を持ち、戦う事でしか生きていく事が出来ない。

戦いに負ければ死ぬ。

延々と続く同じ景色、そこから脱け出す方法も分からないまま、得体の知れない生物に襲われ続け、倒し続ける。

そんな今の状況を悲観してしまえば、自ら命を経つ者も居たかも知れない。

だが、それを知らないのは幸いだと思う事にした。

知れば、少なからず感情が動いてしまう。

自分達が心折れそうになった時に、死に対して後押しされるかも知れない。

━━先の見えない世界でなんて…生きてる意味ある?もう、いいか…━━


「なんて、絶対に思ってやったりしねぇ。
俺は絶対に葵に会う…!アイツを問いただすまでは折れたりしねぇ!」


「うん、葵チャンに会ったら何か分かるかも知れないしね。」


隣で焼きそばパンをたいらげ、ソースで汚れた指をねぶる大輔にイラッとしてしまう。


俺達は見つけた食料は質、量に関わらず、半分に分けたりせずに交互に総取りしようとルールを決めた。

ギャンブル的な要素も取り入れたのは、この何の楽しみも無い同じ景色を見続ける自分達が、少しでも楽しめる娯楽としてだ。

で、前回は俺が食料総取りの番で、入手したのが飴玉だった。

疲労回復効果や小さな怪我なら治す位の効果があったから、アイテムとしてはレアだったかも知れん。
だがクソほども腹の足しにならん。

それが俺の食料だった。

で、その次に見つけた食料が焼きそばパンだった。
空腹を満たす以外に特に効果は無い。

「ヨッシャー!当たりだ!」

なんてガッツポーズを取り、ダイがそれを美味そうに食いやがった。

俺だって疲労回復とか、すり傷が治るなんて効果は無くていいから、腹にたまるモンが良かったよ!!


「葵チャンがさ、行動するなら少人数をオススメって言ってたの…ずっと不思議だったんだ。
皆で協力すれば戦闘も楽だしさ。
でも…今は分かる気がする。」

「…食料の供給が間に合わないよな…。」

校舎の廊下を進むだけの世界では、明かりのついてる教室が唯一入れる部屋となる。
この部屋の中にはアイテムがあり、たった一食分の食物や一回分の薬があったりする。

そして魔物は部屋に入って来れない。

俺達は睡眠を取る時は、このアイテム教室を使う事にした。

その部屋を安全を確保出来る拠点として行動する事も考えたが、先に進まなければ食料は手に入らず、拠点として戻る意味もない。

生き抜く為には前に進むしか無い。


だから俺と大輔は歩き続けた。
何処に向かっているかも分からぬままに。



実際にどれほど月日が流れたのか分からないが、同級生と別れてから体感だけで3年近く経った頃に、俺と大輔は思わぬ人物との邂逅を果たした。


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