【R18】【完結】早逝した薄幸の少女、次の人生ガチムチのオッサンだった。

DAKUNちょめ

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前世死亡時はガリガリ少女、それを思い出した今世ガチムチのオッサン

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【前置き◆
二番煎じです。
好きなモノを好きな様に書くと結局こうなる的な…】





「……!!………!!!」



声が聞こえる。言葉はまだ聴き取れない。

全身が泥に沈んだ様に身体が動かない。

身体が重たい。耳も詰まった感じがする。



そんな身体を激しく揺らされる。

ユサユサと言うよりはユラユラと、揺らされる身体の反動が大きい。



俺の身体は、こんなにも重たかっただろうか……



もっと、細木の枯れ枝の様に脆く儚く、軽く押せば折れるのじゃないかという程に脆弱な…………





「オズワルド!!オズ!!目を開けてくれ!!」





名前を呼ばれて、ドロンと微睡んだ意識が一気に引き戻された俺は、バチッと大きく瞼を開いた。



目を覚ました俺を覗き込む、16歳、17歳辺りの銀髪の美しい少年。

育ちの良さげな彼は、白い上等な生地のブラウスに刺繍の入った高級感のあるベストがしっくり来る程よく似合う。



おおお、まるで王子様みたいじゃないか。





「リヒャルト王子殿下……私は一体……。」





みたいじゃなくて、殿下は本物の王子だ。

俺は一体何を思ってんだ……



俺の顔を上から覗き込むリヒャルト王子殿下が俺に手を差し伸べる。 

どうも俺は地面を背にして空を見上げる格好で無様にぶっ倒れているらしい。



差し伸べられたとは言え、王族の者の手を軽々しく握るわけにはいかない。

俺は殿下の手は取らずに地面に手をつき、ゆっくりと身体を起こした。





「殿下、面目御座いません。」





身体に付いた芝生の切れっ端を手で払いながら起こした身体は、動作に合わせて身体を纏う筋肉がググッと動き、ズシリとした重量を感じる。



何と大きくガッシリと頑丈な肉体なのだろう。

凄いな、俺の身体。デカくて強そう。



…………ちょっと待て。

俺はなぜ、自分の身体に感心している?

リヒャルト王子殿下を、まるで王子様みたいだと思ったり…



何かおかしく無いか?





上半身を起こしたまま立ち上がらずに、口元に手を当てボンヤリと考える仕草をした俺の前にリヒャルト殿下が両膝をつき、神妙な表情をして頭を下げた。





「ごめん……稽古中に攻撃が入らなかったからって…

稽古は終わったのに隙をついて背後からオズに足払いを掛けてしまうなんて…。

僕は、なんて卑怯な真似を…。」





「あ、いやぁ…不意の攻撃にも対処出来てこその護衛騎士ですからね。

殿下は悪くないですよ。油断した私が悪いのです。



それよりも殿下、私に謝る為に地面に膝をつくなどいけません。お立ち下さい。」





何となく思い出して来た。

殿下の護衛騎士である俺はいつもの様に、庭にある芝生の広場で殿下に剣の稽古をつけていた。





「隙あらば、いつでも攻撃を。」





そう言って刃を潰した剣を渡し、多く打ち込んで来させるのだが、殿下の攻撃が成功した事はまだ一度も無い。



負けん気の強さからか、どこか幼さを持つ殿下は稽古が終わった後にも斬り掛かって来たり、それこそ足払いや体当たりなど不意をついて攻撃を仕掛けてくる事もしばしば。



それらの攻撃も今まで一度たりとも成功した事は無かったのだが、今回初めて成功したのだ。



しかも足払いを掛けられた俺は恥ずかしい事に盛大にぶっ倒れた上に、気を失ってしまった。



そして……気を失っていた間、俺は……夢を見ていた。









どこかの森にある小さなオンボロ小屋の小さなベッドの上。


目に入るのは今にも折れそうな自分の手足、枯れ枝の様な細く小さな青白い身体。

止まらない咳と共に口に広がる鉄の様な血の味。

苦しい呼吸も激しい動悸も、体力を奪っていく。



生きているだけで体力を消耗していく。



か細く消え入りそうな弱々しい声が耳に入る。

声の主は、死の床に居る自分。



「今度…生まれ変わったら……

丈夫な身体でありますように……

健康的で…強くて……頑丈な…身体……。

ゴホッ…ゴホッ……。



それに……今度生まれ変わったら……

恋がしたい………





あたし、今度生まれ変わったら……!

王子様みたいな、かっこいい人と出会って……

素敵な恋がしたい!


…どうか……か…神さ……ま………」








━━確かに死の間際に思ったけどな!願ったけどな!

しかも前世の俺、病弱な少女だったんかい!



それを今このタイミングで思い出さんでも!



健康な身体に生まれ変わりたい、王子様みたいな少年と恋がしたいって願った少女の願いを叶えた結果がコレぇ!?



確かに、俺は健康だし丈夫だし頑丈だけれどもな!

王子様とも出逢っているけれどもな!!

どうしろと!?



もう四十年間俺なんだよ。オッサンなんだよ!

前世思い出した所で、何も出来んわ!!



幸薄く不憫な少女の願いを聞き届けてやったのだろうけど神さま!

アンタ色々とトチ狂い過ぎだ!━━





「はぁぁあぁ………マジか。」





「オズ、やはり頭が痛むのか…?

かなり強く打っていたみたいだし…。」





額に手を当て、大きな溜め息と共に項垂れた俺を心配した殿下が、土埃やら芝生やらが付いた強打した俺の後頭部を撫で始めた。





「殿下、おやめ下さい。殿下の御手が汚れます。」





「手が汚れる位なんだ。

これは……僕のせいなんだから。」





頭を撫でる殿下の手を止めようと、思わず殿下の右手を強く握ってしまった。



俺の頭のかなり隅っこの方で、少女が恥じらうような「キャッ!」って声が聞こえた気がしたが……



無い無い、手を握った殿下に対して乙女の立場でときめくとか。



そもそも、こんなごっついオッサンがときめいた所で、殿下に気持ち悪いと思われるだけで………。




なぜか、殿下の手を握った俺の手が握り返されとる。




「……殿下、あの…手を…。」




振り払うわけにもいかず、俺は困惑気味に殿下に手を解放する様に促した。





「オズ……さっき言ったの、本当?」





「さっき?私、何か言いましたっけ。」





ゆるーく、ゆるーく手を揺り動かし、殿下に手を握りっぱなしだから離しませんか、と気付かせようとする。

が、離さない。





「かっこいい王子様と素敵な恋がしたいって。

それ、僕の事で合ってるよね?」





それ俺の言葉じゃなくて前世の俺ぇ!

夢の中の枯れ枝みたいな少女の台詞ぅ!



口に出しちまってんのかよ!!

うぉぉい、待て!

頭の隅っこで『てへ♪』なんて聞こえたぞ!





「で、殿下がかっこいい王子様ってのは間違い無いです!

かっこいい王子様とゆーか、王子様みたいにかっこいい人とゆーか!

そもそも私みたいな中年男が、そのような者を恋愛相手に選ぶ事自体おかしな話でして!

意味不明な寝言なんて、忘れて下さい!」





身振り手振りする様に、握られたままの手を大きく振ってワタワタとそれこそ意味不明な弁明をする。





「僕は、オズとなら素敵な恋が出来ると思う。」





「出来ませんよ!!

殿下も、俺の変な寝言に流されないで下さい!」



殿下と恋愛。

いや…いやぁ!無理無理無理無理!!

身分の差は勿論の事、年齢だってな!

そもそも、男同士だろうが!



俺が、前世と同じく殿下と歳の近い少女であれば、そんな可能性はあったかも知れない。



だがな俺がエエ歳こいたオッサンで、殿下はまだ少年だ。



そして俺が大人の男の立場で、まだ年若い殿下を女性の様に扱うのは無理!





「オズが自分の事を、俺って言った。

それが自然なオズの姿なんだ?」





「えっ…わ、私が殿下の前で自分を俺と……

も、申し訳御座いません。」





自分でも気付かなかったが、焦った余りに普段の自分が出てしまった様だ。

握られたままの手を振りほどく事を諦め、俺は地面に座ったままでガクリと項垂れた。





「構わない。許す。

ただしオズはこれから僕と二人きりの時は自然体でいる事。

自分の事はさっきみたいに「俺」呼びで。

これは命令だ。」





「な、何でですか。

王族の一員であらせられる殿下に対して、そのように不敬な態度と言葉遣い……私には出来ませ……」





芝生に両膝をつく殿下の右手は俺の手を握りっぱなしだ。

その手がクニクニと動き出し、手の平を合わせて指同士を交差するように絡ませられた。



━━な、何しとるんだ?━━



クニクニと動き回り、絡ませられる指や合わさる手の平に意識を取られている俺の視界に、陽射しを遮る影が掛かる。





「……は…?…!!」





殿下の顔が近すぎて焦点が合わない。

まばたきすら忘れて目を開いたままの俺の前に、顔を近付けた殿下の閉じた瞼や深い灰銀色の眉毛が、ボンヤリ滲んだ状態で目に入る。



━━ちっかー……━━



俺の唇がふにゅんと、何か柔らかいモノで塞がれている。

何でしょうね…何なんでしょうね!!これは!!





『キャー!キャー!!』





脳内女子うるせぇ!!黙ってろ!!





「……オズ……。」





唇らしきもの(唇とは認めたくない)が離れ、やっと握り締められていた手も解放された。

だが今度は俺の首に殿下が両腕を回して抱き着いている。





「命令違反だよ。

これから二人きりの時に、自分の事を「私」って呼んだらキスで口を塞ぐから。

覚悟しといて。」





はい?何の覚悟!?





殿下を首からぶら下げたまま硬直した俺の頬に、殿下がチュッチュと数回唇を当てて身体を離した。



俺達以外に殆ど人の居なかった庭園に、人がチラホラ増えており、地面に尻をついたまま呆けている俺の手を殿下が引いて俺を立ち上がらせた。





「さあオズ、城に戻ろう。

強く打ったオズの頭も、一応は医師に見せた方がいいし…。」





「いや、私ならば大丈夫で…す……ッッ!」





自分を「私」と呼んだ事に大袈裟な位に反応して、慌てた様にバッと殿下に視線を向けた。

それから恐る恐る周りを見回し、人がまばらに居て二人きりでは無かった事を目で訴える。

殿下は目を細めて、無邪気に楽しげに笑った。





「んふふふ、そうだね。今のは大丈夫だね。

ちゃんと僕の言い付けを意識してくれたんだね。」





キスの刑が無かった事に心の中でホッと胸を撫で下ろした。

あからさまにホッとした顔をしたのであろう俺の隣に並んだ殿下が、スルリと俺の腰に手を回して来た。

思わず腰が引け、ビクッと背筋が伸びる。





「で、殿下っっ!!」





「オズ、これから僕と二人で恋をしよう?

甘くて…蕩けそうな……そんな恋から始めようね。」


甘っ…トロッ…!無理無理無理無理!!

少女の様に可愛く美しいとは言え、殿下は立派な男子である!

その殿下を女性の様に扱うなど無理だ!!





「む、無理です!!殿下に女性の真似事など…!

させられませんよ!」





「僕が女性の真似事?そんな事しないよ。

僕に身を委ねて可愛がられるのはオズの方でしょ。

ああ、自覚無しなんだね…自分の可愛さを。」





可愛さ?中年のムッさい、オッサンに可愛さ?

そんなん自覚するオッサンなんぞ、居たら気持ち悪いわ!





「と、とにかく殿下!お気を確かに!

私なんかと恋愛は無理です!

殿下の周りには、素晴らしい姫君達がいらっしゃるではないですか!」





気でも触れたのか殿下の言動も可笑しいが、俺も混乱して言動が可笑しい。

姫君達と自分を同じ土俵に立たせてどうする。



そう、殿下の周りには近隣諸国の王族関係者や、貴族から殿下の婚約者候補の名乗りを上げている若く美しい少女達が何人もいるのだ。



俺の言葉に、殿下は「え?」とでも言うかの様に首を傾げて笑った。





「家柄、見た目、教養、それらが素晴らしい女性は居ても、その中に僕が恋するような可愛げのある者は居ないな。

僕が可愛く愛しく思うのは、オズだけだよ。

そんな僕に対してオズの方から恋をしたいと言ったんだ。

もう逃がすつもりはないよ?だから覚悟してね。」




本日二度目の要覚悟!

だから一体、何の覚悟なんだよ!!
















城に入り殿下を私室にお送りした後、午後の座学の教師が部屋に入るのを見届けた俺は、部屋の守りを部下の護衛騎士に任せた。


殿下の部屋を離れ、医師の居る治療院に向かう。


殿下に心配された通り、俺はかなり強く頭を打ったらしい。


俺の前世が、早死にしたワラみたいに細っこい少女とか…

そんな有り得ん妄想を現実だと捉えてしまう位には頭を強打した模様。



現実だとしたら、あまりにも不憫だろう。前世の俺。



生まれ変わったら王子様みたいな素敵な人と恋をしたいと願って逝った少女の生まれ変わった姿が、ごっついオッサンとか……



そりゃな…確かにな…

健康で丈夫な身体の女・の・コ・に生まれ変わりたいとは願わなかったよ。

だがな、汲み取ってやろうや神様よぉ!!





「オズワルド殿の頭に怪我もありませんし、手足に痺れも無く、目も普通通りで嘔吐の様子もない。

特に危うい症状は見られませんね。」




「幻聴…幻覚とか、どうなんですかね。

頭を打ってから変な声が聞こえるような気がしたり、変な妄想が頭をよぎったり……。

変な夢も見ましたから。」





実は━━今現在も俺は夢の中にいるんじゃないかと。



さっきの殿下の戯れも全て俺が見た夢で、現実の俺は今現在、治療院のベッドの中で意識が無い状態なのかも知れない。



今、医師と話しているこの世界もまだ夢の中であるならば筋が通るじゃないか。



頭を打って目を覚ました途端に、現実では有り得ん事ばかり起こってからに。

まったくもって、けしからん妄想ばかりを…





「変な夢ですか。

夢は自身の深層心理を現すとか聞きましたが、自身では気付かない強い願いも夢に見る事があるそうですね。

私なんて、気にもしなかった幼馴染の夢を見てから彼女の事が気になり始め、とうとう彼女を妻に迎えたんですよ!」




「あんなもんが、俺の本心の願いなワケあるかぁ!」




惚気けるように照れ笑いを浮かべて言った、同世代位の治療院の医師の前で、俺は自分の膝に思い切り拳を振り下ろしながら吠えた。















「ああ…今日一日無駄に疲れた……。」



治療院に行った後、俺は自室に戻りベッドにうつ伏せに倒れ、そのまま数時間の仮眠を取った。



夕方になり目を覚ました俺は、兵士用の食堂へ行き軽く腹を満たして再び殿下の部屋に向かった。



今夜は俺が殿下の私室前に立ち、朝まで殿下をお守りする。

昼に交代した部下の騎士が、夕食を終えた殿下を警護して私室まで付き従い、殿下が部屋に入るのを見届けてドアを閉め、ドア前の廊下で俺と交替した。





「隊長、大丈夫ですか?顔色が優れないようですが。

殿下から、庭で頭を打ったとお聞きしましたが…。」





「頭を打ったのは、もう何とも無い。

俺の顔色が悪いのは、今俺の置かれている状況が夢で無かったと知ったからだ。」




「はぁ?」




そう、仮眠を取って目を覚ませば可笑しな夢も終わるのではと思っていた。



仮眠から目を覚ました俺が、重い身体をベッドから起こした際に、殿下の纏う香りがふわっと鼻孔を擽った。



王族だけが身に纏う嗅ぎ慣れたこの香りを、今まで意識した事など余り無かった俺だが、目を覚ました瞬間に俺の首周りから立ち昇る香りに全身が否応なく反応した。



俺の首に回した殿下の両腕を包むブラウスに染みた香りが俺の首周りに付いていたらしい。

これはもう、先程の唇ふにゃんが夢では無かったのだと認めざるを得ない。



体温が上昇するのが分かる。俺の顔が熱くなり、思わず震える指先を唇に当てた。



で、そんな自分の姿が映った鏡を見てしまった。





「…………これは………引くな。」





ええ歳こいたオッサンが、何を初恋を知ったばかりの少女みたいな表情をしてんだか。

客観的に見て、かなり気持ちが悪い。







そんなわけで寝覚めは最悪。

そんな状態での勤務となったが、殿下の部屋には入らずにドアの前で朝まで一人で立っているのだ。

今、殿下の顔を見るのは避けたい。

よほどの事が無ければ警備兵の俺は王族の私室には入れない。

顔を見なくて済むその規則が、今の俺には有り難い。







「お怪我が無いなら何よりです。…では、交替お願い致します。」



俺の言っている意味は分からないが深く考える必要も無いと、部下の護衛騎士は頭を捻りながら去って行った。



その背を見送り、口に出さずに俺は心で呟いた。





━━意味が分からないのは俺の方だ。

まぁ…殿下の事については俺をからかったか、気絶させたことにより罪悪感を誤魔化そうとしただけかも知れないが…━━





殿下の部屋のドアを背に立つ俺の腕が不意に掴まれた。



「で、殿下!?」



少し開いたドアから顔を覗かせたリヒャルト王子殿下が、腕を伸ばして俺の手首を掴んでいる。



「今日のオズは隙だらけだね。ふふっ

僕には都合がいいから助かるけどね。」



バンッ!グイッ!バタン!!





俺は大きく口を開けたドアに食われる様に、殿下の私室に引きずり込まれてしまった。





【あとがき◆
遊びながら書いてます。
ゆっくり続きを書いていきます。

3番煎じも出そう……】
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