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78話◆黒いヴェールに喪服ドレスの女剣士。
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わたくしエリーゼは、クロスバート侯爵家令嬢として生まれ育ちましたわ。
何がきっかけだったかしら……
ある日突然、わたくしは違う世界で生きていた自身の記憶を取り戻しましたわ。
そして、この世界が自分のプレイした事のあるゲームの世界である事も思い出したの。
数多くプレイしてきたゲームの中で、なぜ、そこまでやりこんでいたワケでもない、このゲームの世界に転生したのかは理解出来ないのだけれど……。
でもまぁここは、所詮はゲームの世界じゃん?
遊び尽くせばいいでしょ?
遊び尽くす為の力も何だか持ってるっぽいし……
チートっての?
魔法という物が存在するこの世界で、自分もそれを使う事が出来る。
しかも、希少だとか、強い魔力を持つ者でないと使えない魔法を。
ここは、プレイした事のある乙女ゲームの世界。
お約束の様に言うなら、そんなゲームに転生してしまったならば、お気に入りのイケメンキャラとくっつきたいだとか、逆ハーレムを築きたいとか思うのかしら?
わたくしは違うわね。
いいえ、大のお気に入りのキャラは居ましたわ。
だから、まだ会えてないけれど…その方と会えたら…結ばれたいわね。
「……スファイ……も可愛かったし、割と好きなキャラだったのよね。
だから、そんなスファイがミランダを欲しいと言うならば…くれてやってもいいわ。
こちら側の者にしてしまえばいい。うふふ…。」
エリーゼはミランダの名を出した事により、ミランダを妻にしたいと言ったマグスの事を思い出した。
マグスが、ミランダはこの世界に無いリーゼントという言葉を知っていたと言った事を。
「転生者……わたくしと同じように何らかのチート能力を持っているのかしら?
サイモンの妻におさまってるんだから、サイモン推しだったのかもね。
……それにしても、わたくしもミランダも、ゲームとは関係無いキャラに転生しているのねぇ、不思議だわ。」
━━乙女ゲームに転生って言えば、悪役令嬢に転生なんてパターンが王道な気もするけど…現実は違うのね━━
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「サイモン達は、もうアホ国に到着したかしら?」
早歩きさせている馬の背に乗るカチュアの後ろで、わたしはポツリと呟いた。
「アホ国……着いているかも知れませんね。
サイモン様は特に時間を惜しんでましたからね…早く仕事を終わらせて愛する奥様の元にお帰りになりたいでしょうし。」
「そっか…。」
うまく返事が出来ない。どうしようも無い事を分かっているのに寂しい気持ちがいっぱいで、どうやってやり過ごしたら良いか思い付かない。
カチュアの言葉は励ましも含まれるが、素直に嬉しいと言えない。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、少し休憩しよう?
馬にもご飯あげないと。」
メイが何かを感じ取ってわたし達に声を掛けて来た。
カチュアはそれに同意し、馬を降りて田舎道の脇の木に馬を繋ぐ。
町や村の無い、草原の中に続く舗装もされていない道。
所々、木々は生えているがだだっ広い草原に近い。
見通しが良いので、何者かが現れればすぐ分かるような場所。
ここなら一人になるの許して貰えるかしら…
「カチュア…メイ…ごめんなさい、少し一人にして…?」
カチュアとメイは互いの顔を不安げに見合わせ、回りに人の気配が無いかと辺りを見回した。
「互いの姿を確認出来る位置には居て下さいね…?奥様…。」
カチュアは所々生えている木の陰にスチュワートさんの存在を確認し、互いに警戒を怠らないようにと目配せをした。
わたしはカチュア達から少し離れて草の中を歩いて行く。
距離を取ると草原の中にペタンと尻をつけてしゃがみこんだ。
少し長めに生えている草の中にわたしの体が沈み、わたしの頭だけが見えている様な感じになる。
「……っ…サイモンっ…!サイモン…!逢いたい…!
逢いたいよぉ!!寂しい…!寂しいの…!」
言ったって、どうにもならない事は良く分かっている。
でも、一度思い切り気持ちを吐き出したかった。
思い切り泣いてスッキリしたかった。
「逢いたい!寂しい!寂しいのぉ!!あああん!!」
だから、わたしは大きな声をあげて泣く。
大声で泣いてスッキリしたかった………だけなのに。
「泣かないでミランダ……寂しくないよ俺が居るから。」
背後からポンと肩を叩かれ、振り返るとヤツがそこに居る。
は?スファイ?…………!!!
いや、スファイ!!!お前はいらん!!!
「どどどどうやって現れ…!お、俺が居るから!?
その俺は居なくてもいい俺!……んぐ!!」
いきなり現れたスファイに手の平で口を塞がれ、声を抑えられる。
どうやって現れたの!?カチュアもスチュワートさんも警戒していたのに、誰も居なかった草原にどうやって!?
なんかスファイ、あんたキモーい!!
「……!奥様!?急に静かに……どうかなさいましたか……っ!!」
大きな声をあげて泣いていたミランダが急に静かになり、不安になったカチュアが草を掻き分けミランダの方に歩み寄ろうとした。
そのカチュアの前に黒いヴェールを頭から被った黒い喪服の様なドレスを着た女が立ちはだかる。
「邪魔されたくないのよ、若い騎士さん。
あの方は可愛そうな方なの。愛に飢えてらっしゃるの。
だから、贈って差し上げたいのよ、愛する人を。」
いきなり現れた怪しい女に対し、カチュアは怒りと憎しみとを孕んだ様な険しい顔をして剣を抜く。
傍に居たメイが慌ててカチュアに駆け寄り囁いた。
「これ、カチュアのお母さんじゃないの!?
声とか気配がこないだ来た、お姉さんソックリだよ!!」
「ああ…そうだな…だが、それがどうした!!
奥様が拐われそうなんだぞ!!
立ちはだかるなら、誰であれ斬る!!」
メイの背後でスチュワートがミランダの方に走る。同様にメイもミランダの方に向かった。
「若い騎士さん。わたくしを斬ると仰有るの?
無抵抗の女を斬るなんて…騎士道に反してません事?」
「……騎士道なんて関係無い……!我が主に仇なす者は全て敵だ!
無抵抗だろうが、女だろうが、斬る!!」
黒い喪服のドレスを身に着けた女は笑う。
そしてカチュアと同じように剣を抜いた。
「あらあら、所詮は女だからと甘く見てはくれないのね。
わたくしの夫とは大違いだわ。」
カチュアは一瞬、自身の目を疑った。
母が剣を抜いたのを、ただの虚仮威こけおどしだと思っていたのに、剣を構えた途端に母の全身から吹き出す闘気は母が本物の剣士である事を語っていた。
「ほほほほ!!お相手して差し上げますわ!
若く美しい騎士さま!!
………今の名前はカチュアでしたかしら!?」
「!!!!おっ……お母様っ…!知って…!」
喪服の女から振り下ろされた剣を、カチュアの剣が受ける。
受けた剣に掛かる重みに、母が自分を本気で斬ろうとしているのだと思い知らされる。
こちらも母を殺す気で対峙しないと危ないとカチュアは腹を括り、大きく剣を弾き飛ばした。
「カテリーナ、わたくしの大事な娘…!
娘が実の母を殺すなんて、そんな悲しい事をしないわよね?」
「俺はカテリーナではないんで、遠慮無く斬るさ!!
元ライオット子爵夫人!!今は只の平民の女か!!」
互いに細身の剣を翻して剣戟が飛ぶ。
その姿を横目にスチュワートとメイがミランダの元へ駆け付ける。
「お姉ちゃん!!つか、てめえ!片目ぇ!!
お姉ちゃんを離せ!!」
「お姉ちゃん!?」
ミランダの口を塞いで腰を抱く様にして押さえ込んだスファイが、鬼の様な形相で走って来たメイにたじろぐ。
「お前、いー加減に自分って物を理解しろ!!
お前みたいな甲斐性なしに女が惚れるか!!このヘタレが!!」
メイの拳がミランダの耳横をすり抜けて、ミランダの背後にいるスファイの顔面を直撃した。
スファイの鼻から鼻血が飛ぶ。
その姿があまりにも不憫だったのか、思わずミランダが庇うような台詞を発する。
「メイー!!ちょ!ちょっと手加減しよーよぉ!!」
「しませんよ!こんな奴ぁね!ガツンとやんなきゃ理解出来んのですよ!!ガツンと!」
ミランダを拘束していたスファイの手が離れてスファイが後ろに倒れた。すかさずスチュワートが逃げない様にとスファイを捕らえる。
「逃がしませんよ。転移魔法らしき物を使える様ですね、それも阻害させて頂きます。」
スチュワートの手首、袖口から蔓草の様な植物が現れるとスチュワートはそれを使い、ガックリ項垂れたスファイを縛った。
「あら、嫌だわ。スファイ様が捕まっちゃったじゃないの。
あらあら、どうしましょう。」
カチュアと真剣に剣を交えながら、さほど深刻な様子も無く呟く喪服の女に、カチュアは内心焦っていた。
━━私と剣を交えて、息切れひとつしていない!これは、本当に母なのか?
あの、女性蔑視も甚だしい父に逆らう事の無かった愚かな女…そんな母なのか!?━━
「仕方ないわねぇ、スファイ様は捕まっちゃったと報告致しましょう。騎士カチュア様、ごきげんよう。」
喪服ドレスの女は、交えた剣の刃をカチュアの柄の部分に迄滑らせた。
ギギギと金属の擦り合う嫌な音がし、小さな線香花火のような火花が散る。
カチュアの持つ剣の柄まで刃を滑らせた女は、カチュアの視線が一瞬そちらに逸れた瞬間を見逃さず、カチュアの腹部に蹴りを入れて来た。
「かはっ…!!」
「剣にばかり気を取られていては駄目でしょう?
剣士は剣を持ってなくても剣士でしょう?
剣を取り上げられたら只の人なんて……そんな、つまらない剣士が騎士様だなんて言わないわよねぇ?」
黒いドレスの裾を持ち上げ、黒いガータータイツを履いた片足をあらわにしてヴェールの向こうで紅い唇が笑う。
「また、逢いましょうね?カチュア様。」
「ま、待て…!待て、お母様……いや、アセレーナ!!」
痛む腹部を押さえながら、前に屈んだカチュアが女の名を呼ぶ。
女は掻き消す様に姿を消した。
「な、なぜ…?」
カチュアにとっては、サイモンを逆恨みした母が犯罪者として現れた事よりも、新米ではあってもアリエスを師に持つ騎士の自分を圧倒する程の剣の腕を持つ母に驚きを隠せなかった。
そして転移魔法?母には魔力なんて無かったハズ。
何者かによって、強化されてる?
でなければ、このような実力を隠してまで愚かな男に虐げられた妻でいる必要が無い。
「……カチュア、大丈夫ですか?」
スチュワートがカチュアの傍に来て、足下のふらつくカチュアを支える。
「だ、大丈夫です…申し訳ありません…逃がしてしまいました……。」
「構いません…実の母なのでしょう?
……ですが、敵として立ちはだかるならば、いずれ斬って貰う事になるかと……それは……出来ますか?」
スチュワートが、優しく、そして少し悲しげな目でカチュアを見詰める。
カチュアはスチュワートに、そんな顔をさせた事を申し訳無く思った。
「出来ます!!スチュワート様…!
ご心配お掛けして、申し訳ございません!
母は…いえ、賊のアセレーナは私が必ず屠ります!!」
━━お母様…さようなら…私の母はもう居ない。
これから貴女は我々の敵、賊のアセレーナ。
……私は必ず、お前を倒す!!
何がきっかけだったかしら……
ある日突然、わたくしは違う世界で生きていた自身の記憶を取り戻しましたわ。
そして、この世界が自分のプレイした事のあるゲームの世界である事も思い出したの。
数多くプレイしてきたゲームの中で、なぜ、そこまでやりこんでいたワケでもない、このゲームの世界に転生したのかは理解出来ないのだけれど……。
でもまぁここは、所詮はゲームの世界じゃん?
遊び尽くせばいいでしょ?
遊び尽くす為の力も何だか持ってるっぽいし……
チートっての?
魔法という物が存在するこの世界で、自分もそれを使う事が出来る。
しかも、希少だとか、強い魔力を持つ者でないと使えない魔法を。
ここは、プレイした事のある乙女ゲームの世界。
お約束の様に言うなら、そんなゲームに転生してしまったならば、お気に入りのイケメンキャラとくっつきたいだとか、逆ハーレムを築きたいとか思うのかしら?
わたくしは違うわね。
いいえ、大のお気に入りのキャラは居ましたわ。
だから、まだ会えてないけれど…その方と会えたら…結ばれたいわね。
「……スファイ……も可愛かったし、割と好きなキャラだったのよね。
だから、そんなスファイがミランダを欲しいと言うならば…くれてやってもいいわ。
こちら側の者にしてしまえばいい。うふふ…。」
エリーゼはミランダの名を出した事により、ミランダを妻にしたいと言ったマグスの事を思い出した。
マグスが、ミランダはこの世界に無いリーゼントという言葉を知っていたと言った事を。
「転生者……わたくしと同じように何らかのチート能力を持っているのかしら?
サイモンの妻におさまってるんだから、サイモン推しだったのかもね。
……それにしても、わたくしもミランダも、ゲームとは関係無いキャラに転生しているのねぇ、不思議だわ。」
━━乙女ゲームに転生って言えば、悪役令嬢に転生なんてパターンが王道な気もするけど…現実は違うのね━━
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「サイモン達は、もうアホ国に到着したかしら?」
早歩きさせている馬の背に乗るカチュアの後ろで、わたしはポツリと呟いた。
「アホ国……着いているかも知れませんね。
サイモン様は特に時間を惜しんでましたからね…早く仕事を終わらせて愛する奥様の元にお帰りになりたいでしょうし。」
「そっか…。」
うまく返事が出来ない。どうしようも無い事を分かっているのに寂しい気持ちがいっぱいで、どうやってやり過ごしたら良いか思い付かない。
カチュアの言葉は励ましも含まれるが、素直に嬉しいと言えない。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、少し休憩しよう?
馬にもご飯あげないと。」
メイが何かを感じ取ってわたし達に声を掛けて来た。
カチュアはそれに同意し、馬を降りて田舎道の脇の木に馬を繋ぐ。
町や村の無い、草原の中に続く舗装もされていない道。
所々、木々は生えているがだだっ広い草原に近い。
見通しが良いので、何者かが現れればすぐ分かるような場所。
ここなら一人になるの許して貰えるかしら…
「カチュア…メイ…ごめんなさい、少し一人にして…?」
カチュアとメイは互いの顔を不安げに見合わせ、回りに人の気配が無いかと辺りを見回した。
「互いの姿を確認出来る位置には居て下さいね…?奥様…。」
カチュアは所々生えている木の陰にスチュワートさんの存在を確認し、互いに警戒を怠らないようにと目配せをした。
わたしはカチュア達から少し離れて草の中を歩いて行く。
距離を取ると草原の中にペタンと尻をつけてしゃがみこんだ。
少し長めに生えている草の中にわたしの体が沈み、わたしの頭だけが見えている様な感じになる。
「……っ…サイモンっ…!サイモン…!逢いたい…!
逢いたいよぉ!!寂しい…!寂しいの…!」
言ったって、どうにもならない事は良く分かっている。
でも、一度思い切り気持ちを吐き出したかった。
思い切り泣いてスッキリしたかった。
「逢いたい!寂しい!寂しいのぉ!!あああん!!」
だから、わたしは大きな声をあげて泣く。
大声で泣いてスッキリしたかった………だけなのに。
「泣かないでミランダ……寂しくないよ俺が居るから。」
背後からポンと肩を叩かれ、振り返るとヤツがそこに居る。
は?スファイ?…………!!!
いや、スファイ!!!お前はいらん!!!
「どどどどうやって現れ…!お、俺が居るから!?
その俺は居なくてもいい俺!……んぐ!!」
いきなり現れたスファイに手の平で口を塞がれ、声を抑えられる。
どうやって現れたの!?カチュアもスチュワートさんも警戒していたのに、誰も居なかった草原にどうやって!?
なんかスファイ、あんたキモーい!!
「……!奥様!?急に静かに……どうかなさいましたか……っ!!」
大きな声をあげて泣いていたミランダが急に静かになり、不安になったカチュアが草を掻き分けミランダの方に歩み寄ろうとした。
そのカチュアの前に黒いヴェールを頭から被った黒い喪服の様なドレスを着た女が立ちはだかる。
「邪魔されたくないのよ、若い騎士さん。
あの方は可愛そうな方なの。愛に飢えてらっしゃるの。
だから、贈って差し上げたいのよ、愛する人を。」
いきなり現れた怪しい女に対し、カチュアは怒りと憎しみとを孕んだ様な険しい顔をして剣を抜く。
傍に居たメイが慌ててカチュアに駆け寄り囁いた。
「これ、カチュアのお母さんじゃないの!?
声とか気配がこないだ来た、お姉さんソックリだよ!!」
「ああ…そうだな…だが、それがどうした!!
奥様が拐われそうなんだぞ!!
立ちはだかるなら、誰であれ斬る!!」
メイの背後でスチュワートがミランダの方に走る。同様にメイもミランダの方に向かった。
「若い騎士さん。わたくしを斬ると仰有るの?
無抵抗の女を斬るなんて…騎士道に反してません事?」
「……騎士道なんて関係無い……!我が主に仇なす者は全て敵だ!
無抵抗だろうが、女だろうが、斬る!!」
黒い喪服のドレスを身に着けた女は笑う。
そしてカチュアと同じように剣を抜いた。
「あらあら、所詮は女だからと甘く見てはくれないのね。
わたくしの夫とは大違いだわ。」
カチュアは一瞬、自身の目を疑った。
母が剣を抜いたのを、ただの虚仮威こけおどしだと思っていたのに、剣を構えた途端に母の全身から吹き出す闘気は母が本物の剣士である事を語っていた。
「ほほほほ!!お相手して差し上げますわ!
若く美しい騎士さま!!
………今の名前はカチュアでしたかしら!?」
「!!!!おっ……お母様っ…!知って…!」
喪服の女から振り下ろされた剣を、カチュアの剣が受ける。
受けた剣に掛かる重みに、母が自分を本気で斬ろうとしているのだと思い知らされる。
こちらも母を殺す気で対峙しないと危ないとカチュアは腹を括り、大きく剣を弾き飛ばした。
「カテリーナ、わたくしの大事な娘…!
娘が実の母を殺すなんて、そんな悲しい事をしないわよね?」
「俺はカテリーナではないんで、遠慮無く斬るさ!!
元ライオット子爵夫人!!今は只の平民の女か!!」
互いに細身の剣を翻して剣戟が飛ぶ。
その姿を横目にスチュワートとメイがミランダの元へ駆け付ける。
「お姉ちゃん!!つか、てめえ!片目ぇ!!
お姉ちゃんを離せ!!」
「お姉ちゃん!?」
ミランダの口を塞いで腰を抱く様にして押さえ込んだスファイが、鬼の様な形相で走って来たメイにたじろぐ。
「お前、いー加減に自分って物を理解しろ!!
お前みたいな甲斐性なしに女が惚れるか!!このヘタレが!!」
メイの拳がミランダの耳横をすり抜けて、ミランダの背後にいるスファイの顔面を直撃した。
スファイの鼻から鼻血が飛ぶ。
その姿があまりにも不憫だったのか、思わずミランダが庇うような台詞を発する。
「メイー!!ちょ!ちょっと手加減しよーよぉ!!」
「しませんよ!こんな奴ぁね!ガツンとやんなきゃ理解出来んのですよ!!ガツンと!」
ミランダを拘束していたスファイの手が離れてスファイが後ろに倒れた。すかさずスチュワートが逃げない様にとスファイを捕らえる。
「逃がしませんよ。転移魔法らしき物を使える様ですね、それも阻害させて頂きます。」
スチュワートの手首、袖口から蔓草の様な植物が現れるとスチュワートはそれを使い、ガックリ項垂れたスファイを縛った。
「あら、嫌だわ。スファイ様が捕まっちゃったじゃないの。
あらあら、どうしましょう。」
カチュアと真剣に剣を交えながら、さほど深刻な様子も無く呟く喪服の女に、カチュアは内心焦っていた。
━━私と剣を交えて、息切れひとつしていない!これは、本当に母なのか?
あの、女性蔑視も甚だしい父に逆らう事の無かった愚かな女…そんな母なのか!?━━
「仕方ないわねぇ、スファイ様は捕まっちゃったと報告致しましょう。騎士カチュア様、ごきげんよう。」
喪服ドレスの女は、交えた剣の刃をカチュアの柄の部分に迄滑らせた。
ギギギと金属の擦り合う嫌な音がし、小さな線香花火のような火花が散る。
カチュアの持つ剣の柄まで刃を滑らせた女は、カチュアの視線が一瞬そちらに逸れた瞬間を見逃さず、カチュアの腹部に蹴りを入れて来た。
「かはっ…!!」
「剣にばかり気を取られていては駄目でしょう?
剣士は剣を持ってなくても剣士でしょう?
剣を取り上げられたら只の人なんて……そんな、つまらない剣士が騎士様だなんて言わないわよねぇ?」
黒いドレスの裾を持ち上げ、黒いガータータイツを履いた片足をあらわにしてヴェールの向こうで紅い唇が笑う。
「また、逢いましょうね?カチュア様。」
「ま、待て…!待て、お母様……いや、アセレーナ!!」
痛む腹部を押さえながら、前に屈んだカチュアが女の名を呼ぶ。
女は掻き消す様に姿を消した。
「な、なぜ…?」
カチュアにとっては、サイモンを逆恨みした母が犯罪者として現れた事よりも、新米ではあってもアリエスを師に持つ騎士の自分を圧倒する程の剣の腕を持つ母に驚きを隠せなかった。
そして転移魔法?母には魔力なんて無かったハズ。
何者かによって、強化されてる?
でなければ、このような実力を隠してまで愚かな男に虐げられた妻でいる必要が無い。
「……カチュア、大丈夫ですか?」
スチュワートがカチュアの傍に来て、足下のふらつくカチュアを支える。
「だ、大丈夫です…申し訳ありません…逃がしてしまいました……。」
「構いません…実の母なのでしょう?
……ですが、敵として立ちはだかるならば、いずれ斬って貰う事になるかと……それは……出来ますか?」
スチュワートが、優しく、そして少し悲しげな目でカチュアを見詰める。
カチュアはスチュワートに、そんな顔をさせた事を申し訳無く思った。
「出来ます!!スチュワート様…!
ご心配お掛けして、申し訳ございません!
母は…いえ、賊のアセレーナは私が必ず屠ります!!」
━━お母様…さようなら…私の母はもう居ない。
これから貴女は我々の敵、賊のアセレーナ。
……私は必ず、お前を倒す!!
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