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138話◆この世界では魔法なんて珍しくも無い。
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オースティンに仕える従者の青年が馬車の窓から外を見ている間に、箱馬車の向かいの座席に何処から現れたのか貴族のご令嬢と思しき見知らぬ美少女が座っていた。
夜空の様な藍色の髪に、満月の様な金色の瞳。
白いドレスに身を包んだ目を奪われる程に美しいその少女は
足を組み腕を組み、目を眇め舌打ちをし。
とてつもなくガラが悪い。
━━いや、そんな事より!一体何処から現れた!?
箱馬車の入口は一つしかなく、その入口の前にはオースティン様が固まった状態で立っている。
それにしても何と美しい少女だろう…しっかしガラ悪いな。
いやいや、一瞬で現れるって魔法使いか?
初めて見たが、これは転移魔法とやらか?
カチュア様のご友人?魔法が使えるのか?
魔法の使い手とは言えど、あの魔剣に太刀打ち出来るのだろうか…それが出来るならば、我々は助かるのか?
死なずに済むのか?
それにしてもガラ悪いな!━━
緊迫した状況にありながら、情報量が多すぎて考えがまとまらない。
思考のどこに重点を置いて良いか分からなくなり、従者は頭の中がグルグルと回る感覚に陥った。
「ヨシ、いっちょシバいたるか。」
━━シバイタル?━━
謎の言葉を発しつつパン!と膝を叩いて席を立ったオッサンみたいな少女を、青年の従者は唖然としたまま目で追った。
席を立った少女はドレスをひるがえし、馬車の入口から軽やかに外に躍り出る。
箱馬車の入口前で身体を硬直させられ身動きの出来なくなったオースティンは、箱馬車から出て背後に立ったのが従者ではなく見知らぬ少女だった事に驚き、困惑気味に声を発した。
「だっ…誰だ!?だ………れ?……」
やがてオースティンは、見知らぬ少女であるハズのディアーナの姿に既視感を覚えたが、それがいつ、何処での物なのか思い出せない。
おぼろげな記憶の中、その少女の姿の背景に学園の風景が入りこんだが、女性のチェックを忘れないオースティンの記憶に、学園にそのような女生徒がいた記憶が無い。
記憶は無いのに知ってる気がする━━混乱したまま、オースティンは少女がカチュアの方に歩み寄るのを見た。
「あ、危ない…!君も魔剣の餌食に…!」
今にも胸を刺し貫かれそうなカチュアを庇う様にカチュアの前に身を乗り出して立ったディアーナは、マンバドナが構えた魔剣の剣先の前に自身の心臓部分を当てさせる。
「ディアーナ様…なぜ、この場に…」
身体の自由を奪われた状態のカチュアがディアーナの登場に驚いた様に目を見開き、小さく呟いた。
カチュアの中でのディアーナとは、神の家族の一人であり高みに在り、人間同士の諍い等には本来は無関心で、顔見知り程度の自分が危険な目にあったからと言って救いの手を差し伸べる様な御方では無いと思っていた。
「うーん、さすがにさぁ…
メグミンをどうにかすると言われちゃぁ…
それに、カァチャンにはこの先もメグミンを守って欲しいしね。」
背後に居るカチュアの問いに答えつつ、ディアーナは照れくさそうに笑った。
ディアーナの背後のカチュアがスン…と無表情になった事には気付かずに。
━━ディアーナ様…カァチャンって、私の事ですよね?
カチュア……を勘違いして記憶なさってます?━━
「突然、現れたという事は転移魔法の使い手か…
お前は魔法が使えるのだな。」
先ほどまで、この場には居なかった人物が現れ目の前に居る。
魔法が存在する世界では、そんな奇跡の様な事象さえ「魔法」という言葉で片付けられる。
マンバドナはさほど驚く様子も無く、構えた剣先をディアーナの胸に当てたまま尋ねた。
ディアーナはコテンと首を傾げ困り顔を見せたあざとい仕草で呟いた。
「私、魔法は使えないの。
だから私が急に現れたのは魔法じゃないのよ…
これは…女神降臨?かしら。」
ディアーナの答えにマンバドナが嘲笑った。
「女神だと?救世主にでもなったつもりか。
どんな魔法を使えた所で所詮は人間。
魔剣の力には遠く及ばん。
死体がひとつ増えるだけだ。
お望み通り、お前を先に魔剣の餌食にしてくれるわ。」
「ねぇ、その前にアナタ………」
マンバドナに話し掛けたディアーナの白い胸に当てられた魔剣の刃先が、プツっと柔肌に食い込む。
マンバドナがグッと腕を前に突き出し、魔剣は一気にディアーナの心臓を深く刺し貫いた。
▼
▼
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「マメシバは無事に邸に戻る事が出来ただろうか……」
スファイは冷たい石の壁に手を当て、その壁の上を見上げた。
壁の上に天井は無く、ぽっかりと四角い空間がある。
四方が高い石の壁に囲まれたその部屋は、古城の様な古い建造物の床に造られた大きな穴だ。
20メートル四方位の真四角の穴には、スファイの他にも十人程の若い男女が居る。
身なりの良い者、下町のチンピラみたいな者、貴族の令嬢のような者など。
一見共通点も無く無作為に連れて来られた様な男女だが、スファイには共通点の心当たりがあった。
自分を含む全員が、同じ父親を持つ兄妹なのだろうと。
スファイ達は逃亡不可能なこの場に集められ、何かを要求されたり尋ねられる事も無く、ただ放置された。
毎日、紐付きのバスケットに乗せた食事が上から下ろされて届けられるが、それ以外に人間らしい生活を送れる様な気配りは無い。
石室にあるのは部屋の隅に造られた、紐付きの簡易トイレと寝具がわりの布だけだ。
此処に集められたばかりの頃は皆が、穴の上に向かって助けを求めて泣いたり叫んだり、あるいは食事を下ろす者に対して脅すように怒鳴ったりと騒がしかったが、3日を過ぎる頃にはそれが無駄な労力だと気付いて皆、静かになった。
「いつまで、こんな所に居りゃいいんだよ…
目的は何なんだ…」
町人風の、スファイより年上らしき青年が頭を抱えて呟いた。
━━この青年は、自分達が同じ父親を持つ兄妹だと知ってるのだろうか…。
スファイは薄暗い穴の中で、集められた人物の顔を改めてゆっくりと確認していった。
そして皆に声が届く位置に立った時に
「………グイザール公爵」
スファイは皆が聞こえる位の声で、ボソッと呟いてみた。
その場に居る全員が、虚を突かれた様な顔をしてスファイに注視する。
どうやら全員、その名前には聞き覚えがあるようで、互いの態度を見て自分達の関係を悟った様子だった。
「まさか皆、あの人の……子ども?」
「俺達、兄弟なのか?」
ザワザワと皆が呟き始めたが、それが今回の誘拐拉致とどう関係しているのか見当がつかない。
「とうさ………グイザール公爵様の名前が何で今さら出て来る?
あの人はもう処刑され、この世には居ない。
あの人の事を恨んでるヤツはいっぱい居るだろうが、俺達がこんな目に遭う理由にはならない。
俺だって何も知らなかった。なのに本当に加担してないのかとか厳しく事情を聞かれたりした。
コッチだって迷惑を被った被害者なんだぞ。」
町人風の青年は少し落ち着きを取り戻し、静かにスファイに答えた。
少し離れた場所に居た、下級貴族の令嬢らしき少女もスファイ達に近付いて来て、会話に加わる。
「そうですわ。
あの人のせいで、わたくし達の家族まで罪を疑われましたもの。
わたくしの兄は、グイザールの方から遠方の貴族への養子の話が来ておりました。
危うくグイザールの手先となる所でしたわ。」
スファイは、グイザール公爵が自身の庶子を使い貴族の家名や資産を奪っていた話をサイモン達から詳しく聞いていた。
これらの話はあまり公にはされておらず、スファイもそれまでは父が処刑された詳しい経緯は知らなかった。
この少女は兄が当事者になりつつあった為に、処刑となった罪状を知った様だ。
「俺はオヤジが何で死刑になったか詳しく知らないがよ。
死んだオヤジに対する報復が理由で、今さらこんなまどろっこしい事を?
そんなもん、わざわざ拐う労力を考えたら、その場でぶっ殺すのが早いじゃねーか。
まぁ、俺みたいなゴロツキ一人殺した所で、面白くはねーだろうがよ。」
スファイと同じく、下町のゴロツキにまで身を落としたのだろう。
やさぐれた感じの青年が嫉妬に近い眼差しでスファイを睨みながら言った。
最近、視線を感じるとスファイが思っていた相手が彼らしい。
「上手く取り入りやがって………
しかもオヤジを追い込んだ貴族サマによ。」
聞こえよがしにスファイに向かって呟いて、青年はそっぽを向いた。
スファイはサイモンに取り入ったワケではないが…そんな問答をする理由が無いので聞こえなかった事にした。
サイモンに聞いた話では、悪事に加担したグイザールの庶子達は遠方の牢獄に送られた者も居るらしいが、何も知らず悪事に加担しなかった者などは罪には問われなかった。
禍根を残さぬ為に一族郎党処分が一般的な貴族社会において、それは慈悲深い裁きだった。
それでも、詳しい事情を聞かされぬままパトロンを失った為に生活をしていけなくなった者達にとっては、その裁きを下したスティーヴン王太子を恨む理由となった。
「何だよ、俺達が弱りながらくたばる様子でも見たいのか?
それとも、殺し合いでもさせて眺めたいのか?」
ゴロツキの青年が言う様に、これはグイザール公爵を恨む者の仕業なのだろうか。
スファイは拐われた時に、スファイ様と呼ばれたのを思い出した。
理由は分からないが、拐われたのはグイザール公爵に関する何らかの条件を満たしたからだ。
…それにしても残りが十人と、グイザールの庶子はこんな少なくは無いらしいが…。
この先この場に拐われた人物が増えるのか、または別の場所に自分達のように監禁されているのか…何も分からない。
スファイは貴族の令嬢らしき少女に話し掛けた。
「お嬢様には兄上様がおいでになるのですね。
その兄上様も、この場に?」
少女はゆるゆると首を振った。
彼女の兄もグイザールの庶子だが、この場には居ないらしい。
「この石室…嫌な造りをしているよな。
ハシゴを掛けなければ出入りは出来ないし、そもそもが部屋ではないし…。」
学生なのだろうか、スファイと同じ年頃の少年が石の壁に触れながら呟いた。
「これ、石じゃないと思う。
金属みたいだ…。
継ぎ目も無いみたいだし……。」
別の少年が同じ様に壁に触れて答えた。
これがただの石室ではなく、巨大な金属で造られた大きな箱で継ぎ目が無いと聞き、スファイはこれが巨大な貯水槽の様だと思った。
「こんな汚い場所にもう数日……食事は与えられるけど、それだけだわ。
帰れないなら、もう死んでしまいたい…」
商家の娘らしき少女が膝を抱えてしくしくと泣き始めた。
兄が居るという貴族の令嬢が側に行って慰める。
今まで面識は無かったであろうが、2人は何処となく面影が似ている。
それは血の繋がりがある為なのだろうが…。
だが面影以上にハッキリと似ていると言える物を見つけた。
薄暗い場所で今まで気が付かなかったが………
涙に濡れた2人の瞳は、同じ様に赤と青の宝石の様な輝きを放っていた。
夜空の様な藍色の髪に、満月の様な金色の瞳。
白いドレスに身を包んだ目を奪われる程に美しいその少女は
足を組み腕を組み、目を眇め舌打ちをし。
とてつもなくガラが悪い。
━━いや、そんな事より!一体何処から現れた!?
箱馬車の入口は一つしかなく、その入口の前にはオースティン様が固まった状態で立っている。
それにしても何と美しい少女だろう…しっかしガラ悪いな。
いやいや、一瞬で現れるって魔法使いか?
初めて見たが、これは転移魔法とやらか?
カチュア様のご友人?魔法が使えるのか?
魔法の使い手とは言えど、あの魔剣に太刀打ち出来るのだろうか…それが出来るならば、我々は助かるのか?
死なずに済むのか?
それにしてもガラ悪いな!━━
緊迫した状況にありながら、情報量が多すぎて考えがまとまらない。
思考のどこに重点を置いて良いか分からなくなり、従者は頭の中がグルグルと回る感覚に陥った。
「ヨシ、いっちょシバいたるか。」
━━シバイタル?━━
謎の言葉を発しつつパン!と膝を叩いて席を立ったオッサンみたいな少女を、青年の従者は唖然としたまま目で追った。
席を立った少女はドレスをひるがえし、馬車の入口から軽やかに外に躍り出る。
箱馬車の入口前で身体を硬直させられ身動きの出来なくなったオースティンは、箱馬車から出て背後に立ったのが従者ではなく見知らぬ少女だった事に驚き、困惑気味に声を発した。
「だっ…誰だ!?だ………れ?……」
やがてオースティンは、見知らぬ少女であるハズのディアーナの姿に既視感を覚えたが、それがいつ、何処での物なのか思い出せない。
おぼろげな記憶の中、その少女の姿の背景に学園の風景が入りこんだが、女性のチェックを忘れないオースティンの記憶に、学園にそのような女生徒がいた記憶が無い。
記憶は無いのに知ってる気がする━━混乱したまま、オースティンは少女がカチュアの方に歩み寄るのを見た。
「あ、危ない…!君も魔剣の餌食に…!」
今にも胸を刺し貫かれそうなカチュアを庇う様にカチュアの前に身を乗り出して立ったディアーナは、マンバドナが構えた魔剣の剣先の前に自身の心臓部分を当てさせる。
「ディアーナ様…なぜ、この場に…」
身体の自由を奪われた状態のカチュアがディアーナの登場に驚いた様に目を見開き、小さく呟いた。
カチュアの中でのディアーナとは、神の家族の一人であり高みに在り、人間同士の諍い等には本来は無関心で、顔見知り程度の自分が危険な目にあったからと言って救いの手を差し伸べる様な御方では無いと思っていた。
「うーん、さすがにさぁ…
メグミンをどうにかすると言われちゃぁ…
それに、カァチャンにはこの先もメグミンを守って欲しいしね。」
背後に居るカチュアの問いに答えつつ、ディアーナは照れくさそうに笑った。
ディアーナの背後のカチュアがスン…と無表情になった事には気付かずに。
━━ディアーナ様…カァチャンって、私の事ですよね?
カチュア……を勘違いして記憶なさってます?━━
「突然、現れたという事は転移魔法の使い手か…
お前は魔法が使えるのだな。」
先ほどまで、この場には居なかった人物が現れ目の前に居る。
魔法が存在する世界では、そんな奇跡の様な事象さえ「魔法」という言葉で片付けられる。
マンバドナはさほど驚く様子も無く、構えた剣先をディアーナの胸に当てたまま尋ねた。
ディアーナはコテンと首を傾げ困り顔を見せたあざとい仕草で呟いた。
「私、魔法は使えないの。
だから私が急に現れたのは魔法じゃないのよ…
これは…女神降臨?かしら。」
ディアーナの答えにマンバドナが嘲笑った。
「女神だと?救世主にでもなったつもりか。
どんな魔法を使えた所で所詮は人間。
魔剣の力には遠く及ばん。
死体がひとつ増えるだけだ。
お望み通り、お前を先に魔剣の餌食にしてくれるわ。」
「ねぇ、その前にアナタ………」
マンバドナに話し掛けたディアーナの白い胸に当てられた魔剣の刃先が、プツっと柔肌に食い込む。
マンバドナがグッと腕を前に突き出し、魔剣は一気にディアーナの心臓を深く刺し貫いた。
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「マメシバは無事に邸に戻る事が出来ただろうか……」
スファイは冷たい石の壁に手を当て、その壁の上を見上げた。
壁の上に天井は無く、ぽっかりと四角い空間がある。
四方が高い石の壁に囲まれたその部屋は、古城の様な古い建造物の床に造られた大きな穴だ。
20メートル四方位の真四角の穴には、スファイの他にも十人程の若い男女が居る。
身なりの良い者、下町のチンピラみたいな者、貴族の令嬢のような者など。
一見共通点も無く無作為に連れて来られた様な男女だが、スファイには共通点の心当たりがあった。
自分を含む全員が、同じ父親を持つ兄妹なのだろうと。
スファイ達は逃亡不可能なこの場に集められ、何かを要求されたり尋ねられる事も無く、ただ放置された。
毎日、紐付きのバスケットに乗せた食事が上から下ろされて届けられるが、それ以外に人間らしい生活を送れる様な気配りは無い。
石室にあるのは部屋の隅に造られた、紐付きの簡易トイレと寝具がわりの布だけだ。
此処に集められたばかりの頃は皆が、穴の上に向かって助けを求めて泣いたり叫んだり、あるいは食事を下ろす者に対して脅すように怒鳴ったりと騒がしかったが、3日を過ぎる頃にはそれが無駄な労力だと気付いて皆、静かになった。
「いつまで、こんな所に居りゃいいんだよ…
目的は何なんだ…」
町人風の、スファイより年上らしき青年が頭を抱えて呟いた。
━━この青年は、自分達が同じ父親を持つ兄妹だと知ってるのだろうか…。
スファイは薄暗い穴の中で、集められた人物の顔を改めてゆっくりと確認していった。
そして皆に声が届く位置に立った時に
「………グイザール公爵」
スファイは皆が聞こえる位の声で、ボソッと呟いてみた。
その場に居る全員が、虚を突かれた様な顔をしてスファイに注視する。
どうやら全員、その名前には聞き覚えがあるようで、互いの態度を見て自分達の関係を悟った様子だった。
「まさか皆、あの人の……子ども?」
「俺達、兄弟なのか?」
ザワザワと皆が呟き始めたが、それが今回の誘拐拉致とどう関係しているのか見当がつかない。
「とうさ………グイザール公爵様の名前が何で今さら出て来る?
あの人はもう処刑され、この世には居ない。
あの人の事を恨んでるヤツはいっぱい居るだろうが、俺達がこんな目に遭う理由にはならない。
俺だって何も知らなかった。なのに本当に加担してないのかとか厳しく事情を聞かれたりした。
コッチだって迷惑を被った被害者なんだぞ。」
町人風の青年は少し落ち着きを取り戻し、静かにスファイに答えた。
少し離れた場所に居た、下級貴族の令嬢らしき少女もスファイ達に近付いて来て、会話に加わる。
「そうですわ。
あの人のせいで、わたくし達の家族まで罪を疑われましたもの。
わたくしの兄は、グイザールの方から遠方の貴族への養子の話が来ておりました。
危うくグイザールの手先となる所でしたわ。」
スファイは、グイザール公爵が自身の庶子を使い貴族の家名や資産を奪っていた話をサイモン達から詳しく聞いていた。
これらの話はあまり公にはされておらず、スファイもそれまでは父が処刑された詳しい経緯は知らなかった。
この少女は兄が当事者になりつつあった為に、処刑となった罪状を知った様だ。
「俺はオヤジが何で死刑になったか詳しく知らないがよ。
死んだオヤジに対する報復が理由で、今さらこんなまどろっこしい事を?
そんなもん、わざわざ拐う労力を考えたら、その場でぶっ殺すのが早いじゃねーか。
まぁ、俺みたいなゴロツキ一人殺した所で、面白くはねーだろうがよ。」
スファイと同じく、下町のゴロツキにまで身を落としたのだろう。
やさぐれた感じの青年が嫉妬に近い眼差しでスファイを睨みながら言った。
最近、視線を感じるとスファイが思っていた相手が彼らしい。
「上手く取り入りやがって………
しかもオヤジを追い込んだ貴族サマによ。」
聞こえよがしにスファイに向かって呟いて、青年はそっぽを向いた。
スファイはサイモンに取り入ったワケではないが…そんな問答をする理由が無いので聞こえなかった事にした。
サイモンに聞いた話では、悪事に加担したグイザールの庶子達は遠方の牢獄に送られた者も居るらしいが、何も知らず悪事に加担しなかった者などは罪には問われなかった。
禍根を残さぬ為に一族郎党処分が一般的な貴族社会において、それは慈悲深い裁きだった。
それでも、詳しい事情を聞かされぬままパトロンを失った為に生活をしていけなくなった者達にとっては、その裁きを下したスティーヴン王太子を恨む理由となった。
「何だよ、俺達が弱りながらくたばる様子でも見たいのか?
それとも、殺し合いでもさせて眺めたいのか?」
ゴロツキの青年が言う様に、これはグイザール公爵を恨む者の仕業なのだろうか。
スファイは拐われた時に、スファイ様と呼ばれたのを思い出した。
理由は分からないが、拐われたのはグイザール公爵に関する何らかの条件を満たしたからだ。
…それにしても残りが十人と、グイザールの庶子はこんな少なくは無いらしいが…。
この先この場に拐われた人物が増えるのか、または別の場所に自分達のように監禁されているのか…何も分からない。
スファイは貴族の令嬢らしき少女に話し掛けた。
「お嬢様には兄上様がおいでになるのですね。
その兄上様も、この場に?」
少女はゆるゆると首を振った。
彼女の兄もグイザールの庶子だが、この場には居ないらしい。
「この石室…嫌な造りをしているよな。
ハシゴを掛けなければ出入りは出来ないし、そもそもが部屋ではないし…。」
学生なのだろうか、スファイと同じ年頃の少年が石の壁に触れながら呟いた。
「これ、石じゃないと思う。
金属みたいだ…。
継ぎ目も無いみたいだし……。」
別の少年が同じ様に壁に触れて答えた。
これがただの石室ではなく、巨大な金属で造られた大きな箱で継ぎ目が無いと聞き、スファイはこれが巨大な貯水槽の様だと思った。
「こんな汚い場所にもう数日……食事は与えられるけど、それだけだわ。
帰れないなら、もう死んでしまいたい…」
商家の娘らしき少女が膝を抱えてしくしくと泣き始めた。
兄が居るという貴族の令嬢が側に行って慰める。
今まで面識は無かったであろうが、2人は何処となく面影が似ている。
それは血の繋がりがある為なのだろうが…。
だが面影以上にハッキリと似ていると言える物を見つけた。
薄暗い場所で今まで気が付かなかったが………
涙に濡れた2人の瞳は、同じ様に赤と青の宝石の様な輝きを放っていた。
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