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139話◆魔剣シオシオのヘニョンヘニョン。
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「……オッドアイ?」
スファイが呟いた言葉に石室に居た皆が反応し、ハッとするように互いの顔を見始めた。
深い穴の中は明かりが射さず薄暗いために気付きにくかったが、皆が互いに確認をとっていけば全員が青と赤の瞳を持つ事が分かった。
「おいおい、こんなモンが俺達が拐われた理由なワケあるかよ。
左右の目ん玉の色が違うのが好きな変態にでも売るつもりか?」
やさぐれた男がオッドアイと呟いたスファイに向け、小馬鹿にした様に言った。
「同感だ。俺達が拐われたのにグイザールが関係しているのは確かだろうが、目の色どうこうは関係無いだろう。」
この中で一番年長者であろう町人風の青年は、やさぐれた男に同意してスファイの懸念を一蹴した。
スファイの頭の中でも、確かにそんな理由から拐われる理由など思い付きもしないが……
この石室に集められた中に、青と赤のオッドアイを持たない者が一人も居ない事を偶然と呼べるのか気味が悪い。
不意に、巨大な穴の上に人の気配を感じ、石室の全員がそちらに目を向けた。
一日に数回、上から食事を下ろしたり簡易トイレを回収して新しい物と交換する者達がいる。
何人居るかも分からないし、こちらが助けを訴えたり脅したりしても一切反応しない。
いつもの様に、紐で括られた麻袋に乱雑に入れられた食品と飲料水が下ろされてきた。
そして、何処かのご令嬢の様な少女も身体を布で巻いた状態で穴の中に吊り下げられて来た。
「お、おい!大丈夫か!?」
町人風の青年が荷物の様に下ろされた少女に駆け寄り、布にくるまれたまま冷たい床に横たわった少女の身体を抱き起こした。
穴の上で数人の男達がボソボソと話す声が僅かに聞こえて来た。
「これで全員だそうだ。」
「では、じき━━」
石室に居る皆がその声を聞き、訝しげな表情を見せる。
全員、じき━━
全員揃ったから、じき何をすると言うのだと、改めて自分達が置かれた状況の理由を何も知らない事に皆が一様に強い不安を感じた。
最後の一人となった少女に何らかの手掛かりを求めて他の者達も少女に近付き、気を失っている少女の目が開くのを待つ。
やがて、町人風の青年に抱き起こされた少女はゆっくりと瞼を開き、自身を覗き込む大勢に驚いて目を大きく見開いた。
「キャー!あ、貴方がたは誰!?
ここは何処ですの!?」
大きく見開かれた少女の瞳は、宝石の様に美しい青と赤のオッドアイだった。
▼
▼
▼
▼
ディアーナの胸の膨らみの上辺りから入ったマンバドナの剣先が、ディアーナの身体を貫いて背中から出た。
声もあげずに串刺し状態となったディアーナは、頭をガクッと項垂れさせた。
「ああああっっ!そ、そんな…!し、死っ…死んっ…」
自身の前でディアーナが胸を貫かれたのを見て、思わず声をあげ一番動揺したのはオースティンだった。
オースティンは騎士の称号を持っているが騎士として働いた事は無い。
自分が剣を振るって人を殺めた事もないが目の前で人が殺されるのを見るのも初めてであり、心ならずも狼狽えてしまった。
「ハーッハハハハ!!そうだ死んだ!
次はお前達だ!おま……………」
ディアーナを刺し貫いたマンバドナの様子がおかしい。
声高らかに笑ったかと思えば、急に訝しげな表情をして何やら手間取っている様子。
馬車の前のオースティンと、その背後からひょっこり顔を出した従者の青年がマンバドナの様子に注視する。
「……ぬ、抜けん…」
ディアーナを深く刺し貫いた剣が抜けないらしく、地面に踏ん張る様にがに股になったマンバドナが綱引きの縄の如く両手で剣を握りしめ引っ張っている。
それでも抜けない剣に、刺さった場所を足で押さえて弾みをつけ引っこ抜こうとしたのか、立ったままのディアーナの腹に向けて足を出した。
「……人が……」
マンバドナの足が出たのと同時に
ディアーナもドレスの裾を捲くり上げ、白い太ももをあらわにして片足をスッと上げた。
そしてそのままジャンプしたディアーナは、マンバドナの左首目掛けて右足を強く打ち付けた。
「話してる最中なのに殺すとは、何事だ!貴様!」
ディアーナによって繰り出された延髄斬りとも呼ばれる蹴りを後頭部左側と首に受けたマンバドナは、ホゲェ!と汚い声を上げ横に飛んだ。
━━ディアーナ様、殺されてませんけどね━━
ディアーナの背後で2人の様子を見ていたカチュアは内心そう思ったが、大人なので、あえて突っ込まない。
「……あ、硬直が解けた……」
カチュアが自身の身体が動くのを確認してオースティンに目を向けた。
オースティンも自身の身体が動くのを確認してカチュアと目を合わせ頷いた。
マンバドナが吹っ飛び、カチュアやオースティンの身体は自由に動かせる様になったが、従者の青年も含めて3人はディアーナとマンバドナから目が離せず、その場に待機状態で2人の様子を見る。
「ペラッペラペラッペラと自慢ったらしい。
アンタ、喋り過ぎなのよ。
こんなアンチエイジング剣を握った位で偉そうに。
不老不死は私の専売特許なのに、勝手にカブるな。」
ディアーナは自身の心臓部分を貫いた剣を抜き、スッと刃先を上に向け構えてみた。が、刃がしんなりと曲がり垂れた。
「お、オレの魔剣がグニャグニャに!お、お前ェ!」
命ある物の様に意思を持ち、人を惑わせる剣が魔剣。
命を奪うどころかダメージを一切与えられずにアンチエイジング剣と呼ばれてディアーナに心折られた魔剣は、長いグミの様にヘニョンヘニョンに柔らかくなってしまった。
「これはもうゴミ、つかグミね。
駄剣になったコイツはもう戻らないわ。」
グニョングニョンになった剣を地面に放り投げたディアーナは地面に尻をついたマンバドナの胸ぐらを左手で掴んで立たせ、右手に拳を握って構えるとニィッと笑った。
その笑顔があまりにも恐ろしかったのか、マンバドナがヒュッと息を呑み、声もまともに出せなくなった。
「ひぁ!…ヒィ…」
「2回。2回も私をお前と呼んだわね?
シバいたる改め、シバき倒す。」
茫然とディアーナを見ていたカチュアがハッと我に返り、慌ててディアーナの背に声を掛けた。
ディアーナがキレたらマンバドナが死ぬかも知れない!そんな恐れがある。
「お待ち下さい!
その者にはスファイの居場所を聞かねばならないのです!」
「大丈夫、大丈夫、ちょっと優しく撫でるだけだから。」
「ディアーナ様は撫でてるつもりでも、常人は瀕死になりますよね!多分!」
殴る気満々のディアーナに胸ぐらを掴まれたマンバドナは、ムンクの叫びの様に口を縦に開き「ヒィィィ」とか細い声をあげながら、シオシオと年を取っていき髪の毛がハラハラと抜け始め
見る見る内に本来の年齢以上にヨボヨボになってしまった。
魔剣の効力が失われたからと言うよりは、理解出来ない事態と恐怖の余り、マンバドナが精神的に追い詰められた様だ。
「あら、さすがに、このご老体を殴る事は出来ないわね。
ビンタ一発で逝っちゃいそう。」
ディアーナは残念そうにマンバドナの胸ぐらを離して解放した。
地面に下ろされたマンバドナは四つん這い状態になり、ヒィヒィ言いながら隠れる場所を探してか地面を撫で始めた。
「精神的に参ってる様子ですね。
これでは、スファイの居場所や手を組んだ者の名前を聞き出すのは難しいかも知れません…。」
カチュアが困ったように呟いた。
オースティンと従者の青年が四つん這いのマンバドナを起こして声を掛けてみたが、恐れおののくばかりで会話が出来る様な状態に無かった。
会話が出来るほど落ち着くまで、どれだけ掛かる事か見当もつかない。
「残念だけど正気に戻った所で、コイツは誘拐した人達が何処に居るかまでは知らされてないわよ。
邪魔者を好きにして良いとだけ言われて棒グミを渡されたんだから。」
魔剣の名前がグミになった。
グミって何だろう━━カチュアやオースティンが頭に?を浮かべる。
「人達……スファイ以外にも?
ディアーナ様は……色々な事情をご存知なのですか?
それを我々に教えてくれたりは……」
カチュアの問いかけにディアーナは口の前に指を一本立て片目を閉じた。
その先は口を閉ざし、何も言わないと。
「でも、ヒントだけあげるわね。
魔剣グミを手に入れているって事は、冒険者の真似事みたいな事をしてるって事よ。
何かを探しているのかも知れないわね。」
「冒険者の真似事…探すのは古の宝物?
まだアイテムが残るダンジョンや遺跡……を探せと?」
スファイを探す場所がダンジョンや遺跡に絞られたとは言え、未踏のダンジョン扱いで一般的に知られていない場ならば探しようが無い。
王都の外は広いフィールドであり、隠されたダンジョンを見つけるのは至難のわざだ。
「魔剣自体、現存するかも謎だった国宝級の代物ですよ。
それをマンバドナに渡してまで、他に一体何を探してると……」
従者の青年が呟きディアーナを見たが、ディアーナは微笑むばかりで、それ以上は何も言わない。
「わたくし、そろそろ、おいとまさせて戴きますわ。
ホホホ、ごめんあそばせ。」
急におしとやかな令嬢らしく振る舞い、しずしずと箱馬車に乗り込んだディアーナは、中からパタンと扉を閉めた。
「はぁ!?ちょ、ちょっと待って下さいよ!
勝手にウィットワース伯爵家の馬車に乗られても困ります!
家まで送って欲しいとか言うんじゃないでしょうね!」
従者の青年が慌てて箱馬車の扉を開いて中を覗き込んだが、既に馬車の中にディアーナの姿は無かった。
いきなり現れ、いきなり消えたディアーナに、従者の青年とオースティンが狐につままれた様に唖然とした。
魔法が使えて転移したのだとしても、心臓を貫かれて生きているのは魔法使いの範疇を越える。
「カッ、カチュア様!!あの人は一体何なんです!?
お知り合いみたいでしたが、どうやって急に現れたんです!?転移魔法ですか!?
ってゆーか何で、あの人は死なないんです!?
何で、人が抗えないような強い魔力を持つ魔剣をポンコツにしてしまえるんですか!?」
従者の青年はグニョングニョンになった剣を指差してキレ気味にカチュアに訊ねた。
マンバドナとは別方向に壊れ気味である。
理解出来ない事には苛立ちから怒りが込み上げるタイプなのかも知れない。
「ああ…あの方は………まぁ………
思えないかも知れないが女神だと思ってくれれば良いかと。」
「女神!?あんなにガラの悪いのが!?はぁ!?
女神様があんなにガラ悪いワケ無いでしょう!」
カチュアはこれ以上どう説明して良いか分からない。
ガラが悪かろうが理想とかけ離れていようが、本物の女神がアレなのだから。
オースティンは邸から駆け付けた私兵にヨボヨボのマンバドナを捕らえさせた。
騒ぎに気付いた家人の知らせで、王城の兵士がこちらに向かっていると聞くと、マンバドナとグニョングニョの剣を渡すようにと告げた。
オースティンは暗い表情でカチュアの前に行くと、深く頭を下げた。
「カチュア様……申し訳ありません……」
「オースティン様、伯爵家の令息が平民に頭を下げたりするものではありません。
おやめ下さい。」
目の前でオースティンに頭を下げられたカチュアは、厳しい表情をして頭を上げるよう促したがオースティンは頭を上げなかった。
「………俺は…貴方を守ると自身に誓いを立てておりました。
なのに、貴方を守るどころか危険に晒し…みっともなく狼狽えて…俺は自分が情けない………
これで兄弟子だなんて…笑わせる……」
頭を下げたまま小刻みに震えるドレス姿のオースティンに、カチュアはクシャッと乱れた髪をかき上げ首を傾げて苦笑した。
「ハハッ貴方が情けないなんて、今さらじゃないか。
そんな事、気に病む様な事じゃないだろう?
それにまだ、俺に協力して下さるのでしょう?
さぁ、顔を上げて綺麗な顔を見せてくれ、レディ。」
カチュアはそっとオースティンの手を取り、その甲に唇を落とす。
「……カチュア様………」
カチュアに惚れ込み、完全に溺れてしまったオースティンにはもうプレイボーイだった時の面影は無い。
カチュアに手の甲にキスをされ優しい言葉を掛けられただけでオースティンは、涙を流しながら喜びに打ち震え、恥じらう少女の様な笑顔を見せていた。
遊び人を気取っていたのに、たった一人の女に骨抜きにされた主の姿を見た従者の青年は、呆れはするが悪い気はせず、2人から離れて伯爵邸の私兵の所へ向かった。
「ハイハイ、もう好きにすればイーですよ。
もう危険だからって協力するのを止めたりもしません。
今日が我々の命日にならなかっただけで、充分ありがたいですからね。」
従者の青年は邸の私兵と言葉を交わし、やがて早馬で到着した王城の兵士にも事の次第を伝えた。
その際、白いドレスを着た美少女の存在をどう伝えるか悩んだが、ありのままで伝える事にした。
「急に現れ、魔剣で死ななくて、容赦ない暴力で魔剣とその持ち主を屈伏させ、急に消えたガラの悪い美少女ですか…?」
ウィットワース伯爵邸の私兵は、「そんな人間いる?」と、とてつもなく訝しげな表情をしたが、王城から来た兵士はハハッと渇いた笑いを浮かべて「ハイハイ、了解致しました」と頷いた。
王城の兵士達はどうも、あの少女に心当たりが、おアリのようだ。
マンバドナがヘロヘロになった剣と共に王城の兵士に連行されるのを見ながら、従者の青年は改めて自分が生きている事に安堵した。
あの少女が現れなければ、確実に死んでいたのだと。
カチュアが探していたマンバドナは、こうしてすぐ見つかったが、マンバドナを探す事が目的ではないとカチュアが言ったのを従者の青年は思い出した。
あのガラの悪い美少女に、マンバドナからスファイの居場所を聞き出すと言っていた事を。
「マンバドナが捕らえられて終わったワケじゃないんだな……魔剣より重要視される何かを探す者が、カチュア様の探している答えに繋がるのか。」
スファイが呟いた言葉に石室に居た皆が反応し、ハッとするように互いの顔を見始めた。
深い穴の中は明かりが射さず薄暗いために気付きにくかったが、皆が互いに確認をとっていけば全員が青と赤の瞳を持つ事が分かった。
「おいおい、こんなモンが俺達が拐われた理由なワケあるかよ。
左右の目ん玉の色が違うのが好きな変態にでも売るつもりか?」
やさぐれた男がオッドアイと呟いたスファイに向け、小馬鹿にした様に言った。
「同感だ。俺達が拐われたのにグイザールが関係しているのは確かだろうが、目の色どうこうは関係無いだろう。」
この中で一番年長者であろう町人風の青年は、やさぐれた男に同意してスファイの懸念を一蹴した。
スファイの頭の中でも、確かにそんな理由から拐われる理由など思い付きもしないが……
この石室に集められた中に、青と赤のオッドアイを持たない者が一人も居ない事を偶然と呼べるのか気味が悪い。
不意に、巨大な穴の上に人の気配を感じ、石室の全員がそちらに目を向けた。
一日に数回、上から食事を下ろしたり簡易トイレを回収して新しい物と交換する者達がいる。
何人居るかも分からないし、こちらが助けを訴えたり脅したりしても一切反応しない。
いつもの様に、紐で括られた麻袋に乱雑に入れられた食品と飲料水が下ろされてきた。
そして、何処かのご令嬢の様な少女も身体を布で巻いた状態で穴の中に吊り下げられて来た。
「お、おい!大丈夫か!?」
町人風の青年が荷物の様に下ろされた少女に駆け寄り、布にくるまれたまま冷たい床に横たわった少女の身体を抱き起こした。
穴の上で数人の男達がボソボソと話す声が僅かに聞こえて来た。
「これで全員だそうだ。」
「では、じき━━」
石室に居る皆がその声を聞き、訝しげな表情を見せる。
全員、じき━━
全員揃ったから、じき何をすると言うのだと、改めて自分達が置かれた状況の理由を何も知らない事に皆が一様に強い不安を感じた。
最後の一人となった少女に何らかの手掛かりを求めて他の者達も少女に近付き、気を失っている少女の目が開くのを待つ。
やがて、町人風の青年に抱き起こされた少女はゆっくりと瞼を開き、自身を覗き込む大勢に驚いて目を大きく見開いた。
「キャー!あ、貴方がたは誰!?
ここは何処ですの!?」
大きく見開かれた少女の瞳は、宝石の様に美しい青と赤のオッドアイだった。
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ディアーナの胸の膨らみの上辺りから入ったマンバドナの剣先が、ディアーナの身体を貫いて背中から出た。
声もあげずに串刺し状態となったディアーナは、頭をガクッと項垂れさせた。
「ああああっっ!そ、そんな…!し、死っ…死んっ…」
自身の前でディアーナが胸を貫かれたのを見て、思わず声をあげ一番動揺したのはオースティンだった。
オースティンは騎士の称号を持っているが騎士として働いた事は無い。
自分が剣を振るって人を殺めた事もないが目の前で人が殺されるのを見るのも初めてであり、心ならずも狼狽えてしまった。
「ハーッハハハハ!!そうだ死んだ!
次はお前達だ!おま……………」
ディアーナを刺し貫いたマンバドナの様子がおかしい。
声高らかに笑ったかと思えば、急に訝しげな表情をして何やら手間取っている様子。
馬車の前のオースティンと、その背後からひょっこり顔を出した従者の青年がマンバドナの様子に注視する。
「……ぬ、抜けん…」
ディアーナを深く刺し貫いた剣が抜けないらしく、地面に踏ん張る様にがに股になったマンバドナが綱引きの縄の如く両手で剣を握りしめ引っ張っている。
それでも抜けない剣に、刺さった場所を足で押さえて弾みをつけ引っこ抜こうとしたのか、立ったままのディアーナの腹に向けて足を出した。
「……人が……」
マンバドナの足が出たのと同時に
ディアーナもドレスの裾を捲くり上げ、白い太ももをあらわにして片足をスッと上げた。
そしてそのままジャンプしたディアーナは、マンバドナの左首目掛けて右足を強く打ち付けた。
「話してる最中なのに殺すとは、何事だ!貴様!」
ディアーナによって繰り出された延髄斬りとも呼ばれる蹴りを後頭部左側と首に受けたマンバドナは、ホゲェ!と汚い声を上げ横に飛んだ。
━━ディアーナ様、殺されてませんけどね━━
ディアーナの背後で2人の様子を見ていたカチュアは内心そう思ったが、大人なので、あえて突っ込まない。
「……あ、硬直が解けた……」
カチュアが自身の身体が動くのを確認してオースティンに目を向けた。
オースティンも自身の身体が動くのを確認してカチュアと目を合わせ頷いた。
マンバドナが吹っ飛び、カチュアやオースティンの身体は自由に動かせる様になったが、従者の青年も含めて3人はディアーナとマンバドナから目が離せず、その場に待機状態で2人の様子を見る。
「ペラッペラペラッペラと自慢ったらしい。
アンタ、喋り過ぎなのよ。
こんなアンチエイジング剣を握った位で偉そうに。
不老不死は私の専売特許なのに、勝手にカブるな。」
ディアーナは自身の心臓部分を貫いた剣を抜き、スッと刃先を上に向け構えてみた。が、刃がしんなりと曲がり垂れた。
「お、オレの魔剣がグニャグニャに!お、お前ェ!」
命ある物の様に意思を持ち、人を惑わせる剣が魔剣。
命を奪うどころかダメージを一切与えられずにアンチエイジング剣と呼ばれてディアーナに心折られた魔剣は、長いグミの様にヘニョンヘニョンに柔らかくなってしまった。
「これはもうゴミ、つかグミね。
駄剣になったコイツはもう戻らないわ。」
グニョングニョンになった剣を地面に放り投げたディアーナは地面に尻をついたマンバドナの胸ぐらを左手で掴んで立たせ、右手に拳を握って構えるとニィッと笑った。
その笑顔があまりにも恐ろしかったのか、マンバドナがヒュッと息を呑み、声もまともに出せなくなった。
「ひぁ!…ヒィ…」
「2回。2回も私をお前と呼んだわね?
シバいたる改め、シバき倒す。」
茫然とディアーナを見ていたカチュアがハッと我に返り、慌ててディアーナの背に声を掛けた。
ディアーナがキレたらマンバドナが死ぬかも知れない!そんな恐れがある。
「お待ち下さい!
その者にはスファイの居場所を聞かねばならないのです!」
「大丈夫、大丈夫、ちょっと優しく撫でるだけだから。」
「ディアーナ様は撫でてるつもりでも、常人は瀕死になりますよね!多分!」
殴る気満々のディアーナに胸ぐらを掴まれたマンバドナは、ムンクの叫びの様に口を縦に開き「ヒィィィ」とか細い声をあげながら、シオシオと年を取っていき髪の毛がハラハラと抜け始め
見る見る内に本来の年齢以上にヨボヨボになってしまった。
魔剣の効力が失われたからと言うよりは、理解出来ない事態と恐怖の余り、マンバドナが精神的に追い詰められた様だ。
「あら、さすがに、このご老体を殴る事は出来ないわね。
ビンタ一発で逝っちゃいそう。」
ディアーナは残念そうにマンバドナの胸ぐらを離して解放した。
地面に下ろされたマンバドナは四つん這い状態になり、ヒィヒィ言いながら隠れる場所を探してか地面を撫で始めた。
「精神的に参ってる様子ですね。
これでは、スファイの居場所や手を組んだ者の名前を聞き出すのは難しいかも知れません…。」
カチュアが困ったように呟いた。
オースティンと従者の青年が四つん這いのマンバドナを起こして声を掛けてみたが、恐れおののくばかりで会話が出来る様な状態に無かった。
会話が出来るほど落ち着くまで、どれだけ掛かる事か見当もつかない。
「残念だけど正気に戻った所で、コイツは誘拐した人達が何処に居るかまでは知らされてないわよ。
邪魔者を好きにして良いとだけ言われて棒グミを渡されたんだから。」
魔剣の名前がグミになった。
グミって何だろう━━カチュアやオースティンが頭に?を浮かべる。
「人達……スファイ以外にも?
ディアーナ様は……色々な事情をご存知なのですか?
それを我々に教えてくれたりは……」
カチュアの問いかけにディアーナは口の前に指を一本立て片目を閉じた。
その先は口を閉ざし、何も言わないと。
「でも、ヒントだけあげるわね。
魔剣グミを手に入れているって事は、冒険者の真似事みたいな事をしてるって事よ。
何かを探しているのかも知れないわね。」
「冒険者の真似事…探すのは古の宝物?
まだアイテムが残るダンジョンや遺跡……を探せと?」
スファイを探す場所がダンジョンや遺跡に絞られたとは言え、未踏のダンジョン扱いで一般的に知られていない場ならば探しようが無い。
王都の外は広いフィールドであり、隠されたダンジョンを見つけるのは至難のわざだ。
「魔剣自体、現存するかも謎だった国宝級の代物ですよ。
それをマンバドナに渡してまで、他に一体何を探してると……」
従者の青年が呟きディアーナを見たが、ディアーナは微笑むばかりで、それ以上は何も言わない。
「わたくし、そろそろ、おいとまさせて戴きますわ。
ホホホ、ごめんあそばせ。」
急におしとやかな令嬢らしく振る舞い、しずしずと箱馬車に乗り込んだディアーナは、中からパタンと扉を閉めた。
「はぁ!?ちょ、ちょっと待って下さいよ!
勝手にウィットワース伯爵家の馬車に乗られても困ります!
家まで送って欲しいとか言うんじゃないでしょうね!」
従者の青年が慌てて箱馬車の扉を開いて中を覗き込んだが、既に馬車の中にディアーナの姿は無かった。
いきなり現れ、いきなり消えたディアーナに、従者の青年とオースティンが狐につままれた様に唖然とした。
魔法が使えて転移したのだとしても、心臓を貫かれて生きているのは魔法使いの範疇を越える。
「カッ、カチュア様!!あの人は一体何なんです!?
お知り合いみたいでしたが、どうやって急に現れたんです!?転移魔法ですか!?
ってゆーか何で、あの人は死なないんです!?
何で、人が抗えないような強い魔力を持つ魔剣をポンコツにしてしまえるんですか!?」
従者の青年はグニョングニョンになった剣を指差してキレ気味にカチュアに訊ねた。
マンバドナとは別方向に壊れ気味である。
理解出来ない事には苛立ちから怒りが込み上げるタイプなのかも知れない。
「ああ…あの方は………まぁ………
思えないかも知れないが女神だと思ってくれれば良いかと。」
「女神!?あんなにガラの悪いのが!?はぁ!?
女神様があんなにガラ悪いワケ無いでしょう!」
カチュアはこれ以上どう説明して良いか分からない。
ガラが悪かろうが理想とかけ離れていようが、本物の女神がアレなのだから。
オースティンは邸から駆け付けた私兵にヨボヨボのマンバドナを捕らえさせた。
騒ぎに気付いた家人の知らせで、王城の兵士がこちらに向かっていると聞くと、マンバドナとグニョングニョの剣を渡すようにと告げた。
オースティンは暗い表情でカチュアの前に行くと、深く頭を下げた。
「カチュア様……申し訳ありません……」
「オースティン様、伯爵家の令息が平民に頭を下げたりするものではありません。
おやめ下さい。」
目の前でオースティンに頭を下げられたカチュアは、厳しい表情をして頭を上げるよう促したがオースティンは頭を上げなかった。
「………俺は…貴方を守ると自身に誓いを立てておりました。
なのに、貴方を守るどころか危険に晒し…みっともなく狼狽えて…俺は自分が情けない………
これで兄弟子だなんて…笑わせる……」
頭を下げたまま小刻みに震えるドレス姿のオースティンに、カチュアはクシャッと乱れた髪をかき上げ首を傾げて苦笑した。
「ハハッ貴方が情けないなんて、今さらじゃないか。
そんな事、気に病む様な事じゃないだろう?
それにまだ、俺に協力して下さるのでしょう?
さぁ、顔を上げて綺麗な顔を見せてくれ、レディ。」
カチュアはそっとオースティンの手を取り、その甲に唇を落とす。
「……カチュア様………」
カチュアに惚れ込み、完全に溺れてしまったオースティンにはもうプレイボーイだった時の面影は無い。
カチュアに手の甲にキスをされ優しい言葉を掛けられただけでオースティンは、涙を流しながら喜びに打ち震え、恥じらう少女の様な笑顔を見せていた。
遊び人を気取っていたのに、たった一人の女に骨抜きにされた主の姿を見た従者の青年は、呆れはするが悪い気はせず、2人から離れて伯爵邸の私兵の所へ向かった。
「ハイハイ、もう好きにすればイーですよ。
もう危険だからって協力するのを止めたりもしません。
今日が我々の命日にならなかっただけで、充分ありがたいですからね。」
従者の青年は邸の私兵と言葉を交わし、やがて早馬で到着した王城の兵士にも事の次第を伝えた。
その際、白いドレスを着た美少女の存在をどう伝えるか悩んだが、ありのままで伝える事にした。
「急に現れ、魔剣で死ななくて、容赦ない暴力で魔剣とその持ち主を屈伏させ、急に消えたガラの悪い美少女ですか…?」
ウィットワース伯爵邸の私兵は、「そんな人間いる?」と、とてつもなく訝しげな表情をしたが、王城から来た兵士はハハッと渇いた笑いを浮かべて「ハイハイ、了解致しました」と頷いた。
王城の兵士達はどうも、あの少女に心当たりが、おアリのようだ。
マンバドナがヘロヘロになった剣と共に王城の兵士に連行されるのを見ながら、従者の青年は改めて自分が生きている事に安堵した。
あの少女が現れなければ、確実に死んでいたのだと。
カチュアが探していたマンバドナは、こうしてすぐ見つかったが、マンバドナを探す事が目的ではないとカチュアが言ったのを従者の青年は思い出した。
あのガラの悪い美少女に、マンバドナからスファイの居場所を聞き出すと言っていた事を。
「マンバドナが捕らえられて終わったワケじゃないんだな……魔剣より重要視される何かを探す者が、カチュア様の探している答えに繋がるのか。」
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