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142話◆白い世界でモアイと女子会。
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━━泥の中に飲み込まれる様に意識がゆっくりと沈んでゆく。
水に沈み溺れると言うよりは、そう…自分が泥に覆い尽くされて埋まってゆく。
泥は重く、身体に纏わり付いてしまえば手足をかいてジタバタともがく事も出来ず……ただ沈むのみだ。
息が詰まる。呼吸が止まる。
これは眠りではない。眠ればきっと、俺は死ぬ。
貴方が去って行く現実を目の当たりにしたくない。
貴方を想えば想うほど、貴方が遠い事を知る。
優しい言葉を返してくれたなら、尚さらに貴方が俺を見ていないのだと思い知らされる。
貴方に協力する今の俺を、貴方は先日無礼を働いた男とは別人として扱っている。
貴方に無礼を働き返り討ちされた憐れなオースティンという男は、貴方の記憶の中にはもう居ない。
協力者である今の俺、このオースティンも、邸を去った貴方の記憶からはやがて薄れて消えてゆくのだろう。
「カチュア殿…………
貴方にとっての俺なんかは、すぐに忘れてしまえる様な取るに足りない男なんだろうな……。」
実際、自分自身も今まで抱いた女の全てを記憶しているワケではない。
一夜限りの相手に再会して恋心を告げられても、顔も名前も覚えてなかったなんて事も二度三度じゃ済まない位にあった。
興味が無いものを記憶しておく必要が無いからだ。
「忘れたと、おっしゃるのですか!?」そう言って俺の前で泣き崩れた令嬢達、自分がその立場になる時が来た。それだけなのだ。
「自業自得……なんだろうな。」
応接室の長椅子に身体を横たえたオースティンは泥に沈み掛けた意識を繋ぎ止め、重い身体を無理矢理起こした。
「そう思ってんなら聞こえよがしに口に出してんじゃないわよ。うっざ。」
不意に真横から聞こえた声に驚き、身体を起こした長椅子の隣に目をやる。
ついさっきまで上半身を横たえていた場所に唐突に現れた白いドレスを纏う藍色の髪の少女は、オースティンの隣で菓子を頬張っていた。
「どっ…どこから現れて!?
いや…昨夜もそうやっていきなり現れて…
き、君は一体……何者…?」
チラッとテーブルに目を向ければ、従者の青年がオースティンが目を覚ました時の為に置いて行ったのであろう、菓子の皿が空になっていた。
「食べたかったの?菓子。」
「いや、食欲が無いから構わないが…って、そんな事聞いてない。」
オースティンは首をゆるゆると横に振って、乱れた長い白髪を掻き上げた。
高貴な令嬢にしか見えないその美少女は、オースティンの隣で指を舐めながら菓子の名残を堪能している。
令嬢にしか見えないが、令嬢の所業じゃない。
それにしても…オースティンには彼女に関する記憶は全く無いのだが、何故か知っている気がしてならない。
学園に……居たのか?
「私が何者かって話?
カァチャンから聞いてない?私、女神サマなの。」
オースティンの表情が一気に曇った。
カァチャン……とは、カチュアの事なのだろう。
聞いてないかと問われたならば、一応は聞いている。
昨夜、彼女は女神の様な者だとカチュアから聞いた従者が「認められるか」とキレたからな。
ああ、確かに何か癇に障る。
こんなのを女神だと認めたかぁない。
「カァチャンに会いに来たんだけど寝てたから。
帰るついでに邸をうろついてたら、放置されたお菓子を見つけたから。」
「邸内を…勝手にうろつかないで下さいよ。
いやでも…貴女のお陰で昨夜は助かりました。
…私ではカチュア殿を守る事は出来なかった。」
昨夜マンバドナにより、命を断たれようとしていたオースティンとカチュア、そして従者の3人。
女神を名乗る、この可笑しな少女が現れなければ確実に命を失っていた。
「そうでも…無かったんだけどね。
アナタが、なりふり構わず行動していれば。」
「………なりふり構わず?」
昨夜の自分は、なりふり構わずにみっともなく喚き散らしていたが、身体は身動きひとつ取れない状態であった。
あれ以上に何が出来たと言うんだ?
オースティンは答えを欲して少女を見た。
少女は長椅子から立ち上がり、応接室の大窓に近付くとカーテンの端を摘んで裏側に入った。
セクシーを演出してか、カーテンの端から高く上げた足だけを「あは~ん」とばかりにのぞかせる。
「魔法の属性に貴賤は無いわよ?
まぁ、私なんか女神を名乗る割には魔法を一切使えないんだけどね。
じゃぁご馳走様、覗いちゃイヤぁん。」
「はぁ!?ふざけてないで、ハッキリ言ってくれませんか!?
昨夜、俺がどうすべきだったか…を…!!」
苛立ちに声を荒らげて大窓に向かったオースティンがカーテンを開いたが、そこに少女の姿は無かった。
「また消えた…!!
いきなり現れて、いきなり消えて!
何なんだ、彼女は!
それに……魔法に貴賤は無いって……そんな事無い……」
オースティンは長椅子に戻って座り、項垂れた。
▼
▼
▼
━━ゆっくりゆっくりと意識が沈んでゆく。
ここしばらく、まともに睡眠を取ってなかった。
そのせいで頭が働かず、疲労を回復出来ない身体はまともなパフォーマンスを発揮出来ない。
しっかりと回復させ、仕切り直しせねば…………
ウィットワース伯爵邸の寝室で睡眠を取ったカチュアは白い世界に居た。
何処までも続く白い世界は、地面となる部分と壁、天井となる部分の境目が一切無い。
足の裏には地に足を着いている感覚があるが、目で見れば自分は白い世界の中心に浮いてるかのよう。
「……ここは、何処だろう。夢……か?
だとしたら、自分の思考がこんなにもクリアに反映される夢は初めてだ。」
当ても無しに歩き始めてはみたが足音もしない。
聞こえるのは自分の呟く声と呼吸音、衣服が衣擦れする微かな音だけ。
世界に自分独り取り残された様な孤独感。
「まさか私は…寝てる間に死んだのか?」
「死」を恐れる感情が希薄なカチュアは確認するように呟いてみたが答えを得る事は出来ず、溜め息を吐いて再び白い世界を歩き出した。
長く歩き続けたが疲労感は無く、やがて白しか無い虚無の様な空間の中で初めて白以外の何かを目にした。
黒い小さな点。
それを認識した途端、引き寄せられたかのように自分の目の前に黒い点がドン!とやって来た。
「うわっ…!!」
どれだけ離れた場所に居たのだろう。
目の前に現れた黒い点は、原稿用紙が山積みの机の前にペンを持って座っているミランダと、机の上に片手をついて腰に手を当てているディアーナだった。
「メグミン大先生!ディアーナ様!」
「えっ!?か、カチュア!?
なんで此処に!?
わぁ、でも久しぶり!会いたかったの!」
ミランダが机から立ち上がり、嬉々とした表情でカチュアの両手を握り締めて揺らした。
「私も夢とは言え、メグミン大先生……奥様にお会い出来て嬉しいです。
こんな夢を見てしまうなんて、奥様のお役に立てていない私は、余程参ってるのでしょうね…」
ミランダに手を握られたカチュアは、申し訳無さげに視線を横に逸らした。
「いやいやカァチャン、夢なんだけど現実なのよ、コレ。
ここでの会話は、現実で話してるのと同じ解釈でね。
夢だと思って忘れないでね。
さ、殿下が作ってくれたスイーツもあるし女子会始めましょうか。」
ディアーナは両手をパンと叩き、原稿用紙が山積みになった机の中央に灰色の怪しい物体を乗せた皿を取り出して3つ並べた。
「女子会て……まさか前回お城でした青カンの話の続きじゃないよね、ディアーナ。
それにしても…ディアーナはスティーヴン王太子殿下にスイーツを作らせちゃってんの?
つか、これモアイじゃないの。」
ミランダは横倒しで皿に乗った灰色のモアイ像をスプーンでつついた。
「キモいけど懐かしいでしょ。
それねぇ、ゴマのプリンなの。」
カチュアには、モアイもプリンも聞き覚えの無い単語であったが、何とも不気味な顔の灰色の物体が食べ物である事は理解した。
「あの……それで私は何を話せば?」
モアイプリンが不気味に揺れ動く皿を手に取りつつ訊ねたカチュアは、スプーンで掬った最初の一口を口に入れる勇気が湧かない。
何なら、掬って顔が欠けたモアイが自分を呪いそうな気さえする。
「青カンの話はウィリアがいる時にね。
……クエストってねぇ、状況に応じて成長するんですって。」
無情にもディアーナはモアイの顔面中央にザクッとスプーンを立て、鼻から下顎までスプーンに乗り切らないプリンを一気に掬い上げると、犬が宙に浮いたフリスビーを咥える様に落ちる前に、バクっと口で受け止めた。
「おお!凄い!今の食べ方が凄過ぎて話の内容が全く入って来なかった。
……で、何て?」
ミランダがディアーナに聞き返す。
ディアーナは口に含んだゴマプリン、モアイの顔半分をモッモッと口の中で砕きながら飲み込む。
「アレね、元は師匠が私の為に用意したモノらしいのよ。
でも小さいサブクエストの存在なんて、すっかり忘れていて……
そしたら今の状況に応じていっぱしのクエストに育ちやがったみたい。」
「………それ、本来ならスルーしても良かったサブクエストが、何らかの理由により回避不可のクエストになったって事?
作ったのジャンセンさんかい。」
カチュアにはディアーナとミランダの会話が理解出来ない。
何となく理解出来るのは、今回の事件は何らかの理由により、不可避な出来事となったらしい事だけだ。
何らかの理由………?
「そうなの。
もう私が手を出せるイベントじゃなくなったのよね。」
「えええ……だったらせめて、このイベントの概要とか教えてよ。
カチュアだって、メイだって、わたしを心配して奔走してくれてるんだもの。ヒントをちょうだい?」
ミランダがゴネた様にディアーナにお願いをすれば、カチュアもディアーナの前で片膝をついた。
「私からも、お願いします!
奥様の御心と御身体に負担を掛けたくないのです!
どうか……!」
「それは出来ないわー。
私の存在はチートでしょ?
さっきも言ったけど、このクエストは私が手を出すべきモノじゃなくなったの。
今回、こうやって話すのだって本当ならズルなんだからね。
この件はあなた達が頑張らなきゃ駄目。
メグミンやカチュア、サイモン……あなた達が、もう1段高みに上がる為の登竜門だと思って。」
「えー!!だってリセット出来ないんでしょ?
失敗したら、どうなんの!?」
「完全クリアからクエスト失敗まで、道は多岐に渡るけど……まずスファイは死にやすい。
選択ミスで、あっさり死ぬる!
でもヒントはあげらんない!」
「簡単に死ぬなんて言わないでよディアーナぁ!!
ちょっ…もう少し軽く考えていたわ、コワッ!
で、でも…その分岐ってプレイヤーが居て選択出来るワケじゃないよね?
スファイ本人が間違えないように頑張らなきゃならないんでしょ!?
アドバイスも何も出来ないのに!」
「そこはまぁ…ゲームで言えば、親密度や信頼度とかが何割越えていて、あのイベントを経由したとか必要アイテム所持とかって条件満たしてるかどうかよね。
もう、後は「運」のパラメータが高い事を祈るしか無いわ。」
「無理ゲーじゃん!!」
2人の会話が理解出来ないカチュアは、聞き返す事も出来ずに困り果てていたが、ディアーナがカチュアの様子に気付いて指をさした。
「カチュア、あなたにも選択の場が来る。
どの選択をしてもあなたは強くなるけど、後悔しないようにね。」
水に沈み溺れると言うよりは、そう…自分が泥に覆い尽くされて埋まってゆく。
泥は重く、身体に纏わり付いてしまえば手足をかいてジタバタともがく事も出来ず……ただ沈むのみだ。
息が詰まる。呼吸が止まる。
これは眠りではない。眠ればきっと、俺は死ぬ。
貴方が去って行く現実を目の当たりにしたくない。
貴方を想えば想うほど、貴方が遠い事を知る。
優しい言葉を返してくれたなら、尚さらに貴方が俺を見ていないのだと思い知らされる。
貴方に協力する今の俺を、貴方は先日無礼を働いた男とは別人として扱っている。
貴方に無礼を働き返り討ちされた憐れなオースティンという男は、貴方の記憶の中にはもう居ない。
協力者である今の俺、このオースティンも、邸を去った貴方の記憶からはやがて薄れて消えてゆくのだろう。
「カチュア殿…………
貴方にとっての俺なんかは、すぐに忘れてしまえる様な取るに足りない男なんだろうな……。」
実際、自分自身も今まで抱いた女の全てを記憶しているワケではない。
一夜限りの相手に再会して恋心を告げられても、顔も名前も覚えてなかったなんて事も二度三度じゃ済まない位にあった。
興味が無いものを記憶しておく必要が無いからだ。
「忘れたと、おっしゃるのですか!?」そう言って俺の前で泣き崩れた令嬢達、自分がその立場になる時が来た。それだけなのだ。
「自業自得……なんだろうな。」
応接室の長椅子に身体を横たえたオースティンは泥に沈み掛けた意識を繋ぎ止め、重い身体を無理矢理起こした。
「そう思ってんなら聞こえよがしに口に出してんじゃないわよ。うっざ。」
不意に真横から聞こえた声に驚き、身体を起こした長椅子の隣に目をやる。
ついさっきまで上半身を横たえていた場所に唐突に現れた白いドレスを纏う藍色の髪の少女は、オースティンの隣で菓子を頬張っていた。
「どっ…どこから現れて!?
いや…昨夜もそうやっていきなり現れて…
き、君は一体……何者…?」
チラッとテーブルに目を向ければ、従者の青年がオースティンが目を覚ました時の為に置いて行ったのであろう、菓子の皿が空になっていた。
「食べたかったの?菓子。」
「いや、食欲が無いから構わないが…って、そんな事聞いてない。」
オースティンは首をゆるゆると横に振って、乱れた長い白髪を掻き上げた。
高貴な令嬢にしか見えないその美少女は、オースティンの隣で指を舐めながら菓子の名残を堪能している。
令嬢にしか見えないが、令嬢の所業じゃない。
それにしても…オースティンには彼女に関する記憶は全く無いのだが、何故か知っている気がしてならない。
学園に……居たのか?
「私が何者かって話?
カァチャンから聞いてない?私、女神サマなの。」
オースティンの表情が一気に曇った。
カァチャン……とは、カチュアの事なのだろう。
聞いてないかと問われたならば、一応は聞いている。
昨夜、彼女は女神の様な者だとカチュアから聞いた従者が「認められるか」とキレたからな。
ああ、確かに何か癇に障る。
こんなのを女神だと認めたかぁない。
「カァチャンに会いに来たんだけど寝てたから。
帰るついでに邸をうろついてたら、放置されたお菓子を見つけたから。」
「邸内を…勝手にうろつかないで下さいよ。
いやでも…貴女のお陰で昨夜は助かりました。
…私ではカチュア殿を守る事は出来なかった。」
昨夜マンバドナにより、命を断たれようとしていたオースティンとカチュア、そして従者の3人。
女神を名乗る、この可笑しな少女が現れなければ確実に命を失っていた。
「そうでも…無かったんだけどね。
アナタが、なりふり構わず行動していれば。」
「………なりふり構わず?」
昨夜の自分は、なりふり構わずにみっともなく喚き散らしていたが、身体は身動きひとつ取れない状態であった。
あれ以上に何が出来たと言うんだ?
オースティンは答えを欲して少女を見た。
少女は長椅子から立ち上がり、応接室の大窓に近付くとカーテンの端を摘んで裏側に入った。
セクシーを演出してか、カーテンの端から高く上げた足だけを「あは~ん」とばかりにのぞかせる。
「魔法の属性に貴賤は無いわよ?
まぁ、私なんか女神を名乗る割には魔法を一切使えないんだけどね。
じゃぁご馳走様、覗いちゃイヤぁん。」
「はぁ!?ふざけてないで、ハッキリ言ってくれませんか!?
昨夜、俺がどうすべきだったか…を…!!」
苛立ちに声を荒らげて大窓に向かったオースティンがカーテンを開いたが、そこに少女の姿は無かった。
「また消えた…!!
いきなり現れて、いきなり消えて!
何なんだ、彼女は!
それに……魔法に貴賤は無いって……そんな事無い……」
オースティンは長椅子に戻って座り、項垂れた。
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━━ゆっくりゆっくりと意識が沈んでゆく。
ここしばらく、まともに睡眠を取ってなかった。
そのせいで頭が働かず、疲労を回復出来ない身体はまともなパフォーマンスを発揮出来ない。
しっかりと回復させ、仕切り直しせねば…………
ウィットワース伯爵邸の寝室で睡眠を取ったカチュアは白い世界に居た。
何処までも続く白い世界は、地面となる部分と壁、天井となる部分の境目が一切無い。
足の裏には地に足を着いている感覚があるが、目で見れば自分は白い世界の中心に浮いてるかのよう。
「……ここは、何処だろう。夢……か?
だとしたら、自分の思考がこんなにもクリアに反映される夢は初めてだ。」
当ても無しに歩き始めてはみたが足音もしない。
聞こえるのは自分の呟く声と呼吸音、衣服が衣擦れする微かな音だけ。
世界に自分独り取り残された様な孤独感。
「まさか私は…寝てる間に死んだのか?」
「死」を恐れる感情が希薄なカチュアは確認するように呟いてみたが答えを得る事は出来ず、溜め息を吐いて再び白い世界を歩き出した。
長く歩き続けたが疲労感は無く、やがて白しか無い虚無の様な空間の中で初めて白以外の何かを目にした。
黒い小さな点。
それを認識した途端、引き寄せられたかのように自分の目の前に黒い点がドン!とやって来た。
「うわっ…!!」
どれだけ離れた場所に居たのだろう。
目の前に現れた黒い点は、原稿用紙が山積みの机の前にペンを持って座っているミランダと、机の上に片手をついて腰に手を当てているディアーナだった。
「メグミン大先生!ディアーナ様!」
「えっ!?か、カチュア!?
なんで此処に!?
わぁ、でも久しぶり!会いたかったの!」
ミランダが机から立ち上がり、嬉々とした表情でカチュアの両手を握り締めて揺らした。
「私も夢とは言え、メグミン大先生……奥様にお会い出来て嬉しいです。
こんな夢を見てしまうなんて、奥様のお役に立てていない私は、余程参ってるのでしょうね…」
ミランダに手を握られたカチュアは、申し訳無さげに視線を横に逸らした。
「いやいやカァチャン、夢なんだけど現実なのよ、コレ。
ここでの会話は、現実で話してるのと同じ解釈でね。
夢だと思って忘れないでね。
さ、殿下が作ってくれたスイーツもあるし女子会始めましょうか。」
ディアーナは両手をパンと叩き、原稿用紙が山積みになった机の中央に灰色の怪しい物体を乗せた皿を取り出して3つ並べた。
「女子会て……まさか前回お城でした青カンの話の続きじゃないよね、ディアーナ。
それにしても…ディアーナはスティーヴン王太子殿下にスイーツを作らせちゃってんの?
つか、これモアイじゃないの。」
ミランダは横倒しで皿に乗った灰色のモアイ像をスプーンでつついた。
「キモいけど懐かしいでしょ。
それねぇ、ゴマのプリンなの。」
カチュアには、モアイもプリンも聞き覚えの無い単語であったが、何とも不気味な顔の灰色の物体が食べ物である事は理解した。
「あの……それで私は何を話せば?」
モアイプリンが不気味に揺れ動く皿を手に取りつつ訊ねたカチュアは、スプーンで掬った最初の一口を口に入れる勇気が湧かない。
何なら、掬って顔が欠けたモアイが自分を呪いそうな気さえする。
「青カンの話はウィリアがいる時にね。
……クエストってねぇ、状況に応じて成長するんですって。」
無情にもディアーナはモアイの顔面中央にザクッとスプーンを立て、鼻から下顎までスプーンに乗り切らないプリンを一気に掬い上げると、犬が宙に浮いたフリスビーを咥える様に落ちる前に、バクっと口で受け止めた。
「おお!凄い!今の食べ方が凄過ぎて話の内容が全く入って来なかった。
……で、何て?」
ミランダがディアーナに聞き返す。
ディアーナは口に含んだゴマプリン、モアイの顔半分をモッモッと口の中で砕きながら飲み込む。
「アレね、元は師匠が私の為に用意したモノらしいのよ。
でも小さいサブクエストの存在なんて、すっかり忘れていて……
そしたら今の状況に応じていっぱしのクエストに育ちやがったみたい。」
「………それ、本来ならスルーしても良かったサブクエストが、何らかの理由により回避不可のクエストになったって事?
作ったのジャンセンさんかい。」
カチュアにはディアーナとミランダの会話が理解出来ない。
何となく理解出来るのは、今回の事件は何らかの理由により、不可避な出来事となったらしい事だけだ。
何らかの理由………?
「そうなの。
もう私が手を出せるイベントじゃなくなったのよね。」
「えええ……だったらせめて、このイベントの概要とか教えてよ。
カチュアだって、メイだって、わたしを心配して奔走してくれてるんだもの。ヒントをちょうだい?」
ミランダがゴネた様にディアーナにお願いをすれば、カチュアもディアーナの前で片膝をついた。
「私からも、お願いします!
奥様の御心と御身体に負担を掛けたくないのです!
どうか……!」
「それは出来ないわー。
私の存在はチートでしょ?
さっきも言ったけど、このクエストは私が手を出すべきモノじゃなくなったの。
今回、こうやって話すのだって本当ならズルなんだからね。
この件はあなた達が頑張らなきゃ駄目。
メグミンやカチュア、サイモン……あなた達が、もう1段高みに上がる為の登竜門だと思って。」
「えー!!だってリセット出来ないんでしょ?
失敗したら、どうなんの!?」
「完全クリアからクエスト失敗まで、道は多岐に渡るけど……まずスファイは死にやすい。
選択ミスで、あっさり死ぬる!
でもヒントはあげらんない!」
「簡単に死ぬなんて言わないでよディアーナぁ!!
ちょっ…もう少し軽く考えていたわ、コワッ!
で、でも…その分岐ってプレイヤーが居て選択出来るワケじゃないよね?
スファイ本人が間違えないように頑張らなきゃならないんでしょ!?
アドバイスも何も出来ないのに!」
「そこはまぁ…ゲームで言えば、親密度や信頼度とかが何割越えていて、あのイベントを経由したとか必要アイテム所持とかって条件満たしてるかどうかよね。
もう、後は「運」のパラメータが高い事を祈るしか無いわ。」
「無理ゲーじゃん!!」
2人の会話が理解出来ないカチュアは、聞き返す事も出来ずに困り果てていたが、ディアーナがカチュアの様子に気付いて指をさした。
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