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第32話
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身勝手な人間が引き起こしたことだというのに、主は誰のことも見捨てるつもりはないらしい。
面倒だ…心底そう思っているのに、何故か女に話しかけてしまった。
《待ち人が来なかったのか》
《あら、私が視えるの?だったら暇つぶしに話を聞いてもらおうかしら》
混乱する男子生徒たちをよそに、皮膚がただれた女の顔を真っ直ぐ見ながら答えた。
《…了解した》
《ありがとう。…私ね、そこの子に裏切られたの。恋仲だったというのに、私を犠牲にして生き残った。
その後別の女と婚姻関係になって、幸せそうに笑っていたわ》
がたがたと窓が音を立てて揺れ、女の瘴気が濃くなる。
「……っ、ごほごほ!」
「おい、大丈夫か?」
《だから決めたの。末代まで呪ってやるって。…ソウスレバズットイッショデショ?》
《…その少年はおまえを裏切った相手とは関係ない》
《関係あるワ!私ヲ苦シメタ!謝りもせず、感謝の言葉もなく忘れていッタノよ!》
このままいくと確実に死人が出る。
《子孫は無関係だ。恨み言があるなら本人に言え》
《本、人……》
瘴気が薄まった。今ならどうにかできるかもしれない。
『【新校舎2階の空き教室にいる生徒の皆さん、お昼寝の時間です。──ゆっくりお休みください】』
「お昼寝、休む……」
小銭に指を置いたまま、生徒たちは眠りはじめた。
《この傷をつけたあの人を壊セば、それでイイの》
《そんな愚者に縛られる必要はあるのか?》
純粋な疑問をぶつけると、相手はたちまち焦りだす。
《私ガ、縛られテイル?》
《少なくとも、俺にはそう見える。おまえが自らの存在意義を賭して喰らうほどの相手なのか?
対価に見合ったものが返ってくるとは到底思えないのだが》
《それ、は…》
《自らの命をかけるほどの価値がある相手だとは思えない。助けてもらえるのが当然だと思っている外道に己を捧げる必要はない》
恩を仇で返すとはこのことだ。
命をかけてまで救った相手を蔑ろにする愚者などたかが知れている。
「白露」
《…すまない。余計なことを言ったな》
《いいえ。あなたの言うとおりかもしれない。あの男に復讐することしか考えていなかったわ》
主は一瞬寂しげな表情を見せたが、女を真っ直ぐ見つめてはっきり告げる。
「よく分からないけど、復讐した後のことを考えていないならただ虚しいだけだよ」
《復讐の、後…》
「それからももやもやしたものを抱えたままなのはきっと辛いよ。
復讐したい気持ちそのものを否定する権利は誰にもないと思うけど、私はあなたが頑張ったことを知りたい。真っ黒な感情をひきずってほしくないんだ」
《あ、ああ…》
相手は涙を零し、その場にしゃがみこむ。
敵意はないようだが、このままでは救われたとは言えないだろう。
面倒だ…心底そう思っているのに、何故か女に話しかけてしまった。
《待ち人が来なかったのか》
《あら、私が視えるの?だったら暇つぶしに話を聞いてもらおうかしら》
混乱する男子生徒たちをよそに、皮膚がただれた女の顔を真っ直ぐ見ながら答えた。
《…了解した》
《ありがとう。…私ね、そこの子に裏切られたの。恋仲だったというのに、私を犠牲にして生き残った。
その後別の女と婚姻関係になって、幸せそうに笑っていたわ》
がたがたと窓が音を立てて揺れ、女の瘴気が濃くなる。
「……っ、ごほごほ!」
「おい、大丈夫か?」
《だから決めたの。末代まで呪ってやるって。…ソウスレバズットイッショデショ?》
《…その少年はおまえを裏切った相手とは関係ない》
《関係あるワ!私ヲ苦シメタ!謝りもせず、感謝の言葉もなく忘れていッタノよ!》
このままいくと確実に死人が出る。
《子孫は無関係だ。恨み言があるなら本人に言え》
《本、人……》
瘴気が薄まった。今ならどうにかできるかもしれない。
『【新校舎2階の空き教室にいる生徒の皆さん、お昼寝の時間です。──ゆっくりお休みください】』
「お昼寝、休む……」
小銭に指を置いたまま、生徒たちは眠りはじめた。
《この傷をつけたあの人を壊セば、それでイイの》
《そんな愚者に縛られる必要はあるのか?》
純粋な疑問をぶつけると、相手はたちまち焦りだす。
《私ガ、縛られテイル?》
《少なくとも、俺にはそう見える。おまえが自らの存在意義を賭して喰らうほどの相手なのか?
対価に見合ったものが返ってくるとは到底思えないのだが》
《それ、は…》
《自らの命をかけるほどの価値がある相手だとは思えない。助けてもらえるのが当然だと思っている外道に己を捧げる必要はない》
恩を仇で返すとはこのことだ。
命をかけてまで救った相手を蔑ろにする愚者などたかが知れている。
「白露」
《…すまない。余計なことを言ったな》
《いいえ。あなたの言うとおりかもしれない。あの男に復讐することしか考えていなかったわ》
主は一瞬寂しげな表情を見せたが、女を真っ直ぐ見つめてはっきり告げる。
「よく分からないけど、復讐した後のことを考えていないならただ虚しいだけだよ」
《復讐の、後…》
「それからももやもやしたものを抱えたままなのはきっと辛いよ。
復讐したい気持ちそのものを否定する権利は誰にもないと思うけど、私はあなたが頑張ったことを知りたい。真っ黒な感情をひきずってほしくないんだ」
《あ、ああ…》
相手は涙を零し、その場にしゃがみこむ。
敵意はないようだが、このままでは救われたとは言えないだろう。
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