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終幕
番外篇『ふたりの時間』☆
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...正直に言うと、欲求を抑えていられる自信がない。
「千夜、大丈夫か?」
「う、うん...」
本当は今すぐ呑みたい。
けれど、ここでは呑まないと決めているから。
ちゃんと耐えきろうと思う。
(...喉が渇いた。呑みたい、今すぐ呑みたくてしかたない...どうしよう)
営業時間が終わるまで、あと二時間ほど。
その間だけでも、なんとか我慢したい。
お客さんがいつも以上に少ないのが不幸中の幸いだ。
「...っ、はあ」
「千夜、これ飲んどけ」
言われたとおり飲んでみると、それはアイスココアだった。
喉のとおりと冷たさで、なんとなく分かる。
「...味濃いめのものがあると耐えやすいらしいから」
「ありがとう」
その後、こっそり売り上げのなかにお金を入れているのを見た。
...恐らく、さっきのココア代だ。
本当は私が払わないといけないのに、真昼は何も言わずに払ってくれている。
(...何かお礼しないと)
帰り道、私は家から近い場所にある自販機に向かって走る。
「千夜?」
そこで、真昼がいつも飲んでいる珈琲缶を差し出す。
「さっきはありがとう。すごく嬉しかった」
「...そ、それならよかった」
真昼は恥ずかしそうにしながら受け取ってくれた。
これだけでお礼になるとは思っていないけれど、取り敢えず渡したかった。
...何もせずにはいられなかった。
「これで、ちゃんとおかえしになってるとは思ってないけど、」
「いや、充分だ。ありがとう」
真昼のありがとうは、いつだって心の奥まで届く。
「私、ちゃんと真昼の役にたててる?」
「...あのなあ」
真昼はため息混じりに真っ直ぐな言葉をくれた。
「俺はおまえに役にたってほしいとか、そういう邪な考えを持って一緒にいるわけじゃない。...ただ側にいたいからいるんだよ」
「え...」
そんな言葉が聞けるとは思っていなかった私は、だんだん恥ずかしくなってくる。
「そ、そこで黙るな...」
そう言う真昼の顔も真っ赤になっていて、二人して俯く。
こんなにも幸せな時間を過ごせるとは思っていなかった私にとって、今この瞬間が奇跡だ。
この奇跡の欠片を大切に生きていこう、そう思う。
「...っ、駄目、喉が渇いてきた」
「急いで帰るぞ。...今日はおまえの家泊まらせてもらうから」
「う、うん」
曖昧に返事をして、再び歩き出す。
これから二人で、何度でも歩いていく。
...そんな想いを抱いたまま、噛み締めるように一歩を踏み出した。
「千夜、大丈夫か?」
「う、うん...」
本当は今すぐ呑みたい。
けれど、ここでは呑まないと決めているから。
ちゃんと耐えきろうと思う。
(...喉が渇いた。呑みたい、今すぐ呑みたくてしかたない...どうしよう)
営業時間が終わるまで、あと二時間ほど。
その間だけでも、なんとか我慢したい。
お客さんがいつも以上に少ないのが不幸中の幸いだ。
「...っ、はあ」
「千夜、これ飲んどけ」
言われたとおり飲んでみると、それはアイスココアだった。
喉のとおりと冷たさで、なんとなく分かる。
「...味濃いめのものがあると耐えやすいらしいから」
「ありがとう」
その後、こっそり売り上げのなかにお金を入れているのを見た。
...恐らく、さっきのココア代だ。
本当は私が払わないといけないのに、真昼は何も言わずに払ってくれている。
(...何かお礼しないと)
帰り道、私は家から近い場所にある自販機に向かって走る。
「千夜?」
そこで、真昼がいつも飲んでいる珈琲缶を差し出す。
「さっきはありがとう。すごく嬉しかった」
「...そ、それならよかった」
真昼は恥ずかしそうにしながら受け取ってくれた。
これだけでお礼になるとは思っていないけれど、取り敢えず渡したかった。
...何もせずにはいられなかった。
「これで、ちゃんとおかえしになってるとは思ってないけど、」
「いや、充分だ。ありがとう」
真昼のありがとうは、いつだって心の奥まで届く。
「私、ちゃんと真昼の役にたててる?」
「...あのなあ」
真昼はため息混じりに真っ直ぐな言葉をくれた。
「俺はおまえに役にたってほしいとか、そういう邪な考えを持って一緒にいるわけじゃない。...ただ側にいたいからいるんだよ」
「え...」
そんな言葉が聞けるとは思っていなかった私は、だんだん恥ずかしくなってくる。
「そ、そこで黙るな...」
そう言う真昼の顔も真っ赤になっていて、二人して俯く。
こんなにも幸せな時間を過ごせるとは思っていなかった私にとって、今この瞬間が奇跡だ。
この奇跡の欠片を大切に生きていこう、そう思う。
「...っ、駄目、喉が渇いてきた」
「急いで帰るぞ。...今日はおまえの家泊まらせてもらうから」
「う、うん」
曖昧に返事をして、再び歩き出す。
これから二人で、何度でも歩いていく。
...そんな想いを抱いたまま、噛み締めるように一歩を踏み出した。
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