30 / 74
第29話
しおりを挟む
おにぎりを食べながら、少し重い沈黙が流れる。
温かいお茶を飲んでいると、桜雪ちゃんがメモを見せてくれた。
「【さっきはありがとうございました。迷惑をかけてすみませんでした】」
「迷惑だなんて思ってないよ。いつもあんな感じなの?」
「【いつもの店員さんだと、書いたものを見せれば会話ができます。
今日はたまたま上手くいかなかったけど、大丈夫です】」
あれだけ酷いことをされて大丈夫なはずがない。
「さっきの店員さんたち、ふたりとも見たことなかったから最近入ったんだろうけど…それにしても酷い対応だったね」
桜雪ちゃんの鞄にはパスケースがついていて、中には見覚えのある赤字に白い十字とハートのマークが書かれたものが見えるように入っていた。
「それ、ヘルプマークでしょ?それに、筆談するって分かるようにノートのシールをパスケースに貼ったんだよね?」
「……【ヘルプマークの近くは余白じゃないといけないって書いてあったので、必要なときだけ見えるように手作りしたんです】」
ヘルプマークというのは、簡単に言えば助けが必要な場合がある人たちがお守りにしているものだ。
体が不自由だったり心臓が弱かったり、パニック発作をおこしたり…症状は人によって違う。
「役場に貰いに行かなかったの?」
「【私は声が出なかったり、少し休めばよくなる症状があるだけなので…。
本当に困る人に思いやりが届かなくなるならこれでいいって思ったんです】」
桜雪ちゃんは優しい。
だけど、やっぱりそこに自分自身は含まれていないようだ。
「この前もああいうことがあったの?ビデオ通話した日…元気なかったでしょ?」
メモに急ぎめで書いている桜雪ちゃんの姿にはっとして言葉を止めた。
「ごめん、話すのが早すぎたよね。もっとゆっくり書いて。ちゃんと待ってるから」
残っていたおにぎりと焼き鳥を一切れ口にする。
少し冷めていたものの、いつもより美味しく感じた。
「【慣れているので大丈夫です。耳が聞こえていないと思われていて、色々言われることもあるけど──】」
続きの文字が滲んでいる。
どう声をかけようか迷ったけど、遠回しに言うのが苦手な俺は率直に伝えることにした。
「桜雪ちゃんはいつも大丈夫って言うけど、俺から見た桜雪ちゃんはすごく傷ついてるように見える。
嫌なことを我慢して、大丈夫、慣れてるって笑って…。みんなに話すのが無理なら、俺にこっそり教えてくれない?
上手く言えないんだけど、桜雪ちゃんがひとりで苦しんでいるのは嫌なんだ」
ぱっと顔をあげた桜雪ちゃんは、目をこすりながらメモにはっきり言葉をぶつける。
「【慣れてきたのは本当です。でも、いつも平気で笑っていられるわけじゃない。辛い】」
そっと髪に触れたけど、嫌がられている様子はないのでそのまま頭を撫でる。
辛い…その言葉に重みを感じた。
温かいお茶を飲んでいると、桜雪ちゃんがメモを見せてくれた。
「【さっきはありがとうございました。迷惑をかけてすみませんでした】」
「迷惑だなんて思ってないよ。いつもあんな感じなの?」
「【いつもの店員さんだと、書いたものを見せれば会話ができます。
今日はたまたま上手くいかなかったけど、大丈夫です】」
あれだけ酷いことをされて大丈夫なはずがない。
「さっきの店員さんたち、ふたりとも見たことなかったから最近入ったんだろうけど…それにしても酷い対応だったね」
桜雪ちゃんの鞄にはパスケースがついていて、中には見覚えのある赤字に白い十字とハートのマークが書かれたものが見えるように入っていた。
「それ、ヘルプマークでしょ?それに、筆談するって分かるようにノートのシールをパスケースに貼ったんだよね?」
「……【ヘルプマークの近くは余白じゃないといけないって書いてあったので、必要なときだけ見えるように手作りしたんです】」
ヘルプマークというのは、簡単に言えば助けが必要な場合がある人たちがお守りにしているものだ。
体が不自由だったり心臓が弱かったり、パニック発作をおこしたり…症状は人によって違う。
「役場に貰いに行かなかったの?」
「【私は声が出なかったり、少し休めばよくなる症状があるだけなので…。
本当に困る人に思いやりが届かなくなるならこれでいいって思ったんです】」
桜雪ちゃんは優しい。
だけど、やっぱりそこに自分自身は含まれていないようだ。
「この前もああいうことがあったの?ビデオ通話した日…元気なかったでしょ?」
メモに急ぎめで書いている桜雪ちゃんの姿にはっとして言葉を止めた。
「ごめん、話すのが早すぎたよね。もっとゆっくり書いて。ちゃんと待ってるから」
残っていたおにぎりと焼き鳥を一切れ口にする。
少し冷めていたものの、いつもより美味しく感じた。
「【慣れているので大丈夫です。耳が聞こえていないと思われていて、色々言われることもあるけど──】」
続きの文字が滲んでいる。
どう声をかけようか迷ったけど、遠回しに言うのが苦手な俺は率直に伝えることにした。
「桜雪ちゃんはいつも大丈夫って言うけど、俺から見た桜雪ちゃんはすごく傷ついてるように見える。
嫌なことを我慢して、大丈夫、慣れてるって笑って…。みんなに話すのが無理なら、俺にこっそり教えてくれない?
上手く言えないんだけど、桜雪ちゃんがひとりで苦しんでいるのは嫌なんだ」
ぱっと顔をあげた桜雪ちゃんは、目をこすりながらメモにはっきり言葉をぶつける。
「【慣れてきたのは本当です。でも、いつも平気で笑っていられるわけじゃない。辛い】」
そっと髪に触れたけど、嫌がられている様子はないのでそのまま頭を撫でる。
辛い…その言葉に重みを感じた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる