182 / 216
暗闇
しおりを挟む
取り柄がない...それは周囲からかけられた言葉によって生まれた価値観なのだろうか。
「あなたにも、いいところがあると思います。たとえば、美味しいと言って作ったものを食べきってもらえるのは嬉しいです。
それから、ここに入った瞬間一礼する丁寧さも持っている...誰しもができることではありません」
誰かが店に入った瞬間から、どんな些細なことも見逃さない...沢山の人たちを見てきた経験が少しは生きたらしい。
「そんなふうに言ってもらえたのは初めてです。...ああした方がいい、こうすれば出来損ないのおまえの為になるっていつも言われるから。
あの家で褒められたことなんて、多分1度もないんです」
少女は大人びた笑みをこちらに向ける。
年相応の経験をしていれば、あんな表情にはならないだろう。
「いつだって私がやることは全部否定して、自分の跡継ぎにしようと必死で...誰も私自身なんて見てないんです。
でも、ここのご飯は温かくてとても美味しいです。何も食べてなかったからか、余計にそう感じました」
自分の子どもを跡継ぎにしようと必死で、その子の個性を見つめられない...そんな悲しいことがあるだろうか。
彼女は寂しげに笑って、デザートにと出したカボチャのミルフィーユをゆっくり口に運ぶ。
お嬢様というわけではないのだろうが、彼女の息苦しさはその域に達しているかもしれない。
「あなたの話を、もう少し聞かせてもらえませんか?」
「つまらない話です。私は会社を継ぐように言われていますが、もっと他にやりたいことがあります。
でも、それを認めてくれていた人を亡くしました。独りで頑張るしかないのに、日に日に絶望していくばかりで...」
それはそうだろう。
大切な人を失い、悲しむ間もなく先が見えないなか動いている。
「私には価値なんてないんです。誰も私のことなんて見ていない...見えているのは、あの人の子どもという残酷すぎる現実だけ。
最悪ですよね。私はあの人たちのことなんて全然家族とも思ってないのに」
少女の心は泣いていて、見ているこちらも胸が締めつけられる。
『本来であれば1番安心できる場所が、不安ばかりがつもっていく場所である場合がある。俺にできることは少ないけど、もう少し力になれないかいつも考えてるんだ。
...残念なことに、今のところいい方法がないんだけどね』
持ち物を観察して、仕草を観察して...どんな言葉を伝えるのが1番いいのかなんて分からない。
だが、それでも彼女の瞳に宿る何かを少しでも祓うことはできるだろうか。
「...やっぱり君には、いいところがあると思う。少なくても、俺から見た君にはいいところが沢山あるよ」
「あなたにも、いいところがあると思います。たとえば、美味しいと言って作ったものを食べきってもらえるのは嬉しいです。
それから、ここに入った瞬間一礼する丁寧さも持っている...誰しもができることではありません」
誰かが店に入った瞬間から、どんな些細なことも見逃さない...沢山の人たちを見てきた経験が少しは生きたらしい。
「そんなふうに言ってもらえたのは初めてです。...ああした方がいい、こうすれば出来損ないのおまえの為になるっていつも言われるから。
あの家で褒められたことなんて、多分1度もないんです」
少女は大人びた笑みをこちらに向ける。
年相応の経験をしていれば、あんな表情にはならないだろう。
「いつだって私がやることは全部否定して、自分の跡継ぎにしようと必死で...誰も私自身なんて見てないんです。
でも、ここのご飯は温かくてとても美味しいです。何も食べてなかったからか、余計にそう感じました」
自分の子どもを跡継ぎにしようと必死で、その子の個性を見つめられない...そんな悲しいことがあるだろうか。
彼女は寂しげに笑って、デザートにと出したカボチャのミルフィーユをゆっくり口に運ぶ。
お嬢様というわけではないのだろうが、彼女の息苦しさはその域に達しているかもしれない。
「あなたの話を、もう少し聞かせてもらえませんか?」
「つまらない話です。私は会社を継ぐように言われていますが、もっと他にやりたいことがあります。
でも、それを認めてくれていた人を亡くしました。独りで頑張るしかないのに、日に日に絶望していくばかりで...」
それはそうだろう。
大切な人を失い、悲しむ間もなく先が見えないなか動いている。
「私には価値なんてないんです。誰も私のことなんて見ていない...見えているのは、あの人の子どもという残酷すぎる現実だけ。
最悪ですよね。私はあの人たちのことなんて全然家族とも思ってないのに」
少女の心は泣いていて、見ているこちらも胸が締めつけられる。
『本来であれば1番安心できる場所が、不安ばかりがつもっていく場所である場合がある。俺にできることは少ないけど、もう少し力になれないかいつも考えてるんだ。
...残念なことに、今のところいい方法がないんだけどね』
持ち物を観察して、仕草を観察して...どんな言葉を伝えるのが1番いいのかなんて分からない。
だが、それでも彼女の瞳に宿る何かを少しでも祓うことはできるだろうか。
「...やっぱり君には、いいところがあると思う。少なくても、俺から見た君にはいいところが沢山あるよ」
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
西伊豆の廃屋から東京のタワマンへ。美しき食人鬼たちは、人間を喰らって愛を成す
秦江湖
ライト文芸
【美しき兄妹、実は食人鬼】
西伊豆の心中屋敷に踏み込んだ者たちは、二度と帰ってこない。 そこにいたのは、か弱い兄妹ではなく、獲物を待つ「捕食者」だった。
精神病棟から帰還した妹・世璃(より)は、死んだ姉の皮を被った「人食いの怪物」。 足の不自由な兄・静(しずか)は、妹に「肉」を与える冷徹な支配者。
遺産目当ての叔父、善意を押し付ける教師、興味本位の配信者、そして因習に縛られた自警団……。 「弱者」を狩りに来たつもりの愚か者から順番に、今日の献立が決まっていく。
それは食事であり、共犯の儀式であり、二人だけの愛の証明。
西伊豆の廃屋から、東京のタワーマンションへ。 最上階を新たな「城」にした二人の、残酷で美しい捕食記録が幕を開ける。
「お兄様、今日のごはんはなあに?」 「――ああ、今日はとても元気のいい『獲物』が届いたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる