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泣けないver.
嗚咽
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「お風呂沸いたから、ゆっくり入っておいで。ご飯も何か作っておくね」
「...ごめんなさい」
その言葉を聞くと、やはり不安にしかならない。
『涙が枯れてしまったみたいで泣けないの』...初めて出会った日、詩音が無表情のままそう告げたのをよく覚えている。
そのときから彼女は壊れそうな状況を必死に生きてきて、漸く笑うようになってきていたのに今はその頃に戻ったような表情だ。
「これなら食べられるかな?」
事前に下準備しておいたとんかつをゆっくり揚げていくのだけれど、どうしても集中できない。
「...お風呂、ありがとう」
「もう出たの?もう少しゆっくりしてきてもよかったのに」
「...」
やはり様子がおかしい。
いや、そんな言葉で片づけてはいけないような気がする。
瞳には翳ばかりが広がっていて、まるで絶望のなかに独りで立ち尽くしているようだ。
「...何があったの?」
「今日は、保健室の先生がいなかった。だから、鍵は開けておきなさいって言われた。
...少しトイレに行って、戻ってきたらこの状態」
それは、詩音にとって何よりも大切なノートだった。
落書きがすさまじくて、今回はきちんと綺麗にできるか分からない。
「それじゃあ、びしょ濡れだったのは?」
「...途端に具合が悪くなって、放課後またトイレに行った。
そうしたら、上から降ってきた。多分バケツ」
どうしてそこまで酷いことができるのだろう。
そしてそれは、一体何の為にやることなのか...心が理解できていない。
「成績がいいからって調子に乗ってるって、クズは掃除してやるって言われた。
...私、何か間違ったことをしたのかな」
「詩音...」
「誰だって、最初からなりたくて保健室登校になる訳じゃない。体が弱いから、心が傷ついたから、教室に入りづらいから...理由は人それぞれでいっぱいあるはずなのに。
それでもテストを受ければ単位をとれるっていう校則は守って、夢を追って...それは間違ってるの?調子に乗ってることなの?」
最後の方には詩音を抱きしめていた。
どうしても抱きしめずにはいられなかったのだ。
その体は震えていて、今話した全ての言葉が本心なのだと理解する。
「辛かったのに話してくれてありがとう。今日はずっと1人で頑張ったんだね...。
それなのに、嫌なことばかりされて1日ずっと本当に踏ん張って...詩音は間違ってなんかいない。
全然間違ったことなんかしてないんだよ」
やはりずっと我慢していたようで、詩音は声をあげて泣きはじめた。
「...もう嫌だ」
「詩音?」
「もう無理、明日は休みたい...」
「僕、明日は休みだし...今夜はこのまま泊まっていって」
正直に言うとこのまま家に帰す方が不安だった。
...明日になったら、彼女がいなくなってしまうような気がして。
泣きじゃくる小さな背中をさする。
誰にも頼れない辛い状況。
こんなぼろぼろな状態まで追いこまれても、『本人の責任だ』と言える人間はいるのだろうか。
「...ごめんなさい」
その言葉を聞くと、やはり不安にしかならない。
『涙が枯れてしまったみたいで泣けないの』...初めて出会った日、詩音が無表情のままそう告げたのをよく覚えている。
そのときから彼女は壊れそうな状況を必死に生きてきて、漸く笑うようになってきていたのに今はその頃に戻ったような表情だ。
「これなら食べられるかな?」
事前に下準備しておいたとんかつをゆっくり揚げていくのだけれど、どうしても集中できない。
「...お風呂、ありがとう」
「もう出たの?もう少しゆっくりしてきてもよかったのに」
「...」
やはり様子がおかしい。
いや、そんな言葉で片づけてはいけないような気がする。
瞳には翳ばかりが広がっていて、まるで絶望のなかに独りで立ち尽くしているようだ。
「...何があったの?」
「今日は、保健室の先生がいなかった。だから、鍵は開けておきなさいって言われた。
...少しトイレに行って、戻ってきたらこの状態」
それは、詩音にとって何よりも大切なノートだった。
落書きがすさまじくて、今回はきちんと綺麗にできるか分からない。
「それじゃあ、びしょ濡れだったのは?」
「...途端に具合が悪くなって、放課後またトイレに行った。
そうしたら、上から降ってきた。多分バケツ」
どうしてそこまで酷いことができるのだろう。
そしてそれは、一体何の為にやることなのか...心が理解できていない。
「成績がいいからって調子に乗ってるって、クズは掃除してやるって言われた。
...私、何か間違ったことをしたのかな」
「詩音...」
「誰だって、最初からなりたくて保健室登校になる訳じゃない。体が弱いから、心が傷ついたから、教室に入りづらいから...理由は人それぞれでいっぱいあるはずなのに。
それでもテストを受ければ単位をとれるっていう校則は守って、夢を追って...それは間違ってるの?調子に乗ってることなの?」
最後の方には詩音を抱きしめていた。
どうしても抱きしめずにはいられなかったのだ。
その体は震えていて、今話した全ての言葉が本心なのだと理解する。
「辛かったのに話してくれてありがとう。今日はずっと1人で頑張ったんだね...。
それなのに、嫌なことばかりされて1日ずっと本当に踏ん張って...詩音は間違ってなんかいない。
全然間違ったことなんかしてないんだよ」
やはりずっと我慢していたようで、詩音は声をあげて泣きはじめた。
「...もう嫌だ」
「詩音?」
「もう無理、明日は休みたい...」
「僕、明日は休みだし...今夜はこのまま泊まっていって」
正直に言うとこのまま家に帰す方が不安だった。
...明日になったら、彼女がいなくなってしまうような気がして。
泣きじゃくる小さな背中をさする。
誰にも頼れない辛い状況。
こんなぼろぼろな状態まで追いこまれても、『本人の責任だ』と言える人間はいるのだろうか。
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