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其の壱
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次に目を開けると外はもう真っ暗で、体には布団がかけられていた。
「ああ、ごめん。起こした?」
「いえ」
夢かと思っていたが、そういうわけではないらしい。
「さっきの話の続き、してもいいかな?その子が眠っている間に終わらせたい」
「……分かりました」
義政さんの話によると、神宮寺家というのは有名な祓い屋の家系らしい。
あの男からそんな気配は一切感じなかったが、妖たちが視えていたのだろうか。
「視える家系から視える人間が生まれ続けるとは限らない。勿論逆もしかりだ。
だから、君たちの家にやってくる不審者は視えてなかったんじゃないかな?」
「そうですか」
「荷物、必要最低限だけ用意してくれる?学校は転校する必要がないように手続きしておくから」
「ありがとうございます」
「それから、君が我流で使っていた術式なんだけど…あれは強すぎる。あれじゃあ誰彼構わず吹き飛ばしちゃうよ」
「どういうことですか?」
このとき初めて知ったのが、血液で術式を書くと力が強くなりすぎるということだった。
「相手に忠告を与える程度なら、こういう特殊な墨を使った方がいい」
「墨、ですか?」
「書道で書く感じで、さっき書いてた術式をこの紙に書いてみて」
言われたとおりにやると、義政さんはうんうんと頷きながらにっこり笑ってとんでもないことを言いはじめた。
「それじゃあ、あっちから入りこもうとしてる奴に投げつけてみようか」
「あそこまで届くほど力がありません」
「力技でやるより、当てるイメージを強くしながら投げてごらん」
家の外にはたしかに大きな妖がいて、不気味な声をあげている。
覚悟を決め、指示通りに投げてみた。
普段そんなに飛ばなかった札は、真っ直ぐ相手に吸いこまれるように命中する。
《ひ、ひい!》
相手は小さく悲鳴をあげ、そのままどこかへ逃げていった。
「なんで…」
「霊力のこめ方や投げるときのイメージ、どういう形になってほしいのか…そういうのが札に伝わると上手くいくんだ。
君は妖全てを壊したいとは考えていないんだろう?だから自分の爆撃に迷いがある。違う?」
その言葉に小さく頷く。
いい妖にも怪我をさせてしまったことがあり、それから札を直接投げるのが怖くなっていた。
だから半年ほど所属していた弓道部で練習した結果、弓を使った方が命中率があがることに気づいたのだ。
「それだけ弓が上手かったら心配いらない気もするけど、札を単体で使えたら技の幅が広がるんだ」
彼の言葉には説得力があった。
あんなふうに水を自在に操るところを見れば、実力がある人だということくらいすぐ分かる。
「…あの」
「どうかした?あ、住む場所は君たちのお母さんが内緒で用意してた場所があって…」
「…それもなんですけど、もっと札の使い方を教えてほしいです。
誰彼構わず傷つける力じゃなくて、誰かを護れるように」
我流では限界だったことを思いきってお願いしてみる。
断られると思ったのに、義政さんは困り顔で頷いた。
「弁護士としての仕事もあるから、毎日は無理だけど…しばらくは色々な手続きで来るし、仕事の合間でよければ教えてあげる。
ただ、俺も家の資料を見て独学した身だから参考になるかどうか…」
「お願いします」
大人は信用できないと思っていたが、この人なら大丈夫な気がする。
頭を下げてお願いして、なんとか聞き入れてもらえた。
「玄関で待ってるから、荷物をまとめたら教えて。彼女は俺が抱えておくから」
「ありがとうございます」
穂乃のお気に入りのおもちゃやランドセルに着替え、自分の制服一式…そして、我流で編み出したアイテムの数々。
自分の着替えは殆ど持っていなかったのでそれくらいだ。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
ふたりで生活することへの不安は若干あったものの、怖い大人たちが来なくなるというだけで安心する。
義政さんの車に乗せてもらい、少し離れたマンションへ向かった。
「ああ、ごめん。起こした?」
「いえ」
夢かと思っていたが、そういうわけではないらしい。
「さっきの話の続き、してもいいかな?その子が眠っている間に終わらせたい」
「……分かりました」
義政さんの話によると、神宮寺家というのは有名な祓い屋の家系らしい。
あの男からそんな気配は一切感じなかったが、妖たちが視えていたのだろうか。
「視える家系から視える人間が生まれ続けるとは限らない。勿論逆もしかりだ。
だから、君たちの家にやってくる不審者は視えてなかったんじゃないかな?」
「そうですか」
「荷物、必要最低限だけ用意してくれる?学校は転校する必要がないように手続きしておくから」
「ありがとうございます」
「それから、君が我流で使っていた術式なんだけど…あれは強すぎる。あれじゃあ誰彼構わず吹き飛ばしちゃうよ」
「どういうことですか?」
このとき初めて知ったのが、血液で術式を書くと力が強くなりすぎるということだった。
「相手に忠告を与える程度なら、こういう特殊な墨を使った方がいい」
「墨、ですか?」
「書道で書く感じで、さっき書いてた術式をこの紙に書いてみて」
言われたとおりにやると、義政さんはうんうんと頷きながらにっこり笑ってとんでもないことを言いはじめた。
「それじゃあ、あっちから入りこもうとしてる奴に投げつけてみようか」
「あそこまで届くほど力がありません」
「力技でやるより、当てるイメージを強くしながら投げてごらん」
家の外にはたしかに大きな妖がいて、不気味な声をあげている。
覚悟を決め、指示通りに投げてみた。
普段そんなに飛ばなかった札は、真っ直ぐ相手に吸いこまれるように命中する。
《ひ、ひい!》
相手は小さく悲鳴をあげ、そのままどこかへ逃げていった。
「なんで…」
「霊力のこめ方や投げるときのイメージ、どういう形になってほしいのか…そういうのが札に伝わると上手くいくんだ。
君は妖全てを壊したいとは考えていないんだろう?だから自分の爆撃に迷いがある。違う?」
その言葉に小さく頷く。
いい妖にも怪我をさせてしまったことがあり、それから札を直接投げるのが怖くなっていた。
だから半年ほど所属していた弓道部で練習した結果、弓を使った方が命中率があがることに気づいたのだ。
「それだけ弓が上手かったら心配いらない気もするけど、札を単体で使えたら技の幅が広がるんだ」
彼の言葉には説得力があった。
あんなふうに水を自在に操るところを見れば、実力がある人だということくらいすぐ分かる。
「…あの」
「どうかした?あ、住む場所は君たちのお母さんが内緒で用意してた場所があって…」
「…それもなんですけど、もっと札の使い方を教えてほしいです。
誰彼構わず傷つける力じゃなくて、誰かを護れるように」
我流では限界だったことを思いきってお願いしてみる。
断られると思ったのに、義政さんは困り顔で頷いた。
「弁護士としての仕事もあるから、毎日は無理だけど…しばらくは色々な手続きで来るし、仕事の合間でよければ教えてあげる。
ただ、俺も家の資料を見て独学した身だから参考になるかどうか…」
「お願いします」
大人は信用できないと思っていたが、この人なら大丈夫な気がする。
頭を下げてお願いして、なんとか聞き入れてもらえた。
「玄関で待ってるから、荷物をまとめたら教えて。彼女は俺が抱えておくから」
「ありがとうございます」
穂乃のお気に入りのおもちゃやランドセルに着替え、自分の制服一式…そして、我流で編み出したアイテムの数々。
自分の着替えは殆ど持っていなかったのでそれくらいだ。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
ふたりで生活することへの不安は若干あったものの、怖い大人たちが来なくなるというだけで安心する。
義政さんの車に乗せてもらい、少し離れたマンションへ向かった。
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