裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第6話

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「ただいま」
「お、おかえりなさい」
家に置いてもらって数日、だいぶこの家のサイクルに慣れてきた。
春人が帰ってくるのはいつも深夜、私はあまり眠れないのでいつも起きている。
「また起きて待っててくれたの?眠かったら寝てていいのに…」
「眠くならなくて、その、」
「謝らなくていいから。ただ、毎食ご飯を用意してもらうのが申し訳ないだけ」
時々言葉が足りなくて分かりづらいこともあるけれど、本当に優しい人だと思う。
「君も一緒に食べるんだよね?それとも、もう食べ終わった?」
「いえ、私はあまりお腹がすいていないので…」
「そのままだと倒れる。ご飯はちゃんと食べた方がいい。
それに、折角君が作ったものなんだから」
夜食を断ろうとすると、必ずそんな言葉をかけてくれる。
人様の家に匿ってもらっているうえにここまでしてもらうのは申し訳ないと思いつつ、静かに両手をあわせた。
「…いただきます」
「いただきます」
独りでいた頃より世界が明るく見えるのは、きっと気のせいなんかじゃない。
しばらく黙って口を動かしていると、春人が口を開いた。
「…その子、名前つけないの?」
春人に唐突に訊かれたのは、先日買ってもらったテディベアについてだった。
「名前、つけたことがないので…」
「…ラビ」
「え?」
「俺のうさぎ、ラビっていうんだ。うさぎって英語でラビットでしょ?…すごく単純な名前になった」
「でも、愛を感じます」
名前には必ず愛情がこめられる…どこかで聞いたそんな話をふと思い出し、つい口にしてしまう。
…失礼だっただろうか。
「そうだね。…そうかもしれない」
春人が少し寂しそうな表情をしたのは何故だろうか。
「それじゃあやっぱり、その子にも名前があった方がいい」
「…チェリー、とかどうでしょうか?」
「足のところに桜が刺繍されてるから?」
ただ1度だけゆっくり頷くと、春人はふっと笑っていいと思うと話してくれた。
「チェリーブロッサムのチェリーね…俺よりセンスあると思う」
「そんなことは、ないと思います」
「…君はもっと自信を持っていいと思うよ、月見」
春人は優しくそんな言葉をかけてくれる。
一緒に生活をしていて感じるのは、言葉には魔法があるということだ。
彼からもらうものは今までかけられたどんなそれよりも温かくて、とにかく気持ちが落ち着く。
こういう感情をほっとするとよぶのかもしれない。
「後片づけは俺でもできるから、君はもう休んで」
「あ、うん…」
食べ終わると春人は必ず食器を片づけてくれる。
こういう作業は分担した方がいいからと引き受けてくれるのがありがたい。
「おやすみ、月見」
「おやすみなさい」
住ませてもらっている部屋に入る前、必ず名前を呼んでおやすみと声をかけてもらえるのが嬉しい。
ここに来てから本当にいいことばかりだ。


──ただ、相変わらず能力のことは話せていない。
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