裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
25 / 385
春人ルート

第13話

しおりを挟む
…これは一体、どうやって食べればいいのだろう。
「そんなに考えなくても、好きなところから食べてみればいい。
崩さずに食べるなんて至難の業だから、余程行儀悪くなければ大丈夫だよ」
「は、はい…」
ご飯を食べて少ししてから、ケーキというものに初めて向き合っている。
春人はそう言ってくれるものの、一気に崩してしまうのはなんだか申し訳ない。
それに、やっぱり初めてのものということもあって不安になってしまう。
「…このはじっこを崩すと、汚い食べ方にはならない」
「は、はい…いただきます」
ずっと怖がっていても仕方がないので、思いきって一口食べてみる。
「美味しい…」
「それはよかった」
瞬間、ぽろりと何かが零れ落ちる。
それは次第に止まらなくなっていって、自分でもどうしてこんなに溢れているのか分からない。
「大丈夫…?」
「ご、ごめんなさ…」
春人を困らせたい訳じゃないのに、歪みながら目にうつるのは彼の戸惑う表情だった。
人前ではできるだけ泣かないようにしてきたつもりだったのに、今は何故か止められない。
「泣きたいときは我慢なんてしなくていい。思いきり泣いていいんだよ」
思いきり泣く…?
それは一体、どうすればできるのだろうか。
それとも、今の状態はそれができていることになる…?
混乱する頭を抱えながら考えていると、そっと優しく撫でられた。
「泣かないでとは言わない。…俺には、泣いてもいいよとしか言えない」
「ごめんなさ…」
止めたいのに止められない。
空からは雨が降り続けている。
どうかこの複雑でよく分からない想いも、一緒に流していってはくれないだろうか。
「…落ち着いた?」
「……ごめんなさい」
「そんなに謝る必要はない。美味しかったならそれでいいんだ」
とても美味しかった。ただ、少しだけ疑問がある。
「あ、あの…」
「どうかした?」
「どうして、この味だったんですか?」
春人が食べていたのは、真っ白なクリームに真っ赤な苺がついているものだった。
私がもらったものはチョコレートの味がして、どうしてわざわざ選んでくれたのか疑問だったのだ。
「それは…君がよくチョコレート菓子を選ぶからチョコレートケーキにしただけだよ」
同じもので全然構わないのに、彼はこうして気遣ってくれる。
それがとてもありがたくて、ただ一礼することしかできなかった。
「ありがとう、ございます」
「たまたまあったから買ってきただけだよ」
「…あの、春人は白いクリームのケーキが好きなんですか?」
「うん。…昔、いつも買ってきてくれてたから」
それは、他の3人のなかの誰かだろうか。
…いや、もしそうならこんな表情はしないだろう。
まるで何かを思い出すように、黒柿色の髪が寂しげに揺れたような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...