裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第17話

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「随分難しい本を読んでいるんだね」
「そ、そうでしょうか…?」
この日も春人は深夜に出掛けていって、ラビとチェリーを撫でながらたまたま近くにあった本を読んでいた。
「それ、翻訳される前のものなのに読めるの?」
「一応読むことはできます。陰で少しずつ勉強していたからでしょうか…」
「そういうことしてたんだ」
【みにくいアヒルの子】や【蕀姫】は私に少しだけ似ているような気がして、いつもその2冊で勉強していた。
私にはアヒルのように迎え入れてくれる人はいないと思っていたのに、今こうして外に出ることができている。
…ただ、私を包む蕀さんたちには謎が多いままだ。
普通の人にはこんな力なんてない。
それならどうして私だったのだろう。
「…大丈夫?」
「ごめんなさい、すぐ片づけます」
「それは別にいいんだけど、何か考え事?」
どうしてこの人には分かってしまうのだろう。
けれど、ここにいたい私はなんでもないと誤魔化した。
このまま一生話せずに終わってしまうのだろうか。
それとも、いつかはちゃんと話すことができる…?
「何か飲み物でも飲む?」
「えっと、それじゃあ…紅茶を淹れます」
「それじゃあ俺は何かお菓子を作るよ」
「…いえ、私がやります」
春人は料理が本当に苦手らしいことは知っている。
この前も一生懸命野菜炒めを作っていたけれど、上手くいかずに俯いている姿を見た。
それに、疲れているところを無理してまでやってほしいとは思えない。
「なら、俺は食器を用意しておく。何かしないと落ち着かないんだ」
ホットケーキならすぐ作れるので、フライパンを動かしながらソースをどうするか考える。
板チョコがあるのを見つけ、それで作ってみることにした。
「ソースまでついて随分本格的だね。…ありがとう」
「いえ。私にできることはこれくらいしかありませんので」
春人の言葉は胸に沁みるけれど、その優しさにいつまでも甘えていいのか分からない。
私は一緒にいさせてほしいと思っているものの、置いてもらっている身でそんなことまで望んでいいのだろうか。
……人付き合いをしたことがない私には、距離感が分からなかった。
「これで完成です」
「…丁度頭を使って疲れたところだったから助かったよ。いただきます」
もしもまずかったらどうしよう、そう考えると頭が真っ白になりそうになる。
しばらくしてから勢いよく手が伸びてきて、思わず目を閉じてしまう。
…叩かれると思ったのに、いつまでも痛みはやってこない。
目を開けると、春人の手は頭に置かれていた。
「今日も美味しかった。ありがとう」
「い、いえ……」
こんなふうに笑ってもらえるならもっと頑張ろう。

──春人はどうして私を叩いたりしないのかな。
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