裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
59 / 385
春人ルート

第43話

しおりを挟む
春人がお仕事をしているのは、誰かの力になりたいからだと思っていた。
けれど、もしかするとその人に対する償いのような意味もこめられているのかもしれない。
「…ほら、俺の話なんて暗くてつまらなかったでしょ?」
複雑そうな表情を浮かべる彼に、どんな言葉をかけていいのか分からない。
ただ、これだけははっきり言える。
「…私は、あなたのことをもっと知りたいです。今日も話してもらえて、嬉しかったです」
「やっぱり君はちょっと変わってるよね」
春人の心を知れば、もっと近づけるんじゃないかと思った。
もっと分かることもあるんじゃないかってそう考えていたけれど、彼の過去は深い闇で覆われている。
「…今のお仕事のこと以外も、その方に教わったんですか?」
「うん。…料理以外は」
「ピアノも、ですか?」
「…それじゃあ今度は、もう少し平和的な話をするよ。
あの人が教えてくれたことは、生きる為に必要なことばかりで…外国語だったり楽器だったり、あとはマナーや勉強が中心だった」
先程のしんみりしていた空気が嘘のように晴れやかなものになり、聞いているだけで楽しい話を沢山してくれた。
いくつか楽器を試して1番合っていたのがピアノだったこと、5つの国の言葉を覚えたこと、はじめは失敗ばかりだったこと…。
「あの人はいつも言ってた。『もしも自分の周りに、疲れたら休んでいいって言ってくれる人がいるならそれは幸せだ』って。
…あの人は性別や年齢も気にせずに色々な人を助けていた。そういう誰かの味方になれる人になりたかった」
春人の声には悔しさが滲んでいて、どんな言葉をかけるのがいいのかまた分からなくなってしまった。
少し沈黙が流れた後、彼はゆっくり立ち上がる。
「…飲み物を淹れてくる。その後でまた話をしよう」
「分かりました」
春人に少しでも感謝の気持ちを伝えたい。
私に何ができるのかなんて全然分からないままだけれど、助けてくれたことに対しても…優しくしてくれることに対してもお礼を言いたいと思った。
「あ、あの…」
「どうかしたの?」
「春人がその人に近づいているかとか、そういうことは分からないんですけど…私にとって、あなたはヒーローです。
いつも助けてくれて、本当にありがとうございます」
出会ったときから助けてもらってばかりだ。
不審者がきたとき、雪乃のお店で蕀さんたちに力を借りたとき…今の生活の中でも、いつも助けてもらっている。
色々なことを思い返していたとき、体が抱き寄せられた。
「あ、あの…」
「…まさか誰かにそんなふうに言ってもらえる日がくるなんて思わなかった。ごめん、しばらくこうしていてもいい?」
「も、勿論です」
少し驚いたけれど、それで少しでも気持ちが安らぐならそれでいい。
私はただ、春の日だまりのような温もりを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...