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春人ルート
第42.5話
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春海さんは、とにかくこの世界のいいことを全て集めたような人だった。
だからこそ護りたかったのに、いつだって神というものは残酷らしい。
「…いつもどこかで困っている人の為に戦う人だった。俺にもできることはないかって訊いたら、ただ待っていてほしいって…。
それを、俺もヒーローになりたいからって食い下がってお願いしたんだ。それが、今仕事をできている理由」
春海さんの人脈はとてつもないもので、そのコミュニティの中で出会った人たちも大勢いる。
その場所で出会ったなかに秋久や冬真がいたわけだが、それは同時に裏社会にどっぷり入っていくということだった。
「途中からは夏彦や雪乃も一緒に暮らしてる時期もあった。…雪乃は春海さんの養子としてやってきたんだって言ってたから、俺たちとはまた少し事情が違うんだろうけど」
「…そう、だったんですね」
月見はそう呟きながら、自らを落ち着かせようと飲み物を流しこんでいる。
申し訳なくなり話すのをやめようとすると、真っ直ぐな瞳で射抜かれた。
「…お話、もっと聞かせてほしいです」
「本当にいいの?」
頷く彼女を前に、頭を整理してから続けることにした。
「それからしばらく経ったある日、あの人が死んだと連絡を受けた。自分から車の前に飛び出したんだって。…でも、そんなはずない。
そもそも、見せられた遺体は春海さんじゃなかった」
「え…?」
「機械工場に潜入したとき、あの人は左手の小指を欠損していた。
だけど、その遺体には指の骨がばらばらにならずに全部残っていたんだ」
「それじゃあ、全然違う人が亡くなっていて…」
「俺はそう思ってる。表舞台に出なくてもいい、せめて顔も知らない誰かの為になれたならって必死に働いてた。
…多分、誰かが知られたくないことを知られて消したんだと思う」
あの人はいつもハルと大切そうに呼んでくれた。
ただの子供がいうことも信じてくれて、捜査までしてくれて…そのうえ、危険な仕事からは遠ざけてくれていたのだ。
「あの人が消されてしまうということは、次に狙われるのはあの人の家族だ」
「だから、雪乃は…」
「そう。雪乃だけは正式な養子として迎え入れた記録が残っているからどうしても逃がすしかなかった。
…俺は戸籍を作ってもらっただけの関係だと思われていたし、夏彦には一応名乗れる名字と名前があったからね」
大切なものほどすぐになくなってしまう。
ただいまとおかえりがあるだけで充分幸せだったのに、たった一瞬で平穏さえも失うことになった。
「俺は事件の真相が知りたい。あの人の無念をはらして、ちゃんと弔えば自分も前を向けるような気がするから」
犯人のことは赦せないが、それはあの人との約束に反する。
──ただ、相手が誰であろうが事実を全て明らかにしてみせるだけだ。
だからこそ護りたかったのに、いつだって神というものは残酷らしい。
「…いつもどこかで困っている人の為に戦う人だった。俺にもできることはないかって訊いたら、ただ待っていてほしいって…。
それを、俺もヒーローになりたいからって食い下がってお願いしたんだ。それが、今仕事をできている理由」
春海さんの人脈はとてつもないもので、そのコミュニティの中で出会った人たちも大勢いる。
その場所で出会ったなかに秋久や冬真がいたわけだが、それは同時に裏社会にどっぷり入っていくということだった。
「途中からは夏彦や雪乃も一緒に暮らしてる時期もあった。…雪乃は春海さんの養子としてやってきたんだって言ってたから、俺たちとはまた少し事情が違うんだろうけど」
「…そう、だったんですね」
月見はそう呟きながら、自らを落ち着かせようと飲み物を流しこんでいる。
申し訳なくなり話すのをやめようとすると、真っ直ぐな瞳で射抜かれた。
「…お話、もっと聞かせてほしいです」
「本当にいいの?」
頷く彼女を前に、頭を整理してから続けることにした。
「それからしばらく経ったある日、あの人が死んだと連絡を受けた。自分から車の前に飛び出したんだって。…でも、そんなはずない。
そもそも、見せられた遺体は春海さんじゃなかった」
「え…?」
「機械工場に潜入したとき、あの人は左手の小指を欠損していた。
だけど、その遺体には指の骨がばらばらにならずに全部残っていたんだ」
「それじゃあ、全然違う人が亡くなっていて…」
「俺はそう思ってる。表舞台に出なくてもいい、せめて顔も知らない誰かの為になれたならって必死に働いてた。
…多分、誰かが知られたくないことを知られて消したんだと思う」
あの人はいつもハルと大切そうに呼んでくれた。
ただの子供がいうことも信じてくれて、捜査までしてくれて…そのうえ、危険な仕事からは遠ざけてくれていたのだ。
「あの人が消されてしまうということは、次に狙われるのはあの人の家族だ」
「だから、雪乃は…」
「そう。雪乃だけは正式な養子として迎え入れた記録が残っているからどうしても逃がすしかなかった。
…俺は戸籍を作ってもらっただけの関係だと思われていたし、夏彦には一応名乗れる名字と名前があったからね」
大切なものほどすぐになくなってしまう。
ただいまとおかえりがあるだけで充分幸せだったのに、たった一瞬で平穏さえも失うことになった。
「俺は事件の真相が知りたい。あの人の無念をはらして、ちゃんと弔えば自分も前を向けるような気がするから」
犯人のことは赦せないが、それはあの人との約束に反する。
──ただ、相手が誰であろうが事実を全て明らかにしてみせるだけだ。
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