裏世界の蕀姫

黒蝶

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春人ルート

第50話

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「いただきます。…うん、美味しい」
「よかったです」
それは夕食時、唐突に覚えた違和感。
……なんだかいつもより春人が話しているような気がする。
黙々と食べ進めないのではなく食べ進められないのだとしたら、今の私に何ができるだろう。
「あ、あの…痛いんです、よね」
「何の話?」
「いつもより沢山お話しているのは、痛いのを我慢する為ですよね…?」
「そういう訳じゃない。話していれば、気はが紛れるから…ただそれだけ」
「何から気を紛らわせるんですか?」
そう訊くと、春人は息を吐いてぽつりと呟いた。
「降参。実は結構痛みを感じてる。鈍くなった方だと思ってたんだけど、残念ながらそうじゃなかったみたい」
痛みを感じづらくなる理由は訊かなくても分かる。
それはきっと、私と同じで…受けてきた経験があるからだ。
殴られたり叩かれたり、そういうものをずっとやられていると心が動かなくなる。
まるで錆びついた機械みたいに、どの方向にも進めなくなってしまうのだ。
痛くてもやめてはもらえないから、最後にはある程度の痛みならいつの間にか感じなくなっている。
「横になった方がいいです。ご飯、お部屋に運んでもいいですか?」
「ありがとう。そうしてもらえると助かる」
表情が歪んで、すごく我慢しているのが分かる。
気づけなくて申し訳なかったと反省しつつ、部屋まで食事を運んだ。
「それでは、失礼します」
「…ねえ」
見ていては邪魔になって休めないだろうと部屋を出ようとすると、いつもより弱い力で袖を握られる。
ふりかえると、彼は首を傾げながら言った。
「ここで一緒に食べないの?」
その言葉はあまりにも意外なもので、つい固まってしまった。
部屋に入らないでほしいと言われていたのに、今日はもう入ってしまっている。
「あの、私がいたら、邪魔に…」
「ならない。寧ろ、誰かと食べた方が落ち着く。それに、今日は見たら大変なことになるような資料は置いてないから…食べよう」
黒柿色の髪をかきあげながら、春人は少し気まずそうにそう呟く。
舞いあがってしまいそうになりながらも、はいと一言返事をして自分の分を持ってきた。
相変わらず机の上は沢山の資料でいっぱいで、目を向けないようにする。
事件のことを調べているのだろうか。
「早く食べないと冷める」
「そうですね。では…いただきます」
どこに視線をやっていいのか困っていると、足元に何かあるのを確認する。
拾ってみると、そこから小さな子どもたちと女性が写っているものだった。
「あの…この方が、大切な人ですか?」
そう訊いた瞬間、春人が凍りついた。
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