裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第50話

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「今日もお疲れ様!最近不審者がこのあたりで確認されてるらしいから、気をつけて帰ってね」
扉の向こうからそんな声がして、お店を閉める時間になったのだと気づく。
作業に没頭していたせいか、時間の感覚が全くない。
「…ソルト、帰りましょう」
そう声をかけたものの、反応がない。
よく見るとすやすやと寝息をたてていて、少し安心した。
大切なものを見つけるのは難しいけれど、それが壊れてしまうのは一瞬だから。
「月見ちゃん、入ってもいい?」
「は、はい」
慌てて見返していたメモ用紙を仕舞う。
大切なレシピをなくすわけにはいかない。
「今日は少し食材を買っていこうか」
「あの、ソルトは…」
「そうだった、どうしようかな。まだ留守番はさせられそうにないし…お店の外、つながせてもらっておこうか」
意味がよく分からなかったけれど、私はただ頷く。
ただ、スーパーまで辿り着いてもソルトが起きなかったので結局お店には入れなかった。
「商店街の店、まだ開いててよかった…。これから冬になるにつれて、あのあたりのお店は早く閉めるところが多いんだ。
お客さんがなかなかこないって苦戦してた」
「そう、なんですね…」
買ったものをテーブルに広げて、取り敢えず夕飯の支度をする。
「ソルト、起きた?もう家だけど、猫缶食べ…痛い、そんなに猫パンチ繰り出されたら流石に痛いから!」
怪我が治りきっていない夏彦を見ていることしかできないのは辛い。
だからこそ、なんでもいいから好きなものを用意したいと思った。
それで少しでも気分転換になればと考えたのだ。
「何か手伝えることあるかな?」
「大丈夫です。えっと…あんまり、無理しないでほしいです」
「分かった、ちょっと休んでるね。ありがとう」
頭をぽんぽん撫でられて、さっきよりもやる気が出てくる。
後ろの様子も見ながら夕飯を完成させて、夏彦に声をかけた。
「あの…できました」
「ごめんね、最近は任せっぱなしで…」
「いえ、大丈夫です。やりたくてやっていることなので」
彼はとても律儀な人だ。
だからこそ、傷つけるような言い方はしたくない。
「月見ちゃんの手の包帯、俺が巻いてもいいかな?」
「私は、いいですけど…無理、してないですか?」
「してないよ。心配してくれてありがとう。だけど、俺がやりたいんだ」
その言葉はやっぱり優しいもので、すぐにお礼の言葉を伝える。
開いた窓から入ってくる風で、彼の向日葵色の髪が揺れた。
今、どんなことを考えているんだろう。
私にそれを知ることは赦されるだろうか。
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