裏世界の蕀姫

黒蝶

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夏彦ルート

第86.5話

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「夏彦」
「ハル?」
真っ暗な部屋で手品師から聞いた話を総合して報告書をまとめていると、マグカップを持ったハルが来てくれた。
「ありがとう」
「珈琲と角砂糖を持ってきた。…あと、カフェオレがいいならこれ淹れて」
「相変わらず優しい…」
「何に感激してるの?」
ふたりでいる時間は意外と気が抜ける。
それは相手が友人だからなのか、或いはずっと戦い続けてきた戦友だからなのかは分からない。
それでも、数え切れないくらい感謝している。
「…夏彦」
「どうしたの?」
「ひとつ訊きたい」
「俺に答えられることならね」
「…あの子には、植物を育てる才能でもあるの?」
月見ちゃんの能力については話すつもりはない。
まさかハルもそんな力が存在しているとは思っていないから、育てる才能という表現をしているのだろう。
だが、もしここで下手な反応を見せたら確実にアウトだ。
「どうかな…。昔の話、あんまりしたがらないから聞いてないんだ」
「…そう」
彼女と似たような傷を心に負っているハルには、過去のことを掘り返されるのがどれだけ辛いか分かるはずだ。
少し申し訳なく思いつつ、一先ず難を逃れた。
「それで、どうやって捕まえるつもり?また手品師が絡んできたらまー君のメンタルが持たないだろうし、早く解決したいところではあるよね…」
「資料まとめるの手伝うから、どれだったら見ていいのか教えて」
「いいの?正直猫の手も借りたいくらいだったから俺は助かるけど…」
「冬真のことは一理ある。それなら資料を早くまとめないと作戦が組めない」
ただでさえ業務過多になっている秋久たちには頼めないと思っていたので、はっきり言ってありがたい。
どれくらい時間が経ったか分からなくなった頃、漸く資料と報告書が完成した。
「ありがとう。本当に助かったよ」
「…別に。それで、彼女にはもう告白したの?」
「え?」
あまりに唐突すぎる質問に、冷めきった珈琲を吹き出しそうになる。
「い、いきなり何を言い出すかと思えば…」
「ごめん、これからだったんだ…」
「いやいや、何その微妙そうな視線!?」
ふたりでぎゃあぎゃあ言っていると扉が開く。
「これから血圧測らないといけないから、春人さんは少しだけ下がってて」
「分かりました」
にこやかな笑顔で敬語を使う春人には相変わらず慣れない。
あまり人との距離を詰めないようにしているようにも見えるけど、一体どうやって使い分けているのだろうか。
「…特に高くはなさそうだね」
「そっか、よかった。ありがとうまー君」
「別に。僕は僕の仕事をしているだけだから」
こういうちょっと素っ気ないところが春人に似ている。
なんとなく微笑ましく思っていると、ソルトを抱えた秋久が部屋にやってきた。
「悪いな、無理言って」
「いや、春人が手伝ってくれたおかげでもう終わったよ。…結論から言うと、もうあまり時間がないかもしれない」
途端に仕事の顔になる面々を見つめてはっきり告げる。
…そう、まずは目の前にある厄介事を全部片づけないといけない。
この気持ちを伝えるにしろそれからだ。
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