裏世界の蕀姫

黒蝶

文字の大きさ
237 / 385
秋久ルート

第4話

しおりを挟む
「突然だが、お嬢ちゃんの家について調べさせてもらった」
それは本当に突然の言葉で、頭が真っ白になる。
どんなことを知られたんだろう。
もしかすると、やっぱりあの家に帰るように言われてしまうのだろうか。
「…お嬢ちゃん」
「は、はい…」
「…今まで辛かったな」
「え…」
そんなふうに言われたことなんてなかった。
私にとってあの場所での生活が今までの普通で、こんなふうに優しく頭を撫でられたことさえなくて…どうしてこんなに心がじんわりしているんだろう。
「大変だったんだろうっていうのは現場に行った瞬間理解した。折角あの場所を離れたんだから、お嬢ちゃんが好きな方を選んでほしい」
「選ぶ、ですか?」
「ああ。…このままここに住むか、あの家に戻るか」
あの家には戻りたくない。
けれどもし、そう言ったら秋久さんを困らせてしまう。
誰かを困らせたいわけじゃないのに、どうすればいいんだろう…ぐるぐる考えていると、彼はまた頭を撫でてくれた。
「誰かを傷つけたり、悪いことをしてかける迷惑ってのは最悪だ。だが、今回は違う。
誰だってお嬢ちゃんみたいな扱いを受けたら逃げ出したくもなる。…お嬢ちゃんがどう思ってるのか聞かせてくれ」
私自身が選んでもいいなんて初めての経験で、本当に思っていることを話していいのか分からない。
もしも、私の願いが叶うなら…私は…
「ここにいても、いいんですか?」
「答えは昨日と変わらない。家事は手伝ってもらうことになるだろうが、あとは何も要求するつもりはない。
お嬢ちゃんがやりたいことをやって、のびのび過ごしてくれればいい」
「…あの場所には、帰りたくありません」
「じゃあ決まりだな。お嬢ちゃんがここで暮らす為に必要になる書類がある。字は書けるか?」
「は、はい…」
その書類にサインをしたら、私はあの場所に戻らなくてもいいということだろうか。
あの人たちに連れ戻されないか心配だ。
それに、ただでさえ迷惑をかけているのに、もしも秋久さんたちに余計迷惑をかけることになったら…そんな考えがどうしても消えてくれない。
「あんたは深く考えすぎだ」
「え…?」
「もっと気楽に構えてな。言ったろ、その為に俺達みたいなのがいるわけだから」
「あ、あの…」
「ん?」
「秋久さんは、どんなお仕事をしているんですか?」
訊いていいのか分からないけれど、どうしても気になってしまう。
秋久さんは少し困ったような表情をしていて、やっぱり訊いてはいけないことだったんだと反省した。
「…まあ、警察みたいなもんだ」
「そうなんですね…答えづらいことを訊いてしまってごめんなさい」
「お嬢ちゃんのせいじゃねえよ。そりゃあ、あんなふうに家を出たら誰だって気になる」
どうしてこんなに優しくしてくれるんだろうと思いながら、ここで頑張っていこうと決意する。
秋久さんがいつも撫でてくれるのが、何故かとても落ち着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...