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秋久ルート
第30話
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「お嬢ちゃん、気分転換に町に行かないか?」
「冬真さんたちも一緒ですか?」
「あのふたりはちょっと別の仕事があるんだ。ただの服屋とただの学生としての仕事がな」
「そうなんですね」
危ないことではなさそうで安心した。
秋久さんの力になれるなら一緒にいたいけれど、甘栗のことが心配になる。
「そんなに心配しなくても、甘栗ならこの時間は昼寝してる」
「知らなかったです」
秋久さんは無理をしていないか、他の人たちが危ない仕事をしていないかも不安だ。
そんな気持ちを見抜かれてしまったらしく、秋久さんはにこやかに言った。
「それから、俺たちはそう簡単にやられたりしない。護りたいものがあるとなんとなく強くなれる気がするんだ」
「そういうもの、なんでしょうか?」
「少なくとも俺はそう思ってる。もしかすると、思いこみの力ってやつかもしれないがな」
秋久さんと一緒に歩いて辿り着いたのは、今より色々なものに戸惑っていた頃に連れてきてもらったお店だった。
「いらっしゃ…ふたりとも、来てくれたのか」
「あれからあんまり顔を出せなくてすまない。ちょっと片づけててな」
「いや。こっちこそお連れ様に怪我を負わせてしまったのに、見舞いひとつできなくて…」
お連れ様の意味がよく分かっていなかったけれど、申し訳なさそうな表情と怪我をさせたという内容で理解した。
私があのとき負った怪我はもう治りきっている。
今治療を受けているのは、元々あった古傷や蕀さんたちを出したときにできたものだ。
「あの、私は本当に大丈夫なので気にしないでください」
「しかし…」
「お店が開いていて安心しました。私にとって、そのことが1番嬉しいです」
何か言いたそうにしていたお店の人の言葉を遮って気持ちを伝えると、相手は少しだけ複雑そうに笑った。
「本当に優しい子だな…ありがとう」
「い、いえ。そんなことないと思います」
そんな話をしていたけれど、やがて秋久さんがすごく申し訳なさそうに話しはじめた。
「悪い、急ぎで頼みたいことがある」
「今回は一体何をすればいいでしょうか?」
「少し調べものがあってな。この紙にまとめてあるものを用意してほしい」
「かしこまりました。…それじゃあ、飲み物持ってきます」
「あ、おい…」
秋久さんが呼び止めようとしていたものの、急ぎ足で厨房に行ってしまった。
胡桃色の髪をくしゃくしゃとかき乱して、彼は私の方を見る。
「少し話したらすぐ戻るつもりだったんだが、止められなかったな…。お嬢ちゃんさえよければ今回は厚意に甘えさせてもらおう」
「は、はい」
やっぱり話すときは緊張してしまうけれど、話ができるのはすごく楽しい。
「気分転換になりそうか?」
「え?」
「こんなことくらいしか思いつかなかったが、もう少し肩の力を抜いてほしい。いつも緊張してるみたいだったから、今日くらいは楽しくと思ったんだが…」
秋久さんのその心遣いだけで充分ありがたかった。
今はただ言葉にしてお礼を伝えることしかできないけれど、いつかもう少しできることを増やしたい。
「冬真さんたちも一緒ですか?」
「あのふたりはちょっと別の仕事があるんだ。ただの服屋とただの学生としての仕事がな」
「そうなんですね」
危ないことではなさそうで安心した。
秋久さんの力になれるなら一緒にいたいけれど、甘栗のことが心配になる。
「そんなに心配しなくても、甘栗ならこの時間は昼寝してる」
「知らなかったです」
秋久さんは無理をしていないか、他の人たちが危ない仕事をしていないかも不安だ。
そんな気持ちを見抜かれてしまったらしく、秋久さんはにこやかに言った。
「それから、俺たちはそう簡単にやられたりしない。護りたいものがあるとなんとなく強くなれる気がするんだ」
「そういうもの、なんでしょうか?」
「少なくとも俺はそう思ってる。もしかすると、思いこみの力ってやつかもしれないがな」
秋久さんと一緒に歩いて辿り着いたのは、今より色々なものに戸惑っていた頃に連れてきてもらったお店だった。
「いらっしゃ…ふたりとも、来てくれたのか」
「あれからあんまり顔を出せなくてすまない。ちょっと片づけててな」
「いや。こっちこそお連れ様に怪我を負わせてしまったのに、見舞いひとつできなくて…」
お連れ様の意味がよく分かっていなかったけれど、申し訳なさそうな表情と怪我をさせたという内容で理解した。
私があのとき負った怪我はもう治りきっている。
今治療を受けているのは、元々あった古傷や蕀さんたちを出したときにできたものだ。
「あの、私は本当に大丈夫なので気にしないでください」
「しかし…」
「お店が開いていて安心しました。私にとって、そのことが1番嬉しいです」
何か言いたそうにしていたお店の人の言葉を遮って気持ちを伝えると、相手は少しだけ複雑そうに笑った。
「本当に優しい子だな…ありがとう」
「い、いえ。そんなことないと思います」
そんな話をしていたけれど、やがて秋久さんがすごく申し訳なさそうに話しはじめた。
「悪い、急ぎで頼みたいことがある」
「今回は一体何をすればいいでしょうか?」
「少し調べものがあってな。この紙にまとめてあるものを用意してほしい」
「かしこまりました。…それじゃあ、飲み物持ってきます」
「あ、おい…」
秋久さんが呼び止めようとしていたものの、急ぎ足で厨房に行ってしまった。
胡桃色の髪をくしゃくしゃとかき乱して、彼は私の方を見る。
「少し話したらすぐ戻るつもりだったんだが、止められなかったな…。お嬢ちゃんさえよければ今回は厚意に甘えさせてもらおう」
「は、はい」
やっぱり話すときは緊張してしまうけれど、話ができるのはすごく楽しい。
「気分転換になりそうか?」
「え?」
「こんなことくらいしか思いつかなかったが、もう少し肩の力を抜いてほしい。いつも緊張してるみたいだったから、今日くらいは楽しくと思ったんだが…」
秋久さんのその心遣いだけで充分ありがたかった。
今はただ言葉にしてお礼を伝えることしかできないけれど、いつかもう少しできることを増やしたい。
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