裏世界の蕀姫

黒蝶

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秋久ルート

第45話

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「悪い。すっかり甘えっぱなしで…かっこ悪いところを見せたな」
「いえ。秋久さんはいつもかっこいいです」
それに、たまには甘えてみてほしい…なんて直接は言えないけれど、心ではそう思っていた。
「今日のこと、できれば誰にも言わないでほしい。知られたら恥ずかしくて誰とも目を合わせられそうにないからな」
「分かりました」
秋久さんの言葉は優しい。
笑っている姿は、無理をしているようには見えなかった。
その夜、眠れなくて部屋から出ようとすると扉の外から声がする。
「先輩、お疲れ様です!」
「資料はどうなってる?」
「こっちに揃えておきました」
「悪いな、激務なのに仕事増やして」
「いえ。先輩こそお忙しいでしょう?」
それは間違いなく花菜のものだ。
あんなことがあったばかりだからか、出ていこうと思っても足が重くて動かない。
「あの…月見は大丈夫でしょうか?」
「あれから話をして、今は少し落ち着いてるはずだ」
「よかった…。失言してすみませんでした。あと、次月見に会ったらちゃんと謝りたいです」
「そうだな。そのときは俺もできるだけのことはやる」
結局部屋から出ることはできなかったけれど、花菜の優しさには感謝しかない。
嫌がられても仕方がないと思っていたのに、どうしていつもこの人たちは温かいんだろう。
「…で、いつから聞いてた?」
「え?」
扉が開いたかと思うと、秋久さんがふっと笑っていて頭が混乱する。
どうして気づかれていたんだろう…そう思いながらじっと彼を見つめかえした。
「さっき気配がしたから、何となくそうなんじゃないかと思ったんだ。
その反応、どうやら予想どおりだったみたいだな」
「気配で分かるものなんですか…?」
「経験則だ。割と危ない現場も多いから、大事なものを護るのに必要だったんだ」
そう話す秋久さんの目には何かを思い出すような色が滲んでいて、思わず目の前の手を握ってしまった。
「月見は結構大胆なんだな」
「そうでしょうか?私は、大胆なんでしょうか?」
首を傾げていると、彼は肩を揺らして笑いはじめた。
何か変なことを言ったのか気になったけれど、笑ってくれているならそれでいい。
「おまえは本当に面白いな。一緒にいて飽きない」
「えっと…ありがとうございます?」
「なんで疑問形なんだ?」
「褒められているのか分からなかったので…」
「褒めてる。月見にはそのままでいてほしい」
胡桃色の髪がゆらゆら揺れたかと思うと、何かが勢いよく足にぶつかる。
「甘栗、そんなに慌てなくても俺たちは喧嘩してるわけじゃない。それとも、おまえも撫でてほしかったのか?」
そんな話をしているのが微笑ましくて、聞いているだけでほっこりする。
だんだん楽しくなっていると、秋久さんのズボンのポケットが小刻みに揺れた。
「…悪い、少し出てくる」
「気をつけてくださいね」
「ああ。心配しなくてもすぐ帰ってくる」
頭をわしわし撫でられて、寂しさが少しだけ吹き飛ぶ。
少しでも疲れた体を休めてほしいから、軽食を用意しておくことにした。
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