裏世界の蕀姫

黒蝶

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冬真ルート

第57話

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突然のことに頭が真っ白になる。
「それは、えっと…」
「いてくれないと、困る。どこにも行かないで」
やっぱりまだ寝ぼけているらしく、私の手を離してくれそうにない。
ただ、なんとなくひとりにしたくなくてそのまま横になる。
「狭くありませんか?」
「うん。これがいい」
そんなことを言われてしまったら、余計にふり解くことなんてできない。
されるがまま抱きしめられて目を閉じる。
冬真の腕の中はとても温かくて、すぐに意識がおちていった。
「…ごめん。起こした?」
あれからどれくらい時間が経ったんだろう。
目の前の冬真の表情はとても困ったものに見える。
背中に温かい感触があって、何が起きたのか思い出した。
まだ彼の腕の中にいることに気づいて、慌てて起きあがろうとする。
…体を起こそうとはしたけれど、何故か離してもらえなかった。
「どうしてこういう体勢でいるのか覚えてないんだ。…君にどんなことを言ったのか教えて」
「冬真は、朝が苦手なんですか?」
どう説明したらいいのか分からなくて、つい思ったことが口から零れてしまった。
「多分、普通の人よりは苦手。早く起きられないこともあるし、起きられても頭がふらふらして起きられないこともある」
「どこか具合が悪いんですか…?」
冬真なら無理をして我慢していそうで、思わずそんなことを訊いてしまう。
怒らせてしまったかもしれない…そんなことを考えていると、彼はいつものように笑った。
「病気じゃなくて体質だから、別に心配しなくて大丈夫だよ。
寝起き以外で低血圧の影響を受けることもないし、一定数の人が似たような体質なんだ」
「そうなんですね…」
その言葉を聞いて安心した。
もしそれが冬真だけの症状ならきっと辛いけれど、他にも同じような人たちがいるなら少しは辛さが和らぐだろう。
「この体勢だと僕から抱きしめたってことになると思うんだけど…僕、やっぱり何かした?」
「な、何もされていません」
「…そう」
流石に行かないでと言われて腕をひかれました、とは言えずに誤魔化すことにした。
冬真に嘘を吐くのは嫌だったけれど、やっぱり恥ずかしくなって言えそうにない。
「そういえば、今日は秋久さんが料理を習いにくる日だった」
「そうなんですか?それなら急がないと…」
「準備ならもう終わらせてあるから慌てなくていい。着替えたらキッチンに来て」
「分かりました。ありがとうございます」
念のため蕀さんで様子を窺うと、冬香さんは寝ているみたいだった。
近くに人の気配はなさそうで、少しだけ安心する。
もし今襲われたら、きっとひとたまりもないだろうから。
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