376 / 385
冬真ルート
第58話
しおりを挟む
「…完成」
「随分おしゃれな料理だな」
「まあ、一応それを意識して作ったから…」
「可愛らしいですね」
秋久さんが食べている間、時々表情を歪めていた冬真に声をかける。
「傷、痛むんですか?」
「まあ、多少は。だけど、そんなに心配する必要はないよ。…それより、君も食べてきたら?」
「もう食べました」
「…そう」
冬真はどこか憂鬱そうに見えるけれど、それ以上話す前に別の部屋へ行ってしまった。
やっぱり、痛いのをずっと我慢していたのかもしれない。
心配になっていると、遠慮がちに私を呼ぶ声がする。
「お嬢ちゃん、ちょっといいか?」
「は、はい」
秋久さんに呼ばれて駆け寄ると、不安そうな顔をしながら訊いてきた。
「冬真は元気か?」
「え?」
「最近ぼんやりしていることがあるから、あまり大学に行けなくて寂しい思いをしているんじゃないかと思ってな。
もしお嬢ちゃんが何か知っているなら教えてほしい」
流石に冬香さんのことを勝手に話すわけにはいかないけれど、変に誤魔化して冬真に迷惑をかけたくない。
「私から見た限りでは、特に変わった様子はないような気がします。秋久さんはすごいんですね。
私はこんなに近くにいても分からないことが多いのに、秋久さんは沢山知っているような気がします」
私より冬真のことを詳しく知っているだろうし、恐らく私が気づいていないことにだって目が向いている。
そう考えて勝手に落ちこんでいると、秋久さんが優しく撫でてくれた。
「お嬢ちゃんを追いつめるつもりじゃなかったんだ。それに、お嬢ちゃんしか知らない冬真の一面だってあると思うぞ」
「そうでしょうか?」
「随分お嬢ちゃんに心を開いてるみたいだからな。俺としてはありがたい。
お嬢ちゃんさえよければ、これからも冬真の側にいてやってほしい」
「私でよければ頑張ります」
そんなふうに思ってもらえていたのは嬉しいけれど、冬真と冬香さんのことは気になる。
ただ、それを誰かに話す勇気はなかった。
「どうかしたの?もしかして、さっきのレシピがいまいちだったとか…」
「そういうことじゃない。お嬢ちゃんがここでの生活に慣れたのか訊いてただけだ。
それから、冬真が優しくしているのかどうかを知りたかった」
秋久さんはきっと、心配していると話したら冬真が申し訳なさそうにすることを知っている。
それなら、私から何かを言うのはいけない気がした。
「そろそろ仕事に戻る。また教えてくれ、先生」
「どうしてそんな呼び方するの?…まあ、嫌じゃないからいいけど」
秋久さんが出たのを確認して、冬真はすぐに往診の準備をした。
「君も来る?」
「は、はい」
ふたりでいつものように廃教会へ向かう。
なんだか冬真の表情が暗い気がした。
「やあ、ふたりとも。まさかここまで律儀に通ってくれるとは思わなかったよ」
開口一番、冬真は冬香さんに真剣な声で告げた。
「…あんた、どんな生活してるの?」
「随分おしゃれな料理だな」
「まあ、一応それを意識して作ったから…」
「可愛らしいですね」
秋久さんが食べている間、時々表情を歪めていた冬真に声をかける。
「傷、痛むんですか?」
「まあ、多少は。だけど、そんなに心配する必要はないよ。…それより、君も食べてきたら?」
「もう食べました」
「…そう」
冬真はどこか憂鬱そうに見えるけれど、それ以上話す前に別の部屋へ行ってしまった。
やっぱり、痛いのをずっと我慢していたのかもしれない。
心配になっていると、遠慮がちに私を呼ぶ声がする。
「お嬢ちゃん、ちょっといいか?」
「は、はい」
秋久さんに呼ばれて駆け寄ると、不安そうな顔をしながら訊いてきた。
「冬真は元気か?」
「え?」
「最近ぼんやりしていることがあるから、あまり大学に行けなくて寂しい思いをしているんじゃないかと思ってな。
もしお嬢ちゃんが何か知っているなら教えてほしい」
流石に冬香さんのことを勝手に話すわけにはいかないけれど、変に誤魔化して冬真に迷惑をかけたくない。
「私から見た限りでは、特に変わった様子はないような気がします。秋久さんはすごいんですね。
私はこんなに近くにいても分からないことが多いのに、秋久さんは沢山知っているような気がします」
私より冬真のことを詳しく知っているだろうし、恐らく私が気づいていないことにだって目が向いている。
そう考えて勝手に落ちこんでいると、秋久さんが優しく撫でてくれた。
「お嬢ちゃんを追いつめるつもりじゃなかったんだ。それに、お嬢ちゃんしか知らない冬真の一面だってあると思うぞ」
「そうでしょうか?」
「随分お嬢ちゃんに心を開いてるみたいだからな。俺としてはありがたい。
お嬢ちゃんさえよければ、これからも冬真の側にいてやってほしい」
「私でよければ頑張ります」
そんなふうに思ってもらえていたのは嬉しいけれど、冬真と冬香さんのことは気になる。
ただ、それを誰かに話す勇気はなかった。
「どうかしたの?もしかして、さっきのレシピがいまいちだったとか…」
「そういうことじゃない。お嬢ちゃんがここでの生活に慣れたのか訊いてただけだ。
それから、冬真が優しくしているのかどうかを知りたかった」
秋久さんはきっと、心配していると話したら冬真が申し訳なさそうにすることを知っている。
それなら、私から何かを言うのはいけない気がした。
「そろそろ仕事に戻る。また教えてくれ、先生」
「どうしてそんな呼び方するの?…まあ、嫌じゃないからいいけど」
秋久さんが出たのを確認して、冬真はすぐに往診の準備をした。
「君も来る?」
「は、はい」
ふたりでいつものように廃教会へ向かう。
なんだか冬真の表情が暗い気がした。
「やあ、ふたりとも。まさかここまで律儀に通ってくれるとは思わなかったよ」
開口一番、冬真は冬香さんに真剣な声で告げた。
「…あんた、どんな生活してるの?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる