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第1章『はじまりの物語』
第2話
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「いらっしゃい、氷空ちゃん」
「こんにちは、おばさん」
できるだけ心配をかけまいと笑ってみせたものの、おばさんにはいつだってお見通しだ。
「…その頬の傷、またやられたの?」
「ちょっと色々あって…」
まさか帰りが遅くなったから物を投げられて運悪くあたった、なんて言えない。
「住む場所はもう決まった?」
「うん。だけど、本当によかったの?」
「いいのよ。初期費用くらいは出させてほしかったの。私がもっと強ければ、あなたと一緒に暮らせたのに…」
実はあの人には内緒で貯めているお金がある。
一応フリーで仕事ができるサイトに登録していて、事務仕事や人が足りていない場所のバイトに入っているのだ。
それに、どうしても叶えたい夢がある。
あの地獄から脱出するために、なんとか安いマンションの部屋を借りられることになったのだ。
保証人はおばさんと彼女と仲良しの人がなってくれることになった。
「氷空ちゃん、あなたはあの人のお世話係じゃない。
あなたはあなたらしく生きて。それが私の1番の願いよ」
「ありがとう、おばさん」
私の味方は、私を引き取ってここまで育ててくれたおばさんだけ。
おばさんは行き場のない私を支えてくれた。
……だからこそ、心配をかけたくない。
「おばさん、ありがとう。また遊びに来てもいい?」
「うん。いつでも連絡してね」
あの人には泊まると話したが、実はそんな予定はない。
今日確認したかったのは、ふたり暮らしのはずの部屋にもうひとり人間がいるかの確認だ。
「たっくん、あたしも大好き!」
「週末また会える?」
「勿論!今夜もゆっくりしていってね!」
父親は物心ついた頃にはいなかった。
亡くなったということしか知らない私にとって、とても遠い存在だ。
そして今日分かったのは、全く知らない男が出入りしていて、あの人が楽しそうにしているということ。
……私がいると会えなくて邪魔だから出ていってほしかったんだね。
そのままふらふら歩いて、気づいたときには駅のホームに立っていた。
もう電車が来る時間ではないのに、一体何をしているんだろう。
無人駅だから怒られることもないし、ここで一夜を過ごして…過ごして、またあの生活に戻る?
あと少し我慢すればあの人から自由になれる…あと少しって、どれくらい?
何をやっても叱られる日々に、
希望を見いだせない生活に、
思い描けない未来に、
全てのことに疲れた。
「──やめよう」
そう呟いた瞬間、ぱっと光がさしこむ。
こんな時間に来るはずがない列車が目の前に停まっていて、招き入れるようにドアがゆっくり開いた。
こんな怪しい列車なら乗らないのが普通だろう。
それでも、どこまでも連れていってくれそうな底に足を踏み入れる。
「行こう。きっと楽しいよ」
いつも持っているぬいぐるみに話しかけて、座れる場所を探す。
夜空色の服を着た車掌さんがやってきて、にっこり微笑まれた。
「切符はお持ちですか?」
「えっと……」
ズボンのポケットに手を入れると、固いものが指に触れる。
それ間違いなく切符だった。
「ありがとうございます!」
明るく話して車掌さんは去っていく。
訳も分からず近くの席に腰掛け、無言で本を読み漁る。
──どれくらい時間が経っただろう。
遠慮がちに肩をたたかれて、ふと顔をあげる。
そこに立っていたのは、車掌服を纏った見知った顔。
「お客様、何かご注文は……」
相手も気づいたらしく、表情がひきつる。
「宵月く、」
「ちょっとこっち来て」
腕を掴まれ、慌てて荷物を持ったまま個室のような場所に連れて行かれる。
首を傾げていると、宵月君は不思議そうにこちらを見つめた。
「どうしてここにいるの?」
「こんにちは、おばさん」
できるだけ心配をかけまいと笑ってみせたものの、おばさんにはいつだってお見通しだ。
「…その頬の傷、またやられたの?」
「ちょっと色々あって…」
まさか帰りが遅くなったから物を投げられて運悪くあたった、なんて言えない。
「住む場所はもう決まった?」
「うん。だけど、本当によかったの?」
「いいのよ。初期費用くらいは出させてほしかったの。私がもっと強ければ、あなたと一緒に暮らせたのに…」
実はあの人には内緒で貯めているお金がある。
一応フリーで仕事ができるサイトに登録していて、事務仕事や人が足りていない場所のバイトに入っているのだ。
それに、どうしても叶えたい夢がある。
あの地獄から脱出するために、なんとか安いマンションの部屋を借りられることになったのだ。
保証人はおばさんと彼女と仲良しの人がなってくれることになった。
「氷空ちゃん、あなたはあの人のお世話係じゃない。
あなたはあなたらしく生きて。それが私の1番の願いよ」
「ありがとう、おばさん」
私の味方は、私を引き取ってここまで育ててくれたおばさんだけ。
おばさんは行き場のない私を支えてくれた。
……だからこそ、心配をかけたくない。
「おばさん、ありがとう。また遊びに来てもいい?」
「うん。いつでも連絡してね」
あの人には泊まると話したが、実はそんな予定はない。
今日確認したかったのは、ふたり暮らしのはずの部屋にもうひとり人間がいるかの確認だ。
「たっくん、あたしも大好き!」
「週末また会える?」
「勿論!今夜もゆっくりしていってね!」
父親は物心ついた頃にはいなかった。
亡くなったということしか知らない私にとって、とても遠い存在だ。
そして今日分かったのは、全く知らない男が出入りしていて、あの人が楽しそうにしているということ。
……私がいると会えなくて邪魔だから出ていってほしかったんだね。
そのままふらふら歩いて、気づいたときには駅のホームに立っていた。
もう電車が来る時間ではないのに、一体何をしているんだろう。
無人駅だから怒られることもないし、ここで一夜を過ごして…過ごして、またあの生活に戻る?
あと少し我慢すればあの人から自由になれる…あと少しって、どれくらい?
何をやっても叱られる日々に、
希望を見いだせない生活に、
思い描けない未来に、
全てのことに疲れた。
「──やめよう」
そう呟いた瞬間、ぱっと光がさしこむ。
こんな時間に来るはずがない列車が目の前に停まっていて、招き入れるようにドアがゆっくり開いた。
こんな怪しい列車なら乗らないのが普通だろう。
それでも、どこまでも連れていってくれそうな底に足を踏み入れる。
「行こう。きっと楽しいよ」
いつも持っているぬいぐるみに話しかけて、座れる場所を探す。
夜空色の服を着た車掌さんがやってきて、にっこり微笑まれた。
「切符はお持ちですか?」
「えっと……」
ズボンのポケットに手を入れると、固いものが指に触れる。
それ間違いなく切符だった。
「ありがとうございます!」
明るく話して車掌さんは去っていく。
訳も分からず近くの席に腰掛け、無言で本を読み漁る。
──どれくらい時間が経っただろう。
遠慮がちに肩をたたかれて、ふと顔をあげる。
そこに立っていたのは、車掌服を纏った見知った顔。
「お客様、何かご注文は……」
相手も気づいたらしく、表情がひきつる。
「宵月く、」
「ちょっとこっち来て」
腕を掴まれ、慌てて荷物を持ったまま個室のような場所に連れて行かれる。
首を傾げていると、宵月君は不思議そうにこちらを見つめた。
「どうしてここにいるの?」
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