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第4章『暴走』
第21話
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「あ、れ……」
「気づいた?」
氷雨君の不安げな表情を見て起きあがろうとしたけれど、やんわり止められる。
「まだ無理しない方がいい」
全身から痛みがなくなっていたけれど、まだ頭がくらくらする。
言われたとおり横になると、氷雨君は申し訳なさそうに呟く。
「多分瘴気にあてられたんだ」
「しょう、き?」
「怨念を溜めこみすぎた死霊の体から出る真っ黒な煙って表現すると分かりやすい?」
「さっきの…」
「生身の人間が吸った事例がないからどう対応すべきか分かってなかったけど、やっぱり吸いこんだらいけないものだったんだ。
ガスマスクを外したまま会いに行ったでしょ?…ごめん。それがきっとよくなかったんだ」
そこまで謝らなくてもいいのに、というのが正直な感想だった。
外したのも、それでいいと思っていたのも私だ。
「ひさめく、悪くな……。は、したの、私…から」
「舌、あんまり回らないみたいだね」
ちゃんと伝えたいのに、上手く言葉が出てこない。
氷雨君は分かっていると言いながら頭を撫でてくれた。
「俺がちゃんと見てなかったのも悪いのに、悪くないなんて…君は本当に優しいんだね」
「……」
私は全然優しくなんてない。
首を少し横にふると、彼は不思議そうに真っ直ぐ見つめてくる。
「君がどれだけ否定しても、君の優しさであのお客様は…中島さんは救われた。
君にお詫びとお礼を伝えておいてほしいって話していたよ」
その言葉に安心しつつ、外の景色を見てみる。
いつも往路はお客様と話をしながら見ているけれど、復路は寝てしまうから見たことがない。
「空、綺麗……」
「今日は星がよく見える。普段はもう少し雲がかかるんだけど、ばっちり晴れているからかな」
きらきら輝く星は私の心を癒やしてくれる。
それと同時に、ひとつ疑問が浮かびあがった。
ただ、今の状態では尋ねるのも難しい。
「何か飲めそう?水かお茶がいいよね…」
「お、お茶が、いい」
「分かった。すぐ淹れるから待ってて」
自分で用意できないのが申し訳ない。
ただ、こんなふうに誰かに看病してもらうのは久しぶりで心が温かくなった。
「それを飲み終わる頃にはもうついてると思うけど、歩ける?」
「……うん」
多分としか言いようがないけど、マンションまでならなんとか帰れそうだ。
「この後特に予定もないし、もし動けそうにないなら送っていくけど」
「大、丈夫」
「…そう」
そこまで迷惑を掛けるわけにはいかない。
「学校、来られそうになかったら休んだ方がいい。無理に来ても辛いだろうから」
「あ、ありがとう」
沢山の物語があって、その終着点が死だったと思うと見ていて哀しくなる。
それこそ、硝子越しに見える星の数より多いのかもしれない。
沢山の物語と向き合っているうちに、氷雨君のことも知れるだろうか。
くらくらする頭を抱えて起きあがると、いつの間にか見覚えのある駅に辿り着いていた。
「気づいた?」
氷雨君の不安げな表情を見て起きあがろうとしたけれど、やんわり止められる。
「まだ無理しない方がいい」
全身から痛みがなくなっていたけれど、まだ頭がくらくらする。
言われたとおり横になると、氷雨君は申し訳なさそうに呟く。
「多分瘴気にあてられたんだ」
「しょう、き?」
「怨念を溜めこみすぎた死霊の体から出る真っ黒な煙って表現すると分かりやすい?」
「さっきの…」
「生身の人間が吸った事例がないからどう対応すべきか分かってなかったけど、やっぱり吸いこんだらいけないものだったんだ。
ガスマスクを外したまま会いに行ったでしょ?…ごめん。それがきっとよくなかったんだ」
そこまで謝らなくてもいいのに、というのが正直な感想だった。
外したのも、それでいいと思っていたのも私だ。
「ひさめく、悪くな……。は、したの、私…から」
「舌、あんまり回らないみたいだね」
ちゃんと伝えたいのに、上手く言葉が出てこない。
氷雨君は分かっていると言いながら頭を撫でてくれた。
「俺がちゃんと見てなかったのも悪いのに、悪くないなんて…君は本当に優しいんだね」
「……」
私は全然優しくなんてない。
首を少し横にふると、彼は不思議そうに真っ直ぐ見つめてくる。
「君がどれだけ否定しても、君の優しさであのお客様は…中島さんは救われた。
君にお詫びとお礼を伝えておいてほしいって話していたよ」
その言葉に安心しつつ、外の景色を見てみる。
いつも往路はお客様と話をしながら見ているけれど、復路は寝てしまうから見たことがない。
「空、綺麗……」
「今日は星がよく見える。普段はもう少し雲がかかるんだけど、ばっちり晴れているからかな」
きらきら輝く星は私の心を癒やしてくれる。
それと同時に、ひとつ疑問が浮かびあがった。
ただ、今の状態では尋ねるのも難しい。
「何か飲めそう?水かお茶がいいよね…」
「お、お茶が、いい」
「分かった。すぐ淹れるから待ってて」
自分で用意できないのが申し訳ない。
ただ、こんなふうに誰かに看病してもらうのは久しぶりで心が温かくなった。
「それを飲み終わる頃にはもうついてると思うけど、歩ける?」
「……うん」
多分としか言いようがないけど、マンションまでならなんとか帰れそうだ。
「この後特に予定もないし、もし動けそうにないなら送っていくけど」
「大、丈夫」
「…そう」
そこまで迷惑を掛けるわけにはいかない。
「学校、来られそうになかったら休んだ方がいい。無理に来ても辛いだろうから」
「あ、ありがとう」
沢山の物語があって、その終着点が死だったと思うと見ていて哀しくなる。
それこそ、硝子越しに見える星の数より多いのかもしれない。
沢山の物語と向き合っているうちに、氷雨君のことも知れるだろうか。
くらくらする頭を抱えて起きあがると、いつの間にか見覚えのある駅に辿り着いていた。
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