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第11章『迷人』
第58話
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氷雨君も何かを感じ取ったのか、少女に優しく声をかける。
「行き先、または帰り道が分からないということでよろしいでしょうか?」
《分からないというか、そもそもなんで列車に乗ったかも謎なんです。全然覚えがないから…》
「それでは、先程お話されていた外出時のことをもう少し詳しく覚えていらっしゃいませんか?」
《そうだな…たしか、財布を忘れたことに気づいて、家に帰ろうとして…途中で転びました。
体を起こそうとしたけど、上手く力が入らなかった。…なのに、僕は今列車に乗ってる。…もしかして、死んだんですか?》
少女は無垢な瞳を向けて氷雨君に問いかける。
そんな彼女に氷雨君は静かに答えた。
「そうですね。このまま進むとあなたは死にます。ですが、今ならまだ引き返せます。
…生死の境をさまよっている、といえば分かりやすいでしょうか」
《そうなんですね。それなら、このまま進みます。僕が僕でいられる場所に行きたいから》
「あなたを待っている人が現世に残っていても、ですか?」
その言葉にすごく驚いた。
少女の話を聞く限り、そういう人がいるようには感じられなかったからだ。
《僕を待ってる人なんていません》
「…では、こちらをご覧になってください」
そこに映し出されたのは、ひとりの男性だ。
《…え、先生?》
『すまん。もっと早く伝えておけばよかったな』
意識が戻らない少女の手を握り、ただ願う姿に嘘はない。
『…ゆり、早く戻ってこい。一緒に駅前のカフェに行くんだろ?』
男性はそう小さく呟き、目を開けない少女の前髪を切りそろえた。
「お知り合いですか?」
《産休になった先生の代わりにしばらく担任の先生をしていた、米田先生です。
ゆりっていうのは、僕があるネットサークルで使っているハンドルネームです。まさか先生がエンペラーさんだったなんて…》
「この方は、お客様との約束を果たせる日を心待ちにしております。あなたを待っている方なのではありませんか?」
少女がどんな選択をしても、私は全力で肯定する。
少し沈黙が流れた後、彼女の瞳に決意の色が宿っていた。
《僕、戻らないと。現実は苦しくて辛いことだらけだけど、エンペラーさんとの約束は守りたい。
…本当はこのままあの世行きでいいかなって思ってたけど、お姉さんみたいないい人もいるって分かったから戻ります》
「私、ですか?」
《はい。お姉さんは僕自身を受け止めてくれた…それが嬉しかったんです。ありがとうございました》
少女の体はだんだん透けはじめ、そのまま夜に溶けるように消えてしまった。
最後に見た彼女の表情は笑顔だったので、このまま戻ってもきっと大丈夫だろう。
「…すぐ呼んでくれればよかったのに」
「ごめんなさい。雰囲気が違うことしか分からなくて…」
「まあ、いつも助かってるけど」
「え?」
氷雨君ははっとした表情で歩きはじめる。
急いでついていこうとしたけど、目の前が一瞬のうちに真っ暗になった。
「行き先、または帰り道が分からないということでよろしいでしょうか?」
《分からないというか、そもそもなんで列車に乗ったかも謎なんです。全然覚えがないから…》
「それでは、先程お話されていた外出時のことをもう少し詳しく覚えていらっしゃいませんか?」
《そうだな…たしか、財布を忘れたことに気づいて、家に帰ろうとして…途中で転びました。
体を起こそうとしたけど、上手く力が入らなかった。…なのに、僕は今列車に乗ってる。…もしかして、死んだんですか?》
少女は無垢な瞳を向けて氷雨君に問いかける。
そんな彼女に氷雨君は静かに答えた。
「そうですね。このまま進むとあなたは死にます。ですが、今ならまだ引き返せます。
…生死の境をさまよっている、といえば分かりやすいでしょうか」
《そうなんですね。それなら、このまま進みます。僕が僕でいられる場所に行きたいから》
「あなたを待っている人が現世に残っていても、ですか?」
その言葉にすごく驚いた。
少女の話を聞く限り、そういう人がいるようには感じられなかったからだ。
《僕を待ってる人なんていません》
「…では、こちらをご覧になってください」
そこに映し出されたのは、ひとりの男性だ。
《…え、先生?》
『すまん。もっと早く伝えておけばよかったな』
意識が戻らない少女の手を握り、ただ願う姿に嘘はない。
『…ゆり、早く戻ってこい。一緒に駅前のカフェに行くんだろ?』
男性はそう小さく呟き、目を開けない少女の前髪を切りそろえた。
「お知り合いですか?」
《産休になった先生の代わりにしばらく担任の先生をしていた、米田先生です。
ゆりっていうのは、僕があるネットサークルで使っているハンドルネームです。まさか先生がエンペラーさんだったなんて…》
「この方は、お客様との約束を果たせる日を心待ちにしております。あなたを待っている方なのではありませんか?」
少女がどんな選択をしても、私は全力で肯定する。
少し沈黙が流れた後、彼女の瞳に決意の色が宿っていた。
《僕、戻らないと。現実は苦しくて辛いことだらけだけど、エンペラーさんとの約束は守りたい。
…本当はこのままあの世行きでいいかなって思ってたけど、お姉さんみたいないい人もいるって分かったから戻ります》
「私、ですか?」
《はい。お姉さんは僕自身を受け止めてくれた…それが嬉しかったんです。ありがとうございました》
少女の体はだんだん透けはじめ、そのまま夜に溶けるように消えてしまった。
最後に見た彼女の表情は笑顔だったので、このまま戻ってもきっと大丈夫だろう。
「…すぐ呼んでくれればよかったのに」
「ごめんなさい。雰囲気が違うことしか分からなくて…」
「まあ、いつも助かってるけど」
「え?」
氷雨君ははっとした表情で歩きはじめる。
急いでついていこうとしたけど、目の前が一瞬のうちに真っ暗になった。
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