皓皓、天翔ける

黒蝶

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第11章『迷人』

第59話

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「1学期が終わるまでだけですが、よろしくね」
周りの生徒達の歓声の中、冷めた声がはっきり届く。
「米田誠也先生、か」
長い髪を結んだズボン姿の中学生が、新しくやってきた先生を見てぽつりと呟く。
「……いつもの人たちと同じなんでしょ」
いち個人として受け入れてもらえない少女は、寂しげに窓の外を見つめる。
そんな姿を、先生は見逃していなかった。
「こんにちは。ここ、座ってもいいかな?」
「それじゃあ僕は別の場所に行くので、」
「君と食べたいんだ。えっと…曽根侑李さん」
名前を覚えていることに驚いたのか、少女は顔をあげた。
「髪、綺麗だね」
「…変だって言わないの?」
「言わないよ。髪を伸ばすことが勉強の妨げになっているなら注意するけど、そういうわけでもないでしょ?」
可愛らしいお弁当箱やふりふりのハンカチを持っているのを見ても、先生は何も言わなかった。
そんな反応に困る生徒と、楽しそうに笑っている教師。
そこだけ見れば、とても穏やかなものだった。

場面は切り替わり、膝を抱えて家に閉じこもる少女が見える。
手に持っていたメモには、酷い言葉が書き連ねられていた。
「…もう、いいよね」
可愛らしい部屋に、可愛らしい小物。
彼女にとって安らげる場所なのだとすぐに理解した。
『おはよう!今日はどこ行こっか?』
『おはよう。それじゃあ、えっと…』
どうやらボイスチャットを使ってゲームをしているようだ。
『ゆりさん、学生って言ってたよね?学校はいいの?』
『うん。最近行く気になれなくて…。エンペラーさんこそいいの?』
『今は休憩時間だから大丈夫!仕事、いいことばかりじゃないから息抜きしたいし』
ふたりはお互いが知らない間に繋がっている。
画面越しに会話する少女はとても楽しそうだ。
相手が誰かは分かっていないみたいだけど、表情がとても柔らかいものだった。
机の上にばらまかれた資料や料理本、学校のプリント類がある。
それから、誰かと出かける予定が書かれた手帳も。
「…エンペラーさん、いい人だといいな」
彼女は勉強をおろそかにせず、ゲームで人と交流しながら好きなものに囲まれて生きている。
……一度もご家族が現れていないことを覗いては。
そしてある日、事件がおこる。
外に出た彼女は、苦しげに胸を押さえたまま倒れこむ。
近くを通る人がいない道なのか、人が見当たらない。
起きあがろうとしていたけど、そのまま力尽きたように倒れる。
「エンペラー、さん……」
彼女の夢が叶う前に静かに目を閉じた。


「…起きた?」
「ごめんなさい。また寝てしまって…」
「別にいい。疲れてるんでしょ?」
ゆっくり体を起こして、端末を起動する。
もしあの画面が彼女のものなら、探し出すことができるかもしれない。
余計なことはしないようにしたいけど、ふたりがちゃんと話せているかだけでも知りたかった。
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