皓皓、天翔ける

黒蝶

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第20章『聖夜の願い』

閑話『聖夜の大仕事』

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女性が欲しい物ってなんだろう。
そんな事を考えながら雪道を歩いていると、小物が置いてある店が目に入る。
「いらっしゃいませ」
贈り物なんてしたことがないに等しい俺は、雰囲気に圧倒されながらあたりを見まわす。
すぐ目にとまったものをレジまで持っていき、ラッピングの袋を注文した。
「ありがとうございました」
沢山の人間たちが楽しそうに笑っているのを見ても、特に何も感じない。
…それより早く事務所へ行かなければ。
「お疲れ様です、リーダー」
「随分早いですね」
「雪を待たせているので」
矢田は苦笑しながらてきぱき手を動かす。
「私は配達に行くので、何かあれば連絡してください」
「分かりました」
昨夜訪れた病院に再び足を踏み入れる。
病室にいるのは、今回の届け先である少女だ。
「こんにちは。板倉歌穂さんから手紙が届いています」
「あの、昨日の人ですか?」
「…渡会友恵さんですね?手紙を受け取っていただけますか?」
「あ、はい…」
渡会友恵の質問には一切答えず、とにかく手紙を受け取ってもらった。


【友ちゃんへ

お願いがあります。私より長生きして、雪がつもったら雪だるま作ってね。
友ちゃんや友ちゃんのお母さんたちが優しくしてくれたから、痛いこともがんばれたよ。それに、さみしくなかったんだ。
仲良くしてくれてありがとう。
いつかまた会えたら、そのときは沢山お話聞かせてね。それまでずっと待ってるから。
私のたったひとりの友だちへ、大好き】


「歌穂ちゃん…」
「彼女はあなたに生きてほしいと願っています。どうか少しでも長生きして、彼女の願いを叶えてあげてください」
一礼してその場を後にする。
渡会友恵からは死気が遠ざかっていた。
板倉歌穂が護りきった証拠だろう。
それにしても、まさか生者の病を背負うとは思わなかった。
自分だって生きている頃からかなり苦しんだはずなのに、恨み言ひとつ言わず相手の心配ばかり…まるで星影氷空のようだ。
ぼんやり歩いていると、誰かとぶつかってしまった。
「こめんなさい。怪我はない?」
「平気です。こちらこそすみません」
「それならよかった。お詫びといってはなんだけど、よかったら食べて」
その人は煎餅を差し出しにこりと微笑む。
「いただいてしまっていいんですか?」
「ええ。私ね、あなたと同じくらいの年の姪がいるの。だからかしら、お節介を焼きたくなってしまうのは」
その人の雰囲気は、どことなく彼女に似ている。
成川茜と書かれた保険証を拾い、その人に渡した。
「よければお送りさせてください。それだけの荷物を運ぶのは大変でしょう」
「本当にいいの?」
「はい」
両手いっぱいに抱えた荷物を持ち、ふとその人を見る。
……周りの陰を見てなんとなく悟った。
「何か手伝えることはありませんか?」
「ありがとう。運んでくれるだけで充分よ」
そう言った後、こう言葉を続けた。
「氷空ちゃん、喜んでくれるかしら」
それを聞いた瞬間、胸が苦しくなる。
世界はこんなに明るいのに、俺の心は一瞬で沈んだ。
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