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第20章『聖夜の願い』
第116話
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「……あ」
「目が覚めた?」
「ごめんなさい、私…」
勢いよく起きあがると、途端に頭が痛くなる。
《お姉さん、ごめんなさい》
「お客様のせいではありません。私の方こそすみませんでした。お友だちとはお話できましたか?」
《うん。お姉さんたちのおかげで沢山おしゃべりできたよ》
「それならよかったです」
そう答えたものの、自分の体なのに自分じゃないみたいな感覚が残っている。
「お客様、車両でお待ちいただけますか?」
《分かった!》
女の子が走っていくのと同時に、氷雨君が体を起こしてくれた。
「あの、」
「残穢」
「え?」
「自分が自分ではないような感覚のこと、残穢っていうんだ。取り憑かれた後はそういう状態に陥りやすい」
「そう、なんだ…」
まだ体が重いけど、それより女の子がどういう話をしたのか知りたい。
氷雨君は私をじっと見た後、少しずつ話してくれた。
私の意識が飛んだ後、女の子が友だちに沢山話しかけたこと。
一瞬戸惑っていた様子だったけど、相手も楽しそうにしていたこと。
雪が降る季節になったら雪だるまを作って欲しいと頼んだこと。
「…あと、お客様があの子の病を引き受けた」
「そんなことができるの?」
「滅多に無い。それこそ守護霊並みの力がないと無理だ。苦痛が伴うはずなのに、彼女は自力でやってのけた」
「…本当に大切な相手なんだね」
少し沈黙が流れたところで、終着駅のベルが鳴る。
「お客様のところに行かないと」
「そうだね」
女の子はぱっと顔をあげて、氷雨君に封筒を手渡した。
《友ちゃんに届けてください》
「たしかにお預かりしました」
《あんなに体が軽かったのは初めてだったし、友ちゃんとも沢山話ができて楽しかった。お姉さん、本当にありがとう!》
女の子は眩しい笑顔で列車を降りていく。
さっきまでのどこか寂しさが見え隠れするような表情とは大違いだ。
手をふってくれた女の子にふりかえして、列車は帰路に突入する。
「まだ寝てた方がいい」
「ありがとう」
お言葉に甘えて座席で横になる。
どれくらいか時間が経ったところで、氷雨君は少し話しづらそうに呟いた。
「…俺は、純粋な人間じゃない。だからこの列車の車掌をしているし、君を車掌に任命していいか迷った。
だけど、今はこれでよかったのかもしれないってちょっと思ってる」
そんなふうに思っていてくれたなんて知らなかった。
それに、やっぱり氷雨君は人間じゃないんだ。
寝ていると思って話してくれているんだろうから、このまま目を閉じていよう。
この日夢で見た景色は、ふたりの女の子がさいごの約束をするものだった。
「目が覚めた?」
「ごめんなさい、私…」
勢いよく起きあがると、途端に頭が痛くなる。
《お姉さん、ごめんなさい》
「お客様のせいではありません。私の方こそすみませんでした。お友だちとはお話できましたか?」
《うん。お姉さんたちのおかげで沢山おしゃべりできたよ》
「それならよかったです」
そう答えたものの、自分の体なのに自分じゃないみたいな感覚が残っている。
「お客様、車両でお待ちいただけますか?」
《分かった!》
女の子が走っていくのと同時に、氷雨君が体を起こしてくれた。
「あの、」
「残穢」
「え?」
「自分が自分ではないような感覚のこと、残穢っていうんだ。取り憑かれた後はそういう状態に陥りやすい」
「そう、なんだ…」
まだ体が重いけど、それより女の子がどういう話をしたのか知りたい。
氷雨君は私をじっと見た後、少しずつ話してくれた。
私の意識が飛んだ後、女の子が友だちに沢山話しかけたこと。
一瞬戸惑っていた様子だったけど、相手も楽しそうにしていたこと。
雪が降る季節になったら雪だるまを作って欲しいと頼んだこと。
「…あと、お客様があの子の病を引き受けた」
「そんなことができるの?」
「滅多に無い。それこそ守護霊並みの力がないと無理だ。苦痛が伴うはずなのに、彼女は自力でやってのけた」
「…本当に大切な相手なんだね」
少し沈黙が流れたところで、終着駅のベルが鳴る。
「お客様のところに行かないと」
「そうだね」
女の子はぱっと顔をあげて、氷雨君に封筒を手渡した。
《友ちゃんに届けてください》
「たしかにお預かりしました」
《あんなに体が軽かったのは初めてだったし、友ちゃんとも沢山話ができて楽しかった。お姉さん、本当にありがとう!》
女の子は眩しい笑顔で列車を降りていく。
さっきまでのどこか寂しさが見え隠れするような表情とは大違いだ。
手をふってくれた女の子にふりかえして、列車は帰路に突入する。
「まだ寝てた方がいい」
「ありがとう」
お言葉に甘えて座席で横になる。
どれくらいか時間が経ったところで、氷雨君は少し話しづらそうに呟いた。
「…俺は、純粋な人間じゃない。だからこの列車の車掌をしているし、君を車掌に任命していいか迷った。
だけど、今はこれでよかったのかもしれないってちょっと思ってる」
そんなふうに思っていてくれたなんて知らなかった。
それに、やっぱり氷雨君は人間じゃないんだ。
寝ていると思って話してくれているんだろうから、このまま目を閉じていよう。
この日夢で見た景色は、ふたりの女の子がさいごの約束をするものだった。
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