皓皓、天翔ける

黒蝶

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第23章『凍えそうな季節から』

第132話

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少年の声のトーンが落ちて、やっぱり幼馴染との時間が1番大切な時間だったんだと察知する。
《最近、学校でテストが増えたみたいで…。俺との連絡は無理しなくていい、勉強時間を増やしても怒らないからって伝えたんです。
連絡が減ったのは勉強してるからだって分かっていても、無理してないか不安で…。彼女、病弱なんです》
「それは大変ですね」
《お父さんの転勤先が自然豊かな場所だったらしくて、それでついていったんです。体の調子もよくなったって喜んでいたのに、また体調を崩しているのかもしれない…》
俯いている少年が何故凍死したのか、相変わらず見えてこない。
もしかすると、あまり自分自身のことを話したくないと思っているのかもしれないけど、私にはただ聞くことしかできないのだ。
「…どうして学校が苦手なのか、訊いてもいいですか?」
《それは…》
その瞬間、ビーフカレーが仕上がったことを知らせるベルが鳴る。
「申し訳ありません。カレーができあがったようなので、先にお持ちしてもよろしいでしょうか?」
《あ、ありがとうございます》
少年にカレーを渡すと、早速スプーンですくっていた。
《美味しい…温かいです》
「喜んでいただけてよかったです」
《…この味、よく幼馴染が作ってくれた味に似ています。俺の家は母子家庭で、ほとんど親の手料理を食べたことがなかったから…》
「…そう、なんですね」
少年は悲しそうな表情で話しはじめた。
《決していじめを受けていたわけではないので、まだマシな生活をできていたとは思うんです。
でも、俺が心を許せるのは彼女だけだった。…先生たちに話しかけられるのも怖かったんです》
「怒られる気がして、ということですか?」
《はい。…それと、クラスのボスみたいな子に嫌われていたので嫌がらせが少々ありました》
それはもういじめというのではないか、という疑問を心に押しこめて、少年の話に耳を傾ける。
《普段は何もされないんです。相手は無視していたつもりだったかもしれないけど、独りの方が気楽な俺からすればそっちの方がよかったんです。
…でも、テストの結果が出た後は調子に乗るなとか陰キャのくせにとか、そういうことを言われました》
おそらく少年は僻まれていたんだろう。
それにしても、相手が嫌がるようなことを平気でする人って心があるのだろうか。
傷つけられた側はずっと忘れないし、浅かれ深かれ心にどす黒い感情が蓄積される。
《そういうときでも、いつも家に誰もいないから幼馴染がカレーを持ってきてくれて…。彼女が引っ越してからはそれもないから、心の支えになるものがありませんでした。
…せめて放っておいてくれればよかったのに、あの人たちはいつも絡んできました》
そこまで話したところで、少年ははっとしたように顔をあげる。
《そういえば、そのボス生徒がカンニングペーパーを見ているのに気づいて…先生に密告するつもりでした》
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