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第24章『冬が終わる』
第139話
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確実に何かいる。
誰かを呼んでいる時間は多分ない。
近くにあった箒を構えて、前に教えてもらったとおりに力をこめた。
「ど、どなたですか?」
《私ダヨ、私…》
どんどんと扉をたたく音は強くなって、相手は叫んだ。
《ココアケテ!》
その声と同時に扉がひしゃげる。
取り敢えず、誰もお客様が入ってこられないように扉をロックした。
「あなたは、誰なんですか?」
《ウマソウウマソウウマソウ…》
そうぶつぶつ言いながら、勢いよく突進してくる。
「や、やめてください」
氷の膜を張ったけど、相手はそれをごりごりとかじりはじめた。
《ニンゲン、ウマイ》
「…こ、来ないでください」
《オマエノカラダアアアア!》
強いし言葉が通じない。まるであの人を相手しているみたいだ。
《ミツケタ…》
《ひっ…》
小さな子どもが紛れこんでいたなんて思っていなかった。
誰もいないはずの部屋に、どうしてこの子がいるんだろう。
《こ、来ないで!》
《キヒヒ…》
《嫌だ、助けて…》
痛いことをしてくる相手はいつもこうだ。
自分がすることは棚に上げて、相手にはやりたい放題で…やられた側の気持ちなんてこれっぽっちも考えていない。
──ああ、苦い記憶が押し寄せてくる。
「…少しだけ、静かにしていただけませんか?」
剣山みたいになった氷の粒が、相手の体を貫く。
《ギャア!》
「お願いします。お客様に心安らかな時間を過ごしていただきたいんです」
《ニンゲンゴトキガ……》
「お掃除もお仕事なので、邪魔しないでください」
《あ、あの、》
「こちらから別の車両に出られます。この方とは少し話がありますので、そのままご自分の席へお戻りください」
《わ、分かった…》
小さな非常用扉から子どもを出して、無言で箒をかまえる。
《サムイ、サムイ…》
「…そうですか」
あの子が感じた恐怖はそんなものじゃない。
でも…もし目の前の怪獣みたいな存在がお客様だとしたら?
近くにあった予備の毛布を氷の壁越しに渡した。
「それで寒さをしのげるはずです」
《エ…》
「お客様方はあなたの食べ物ではありません。ですが、心まで凍るような寒さが苦しいのは分かりますから…」
気を抜いたら、お客様に危害をくわえられてしまうかもしれない。
そう考えたら全然力を抜けなかったけど、目の前の生き物は困惑しているみたいだった。
《サムイヨ?》
「そうですね」
実は私も少し寒い。
せめて終点でお客様が降りるまでは、この人を行かせるわけにはいかない。
箒を構えたまま、ポケットに入れていたクッキーを投げた。
「そちらをお召し上がりください。…それからお帰りいただけますと幸いです」
誰かを呼んでいる時間は多分ない。
近くにあった箒を構えて、前に教えてもらったとおりに力をこめた。
「ど、どなたですか?」
《私ダヨ、私…》
どんどんと扉をたたく音は強くなって、相手は叫んだ。
《ココアケテ!》
その声と同時に扉がひしゃげる。
取り敢えず、誰もお客様が入ってこられないように扉をロックした。
「あなたは、誰なんですか?」
《ウマソウウマソウウマソウ…》
そうぶつぶつ言いながら、勢いよく突進してくる。
「や、やめてください」
氷の膜を張ったけど、相手はそれをごりごりとかじりはじめた。
《ニンゲン、ウマイ》
「…こ、来ないでください」
《オマエノカラダアアアア!》
強いし言葉が通じない。まるであの人を相手しているみたいだ。
《ミツケタ…》
《ひっ…》
小さな子どもが紛れこんでいたなんて思っていなかった。
誰もいないはずの部屋に、どうしてこの子がいるんだろう。
《こ、来ないで!》
《キヒヒ…》
《嫌だ、助けて…》
痛いことをしてくる相手はいつもこうだ。
自分がすることは棚に上げて、相手にはやりたい放題で…やられた側の気持ちなんてこれっぽっちも考えていない。
──ああ、苦い記憶が押し寄せてくる。
「…少しだけ、静かにしていただけませんか?」
剣山みたいになった氷の粒が、相手の体を貫く。
《ギャア!》
「お願いします。お客様に心安らかな時間を過ごしていただきたいんです」
《ニンゲンゴトキガ……》
「お掃除もお仕事なので、邪魔しないでください」
《あ、あの、》
「こちらから別の車両に出られます。この方とは少し話がありますので、そのままご自分の席へお戻りください」
《わ、分かった…》
小さな非常用扉から子どもを出して、無言で箒をかまえる。
《サムイ、サムイ…》
「…そうですか」
あの子が感じた恐怖はそんなものじゃない。
でも…もし目の前の怪獣みたいな存在がお客様だとしたら?
近くにあった予備の毛布を氷の壁越しに渡した。
「それで寒さをしのげるはずです」
《エ…》
「お客様方はあなたの食べ物ではありません。ですが、心まで凍るような寒さが苦しいのは分かりますから…」
気を抜いたら、お客様に危害をくわえられてしまうかもしれない。
そう考えたら全然力を抜けなかったけど、目の前の生き物は困惑しているみたいだった。
《サムイヨ?》
「そうですね」
実は私も少し寒い。
せめて終点でお客様が降りるまでは、この人を行かせるわけにはいかない。
箒を構えたまま、ポケットに入れていたクッキーを投げた。
「そちらをお召し上がりください。…それからお帰りいただけますと幸いです」
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