皓皓、天翔ける

黒蝶

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第24章『冬が終わる』

第140話

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大人しくお菓子を食べていた怪獣が、ぎらりとした目で私を見つめる。
《…オナカ、ミタサレナイ》
「え…」
氷の壁に突進しはじめた妖を止めることができなくて、思わず箒をふってしまう。
再び剣山みたいな氷が現れた後、相手はもがき苦しんでいた。
《タベタイ、イタイ、タベタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ…》
少し心が痛んだけど、自分でも驚くほど冷静だ。
「うっ…」
いつもと違う本格的な目眩を感じたけど、なんとか踏んばる。
ここで私が倒れたらお客様の笑顔を護れない。
《タベタイ、タベタイ、タベタイヨオ!》
「お帰りください」
《チョットダケ》
「お帰りください」
氷にひびが入りはじめた瞬間、車内に突風が吹き荒れる。
相手の体は壁に激突していた。
そして、温かい手が私を包む。
「もういい。頑張りすぎだ」
「氷雨君…?」
「少し落ち着いて。君の怒りを少し抑えてくれないと、怪我をさせてしまうことになる」
「あ……」
頭が痛くなって、指が悴んで…よく見ると、マントに氷の粒が大量についていた。
そのまま倒れそうになった私の体を氷雨君が軽々受け止めてくれる。
「あとは俺が話すから今は寝てて」
《ホシイ、ホシイ、ソノチカラ!》
「だ、」
「嫌でも駄目でも俺がやる。…いい夢を」
氷雨君の爪が少し伸びているのを見た直後、意識がぷっつり途切れた。


《食べ物をくれ》
「あ、ああ。これでいいか?」
《感謝する》
先程の妖だろうか。人間から魚を分けてもらって美味しそうに食べている。
その姿は限りなく人間に近い。
《それを持てばいいのか?》
「運ぶのを手伝ってくれるのか?」
《暇だからいいだろう。その代わり、食い物か金品を寄越せ》
「分かった分かった、食べ物を分けてやるよ」
なんだか上手くやっているように見えるし、人間のことを毛嫌いしている様子もない。
今のところ人間を食料としてみている様子もないのに、どうして人間を食べるようになったんだろう。
──その答えはすぐに分かることになった。
《腹が減った。何かないか?》
「今年は飢饉なんだ。悪いが分けてやれるものがない」
《食い物、ないのか?》
「ない。俺も何も口にしてないんだ。もう3日になる」
どの村人も口を揃えて食べ物がないと答え、申し訳なさそうにその場を離れる。
それからどれくらい経っただろう。
ついに限界がきたらしい妖の姿はもはや人ではなかった。
《…なんだ、あるじゃないか》
有象無象に動き回る人間たちを眺めながら、怪獣は舌なめずりをする。
「大変だ!みんな逃げろ!」
人間たちの悲鳴と、あちらこちらであがる血飛沫。
怪獣にとっては、それがスパイスになってしまったみたいだ。
《もっと悲鳴ヲ!食イ物ヲ!》
この瞬間から、怪獣はただの化け物になった。
…他者を思いやる気持ちを忘れて。
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