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第25章『届けたい想い』
第147話
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《僕はずっと、妻と約束していたことがあって…それを叶えられなかったんです》
「どんな約束だったんですか?」
《…一緒に植物園へ行こうって話をしていたんです。車椅子でも入れる綺麗な丘があるからって…。
今度の休み、娘と行く約束をしました。それが楽しみなんですけど、変な人に追いかけられたと話していたのを今思い出しました》
さっき話していた不審者のことだろうか。
大人でも知らない人に追いかけられるのは怖い。
「娘さんの様子は変わりありませんでしたか?」
《今のところは平気そうです。我慢していたらいけないから、しばらく途中まで一緒に行くことにしたんですが…楽しそうに歩いてくれるのが嬉しいんです》
男性は本当に娘さんを大切にしていたんだろう。
その想いはきっと娘さんに伝わっていると信じたい。
《あ、でもこの前の夕方、忘れ物を取りに家へ戻ったときはちょっと変だったかな》
「変、ですか?」
《はい。なんだか落ちこんでいるような気がして…帰ったら話すって約束して、一旦家を出たんです》
男性はそこまで話すと、頭を抱えて黙りこんでしまった。
「あ、あの…」
《…僕は、死んだんですか?》
「どうしてそう思われるんですか?」
《あのあと、やっぱり気になって仕事を早退したんです。そのとき人にぶつかられて、顔を見ました。…不審者の似顔絵そっくりだった》
男性は考えがまとまらないのか、ゆっくり少しずつ話していく。
《嫌な予感がして、車椅子に座りなおして家に戻ったんです。…家が、燃えていました》
「え…?」
《周りに見つからないよう勝手口から中に入り、倒れている娘を見つけたんです。ひとりにしないって笑ったら、あの子も笑っていて…。
だけどそのうち、痛い、痛いってずっと言ってて…そのとき、柱が崩れました》
つまり、この人はその下敷きになって命を落としたのだ。
《近くで救助の人たちの声がしていたんです。でも、僕が助かっているなら列車に乗っているのはおかしい》
「……この列車は、お客様にさいごの旅をお楽しみいただくためにあります」
《そう、ですか。やはり僕は…。そうだ、娘がどうなったか知りませんか?千佳は助かったんですか?》
どう答えたらいいんだろう。
この車両にいないということは、助かった可能性が高い。
それでも、心の傷はかなり深いだろう。
「…見てみますか?」
《あなたは、妻からの手紙を届けてくれた…》
「説明は後です。見てみますか?お客さまにはその権利があります」
氷雨君は真っ直ぐ問いかけた。
男性は少し迷っていたけど、すぐに答えを出す。
《お願いします。あの子をひとりにしないと約束したのに、結局ひとりにしてしまっている…。どうなったか知りたい》
「分かりました。…では、こちらをご覧ください」
氷雨君は姿見を差し出す。
そこには、悲しみにくれる人々が映し出されていた。
「どんな約束だったんですか?」
《…一緒に植物園へ行こうって話をしていたんです。車椅子でも入れる綺麗な丘があるからって…。
今度の休み、娘と行く約束をしました。それが楽しみなんですけど、変な人に追いかけられたと話していたのを今思い出しました》
さっき話していた不審者のことだろうか。
大人でも知らない人に追いかけられるのは怖い。
「娘さんの様子は変わりありませんでしたか?」
《今のところは平気そうです。我慢していたらいけないから、しばらく途中まで一緒に行くことにしたんですが…楽しそうに歩いてくれるのが嬉しいんです》
男性は本当に娘さんを大切にしていたんだろう。
その想いはきっと娘さんに伝わっていると信じたい。
《あ、でもこの前の夕方、忘れ物を取りに家へ戻ったときはちょっと変だったかな》
「変、ですか?」
《はい。なんだか落ちこんでいるような気がして…帰ったら話すって約束して、一旦家を出たんです》
男性はそこまで話すと、頭を抱えて黙りこんでしまった。
「あ、あの…」
《…僕は、死んだんですか?》
「どうしてそう思われるんですか?」
《あのあと、やっぱり気になって仕事を早退したんです。そのとき人にぶつかられて、顔を見ました。…不審者の似顔絵そっくりだった》
男性は考えがまとまらないのか、ゆっくり少しずつ話していく。
《嫌な予感がして、車椅子に座りなおして家に戻ったんです。…家が、燃えていました》
「え…?」
《周りに見つからないよう勝手口から中に入り、倒れている娘を見つけたんです。ひとりにしないって笑ったら、あの子も笑っていて…。
だけどそのうち、痛い、痛いってずっと言ってて…そのとき、柱が崩れました》
つまり、この人はその下敷きになって命を落としたのだ。
《近くで救助の人たちの声がしていたんです。でも、僕が助かっているなら列車に乗っているのはおかしい》
「……この列車は、お客様にさいごの旅をお楽しみいただくためにあります」
《そう、ですか。やはり僕は…。そうだ、娘がどうなったか知りませんか?千佳は助かったんですか?》
どう答えたらいいんだろう。
この車両にいないということは、助かった可能性が高い。
それでも、心の傷はかなり深いだろう。
「…見てみますか?」
《あなたは、妻からの手紙を届けてくれた…》
「説明は後です。見てみますか?お客さまにはその権利があります」
氷雨君は真っ直ぐ問いかけた。
男性は少し迷っていたけど、すぐに答えを出す。
《お願いします。あの子をひとりにしないと約束したのに、結局ひとりにしてしまっている…。どうなったか知りたい》
「分かりました。…では、こちらをご覧ください」
氷雨君は姿見を差し出す。
そこには、悲しみにくれる人々が映し出されていた。
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