皓皓、天翔ける

黒蝶

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第25章『届けたい想い』

閑話『不変の愛』

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いても立ってもいられず、早速手紙を届けに向かう。
煙があがる火葬場の前、杖を持っている女の子に声をかけた。
「こんにちは。鎌田千佳さんですか?」
「そうだけど…お兄さん、誰?」
「お父さんからお手紙です」
「…前にお父さんが言ってた郵便屋さん?」
こんな偶然もあるのかと驚いた。
以前、鎌田綾子の手紙を鎌田潤に届けたことがある。
夫婦の愛が強かったので、印象に残っていた。
今度はそんなふたりの娘に手紙を渡しているのだ。
…俺がやっていることは残酷だと思う。


【千佳へ

やくそくをまもれなくてごめん。千佳が元気で、にこにこえがおで生きてくれればおとうさんはしあわせです。
ちがつながっていなくても、千佳はおとうさんとおかあさんのたからものです】


「お父さん、もう痛くない?」
「はい。きっと」
「そっか…。お星さまの中から探してみる」
「…そうですか」
「ありがとう!」
中から出てきたネックレスを、大切そうに握りしめている。
今度は女の子に駆け寄ってきた女性に声をかけた。
「こんにちは。曽根美代子さんですか?」
「はい。そうですが…」
「鎌田潤様から手紙を預かっております」
「え!?でも鎌田さんは亡くなって…」
「読んでみてください」
不信感を持たれているようだが、仕方ない。
こうして行動で示す以外方法がないのだ。


【曽根さん

あなたは千佳のことを本当に大切にしてくれました。あなたになら任せられます。
もし僕が千佳を悲しませてしまうことになったら、あなたに笑顔にさせてほしい。負担に感じたら読まなかったことにしてください。
こんなことを頼めるのはあなただけです。お願いします。僕たちの娘を幸せいっぱいにしていただけませんか?】


「お星さまからお手紙が届くって、お父さんが言ってたの。お母さんからのお手紙、いつも持ってたから」
「そっか…。そうなんだね」
曽根美代子は手紙を抱え、静かに涙した。
「鎌田さんはとてもよくしてくださって…。人見知りで失敗だらけの私を、見捨てずずっと雇ってくださっていたんです」
「そうでしたか」
「…千佳ちゃんのこと、絶対幸せにします」
「私はただ手紙をお届けしただけですので。…それでは、失礼いたします」
小走りでその場を離れたが、ふたりは楽しそうに話している。
あの様子ならきっと大丈夫だ。
それにしても…また星影氷空はデータにないことを言った。
【あのお客様、きっと参観日に行きたかったんだと思う。でも、家政婦さんがお願いを叶えてくれそうだね】
──何故彼女はいつも事細かに知っているのか。
聞きたくても聞けない。…そろそろだと分かっているから。
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